Hearts of Kancolle IV ~crisis Mod~   作:連絡会議

1 / 4
東京のオーロラ - プロローグ

 4500万人という人間を死に追いやる未曽有の大戦が終戦してから早15年。

 地球に多大なる負荷を残しながらも何一つ得るものはなく戦争は終わった。

 大戦の終了に一息ついた人類は更なる危機に直面する。

 1926年、ダウ平均株価の大暴落――のちにウォール街大暴落と名付けられるそれは瞬く間に世界経済に波及。大恐慌が始まりを告げた。

 時を同じくして第一次世界大戦におけるかつての主戦場地域において死に至る深刻な病が流行。またBC兵器により砒素、水銀、鉛、亜鉛により汚染されたゾーン・ルージュと呼ばれる地域が拡大。始まった大恐慌をさらに悪化させることとなる。

 貿易のための空海路の閉鎖は世界的な貿易活動に終止符を打つことになる。

 旧二重帝国の宗主国であったオーストリアの大銀行、クレジットアンシュタルトは戦争による疲弊と大恐慌の二重の打撃に耐えきれず、遂に倒産。敗戦後も経済的に高い力を保有していたオーストリアの経済的な破滅はとどまるところを知らず、周辺国も経済崩壊に巻き込まれる羽目になる。

 1928年3月のドナウ連邦圏経済統合会議によるハンガリーを盟主とした国家の統合まではその経済混乱に見舞われ続けることとなった。

 続き大戦の被害が少なかった日本が主導した東京の大東亜経済会議によるアジアの国家統合は一層の国家統一を世界的潮流として迎えることとなる。

 

 ――以降、世界は経済圏を中心とした国家の統廃合を行う羽目になる。

 イギリスはアイルランドを手に入れた。

 オランダは低地諸国の再統合を行った。

 北欧はフィンランドを盟主とした国家の大統合が行われた。

 

 かつてその地にあった国家はより強大な経済圏に飲み込まれた。

 国民の精神に大きな傷を与えながらも国家統合は続く。

 

『9月18日は世界連合誕生記念日!』

『チェルノブイリ条約締結6周年!』

 

 街のデパートに、掲示板に、外壁に貼られたポスターは勇ましく、人類の希望を謳っていた。

 1929年のチェルノブイリ条約――経済破綻を防ぐための軍需費削減と世界連合の設立を行う条約の誕生。

 1932年のパリーロンドン便を契機に、徐々に再開された空海路による移動と貿易は仄かな、しかし確かな光を人類に落とした。

 

 しかし――

 

 夏から秋へと移り変わろうとする筈の気候はまるで冬のような寒さを持って到来した。

 私も司令官も急いで冬服の支度をし、今は長袖のセーラー服に身を包んでいる。

 

 まあ、それだけならまだ良かった。

 

 空を見上げる。

 人々が感嘆か、あるいは恐怖か、何かしらの感情を込めて見上げた空には光のカーテン――オーロラがあった。

 輝くような夜空。隣を行く司令官も空を見上げ、白い息を吐きながらつぶやく。

 

「綺麗だな――もう二度と現れてほしくはないが」

「この空を純粋に楽しめるときが来てほしいね」

「ここでか?」

 

 司令官が私に微笑みかける。

 

「無論、極地で」

 

 私も笑みを返す。

 

「まあこんな都市部じゃ雰囲気(ムード)もへったくれもないからな」

「ほう?漸く司令官も女心を理解できるようになったのかい?」

「まさか」

 

 さ、急ぐぞ、と小走りになる司令官を追いかける。

 横須賀鎮守府――の隣にある工廠に入り、休憩室を目指す。

 

 いい匂いが漂ってきた。

 こんな時間に『間宮食堂』はやっていない。

 まさかと思い、休憩室の扉を開けると、そこには明石と夕張がいた――綿入れ袢纏(はんてん)を羽織り、炬燵(こたつ)に足を入れて。

 さらにその上には割と上質な具材の鍋、徳利(とっくり)と盃まで置いてある。顔も赤いし呑んでいるのだろう。

 自分の視線が冷たくなっていくのを感じる。

 

「ほう……?私と司令官がこのクソ寒い中外回りをしていたというのに鍋をつまんで酒に酔っていたと……?」

 

 明石と夕張の顔がどんどん青ざめていく。

 私が12cm単装砲を腰から引き抜こうとしたとき、

 

「肉はあります!」

 

 と夕張がどこかから上等と思われる牛肉を出し、

 

「酒もあります!」

 

 と明石が炬燵から大吟醸の一升瓶を出した。

 司令官のほうに顔を向けるとやれやれといった様子で首を振り

 

「夕張、明石、今回は肉と酒に免じて許してやろう」

「「ありがとうございます!司令官様!」」

 

 言うや否や二人は土下座の体勢で司令官を崇めるような動きをしている。主に動き方が気持ち悪い。

 やれやれと炬燵に入るとポン酢が置かれる。ふむ、サービスは悪くないようだ。

 ああ、冷えた体にはたまらない。

 

「にしてもこの炬燵普通のよりも温かいな……」

「明石特製電気炬燵です!」

 

 どん、と明石が自分の胸をたたくのに合わせ、その無駄な胸の脂肪がぽよん、と揺れる。

 司令官の目線も胸に行っている。

 

 ……自分の胸を見る。まな板(無乳)ではないがなだらかだ。

 巨乳滅ぶべし

 

「……まあ後でサンプルを提出しておいてくれ」

「はーい、提督、そろそろいただきましょうよ~」

 

 肉も煮え、そろそろ食べごろだろう。

 じゃあ、と司令官が盃を持ち上げ、私達もそれに倣う。

 

『乾杯!』

 

 さ、いただこう。




全編にわたり加筆修正を行いました(1331→1998文字)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。