怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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ーChapter 12ー

・7月11日 12:03 鹿児島県鹿児島市山下町 鹿児島宝山ホール

 

 

駐車場からホールまでの間、うだるような熱気と南国特有の強烈な日差しが刺さる中、檜山はハンカチで額を拭うと、ホールの中へ足を踏み入れた。

 

『あかつき号沈没事故に関する説明会』

 

そう書かれた立て札に従い、檜山は会場を進む。冷房がだいぶ効いてるらしく、汗は一気に引いた。

 

沈没したあかつき号に乗船していた旅客・乗員の家族や関係者へ対し、客船を運営する大和客船の子会社で、7日間に渡る豪華客船ツアーを主催したJOTツアーズが、ここで説明会を行うというので、檜山は日赤病院に入院している双子姉妹の調査を保留とし、主催者であるJOTツアーズへの聞き取り調査を行うことにした。

 

会場となっている中ホールには、中へ入り切れない人々が苛立たしげに難しい顔を作っていた。

 

JOTツアーズへはアポイントは取ったが、果たしてこれだけの騒ぎで聞き取り調査が可能かどうか。

 

「もうしわけございませんでしたぁ!!」

 

会場の奥で、ひときわ大きな声が上がった。そちらを見遣ると、キッチリとしたスーツを着た男が、床に額をこすりつけんばかりに土下座をしていた。

 

「あんたが土下座して何になるんだ!」

 

「娘夫婦を帰してちょうだい!」

 

参列の人々から罵声が上がる中、檜山は人の波をかき分けるように身を進めた。

 

「お取込み中、失礼。国土交通省運輸安全委員会の者ですが」

 

土下座する男の傍らで、悲痛な顔で顔を下げる女性に声をかけた。首からJOTツアーズの社員証を下げている。

 

「あ・・・お待ちください」

 

女性は土下座を続ける男性に声をかけた。顔をくしゃくしゃにした男性が頷くと、集まった人々に向き直った。

 

「誠にもうしわけありません。一度、中座させていただきます。引き続き、個別応対はこちらの西村と、菅家で行わせていただきます」

 

なお改めてお辞儀をする男性に、「なんだ逃げるのか!」「早く情報をくれよ!」と怒声が浴びせられる。

 

涙目で頭を下げると、檜山に向かい、「どうぞ、あちらへ」と小会議室を掌で示した。

 

檜山が座ると、随行の社員が冷茶を差し出してきた。

 

さきほど土下座していた男が、おそるおそる名刺を差し出した。

 

『株式会社JOTツアーズ 第二営業部長 東野 修武』

 

そう印字されていた。

 

檜山は身分を明かし、手順に則り調査目的を説明、会社側からの報告書を求めた。

 

もうしわけなさそうに、東野はA4で綴じられたファイルを渡してきた。

 

「状況は理解しました。少なくとも、整備不良・過積等、そういったものが原因ではなさそうですね」

 

一通り読み込んだ上で、檜山は東野を安心させるべく笑顔を見せた。

 

「とはいえ、現時点で原因が不明、船の引き揚げも為されていない以上、あらゆる可能性を考慮しなくてはなりません。さきほど、本委員会にも通達がありましたが、来週にも大阪の南海サルベージによる引き揚げが実施されるそうですね」

 

檜山は笑顔を封じた。見据えられた東野は肩をやや竦め、視線を下に向けたままだ。

 

「はい。これ以上引き揚げは早められない、とのことで。当社におきましても、一刻も早くと申し上げたのですが」

 

「いえ、やはり引き揚げには一週間はかかるでしょう。その点は、問題はないと考えてます。ただ懸念されるのは、再び中国原潜による領海侵犯などが起こり得るかどうか、その部分です」

 

「はい。あの、やはり、当社の客船が沈没したのは、噂されるように中国による国家的関与があったということなのでしょうか」

 

「いえ、それはまだわかりませんが、その可能性は低いと考えられます。原潜による領海侵犯はさておいて、中国があかつき号を沈没させる理由が見当たらない」

 

事件以降、ネット上ではあかつき号沈没は中国のしわざと決めつけるような書き込みも散見される。だが、700名ほどの人間を船ごと沈めたところで、中国にどんな利益がもたらされるというのか。

 

とはいえ、わざわざ狙いすましたようにあかつき号沈没海域へ原子力潜水艦が侵入してくるなど、事故への関与を疑われてもしかたがない状況であることも、たしかだ。

 

「あ、あのそれと、入院中の伊藤様ご姉妹に関して・・・」

 

「ああ、それは、こちらが落ち着いてからでも問題はありません。第一、二人とも事故のショックによるものか、病状が安定していません」

 

檜山は今朝から彼女たちに面会してからの、不可解な出来事は話さなかった。

 

「それに、ここへ集まるあかつき号の家族や関係者は今日も増えるそうですね。なかなか、ここから離れられないのでは?」

 

東野は無言で頷いた。胃酸がこみ上げてきたような顔だった。

 

「さきほどニュースでやってましたが、富山県に出現した小型怪獣の群れによって、JOTツアーズの参加者数名と添乗員が犠牲になったそうですね。そちらへの対応も、さぞかしお忙しいこととお察しします」

 

「はい。本当にもう、さまざまなことが・・・」

 

辛そうに顔をしかめる東野。

 

「沿岸に上がった小型怪獣たちはほぼ駆除が完了したそうですから、いずれ現地へどなたかを派遣なさることでしょうが・・・」

 

そのとき、檜山と東野、及び会議室で待機するJOTツアーズ社員たちの携帯電話に一斉に通知が入った。

 

【速報 カムチャッカ半島におけるメタンハイドレート抽出作業で大事故】

 

【中国籍の採取船数隻が沈没 死者130名と中国当局が発表】

 

 

 

 

 

 

・同日 12:54 中華人民共和国北京市西城区新興華大街 国家外交部分室公館

 

※日本より1時間遅れていることに留意

 

 

中華人民共和国外交部の責任者氐は、両手で顔を隠したままため息をついた。

 

昨日から東海艦隊の原潜による日本海域侵入及び、巨大生物との原潜接触と重大案件が続き、その対応指揮に当たりほぼほぼ不眠状態であった。

 

顔は火照り、普段痛まない歯がジンジンと疼く。

 

このまま誰も部屋へ入ってこなくて良い、ひとりにしてもらいたい・・・そんな希望は、ドアをノックする音で打ち砕かれた。

 

万・産業技術部長と、苑・共産党資源部会長だった。いずれも氐より身分が高い上、なんだかんだ愚直である軍人たちとは違い、高圧的で一筋縄ではいかない連中だ。

 

「氐同志、諸外国へは、どの程度情報が伝わっているのかね」

 

苑があいさつも無しに訊いた。

 

「抽出作業中、大事故発生。死者130名。それだけです」

 

党の方針に従い、事実のみ記載した簡潔な発表しかしていない。

 

「知っての通り、採取船及び随行の調査船は全滅、実際には死者が千名を上回っているなどとは、どこも知らないだろうね」

 

万がわきから訊いてきた。

 

「諸外国はあれやこれやと予想を立てるだろうが、いつも通り一切を認めてはならぬよ?こちらから真実を明かさない限り、誰が何をどう騒ごうとも、噂は噂だからな」

 

わかりきったことを、苑は言う。

 

「苑同志、こちらで情報は抑えますが、確認しておきたい。メタンハイドレート抽出が可能と謳ったいわゆる≪矢野論文≫は机上の空論であったのですか?」

 

「それはわからぬ。それ故、より詳しい情報を集めなおすよう、指示を出したところだ」

 

「外交部としては、どうか穏便に事を進めるよう願います」

 

「愚問だな。党中央委員会も、同様の見解だ。問題は、矢野論文を最初に入手した福建閥の連中だ。この事故で面目を失い、その躍如に躍起になっている。党の調査より先んじて、日本国内で諸々動いているそうだ」

 

氐は苦虫を噛んだような顔をした。気持ちはわからないでもないが、なりふりかわまぬ行動は慎んでもらいたい。党としても国家としても、国際問題を拡大させることは大いに不本意なのだ。だが連中は手段を選ぶこともするまい。政治闘争はこの国において如何なるすべてにも勝る行動原理だ。

 

「それと、軍からも聞いているとは思うが・・・沈没の原因はそちらでも掴んでいるね?」

 

万が訊いてきた。

 

「全13隻のうち6隻は、急激なメタンハイドレート蒸発による気化によって浮力を奪われ沈没、他は・・・まったく度し難いのですが、沈んだのではなく沈められた、と聞きました」

 

「誠に遺憾だが、その通りだ」

 

苑はファーウェイ製のタブレットをタップし、動画を再生させた。

 

「・・・これは!?」

 

思わず大声を上げた氐を、万と苑は睨みつけた。声が大きすぎる。

 

「良いかね、これは最重要機密事項だ。おしゃべりな外交部の責任者にこれを見せた理由は、この事実を一切公にしないように敢えて、だ。君たちはすべてを知り、すべてに口を閉ざさなくてはならない」

 

「わかるね?事実として、我が国の行為によって怪獣が目覚めてしまった。こんなことを国際社会に発信することは許されない。上手く隠蔽をするのだ」

 

氐は頷いた。これまででもっとも重たい頷きだった。

 

動画は自動でリピート再生されている。調査船に搭載されたヘリコプターからの映像で、激しく泡立つ海面から逃れる船舶の中心から、犬のような、龍のような巨大な顔が姿を現し、周囲の船を次々と海へ引きずりこんでいる。

 

『逃げろ!』

 

ヘリのパイロットが叫ぶ。大きく旋回する中、カメラは海と空気が赤く染まる、異様な光景を映し出した。

 

『ううっ!?』

 

直後、カメラを持っていた観測手が鋭い呻き声を上げ、画面がひっくり返った。床に落ちたカメラは、同じく床に倒れ、喉を両手で覆いもがく観測手を映している。

 

操縦席からも『げげぇー!』と、喉が出てこんばかりの嘔吐をするような声がして、ヘリが大きく揺れた。衝撃音と共にカメラが跳ね上がり、一瞬で水が溢れ込んできたところで、映像は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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