貌無し騎士は日本を守りたい! 作:幕霧 映(マクギリス・バエル)
ーー俺には、人間だった頃の自分に関する記憶がほぼ無い。
車中。その事実は、俺の心をかなり揺さぶっていた。
……だって、身体が化物になった上に人だった頃の記憶も無いのなら、今の俺は空っぽに等しいのだから。
「……なぜかは分からないが、かなり落ち込んでいる様だな。大丈夫か?駐屯地に着いたから、出来れば降りてくれ。」
のろのろと車から降りて、辺りを見渡した。
駐屯地のイメージ通りに迷彩っぽい色車が何台も停められており、その奥には自衛官の寮であろう大きな宿舎がある。
「命の恩人に対して忍び無いのだが……君は、これから日本政府の管理下に置かれる事になる。結果的に、軟禁に近い事になってしまうかもしれない。」
申し訳無さそうな顔で、山吹はそう宣告した。
……そうだよな。怪物だもんな。向こうからしたら、何されるか分かったものじゃないだろう。
逆の立場だったら、きっと俺もそうする。
「……ぐおぉ(分かった)」
「……抵抗されるのを予想していたのだが、随分と素直だな。いや、助かる。」
そう言って頭を下げた山吹は、『形式上だ、勘弁してくれ。』と俺に手錠をかけた。
それから建物に入り、長い廊下を抜けた先には、狭い独房らしき檻があった。
「正式な扱いが決まるまで、君にはここで暮らして貰う事になる。だが可能な限り希望には答えよう。何か欲しい物はあるか?」
山吹は、俺にスケッチブックとマジックペンを渡してきた。
おお、ありがたい。これでやっと意思疏通ができるな。
ひとまず、俺が元人間だと言うことを伝えーー
「っ!?」
ーー文字を書こうとペンを紙に触れさせた瞬間、俺の手に電流のような物が走ってペンが地面に落ちた。
何度試しても同じで、ペンを使うことは出来るのだが、文字を書こうとした途端、ペンを落としてしまう。
……徹底的に、意思疏通は出来ないって事か。
「……流石に、言葉は理解できても文字は無理か?」
いや違うんすよ。山吹のとっつぁん。
文字は分かるし読めるんだけど、形に出来ないんですよ。
クソ……どうにかして、こちらの感情だけでも伝えられない物か……
「……ぐおっ!(そうだ!)」
その時、俺の脳裏に閃光走る。
キュッキュと凄まじい勢いでスケッチブックに黒ペンを走らせる俺に自衛官たちは少し引いていたが、そこに書かれていた記号を見るとみんな顔色を変えた。
「ぐぉぉぉ……(ざっとこんなモンよ……)」
「そっ、それはっ……!?」
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(´・ω・`)ノ☆
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「……かっ、可愛い……!」
口元を押さえてそう言ったアセビを除いて、自衛官たちは言葉を失う。
「顔文字……そ、それでいいのか、ドミネーター……?」
山吹は信じられない、という顔だったが、俺は満足だった。
一つ一つが意味を持つ文字と違い、こちらは単なる記号の羅列だからな。
意思疏通と判定されずに使用できたのだろう。
まったく。自分の頭脳が怖いぜ……
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( ・∇・)b
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「う、うむ……だが、一つ、質問しても良いか?」
おずおずと、山吹が言う。
なんだ?今ならどんな質問でも答えちゃうぜぇ?
なにせ俺には、『顔文字』があるからなぁ!?
ヒャッハッハッハァ!!!
「それだと、ジェスチャーとかの方が速さも精度も上じゃないか?顔文字では単純な感情しかアピールできないし。」
「ぐぉっ……!?(ほんとだ……!)」
ーー俺は絶望した。