貌無し騎士は日本を守りたい!   作:幕霧 映(マクギリス・バエル)

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幕間:日本2

「はぁ、はぁ……っ!」

 

山吹 大河は息を切らしながら駐屯地の廊下を走っていた。

『アザレアの銃剣』が保管されている場所へ行き、それを奴に渡すために。

 

「ぐっ……!?」

 

外から凄まじい戦闘音が聞こえてくる。

肉を断ち切る音と金属音が入り乱れ、時には地面のコンクリートのらしき巨大な塊が飛び交う。

下手すれば地形を変えてしまいそうな程の激しい戦いの余波が、建物を揺さぶっていた。

 

「っ……?」

 

ーーその時、携帯電話が鳴り響いて着信を示す。

今はそんな場合じゃないーーと思いながらも、スマートフォンを取り出す。

 

「……フランスから?」

 

それは、フランス大統領から個人的に受け取ったアドレスからだった。

メールの着信には、ただ一言『救難信号』と記されたメッセージがある。

それをタップして内容を見た時、山吹は思わず目を見開いた。

 

【救援求む、今すぐフランスにノンシェイプ・ナイトをよこしてくれ! 地中海連合……ポセイドンとか名乗る奴が攻め込んで来てんだ! ガチのボナパルトでも危ねぇ! クソ何がオリュンポスだ! ただのバケモンじゃねぇか!】

 

ーー絶句、する。そして直感した。

地中海連合……通称"オリュンポス"は、世界各国に大攻勢を仕掛けていると。

 

「急がなければ……っ!」

 

フランスのドミネーター、ボナパルトはかなり強力だと聞いている。

そんな奴でも危ない相手と同格の存在が今、アザレアと交戦しているのだ。武器も無しに。

一刻も早く銃剣を渡さなければ。

 

「っ、あった……!」

 

保管庫に走り込み、銀のアタッシュケースを手に取る。

これを武器に変形させられるのは、今の所ノンシェイプナイトと自称アザレアだけ。

仮に普通の人間が変形できたとしても、その異常な重量ゆえ操る事は困難だろうが。

 

「ふぅ……っ」

 

十五分程かかってしまったが、駐屯地の出口へと戻ってきた。

戦闘の余波で歪み開かなくなった扉に何度も体当たりをしてこじ開ける。

 

「……っ」

 

扉の向こう側にある光景は凄惨なものだった。

アザレアが守ったのか山吹の入っていた建物はほぼ無傷だが、他の建造物は軒並み崩壊している。

地面には馬鹿でかいクレーターがいくつも出来ていた。そして、そこにはアレスの能力によって生成されたであろう光輝く巨大な槍や斧が突き刺さっている。

槍に至っては最早『柱』と表現した方が適切な程の巨大さで軽く十メートルを越えていると分かった。

そんな物体がまるで林の如く大量に突き刺さっているものだから、駐屯地周辺はほとんど更地になってしまっている。

 

「っ、アザレア……!」

 

が、肝心のアレスとアザレアが見当たらない。

最悪の事態を想定し、山吹が考えを巡らした時ーー

 

「……遅いよ、山吹」

 

ーー遠くから、アザレアの声が聞こえる。

目を凝らすと、砂ぼこりの舞う視界の先にソイツはいた。

 

「が、ぁっ……、貴様ァッ! 鉄クズ風情が、この私を……ぐぼぉっ!?」

「うるさいなぁアレス君……無駄に頑張っちゃってさ、駐屯地の修理費もタダじゃないんだぜぇ?」

「ぉぐっ!?」

 

ーーアザレアは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「お、おま、えっ!?」

「ん? どしたの山吹」

「だ、だってお前、そいつを最強クラスだって……!」

 

喫驚する山吹に、アザレアは申し訳無さそうな顔で『あー……』と首を掻いた。

 

「いやはや、オリュンポスって肩書きに威圧されたけど所詮『軍神アレス』だったよ。神話でもちょくちょく人間に負けてたし小手先の技でどうにかできる範囲だった。もしこれがゼウスとかポセイドンとかだったら本気で危なかったね……」

 

よく見るとアザレアも完全に無傷というわけではなく、頬や肩が少しずつ槍や斧の形に抉れている。

だがアレスの傷に比べれば微々たるものだった。

 

「インテリっぽい見た目の割に戦法はただのブチカマシだけだったし、……流石に空からでっかい武器降らしてきた時はビビったけど。それだけだ」

「だ、だまれぇ! ここが地中海ならば、貴様なぞ一撃でーー」

「まぁ確かに……そっちのホームならもっと強いんだろうけどさ。殺しちゃえば関係無いよね」

 

アザレアは、腕部から伸びた剣をアレスの首に突き付けた。

 

「ひ、ひゃめろぉ!」

「グッドバイ、軍の神(ゴッドオブウォー)

「やめーー」

 

ぶづり、ぼぢゅん。

肉の繊維が千切れる嫌な音と共に、アレスは泣き叫んだ表情のまま生命活動を停止させた。

アザレアはそれを確認してから、力を失いバタリと倒れ込む。

 

「おい! どうした!?」

「あー、強かった……神様相手なんて、二度とやりたくないよ」

 

微睡んだようにあくびをし、目を細めるアザレア。

 

「ごめん山吹、ちょっと充電切れだ」

 

その言葉を最後に、アザレアは目の光を失わせ動かなくなった。

思わず肩を揺さぶるが本人の言った通り、まるで充電が切れた機械の如く反応が無い。

 

「あ、アザレア……?」

 

動かなくなった二体のドミネーターに板挟みにされ、山吹は唖然とする。

だが、そんな山吹の背後に迫る何者かの足音があった。

それに気がつき咄嗟に振り返る。

振り向いた先には、品の良いスーツに身を包んだ老人が静かに佇んでいた。

その背後には無数の黒服たちが控えている。

 

「……誰だ?」

 

老人は山吹の問いを無視し、動かなくなったアザレアに歩いていく。

歩く度に、持っている長いステッキから金属音が鳴り響く。

 

「……連れていけ」

 

老人がボソリと言うと、黒服たちは数人がかりでアザレアを担いだ。

それをいつからか停めてあったレッカー車に乗せ、隠すように黒い布を掛ける。

 

「待て……なんのつもりだ!? 何なんだお前らは!」

 

山吹は老人の胸ぐらに手を掛け、掴み上げようとする。

だがビクともしない。まるで地に根を張ったかのような重さだった。

 

「……私は、クチナシと申します。私の権限で貴方に言えるのはこれだけです」

「はーー?」

 

ーークチナシ。その名前に山吹は心当たりがあった。

アセビに例の銃剣を渡した老人の名だ。

立ちすくむ山吹を差し置いて、黒スーツの一団は早々に去っていく。

 

 




ひとまず、日本編はこれで終わりとなります。
次回からはまたノンシェイプナイト視点のレギオンオブユグドラシルを再開します。しばしお待ちを
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