ラスボスが鎮守府にいるんだが倒せない 作:リバプールおじさん
川内「ねえ」
「はいはい」
川内「夜戦しない?」
「やです」
彼は即答してゴロン、と執務室の床に寝っ転がる。彼は基本執務室で寝泊まりしている。本人曰く時々来る海軍の人を揶揄うため、だそう。
確かにコイツは喋る。本当によく喋る。そして煽る。ため込んでいたものを吐き出すかのように。本人は楽しげだが。
そして彼は何と眠らない。夜中ずっとゴロゴロと執務室で転がりながら何かをいじっている。でも基本的には無音だから夜戦に誘おうと思っていたのだけど。
「やです。お帰りください」
「なんでさ!何もしてないじゃんか!夜中暇なんでしょ!ずっと起きてるじゃん!」
「何でお前がここの様子知ってんだよ怖いよ!夜中はお前らに撃たれないから安心できんのさ。早く帰ってくれや」
やはりどんな索敵と回避と運が高くても何処からでも狙われる、と言う状況は恐怖でしかないらしい。
川内「ねえ!いーじゃん!装備つけないから!鬼ごっこだけでいいから、ね?」
「マジ?」
川内「マジだよ、だからさ、夜戦しよ?」
川内「それじゃー夜戦鬼ごっこ行ってみよー!」
「結局来ちゃった...」
川内「じゃあルールは簡単!私が逃げるからエンちゃんはこの探照灯で私を照らしてね」
「はいはい。分かったよ」
川内「じゃあ制限時間3分ね。スタート!」
そう言うが早いが闇に沈んだ海を疾走する。
夜は好きだ。慌てたのか彼が探照灯をあちこちに照らすのがわかる。
これだから、鬼ごっこはやめられない。
「よっしゃ勝ったああああああ!」
川内「全然だめじゃん!勝てないって!」
「俺のステータス見たでしょ?索敵カンスト済みだよ?ラスボスなんだよ?補正かかるでしょ」
川内「むう...火力無いくせに...」
「合計値はとんでもない事になってるのでセーフ。どうする?もう一回戦やる?目も慣れてきたし」
川内「えーやだ。どうせやられるし」
「アンタ自分で誘ったんじゃ無いのか....じゃあ帰るか」
そう言って僅かな光が灯す鎮守府に帰ろうとする。
だが少し、聞きたいことがあった。
川内「ねえエンちゃん」
「はいはい?」
川内「エンちゃんはさ、海の上走れるじゃん?なのに何で砂浜に打ち上がってたの?」
「んー、何でだろうね?ま、魚だって打ち上がるしそんな感じでしょ。早く帰ろ。...あ」
彼の声に振り返ると、向こう側に影が見えた。
今日は新月だが、これでもかと言うほどに強調される巨腕。軽巡ツ級。
川内「しまったあ!私何も装備持ってないよエンちゃん何とかしてよ!」
装備を何も持ってきていない。私なんて装備がなければただの海の上を歩ける一般人だ。
鎮守府まで走っても間に合わない。捕まるし、逃げ切れても確実に鎮守府に被害が出る。
だからヤケクソで彼に助けを求めたのだが。
「あ、いいすよ。早く走っていっちゃいなよ」
川内「え」
「いやだからいいって。早く逃げとけよ。私歌って踊れて走れるラスボスさんだぞ?」
そう言って私の背中をグイグイと鎮守府へと押し出す。
川内「本当?いや死なないんだろうけど鎮守府に被害は出さないでね!?」
そう言って鎮守府へと全力で走り始めた。
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速イ。ナンダコイツ!?
艦隊カラ逸レテシマイ、サマヨッタアゲク敵ノネジロヲ見ツケ、試シニ攻撃ヲシカケタラ艦娘デモナイ男二邪魔サレタ。速イ。攻撃シテモ全ク当タラナイ。
ソンナ、バカナ。
ツ級「ワタシハ、ツキュウダゾ!?」
「ちょっと自分語りさせてよ。...僕ァ戦う人ってのが好きだ。スポーツ選手もそうだしゲームのキャラクターもいい。艦娘なんて最高だな。そう言う面ではお前らも好きなんだよ、同胞。でもな」
ツ級「何ヲ言ッテイル!」
「モブは嫌いなんだな」
言ウガ速イガ奴ハ自分ノ顔ヲ手デ鷲掴ミニシタ。
ツ級「何ヲ?」
暗転。
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報告書
◾️月◾️◾️日
佐原鎮守府近海にて、当該鎮守府に所属する川内と、[削除済み]が自主夜戦演習中に、艦隊から逸れたと思われる軽巡ツ級に遭遇。
川内は戦闘装備を所持していなかった影響もあり、[削除済み]を殿に逃走。
戦闘詳細は不明だが、数分ほどで[削除済み]は当該鎮守府に帰還した。
3日後、砂浜に打ち上がったツ級の艤装のみが発見された。
民間人への影響を配慮し、ツ級の艤装を回収。
ほぼ完全な形で残っていたが、腕部への接合部分のみ、風化したような裂傷が見られた。近くにはその結合部分から外れたと思われる欠片が転がっていた。
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「はい黒潮、株券3枚。...ヘックショイ!」
黒潮「3枚じゃ$240,000やな。どないした?風邪か?」
「いや、誰か俺の噂してんだな、ヘックショイ!」