貌無し騎士は日本を守りたい! 作:幕霧 映(マクギリス・バエル)
「ふ~ん、ふん、ふ~ん……あぁ! やっぱりアルメリアちゃん、何でも似合うわねっ!」
「がぅあ……」
この村に来てから三日が過ぎた。
今、目の前には大きな鏡があり、そこには丈の短いスカートを履いた青目の少女ーーつまり、俺が映っていた。
その横には勿論と言うべきか鼻息を荒くしたカーラが沢山の洋服を持っており、既に『次』の準備を始めている。
端的に言えば、俺は着せ替え人形にされていた。
ひらひらした可愛らしい服に身を包み、胸には
「いやー、まさかタイサがこんな綺麗な宝石持ってるなんてね!」
「ぐぉ……」
……『最果ての魔王』のコアだ。
机の上にあったのをカーラに見られ、『ちょっと貸して!』と言われた。そして戻ってきたらこのザマだ。
……まさかアイツも、自分の心臓がアクセサリーにされるとは思わなかっただろうな。なんか本当に申し訳ない。
いやまあ他に使い道も無いけどさ……今の姿じゃこんなサイズの石喰らえないし、喉に詰まって死ぬ。
「程々にしとけよ。あんまり拘束して嫌われても知らんぞ」
「あなたねぇ! こんな最高の素材があって着飾らないなんて馬鹿のする事よ! 可愛いものをもっと可愛くしたいのは女の本能なのよ!」
「お前もアル中と大差無くないか……?」
水をぐびぐび飲みながらタイサがカーラと何かを話している。
タイサは今、禁煙と禁酒を同時にやらされている。俺とカーラによって半強制的に。
熾烈な交渉の末、煙草は日に五本までで手を打った。その代わり酒は完全禁止だ。カーラが言うには二年前マジで肝臓がヤバかったらしい。
「お酒やめてみて、どう?」
「……意外と、辛くはない」
「……元々、アイツにあの子を連れていかれた寂しさからでしょ?」
「そう……、かもな」
タイサが、この日三本目の煙草に火をつける。
もくもくと立ち昇る紫煙が窓から出ていくのを見ながら『今日はちょっとペース早いな』と思った。
この三日で、タイサの精神状態は煙草を吸う頻度からある程度読み取れる事が分かった。
酒は禁止になってるから分からないが、こいつは嫌な事を思い出したりすると煙草を良く吸う。逆に、良い肉が手に入った日などはあまり吸わない。
……気難しそうな顔して、意外と単純だ。
それが、俺がタイサという人間に抱いた感想だった。
「うし、アルメリア。勉強するぞ」
「ぐぉっ!」
灰皿に煙草の吸い殻を擦り付けてから、タイサはそう言って立ち上がる。
昨日から俺はこの大陸での共通語を習い始めている。
タイサの家にはなぜか、古びた子供用の教科書やノートが沢山あって教材には事欠かなかった。
「お前は異常に物覚えが良いから、すぐに日常会話ぐらい聞き取れるようになる……少し気味が悪いぐらいだ」
「がぅぅ……」
「ほめてない。照れるな」
例の如く頭をわしゃわしゃされながら、机に着く。
ちなみにこれも最近わかった事なのだが、俺は右利きだった。
不幸中の幸いと言うべきか、棒で叩かれて折れたのは左腕だからペンは持てる。
「でもアルメリアちゃんほんと賢いわよね。年の割には落ち着いてるし可愛いし、大きくなったら絶対モテるわよ!」
テンションが上がった様子のカーラに何かを言われ、タイサを見ると『……大人になったら、きっと美人になるって言ってる』と伝えられた。
いやベースのアセビが整ってるからきっと美人になるんだろうけどさ……あれ、そもそも俺って成長するのかな。
もしかしたら、ずっとこんなちんちくりんのままだったりするんだろうか。だとしたら結構キツいぞ。不安になってきた。
……いやその前にドミネーターに戻れる方法を探さなきゃ。
「今日は単語ドリルとリスニングをやるぞ」
黒い板に石灰のチョークで字を書きながらタイサ言う。
アル中の癖して、タイサはものを教えるのが上手い。
そのお陰かこの三日間だけで、かなり言葉が分かるようになっている。
……まぁ分かったとて、俺か言語を発する事は出来ないのだけれど。
しばらく勉強していると、カーラがキッチンの方で何やらごそごそしている事に気がついた。
料理をしようとしているようだった。
それをじーっと見ていたら、『やってみる?』と言われた。
「ぐおっ!」
「あら、凄いやる気ね」
「怪我しないようにな」
カーラは包丁を持ち、素早い動作で野菜を切り刻む。
ものの数秒で細切れとなった人参を見て、思わずため息が出た。
ドヤ顔のカーラが包丁をこちらに渡してくる。
「ふふん。凄いでしょ? まぁアルメリアちゃんは大人しく猫の手から始めなさ……」
「ぐぉっ」
カーラの動きを思い出し、自分の手で寸分違わず再現する。
すると野菜は一瞬で微塵切りになった。
……え、やばい、出来ちゃった。
気まずくなってカーラへ目をやると、信じられない顔で口をパクパクさせている。
「嘘、でしょ……? 私の努力は一体……」
「が、がぅ……(ご、ごめん……)」
「……天才って、居るんだな」
感心した様子で、タイサが俺の切った野菜を見ている。
……恐らくこれは、ドミネーターとしての力が半端に残ってるんだろう。
ノンシェイプ・ナイトの力の本質は『
いくら熟練とは言え、人間の動きを再現する程度は造作も無い。
つまりこれはインチキだ。カーラに申し訳なくなった。
「……っ、アルメリアちゃん! こうなったら料理勝負よ!
タイサ審判お願い!」
「いや、大人げ無いぞお前」
「うるさいうるさい! 悔しいんだもん! アルメリアちゃんも良いわね!?」
「ぐ、ぐお……」
駄々をこねるカーラの勢いに圧され、つい頷いてしまう。
そ、そんな事言ったって俺、レシピなんて一つも知らないんだけど。
……そうだ。自衛隊の食堂でオムライス見たな。
流石に米は無いがちょうど卵もあるし、オムの部分だけでもチャレンジしてみるか。
◆
「……すまんカーラ。こっちの方が美味い」
「うっそでしょぉぉぉ!?」
「がぅぅぅ……」
……作れてしまった。
どうなってんだ俺の中のノンシェイプナイト。どうして一目見ただけの料理を再現できて、なおかつ美味いんだよ。おかしいだろ。
カーラの作った肉料理が、手を付けられないまま寂しげに置かれている。
「あ、アルメリア。ちゃん? まさか、料理するのこれが初めてだったりしないわよね?」
「ぐ、ぐお(いや初めてーー)」
「あらそう! ずっと練習してたのね! 良かった良かった! なら、私がちょっとしたマグレで負けても仕方ないわね! ねぇ!? 」
俺の肩を掴んでがくがく揺ぶりながら、カーラが狂ったように問い掛けてくる。
頭がシェイクされて吐きそうになった。
た、タイサ助けて
「……うまい」
「ぐぉぉ!(ねぇ!)」
「
「がぁぁぁ!(ダメだこいつ!)」
その後、タイサの味覚がイカれてるという事にしてカーラの気持ちは収まった。
そしてタイサからの頼みで、この家の料理は俺が作ることになった。
今後、スピンオフとして見たいエピソードありますか?
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『失墜せし黒龍』編
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『天使の聖骸布』編
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『アザレア』編
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