貌無し騎士は日本を守りたい!   作:幕霧 映(マクギリス・バエル)

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8.『彼』の眷族

「ところで、ノンシェイプナイトさん。あなたの眷族はどこに居るのですか?」

「ぐおっ……?(けん、ぞく……?)」

 

アセビや山吹が仕事へ戻り、ドミネーター二人で適当な話をしていた時。ふと、と言った感じ人形が俺にそう問い掛けた。

首を横に降ると、人形が困惑した顔になる。

 

「……おや、いないのですか?てっきり、最初から発生してる物だと思っていたのですが……」

 

興味深そうに、人形は顎に手を当てた。

 

「ぐおっ?(なんだそれ?)」

「ああ、失礼しました。……ン”ン”ッ!説明しましょうッ!”眷族”とはッッッ!」

「ぐお。(いや、無理にテンション上げなくて良いから)」

「アッ、ハイ……」

 

……さてはこいつ、実はそんなにハイテンションな性格じゃないな?

キャラを作ってるのか?俺も親しみやすい様に何かした方が良いのかな……

 

「……えっと。”眷族”というのは、その名の通りドミネーターが無意識下で生み出す事のできる仲間みたいな存在ですね。私はそれらをフランスに置いてきて防衛などに用いています。」

 

淡々とした口調で人形はそう言った。

なんだよ、やれば出来るんじゃないか。ハイテンションモードだったらこの百倍ぐらい説明に時間掛かってたぞ。

 

「産み出す側のドミネーターと縁を結んでいたり、性質の近い物や生き物が”眷族”化しやすいです。例えばワタシなら、ただの人形だった時の同僚……我が主の他のぬいぐるみとかが眷族になりました。ハイ。」

 

……かつて縁を結んだ存在、か。

それなら俺にその”眷族”がいないのも納得だ。

だって記憶無いもん俺。

 

「おい、フランス大統領が本国へ帰還する様だ。人形、ヘリポートまで案内するから着いてこい。」

 

俺がそう考えていると、ドアが開いて山吹がやってきた。

ああ、人形はもう帰るのか。

まぁ幾ら仲間がいたとしても、ドミネーター本体が国から離れるのは危ないからな。

早く帰還した方が良いだろう。

 

「ノンシェイプナイトさんッ!それではまたいつかッッ!」

 

人形が、こちらをチラチラ振り返りながら去っていく。

俺が軽く手を振ると、向こうは手が千切れるんじゃないかってぐらいブンブン振り返してきた。

それは、こちらから人形の姿が見えなくなるまで続いた。

 

「……ぐお。」

 

……”眷族”。ドミネーターが、ただの人間や物だった頃の生きた証。存在証明と言っても過言ではないだろう。

しかし、俺にはそれが無い。

 

……『俺』は、誰なんだろうな。

一人きりの牢屋で、そう自分に問い掛ける。

答えは返ってこない。

きっとそれは、永久に変わらないのだろう。

 

 

■□■case1

 

私は、昔から姉の事が大嫌いだった。

姉の名は結城 馬酔木《アセビ》。

弱虫で、実は根暗の癖して自衛官なんかになって、毎日クタクタになって帰ってきてる。

それ故に普段は晩御飯を一緒に食べることは少ないのだけど、その日は違った。

 

「ただいま!」

 

家に帰って来た姉は、意気揚々と食卓の前に置かれた椅子へ座り、箸も持たずにとある人物について話し出したのだ。

とある事情によりイライラしている私を気にせずにした話しによると、なんでも"その人"は鎧を着ていて、優しくて、とても強いらしい。

 

「……ん?」

 

私は、それと似た特徴を持つ人物に数日前命を救われている。

前の家が崩れ、その瓦礫に潰された私を助けてくれた人。

 

「その人……もしかして『ぐぉぉお』とかしか言わなかったりしない?」

「……え、なんで分かったの!?」

 

驚いている姉を見て、私は確信した。

インターネットで写真を見つけた時から少し感付いていたが、あの騎士は恐らくドミネーターなのだろう。

ならこの、()()()()()()()()()()()()()もそのせいかもしれない。

 

 

■□■case2

 

ーー世界が変革してから、一日後。

アフガニスタンにあるビルの中で、とある白人風の男が、軽く千を越えるであろう部下達の前に立っていた。

ほぼ全員が筋骨逞しい武装した兵士であり、みな一様に熱心な態度で話を聞いている。

 

「……三年前、俺たちを守るために”ボス”は命を落とした。」

 

瞬間、部下達の顔が痛ましい物へと変化する。

ある者はまるで母親を失った悲しみを堪える子供の様な。

ある者は怒りの炎を燻らせる悪鬼の様な。

ともかくこの男の言葉は、部下達の精神を酷く揺さぶった。

 

「ーーかに、思われていたっ……!」

 

ーー男の声色が、目に見えて弾む。

先程までは我慢していたのかすでに口端は弧を描き始め、そこから『んふ、んふふ……!』という、このイカつい中年男性がやったら『お巡りさん、こいつです。』と突き出されてしまいそうな笑いを溢れさせていた。

 

「ふっ……こいつを見て欲しい!」

 

困惑する部下達に『まぁ待て!』と半笑いで言ってムカつかせた後、男は手袋を外し、右手を高らかに掲げた。

その甲には、騎士の顔を模した痣が浮き出ている。

それは、奇しくもこの組織のシンボルと酷似していた。

 

「俺は感じるのだ……この痣から、ボスの気配の様なものを。だってそうだろう?『弱者を理不尽から守護する(かお)の無い騎士団』それが俺達であり、奴の掲げた理想だ。」

 

男は『その上で断言する!』と、拳を握り締めながら叫ぶ。

部下達はそれに続く言葉を待った。

まさか、あの男が生きているのか。

そして、この勿体ぶりな中年はその場所を特定しているのか。

強い期待を持って、言葉を待った。

 

「ボスは!東にいるッッッ!」

 

ーー部下達は、震撼した。

これだけ自信たっぷりなら、彼は本当に生きているのか、と。

自分達に居場所を与えてくれたあの優しい戦場の神は、まだこの世に居るのか、と。

だが、それと同時に部下達は思った。

 

(いや、アバウト過ぎない?)

 

なんだよ東って。

この中年は地球がどれだけ広いと思っているんだ。

だが、探しに行かないという選択肢は無い。

部下達は、自らの財布を犠牲に『ボス』を探す決心をした。

 

【民間軍事会社『幸せ屋さん(ピースメーカー)』】。果てしない旅路の始まりである。


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