怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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ーChapter 18ー

・7月11日 17:37 岩手県八幡平市平笠第24地割 焼走山麓荘

 

 

花園学園大学のサークルメンバー10名と東京駅で合流し、東北新幹線で盛岡へ到着後、三上が手配した民宿の迎車に世話になって腰を落ち着けたときには、17時近くになっていた。

 

秋元は新幹線の車中にて、ミステリーサークルのメンバーから今回取材する伝説の神、婆羅蛇魏山神に関して詳細な情報を聴くことができた(話を聴きながらビールをガバガバ開けてしまい、酒を飲まないメンバーから呆れられてしまったが)。

 

今日は民宿で明日訪れる北上山地、及び県北部竜ケ森の情報を皆で確認する手はずとなっていた。

 

かつて岩手山が噴火した際、流れ出た溶岩(通称焼き走り)によって形づくられた尾根の麓にあるこの民宿は、白樺の林に囲まれた上、岩手山はもちろん、北に連なる八幡平の峰々も仰ぐことができる、景観も空気もこの上なく素晴らしいところであった。

 

しかも湧き出る温泉はほのかに硫黄の香りがして、今夜は温泉を楽しみながら地酒でも一杯、などと想像をめぐらしていたとき、上司である藤田から電話があった。

 

『稲村君が遺体で発見された』

 

それからしばらく、秋元は記憶になかったが、サークルリーダーいわく「顔面蒼白になり、無表情で涙が流れてきた」らしく、呆然自失の状態であったようだ。

 

だが、悲しみに暮れるうち、居てもたっても居られない感情が沸き起こってきた。

 

藤田の話では、遺体は自宅のある大田区蒲田へ移されるらしく、天涯孤独ではあるが母方の従妹夫妻が身元引き受けの手続きに当たるらしかった。

 

どうしても、稲村に会いたくなった秋元は、三上に正直に打ち明けた。

 

三上もかつて稲村と秋元を交えて取材に同行した縁で面識があるため、「こちらは大丈夫だから、行って良いよ」と言ってくれた。秋元が稲村に対して、記者の先輩以上の感情を抱いていることを見抜いていたのだ。

 

ここにきてしこたま酒を飲んでしまった自分を呪ったが、民宿の主人が「駅まで一緒にあべ(行きます)」と言ってくれたので、厚意に甘えることにした。

 

「先生、本当にもうしわけありません」

 

秋元は主人が手配したワゴン車に乗り込むと、見送りにきた三上に頭を下げた。

 

「いや、大丈夫。こちらは心配しないで良いから」

 

三上はそういって、ワゴン車のドアを閉めてくれた。

 

「しかし、稲村くんはなぜ、山梨に?」

 

そう訊かれて、秋元は昨日の夕方、編集部を訪ねてきた稲村を思い出した。

 

「そういえば・・・黄金の救い教団へ取材へ行くとか、話してました」

 

「黄金の救い・・・」

 

三上は秋元の口から出た単語を反芻した。ここ最近、急速に教義を広めている新興宗教団体であり、去年現れた黄金の怪獣を神と奉る、怪しげな団体、邪教、そういった認識を少なからず持っていた。

 

とはいえ、古代より伝わっていたとされる黄金の怪獣伝説を経典としている説もあり、三上としても興味をそそられていた。

 

「・・・先生、まさか稲村さん、黄金の救い教団に・・・?」

 

「秋元くん、それはまだわからない。たしかに良い話が聞こえない団体ではあるが、いささか早計だ」

 

「ですよね・・・すみません。あ、そういえば・・・」

 

秋元は昨晩、稲村と交わした会話の内容を思い出した。

 

「先生、稲村さん、近いうちに世の中をアッと言わせる記事を書くって話してました」

 

「んー、それだけではなんとも雲を掴むような話だが。秋元くん、その内容が内容だったがために、稲村くんが命を落とした、と?」

 

「わかりません。でも、もしかしたら・・・」

 

秋元は言いながら俯いた。宿の主人が運転席からこちらを見てきた。三上は頷くと、「何かあれば、連絡をよこしなさい」と秋元に言った。秋元は軽く会釈をすると、主人は前を向き、ワゴン車を発進させた。

 

道の先を見えなくなるまで見送ると、三上は宿へと身体を向けた。急に足元が揺れ出し、地面から鈍い音がした。

 

「またか」

 

実は盛岡駅に降り立ってから、震度2から3程度の地震が頻発していた。活火山である岩手山が活動を活性化させたのでは、という説は、八幡平の麓にある気象庁滝沢測候所が否定した。

 

とはいえ震源が岩手山、八幡平付近に集中しており、原因のわからない群発地震に気象庁も地元民も首をかしげるばかりだった。

 

陽が落ちてきて、高原地帯特有の冷涼な空気が漂い始めた。三上は宿へ入ると、学生たちと明日の打ち合わせをすべく奥の広間へ向かうことにした。

 

その間も揺れは続いていた。時間にすれば、すでに1分以上揺れていることになる。

 

怪訝に思いながらも、三上は帳場に座る宿の女将へ目をやった。女将が夢中になっている地元局である岩手山めんこいテレビでは、東京のフジテレビ報道局からの中継を放映していた。

 

『お伝えしております通り、イギリス・ロンドンにおいて、未知の怪獣とイギリス空軍が交戦したことにより、ロンドン市街地に甚大な被害が出ております。これを受けてイギリス国防省は、イングランド全域に住民の外出を禁じる戒厳令を発表、また防空レベルを、戦争状態に準ずる7に引き上げました。現在、未知の怪獣を駆除すべく、イギリス海軍イージス艦による、トマホーク艦対空誘導弾の多重攻撃を実施しているとのことです。また現地の日本

大使館によりますと、在英邦人、並びに日本企業の安否確認を進めており・・・』

 

女将に倣い、三上もテレビに注目していると、続く揺れがひときわ強くなった。大地を揺るがす音も、重く強いものになった。

 

「なんぼにも続くのぅ」

 

岩手訛りで女将がつぶやいた。地響きに混じり、なにかがぶつかり砕かれるような、奇妙な音もする。

 

「あっぱ!」

 

勢いよく帳場裏の勝手口が開き、主人の父親である老人が女将を手招きした。

 

「なぁんした・・・じぇじぇ!?」

 

呼ばれて外に出た女将は、素っ頓狂な声を上げた。

 

「どうかしましたか?」

 

つられて勝手口から顔を出したとき、揺れがひときわ強くなった。板場で茶碗が転がり、広間からは学生たちが飛び出してきた。

 

そんな宿の中も気にならぬほど、三上は絶句していた。眼前に広がる八幡平が大きく盛り上がり、あちらこちらで土砂崩れが発生していたのだ。岩手から秋田へと抜ける八幡平アスピーテラインを覆う森林が盛り上がり、溢れかえるように麓へなだれ込んだ。

 

轟音の後、土砂が降り注いだ辺りから土煙が昇った。あの辺りに存在する集落があったことを思い出し、三上は背筋が痺れるような戦慄を覚えた。

 

「先生、八幡平が噴火があ!?」

 

女将がすがりついてきたが、三上はゴクリと唾を呑んだ。

 

「いや、噴火にしてはおかしい。溶岩も、噴煙も昇らないというのは・・・!?」

 

三上が再び絶句するより早く、外に出てきた学生が「あれ!?」と指差した。膨大な土砂の中から、なにかが姿を見せたのだ。

 

直後、地響きとも土石流とも異なる音がした。獣が吠えるような、声帯を介した音だ。

 

揺れが収まり始めたのだが、三上も周囲も、まったく気がつかなかった。いま一度土砂が膨れ上がると、パッ、となにかが空に浮かんだ。

 

山の中から現れたソレが、宙に舞ったのだ。翼、というより、ムササビのように皮膜を広げ、そのまま風に乗ったような滑らかさで岩手山の真上まで来ると、ちょうど三上たちの頭上で旋回し、盛岡市はるか上空をかすめると北西の方角へと飛んで行った。

 

呆気にとられたように全員が上空を仰ぎっぱなしだった。そこでようやく、さきほどテレビで報じられていたロンドンと同じく、いまここ岩手に怪獣が出現したのだと認識できた。

 

だが不思議と恐怖心はなかった。高空へ舞ったことで小さく見えたこともあるが、それだけではない、不可思議な感覚だった。

 

「婆羅武(バラン)さまだあ」

 

ふいに、宿の老人が天を仰いだまま手を合わせ、飛び去った怪獣を拝みはじめた。

 

「バラン?」

 

三上は老人に向き直り、おうむ返しに訊いた。

 

「んでがんす。いがーどう、さっぎくっしゃべっでだ婆羅蛇魏さまな、オラほでは婆羅武さまって言うんでがんす」

 

空から目を離すことなく、老人は言った。

 

「バラン・・・」

 

まさか、この地に伝わる伝説の神が、本当に現れたということなのか・・・。三上は怪獣、バランが向かった北西の空を仰ぎ見た。うすうすと、夜が迫る空だった。

 

 

 

 

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