貌無し騎士は日本を守りたい!   作:幕霧 映(マクギリス・バエル)

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40.あの人の影を真似て

「ぁ……あ、あ?」

「シフさん……シフさん! おーいシェノンちゃん! シフさん起きたよー!」

「ぐぉっ」

 

俺がこのレギオンに入った翌日、日が落ち始めた頃にやっと雷神トールの眷族シフが目を覚ました。

自分がどういう状況なのか分からないようで、困惑した顔で周囲を見ている。

 

「アザレア……? どこだ、ここ」

「戦場の近くにあった森です。シフさんが倒れてたので頑張って連れてきました」

「戦場……っ、そうだ、戦線は!?」

 

シフは飛び起きてそう叫んだ。だがいくら眷族と言えどもあの重傷では治癒しきれていないようで、すぐ苦痛に顔を歪めて体勢を崩す。

 

「戦線は……崩壊、しました。多分今は(みやこ)前の最終防衛ラインが食い止めてます」

「……そう、か」

 

ぐったりしたようにシフは項垂れた。持ち主に呼応してか、傍らにある蒼い剣も光を失って見える。

 

「あ、そうだシェノンちゃん。シフさんに飲ませるから水筒持ってきて」

「ぐおっ」

 

俺はリュックから水筒を取り出してシフヘ持っていく。

シフはその時初めて俺の存在に気が付いたようで、こちらを向いて目を丸くしていた。

 

「お、おぉ? あん時の嬢ちゃんか……よかった、無事だったんだな。シェノンっていうのか」

 

『よっこらせ』とゆっくり立ち上がり、シフは剣を持ち上げた。肩に寄り掛からせたそれの放つ蒼光が強くなる。

そして腰を屈め腕を突き出した変なポーズをした。そのままキメ顔でこちらに流し目をする。明らかにカッコつけていた。

魔王はそれを見て『えぇ……』と引いている。

 

「感づいてるとは思うが……俺はただの人間じゃあない。俺の名はシフ。そうだ、あの"聖剣のシフ"だ。ふっ、驚いたか……? 雷神トールの眷族にしてジョージア最強の男。よろしく頼むぜシェノン」

「ぐぉぉ……(知ってる……)」

「すいませんシフさん、もう名前言っちゃってます」

「えぇ……? 俺これが楽しみで生きてるみたいな所あんだけど」

「四十手前のおじさんが何言ってるんですか……」

 

シフはがっくりと肩を落として座り込んだ。

魔王は戦慄したようにワナワナ震えている。

どうしたんだ。

 

『この男……あのポーズをかっこいいと思っているのか……!? おいノンシェイプナイト、聞いてみてくれ。アラサーになってあんなポーズして恥ずかしくないのかって聞いてみてくれ!』

「がぁぁ……(お前だってドミネーターのくせしてYouTubeに動画上げてただろ……)」

『む、むぅ……いやあれは南スーダンの観光資源のための苦肉の策と言うか……名所とかビックリするぐらい無かったから、私が広告塔になるしか無いと思って……』

「よし……シフさんも目覚めた事だし、都に帰る準備をしようか。都前の防衛戦、シフさん無しじゃきっと数日も持たない」

 

ごにょごにょ言い訳している魔王に呆れていると、アザレアがそう言った。

 

「あぁ、早く帰らねぇとやべぇ……が、都までの道にはあのエセ天使どもがうじゃうじゃだぜ。相手をするにしても今の俺じゃ一度に五匹……いや、お前らを守りながらじゃ二匹が限界だ」

 

負傷した腕を抑えながら悔しそうな顔で呟くシフを尻目に、俺は袖に隠した騎士腕を見る。

……力を使うのは、本当に危ない時だけだ。向こうのドミネーターに感知されたら本格的に死ぬ。

腰に手を伸ばし、タイサのナイフの感触を確かめた。

いざという時はこれで応戦しよう。大事な物だから、折れたりしないように気を付けないと。

あの人みたく鋭く美しい銀刃を、優しく撫でた。

 

「……嬢ちゃん、随分物騒なモン持ってんな。短剣、いやナイフか? そんな馬鹿デケェの振れねぇだろ。危ねぇから俺が預かーー」

「ガァ"ッ!」

「わ、悪かったって。とらないから怒んなよ……」

 

ナイフを取り上げようとしたシフに、思わず本気で怒鳴ってしまった。

シフはビクッとした後、小声で『最近の女の子恐すぎんだろ……なんか本能的な恐怖感じたんだけど……?』と小刻みに震えながらアザレアにすがり付いている。申し訳無い気持ちになった。

 

「……でっけぇコンバットナイフ見るとあいつを思い出す。元気してんのかな」

 

ぼそり、とシフが何かを呟いたが聞き取れなかった。

アザレアが気にしてないからさして重要な言葉ではないだろう。

 

「じゃあ、明るくなる前に出発しよう……行けますか? シフさん」

「あぁ。奴らは日中に活発化するからな……それに、闇に紛れた方が見付かりにくい」

 

あの天使どもは日中に活性化するのか……覚えておこう。

アザレアは立ち上がり、俺の手を握った。シフも剣を構えて歩き出す。

 

「俺が先行する。アザレアは嬢ちゃんの様子を見といてくれ」

「分かりました。行くよ、シェノンちゃん」

「ぐおっ」

 

十分程歩き、森を抜ける。

さっきまで木々に遮られていた月光が俺達を照らす。空を見上げると満月だった。

日本で見たものより、少し小さい。

 

「……フルムーンか。良い夜だが上ばっかり見てちゃ不意討ち食らうからな。お前らは横と後ろを注意してろ」

 

アザレアはその黄金の瞳で油断無く周囲を見ながら、こくりと頷いた。

それにしても静かだな。昼間の喧騒が嘘のようだ。死体はあちこちに転がっているが。

足元にあった男の(むくろ)を凝視していると、アザレアが『……あまり見ない方が良いよ』と俺の目に優しく手を被せて視界を塞いできた。俺の外見が少女だからだろう。

……実際は、何億人と殺してきた化物なのだけど。

 

「っ、おい、伏せろ……!」

 

その時、シフが小声で俺達に呼び掛ける。

シフの視線を追うと、その方向には月に向け翼を広げて『Y』に似た体勢を取る、無数の天使の群れがあった。そのあまりに壮絶な光景に顔をしかめる。軽く十万は居そうだ。

筋骨が異様に隆起した上半身が月明かりを浴びて輝いている。

何となく、日光を浴びるために葉を伸ばす植物のように感じた。

 

「……『月光浴』。月に反射した太陽光を浴びてるって学者連中は言ってたな。奴らは日が昇る程にその力を増す。夜にゃ月で代用ってわけだ」

 

伏せたまま行くぞ、と言いながらシフは匍匐前進で進んでいく。俺たちもそれに続いた。

やはり奴らは太陽と深い関わりがあるらしい。そう言えば日中に見た奴らの翼はオレンジ色に発光していたし、それも関係あるのかもしれない。

 

『太陽……いやまさか』

「がうぅ……(しんどい……)」

「頑張ってシェノンちゃん、もうちょいだから……!」

 

そうこう考えながら数分匍匐前進してるうちに、俺の腹筋と左腕が悲鳴を上げ始めた。

俺の体が右腕を除き貧弱な少女である事を鑑みれば当然だった。むしろ今までよく耐えた方だろう。

後半はもはや右腕だけで這うようにして、なんとか天使の群れから遠ざかった。

 

「よし、立ち上がっても大丈夫だ」

「ぐおぉぉ……」

「よく頑張ったね……僕でもキツかったよ」

 

がくがくの腰を押さえながら立ち上がる。明日は筋肉痛だろう。

今すぐ倒れ込んでしまいたいが、ここで力を抜いたらもう立ち上がれないという確信があった。二人に迷惑を掛けてしまうからそれは出来ない。

俺は歩きだそうとーー

 

「キ"、ェエ"ェエ"……」

「っ、シェノンちゃん!? 後ろ!」

「はぐれ個体……っ」

「がぁっ!?」

 

ーー歩き出そうとして、背後で手斧を振り上げる天使の姿を見た。

昼間より動きは鈍い。しかし、俺の頭程度ならカチ割れる力強さは感じる。

……反応できない速さじゃない。咄嗟にタイサのナイフを腰から抜いた。

そして眷族と戦う時にタイサが見せた動きを思い出し、模倣(コピー)する。

……力を貸してくれ、タイサ。

 

ーーインストール、ダンデ・レオンハート。

 

「ギィァアァ!?」

 

ナイフを天使の首に当てがい、向こうの体重移動を利用して深く食い込ませる。そして高速で引いた。

綺麗に切断された天使の頭部が、宙を舞ってどちゃりと地面に落ちる。残った胴からは噴水の如く血潮が迸った。

返り血にまみれながらほっとして溜め息を吐くと、シフとアザレアがとんでもない顔でこちらを見ている。

 

「が、がぁ……?」

「し、シェノンちゃん。すっごく強いんだね……」

「なぁアザレア……? なんだあの動き、最近の子って皆ああなのか……!? 怖いよ、おじさんはもう何も分からないよ……!」

 

涙目でアザレアの肩を揺さぶるシフ。

えぇ……? こいつ仮にも眷族なんだから今の俺なんかにビビっちゃ駄目だろ。

未だにビクビク痙攣する天使の身体を念入りに刺しながら、そう思った。

二人がそれに引いているが、気にしてはいけない。

 

「……あれ、もしかしてこの中で一番弱いのって僕なんじゃ」

 

深刻な顔でぼそりとアザレアが言った。返事はしないでおく。

前方を確認すると、遠くのほうに明かりが見えた。都とやらはもう少しなようだ。




(更新)待 た せ た な。
別作品にかまけてました……これから頑張ってペース上げていきます。
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