貌無し騎士は日本を守りたい! 作:幕霧 映(マクギリス・バエル)
村から出た俺は、だだっ広い原野を歩いていた。
生ぬるい空気が吹いていて虫も動物も居ない。
そんな場所を一人で歩き続けているものだから退屈になるかと思ったが、意外にもそれは杞憂に終わった。
『この荒野を真っ直ぐ行けば、"壁"がある。君はそれに右手で触るだけで良い。私なら解除できる』
「……がぁ」
頭の中に
『変なのとは随分と失礼だ。今の君がノンシェイプナイトの力を行使できているのも、私のお陰だというのに』
……力を使えてるのがこいつのお陰? どういう事だ?
俺は自分の自分の右腕をーーノンシェイプナイトのものとなった右腕を見た。
鈍い銀の鎧に自分と眷族の血がベットリと張り付いている。
『平たく言うならば……今の君は、ただの人間がドミネーターのコアを取り込んだのとほぼ同じ状況だ。そんな状態の者が、体の一部とはいえ以前と同質の力を扱えると思うか?』
……言われてみれば確かに。核を喰らうまでの俺は間違いなくただの人間だった。
あの状態でコアを取り込むのは今思えばかなりの賭けだっただろう。一歩間違えば死んでいたかもしれない。
『取り込んだコアから溢れだす膨大なエネルギーを、私がセーブしているんだ。それじゃなきゃとっくに君は君の中のノンシェイプナイトに呑まれていた』
要するに……こいつがフィルターになってくれてるお陰で俺は今、力を使えてるって事か。
だが、俺の胸中に一つの疑問が浮かんだ。
ーーなぜ、こいつは俺に協力してくれている?
自分を、そして守ろうとした国民を殺した相手だ。恨んでいない方がおかしい。
『……憎くないと言えば嘘になる。だがあれは生存競争の結果に過ぎない。それにちょっとした目的が私にはあってね。そのためには君にアメリカから脱出して貰う必要があるのさ』
つまり、利害の一致ってわけだな。
俺も魔王もアメリカから出たい、ただそれだけの一時の同盟。
こいつの力が使えるのは便利だし俺にとっても悪い話ではない。
『そして……私には、あまり時間が無い。急いでもらわねば困る』
「がぁっ?」
『今の私は現在進行形で君に消化されてる状態だからね。ドミネーターとしての格が違い過ぎてまだ完全には取り込まれていないが、時間の問題だ』
核を喰らってからずっと声が聞こえるのはそういうことか。やっと合点がいった。
とにかく……この先の"壁"とやらを抜ければこの
◇
「……ぐおっ」
『意外と早く着いたね。あの村はどうやらレギオンの端に位置していたのだろう』
しばらく進んでいると、パチパチと弱々しいプラズマのようなものを放っている半透明の壁があった。
見渡す限りどこまでも続いていて、避けてゆく事は不可能だと分かった。
『あれが"壁"。レギオンとレギオンを分断する防壁。……アメリカの、ドミネーターによる支配の象徴。忌まわしき断絶の鎖だ』
先程指示された通りに、右腕で壁に触れる。
瞬間、騎士腕に走る鋭い痛み。思わず顔をしかめたが、それを境に腕以外の体もズブズブと壁の向こう側に吸い込まれていく。
『……さぁ、新領域だ』
壁に全身が入ったと思った時、一瞬目眩がする。視界が真っ白になって呼吸が苦しくなる。それから数秒後、水面から顔を出したような感覚に襲われた。
「がぅ……」
まるで時間がズレてしまっていたみたいに、心臓が不規則に鼓動しだして胸が痛む。
思わず胸を抑えながら、目を開く。
「がぁっ!?」
そこに広がっていた光景に俺は驚いた。
空気が変わったとかそういう次元ではない
先程までとは一変した景色、そこはーー
『っ……逃げろノンシェイプナイト! 厄介な状況に出くわした!』
ーー血肉舞い踊る、戦場だった。
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◆Legion Of Yggdrasil【Legion・Georgia】
『打毀する巨槌の雷神』《序列7位》
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新章のプロローグ的な話なので短めです。
今週中にもう一回投稿したい……(出来るとは言ってない)