怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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ーChapter 16ー

・7月11日 0:07 アメリカ合衆国アラスカ州アンカレッジ イースト6thアベニュー

シェラトンアンカレッジホテル

※日本より17時間遅れていることに留意

 

 

まどろみから目を覚まし、尾形は身を起こすと一杯の水を飲んだ。

 

時差の関係で熟睡とはいかない上、どこかの部屋で盛り上がっているのだろう、かすかに賑やかな声がする。

 

宴会を終えて二次会を辞退したのだが、4時間ほどしか休めていないが、それも仕方あるまい。ルームサービスで頼んでいたマッカランを開けると、何で割ることも氷を入れることもなく、グラスを口にした。喉を焼くような液体の刺激が何とも言えず、満足気に息を吐いた。

 

このまま、午前4時前にはホテルを出て、早朝の便でカナダのバンクーバーへ飛び、国連主催の巨大生物対策会議に出席しなくてはならない。熱いシャワーを浴びる前に、至福の一杯をやった上で、移動時間を睡眠に費やすことにした。

 

緯度が高いアラスカでは日付が変わる時間でも西の空が仄かにオレンジ色をして、もうじき東の空が白くなってくる。完全に夜にはならないのだ。

 

静かな夜の街を窓から見ていると、テーブルにあるスマホが鳴った。“ビグロウ教授”と表示されている。

 

『お久しぶりです尾形教授、そちらは夜でしょう、遅い時間に申し訳ない。しかもボーフジェーディ島調査もご一緒できませんで、失礼しました』

 

明るい声が響いてきた。ケンブリッジ大学教授で、巨大生物に造詣が深いベン・ビグロウだった。去年、ゴジラとガイガン襲来後にイギリスから調査のため来日したときに知り合って以来、怪獣という謎の多い生物に関して意見を交わしたところ意気投合してからというもの、しょっちゅう連絡を取り合う仲になった。

 

「いやいや、お気になさらず。時差のせいですかな、どうもまんじりとしませんで」

 

尾形は笑った。半分は苦笑い、半分は遠くとも近い友からの連絡に喜んだためだ。

 

「ビグロウ教授、今日はバンクーバーでお目にかかれることを楽しみにしてますよ」

 

言いながら、ビグロウがスマホから電話していることに気がついた。時間的に、機上のはずなのだが。

 

『そ、それがですね、バンクーバー行きも取りやめになってしまって』

 

「おや、それは残念ですが、どうしましたか?やはり、ムルマンスクのマンモスは一筋縄ではいきませんでしたか?」

 

『い、いえいえいえ、ムルマンスクはとりあえず落ち着きました。ちなみにアレはマンモスではありません。前脚が二足歩行から退化し、鼻が短い。アレを角があるというだけでマンモスと呼ぶんなら、羽根のある鳥はみんなカラスになってしまう。アレは既存の生物学に当てはめてはいけないという結論を出したんです。そ、そ、それで、僕はこう考えたんです。北欧の神話に伝わる巨獣・ベヒモスにもっとも近い存在だと』

 

尾形は黙って聴いているが、研究分野となると興奮のまましゃべり倒す上に、よくどもるビグロウの癖に内心苦笑していた。ビグロウは世界最高水準の大学を出ていながら、中身は知識欲と好奇心に満ち溢れたオタク学生そのままなのだ。

 

しかも動物学を専攻していながら、古今東西の伝記や伝説マニアで、日本を訪れたときも尾形の教え子とドラゴンクエストやモンスターハンターのことばかり話していた。

 

ひとしきり伝承に基づいた持論を展開したところで、『アレ?何の話でしたか・・・・そそ、そうだそうだ、バンクーバーへ行けなくなってしまったんです』と自己完結した。

 

『今日、中国の吉林省で未知の化石が発見されました。そ、そ、そ、それで中国政府から急遽調査協力の依頼があったんです。エエ、そ、そりゃ僕も是非バンクーバー行って尾形教授とお目にかかりたかったんですが。な、なな、なんせ、中国政府はうちの大学に巨額の支援をくだすってますからね、断れないだろって学長がおっしゃるモンですから・・・』

 

「学術に政治や金銭を持ち込むべきではないのですが、まあ、お立場はよく理解できます」

 

尾形自身、政治の介入によってゴジラの論文を差し替えた苦い過去がある。

 

『そ、そうおっしゃっていただけると、きょ、きょ、恐縮です。実はいま、日本の成田なんです』

 

「なんと・・・ロシアから日本で乗り継ぎですか」

 

『ひ、ひ、飛行機が取れなくて、今日は成田に1泊です。本当に残念です、せっっかく日本に来れたのに、教授はいらっしゃらずバンクーバーへも行けなくて』

 

「仕方がありません。また、機会を作りましょう。それにしても、中国は発見された化石が何なのか、つかめていないのですか?」

 

『え、え、ええ、ええ。そうらしく・・・・でで、でも僕も未知で大型とはいえ昆虫は詳しくないですから、今晩ホテルで一夜漬けですよ。もっとじ、じ、人選があったでしょうに』

 

尾形は少し考え込むと、「いかがでしょう、私の方でも、昆虫学に詳しいうちの教授に訊いてみましょうか?」と話してみた。

 

『ほ、ほほ、本当ですか!それならぜひ!』

 

しばしお待ちを、と一旦電話を切り、尾形はスマホをタップした。深呼吸して気を落ち着かせないといけない相手だった。

 

相手は3コールで電話に出た。

 

『これはこれは尾形先生、どのような風の吹き回しで?』

 

尾形と同じく京都大学教授で、昆虫学の権威である釼崎だ。この時間、まだ研究室にこもっているだろうという予想は当たった。

 

尾形は経緯を話し、「是非、釼崎先生のご意見を」と言った。

 

『尾形先生、吉林省で見つかった化石なんて、私もニュースで観た程度ですからね、それほど情報があるワケではないが・・・』そう前置きしてから、釼崎は一気に喋り出した。

 

『いまから20年ばかり前になりますがねぇ、古代地球に生息していたとされる大型昆虫の論文を書いた人がいるんです。城南大学の中村教授といってね、まあ私が言うのも何だが、昆虫学者の間でも異端視されてたような方でしたがね。残念ながら学会で否定された論文のためデータベースにも残ってないが、非常に獰猛で攻撃的な昆虫種が古代地球に存在したとする内容だったんです。中村教授はそれをメガニューラと命名し、約10万年前に地球規模の生態系激変を起こした存在だと主張したんです。当然、学会から猛反発を喰らい、教授は職を追われるハメになりましたがね、生涯かけて自身が提唱したメガニューラの研究を絶やさなかったそうです。ま、尾形先生のように聞き分けが良かったら、中村教授も学会で生き長らえたでしょうになあ』

 

相変わらず会話の端々に厭味を混ぜてくるが、「そのメガニューラという存在が、今回発見された化石だとおっしゃるのですか?」と冷静に訊いた。

 

『そうです。私も報道で知った限りの映像と画像を集めましてね、データこそ残ってないが記憶にある中村教授の論文を照らしてみたんですが、細部こそ差異はあるものの、あの化石は仮説の上でしかなかったメガニューラと説明しても差し支えない、そう考えたんです』

 

控え目には話していたが、おそらく釼崎は未知の化石に関して相当興味を持っているようだった。

 

「・・・わかりました。釼崎先生、ありがとうございます。ビグロウ教授には、仮説としてですが情報を提供します」

 

『そりゃ、世界的に権威ある教授のお役に立てれば光栄です。それとこれは蛇足ですがね、メガニューラは幾多の昆虫の例に漏れず、女王蜂に準ずる存在を基に繁殖するようなんですが・・・その女王蜂が、生態上この上なく危険で凶暴なだったのではないか、という中村教授の仮説もあります。もし発見されたのがその女王なる存在であれば、これは古代地球の生態を解き明かす大チャンスであり、中村教授の名誉も回復できるってはなしです』

 

では、と釼崎は電話を切った。

 

「ベヒモス、メガニューラ、か」

 

尾形はこの数分の間耳にした、古代地球に存在していたかもしれない生物の名前を口にした。

 

マッカランを含むと、部屋の明かりをつけた。シャワーでも浴びながら、2人の変わり者教授が話した情報をより咀嚼するとしよう。

 

残りのマッカランを嗜むべくソファに腰掛け、テレビをつけた。ちょうど英国BBC放送だった。女性アナウンサーが緊迫の表情でカメラを向いている。

 

『繰り返しお伝えします。オランダ国防省によれば、オランダ王立空軍が、オランダ上空において未知の飛翔体と交戦状態に入ったとのことです。これを受けてオランダのルッテナン首相はオランダ全土に非常事態を宣言した上で、NATO・北大西洋条約機構へも協力を・・・ただいま入りました、速報です。オランダの首都アムステルダムで、大規模な爆発が起こったとの情報が入りました。たったいま入りました情報によれば、アムステルダム中央駅付近で爆発が発生したと・・・え、訂正します。オランダ王立空軍のFー16戦闘機が、アムステルダム中心部に墜落したとの情報です。えー・・・情報が錯綜してます。また新たな情報です。アムステルダム市によれば、巨大な黒い蛾のような生物が市街地上空を飛んでいるという複数の目撃情報が入ったそうです。また、速報です。アムステルダム市消防本部によれば、市内数箇所にて火災が・・・・・』

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