貌無し騎士は日本を守りたい! 作:幕霧 映(マクギリス・バエル)
砕けてぐちゃぐちゃになっていた背骨があっと言う間に再生し、立ち上がれるようになる。
呆気に取られる眷族を、殺意を込めた目で睨んだ。
ーーお前を殺す、無様に、泣き喚いても止めてやらない。そう伝えてやった。
「なに……その腕」
蛇に
ーー四肢をもぎ取って、首を捻切って、地面に真っ赤な
想像するだけで口が勝手に弧を描く。怒りに染まった思考もそれを後押ししている。
俺は昂る感情に任せて、騎士腕から雷を放った。
「ぇ」
ーー反応する間も無く、眷族は雷速の熱光に身を焼かれた。
回避は不可能、ドミネーターでもない存在が雷に対応できるわけがない。
ちゃんと殺さないように威力を調整してある。楽には逝かせてはやらないと決めている。
……タイサを。俺なんかを愛してくれた優しい人を踏みにじった事を心の底から後悔させてやる。
その肉体と魂が擦り切れるまで、今度は俺がこいつを
「が、ギァやァぁァァぁァッ!? んだっ!? なんなんァだ! おむぁえ!?」
雷を浴び表皮が黒焦げた眷族は、眼球が破裂したのか右目を抑えながら叫んだ。
左目は……残ってるな。良かった。目の見えない状態じゃ苦しみが半減されてしまう。
自分の体がミンチになって
俺はゆっくりと間合いを詰め、騎士の右腕を眷族の顔面へと伸ばす。
「くっ、来るなぁ! ぶち殺してやるぞぉ!」
タイサのナイフを易々と防いでいた蒼い短剣が、俺へと振り下ろされた。
ーーだが遅い。欠伸が出そうだ。
眼前まで迫った刃を二本指で挟み取り、軽くへし折った。砕けた刀身が回転しながら地に突き刺さる。
よくも、こんななまくらで俺を殺れると思ったものだ。
「どう、なってんだよ……!? あの方から賜った宝剣だぞ……嘘だ……悪い夢か何かだ……!」
手元に残ったほぼ柄だけの剣を見ながら、眷族はなにやら現実逃避するようにぼそぼそ呟いている。
俺は自分の嗜虐心が少しだけ満たされるのを感じた。
もっと苦しませてやりたいと云う欲求が、胸下の辺りからせり上がってくる。
「……ガァ」
「ひぃっ!?」
騎士腕で眷族の鎖骨辺りを掴み、力を込める。すると飴細工のようにあっさりと砕け散った。
その辺りに肩を動かす骨でも入っていたのか、奴の右腕が力を失ってだらりと垂れ下がる。
「あはは」
ーー愉快だ。
俺は、自分がこいつをいたぶる事に快感を覚えている事に気が付いた。
……それが醜悪なものだと分かりながらも。
その欲求に抗う事は難しかった。
「痛いィたぃ、いたぃいだい!」
半狂乱で、顔を様々な液体に濡らしながら眷族は泣き叫ぶ。
それを無視しながら、俺は動かなくなったタイサの手からそっとナイフを受け取った。
それを眷族の手の甲へ思い切り突き立てる。
綺麗な銀の刃が汚い赤に濡れて不快に感じた。
「うぼォぁァぁぁあッ!?」
ぐさ、ぐさ、ぐさ、ぐさ、ぐさ、ぐさ、ぐさ、ぐさ
馬乗りになって、タイサ代わりにナイフで眷族をめった刺しにする。
致命傷になりうる場所を避け、その体を穴ぼこにしていく。
「こ、こ、ころさ、ない、で……」
刺傷が二桁を越えた辺りで、眷族は消え入るように懇願してきた。
ーーああ分かってる。
まだ腕が残ってる。まだ足が残ってるーーまだ、遊べる。
『……その辺にしておけ』
俺が次の部位へ移ろうとした時、最果ての魔王の声が聞こえた。
それと同時にピタリと腕が動かなくなる。
……何の、つもりだ。そもそも何故お前が俺の頭に居着いてる。
『……周りを見てみると良い』
その言葉に、俺は顔を上げて周囲を見回した。
村人達が恐ろしい怪物を見るような目で俺を見ている。
「ぐぉ……」
「ひっ」
カーラと目が合ったが、悲鳴を上げられた。
ふと眷族に突き刺さったままのナイフを見ると、そこに反射したのは『俺』。
タイサが愛してくれた『アルメリア』じゃないーー化けの皮が剥がれた怪物。
真っ赤な血に濡れながら笑う、少女のカタチをしたノンシェイプナイトの姿だった。
「ぁ、あ」
『人型の生物を
口が異様に乾燥して、喉からこひゅっと空気が漏れる。
まるで、必死に隠していた汚点が見つかってしまったような気分だった。
「ぁ、ぅ、ち、ちがっ、おれ、は、ただ……」
『何が違う? 貴様は確かに、殺戮に酔っていた』
ちがう。
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うこれはせいとうな暴りょくで制裁だ。おれはタイサを助けてあげたかっただけで、そう、思ってーー
「がぅ」
思って
おもっ、て
「あ、ぁ」
ーー手から、ナイフを、離せない。
ドミネーターの本能がまだ殺したがってる。
俺の中のノンシェイプナイトが言う事を聞いてくれない。
こいつを、きずつけて、すりつぶして、ぬぢゃぬぢゃにしてやりたい。
『……見てられないな』
魔王の声と共に騎士腕の感覚が完全に消えた。制御を奪われたのだと分かる。
それに焦ったが、腕は予想外の動きをした。
『最果ての魔王の名を以て命ず』
俺の腕から、青い光の筋が眷族へと延びていく。
これは……あの時のーー
『"意識を残したまま、絶命するまで自壊せよ"』
「がぐっ!?」
ーー青い線に侵食された眷族の拳が、風切り音を上げながら自分の頬を殴った。
襲い来る自らの殴打に顔面を変形させられながら眷族は泣き叫ぶ。乾いた打撃音が寒々とした村に響き渡った。
……これは、最果ての魔王の能力か。
じわじわと死にゆく眷族を無感情に見詰めながら、俺はそう分析した。
「……たいさ」
地に伏せたタイサへ目を移す。
当然、俺の声には応えてくれない。
「……ねぇ、たいさ」
すっかり冷たくなってしまったその頬をそっと撫でた。
心の底から、強い悲しみと愛しさがごちゃ混ぜになった感情が溢れ出てきて泣きそうになる。
「ごめん、ねぇ……!」
ーー守ってあげられなくてごめんなさい。
ーー
ーーあなたの決意を踏みにじってごめんなさい。
「ーー化け物で、ごめんなさい……!」
舌ったらずの懺悔の後、タイサに浅く口づけをしてから立ち上がる。
歩き出せば村人達が俺を避けて道が出来た。
恐怖に濡れた視線の群れに、もうここには居られないのだと再確認する。
「がぅ」
愛しい人はもう居ない。
……だから、俺には。もう義務しか残ってない。
ドミネーターとしての。ノンシェイプナイトとしての責務を果たす事しか出来ない。
『日本に、戻るのか』
「……ぁあ」
後を追って自殺など出来る筈は無い。それこそあの人の決意と死を汚す愚行なのだから。
ーー日本に帰って、あの騎士をぶちのめす。
それが、俺に残された唯一の存在意義だ。
「がぁ……」
村の門をくぐって深呼吸をする。
タイサの匂いがしない空気を、息苦しく感じた。
だが歩き出す。空っぽで空虚な、