怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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ーChapter 19ー

・7月11日 17:51 鹿児島県鹿児島市平川町 鹿児島日赤病院

 

 

伊藤姉妹が病院から姿を消した、という連絡が檜山にもたらされたのは、管区海上保安部に戻りがけの車内であった。

 

昨夜あかつき号救助に当たった海保職員が全員集められたとのことで、伊藤姉妹はKGI損保の緑川に対応を任せ、17時過ぎに檜山は管区海上保安部へ戻ることとなった。ちょうどJOTツアーズの東野も関係者応対へ戻るとのことで、彼を同乗させ市内を経由して保安部へ向かう手筈を整えた。

 

市内へ向かう道中、隣席の東野が面白いことを話してきた。

 

伊藤姉妹の語るところによる、奄美に眠るとされる神について、奄美に癒し岩と称されるピーナッツ型の巨石がある、という話だった。

 

「実は私、オカルトや都市伝説の類が好きでして。檜山さんもご存知ですかね、よく『UTOPIA』を読むんですが、去年奄美の癒し岩に関する記事が印象に残っていたんですよ。伊藤様姉妹が話すことが本当だとすれば、あの癒し岩と何か関係あるんじゃないか、そう思ったものですから」

 

普段なら笑い飛ばす類の話だが、伊藤姉妹の表情を見ると、強い確信の元に話していることがうかがえたため、どうにも気になっていた。

 

東野を送り届けた後、運転手を務めている三島が車を発進させたタイミングで、緑川から連絡があったため、檜山は鹿児島海上保安部への聴取を管区の調査官に任せ、三島を伴って鹿児島日赤病院へと逆戻りすることにした。

 

焦る気持ち、はやる気持ちを抑えるように、檜山は後部座席で目を固く瞑った。ここまで安否が気になるのは、彼女たちが聴取対象であるからだけではないことは自覚していた。いまは理由があり離れて暮らしているが、檜山もまた、年頃の双子姉妹の父親でもあるのだ。

 

そんな檜山を察したのか、少しでも気が紛れるようにと三島はナビに付けられたテレビのスイッチを入れた。映し出されたNHKでは、災害時に表示される青L字のテロップに囲まれたアナウンサーが時折原稿に目を落としながら読み上げていた。

 

『ありがとうございました。安全保障会議が開催されている総理大臣官邸から、能條記者でした。お伝えしております通り、さきほど17:45頃、岩手県八幡平市の松尾八幡平付近より、ムササビのような巨大飛翔体が出現しました。これにより航空自衛隊三沢基地からF35が緊急発進、飛翔体への警戒に当たっています。なお、交通機関への影響も出ております。東北新幹線は八戸〜仙台での上下線で運行を停止。また三沢飛行場、岩手花巻空港、仙台空港を発着する便にも・・・・・』

 

檜山は目を開き、テレビを注視した。その視線は内容への感心ばかりではなく、次第に険しい顔になる檜山を見て、三島は気まずそうに首をすくめた。

 

車は日赤病院の玄関に到着した。檜山は車を降りると、受付前の待合室でどこかに電話をかけている緑川に歩み寄った。

 

「ごめん、また後で折り返す」

 

電話を切った緑川は、檜山に顔を向けた。

 

「伊藤姉妹は?」

 

檜山が訊くと、緑川は首を横に振った。

 

「5時過ぎに、夜勤看護師の回診で部屋に入ったときには、もぬけの殻だったみたいです。入院服から、洗濯したての窓が空いていたから、そこから抜け出したんじゃないかって」

 

この病院の救急病棟が1階にあることは、救急指定である以上やむを得ないのだが、檜山は病院の構造を呪った。

 

「防犯カメラの確認と、警察へは?」

 

「いま警備室で確認中です。警察への通報はしたみたいだけど・・・」

 

緑川が言い淀むのも理解できた。入院患者とはいえ身体は満足に動ける上、2人とも19歳。分別のある大人だ。緊急配備など敷かれるはずもないだろう。

 

檜山が戻ったということで、松田を始めとする病院関係者らも待合室にやってきた。担当看護師はしきりに「申し訳ありませんでした」と悲痛な顔で言った。

 

「どこか、彼女たちが行きそうな場所となると・・・」

 

檜山が言うと、緑川は目を逸らさずに答えた。

 

「これ、私の勘ですけど。もしかしたら奄美大島へ向かおうとしてるんじゃないかって」

 

「実は僕も、そう思っていたところだ」

 

緑川は部下からタブレットを受け取ると、鹿児島空港から奄美大島行きの時刻表、そして鹿児島港からのフェリー時刻表を開いて見せた。

 

「檜山さん、あなたを待ってる間に調べてました。彼女たちが話す内容の是非はともかく、行ってみる価値は充分あると思うんです」

 

檜山は頷いた。

 

「時間的に、鹿児島発18:30発のフェリーがもっとも直近です。奄美大島行きのフライトは19:20ですから、フェリーターミナルを探してからでも間に合います」

 

テキパキと話す緑川に、檜山は感心した。

 

「彼女たち、金は持っているのだろうか?」

 

そこで素朴な疑問を口にする檜山。

 

「あ、たしか、荷物の中にお財布はあったように思います」

 

と、それを受けて看護師が答えた。

 

「となれば・・・とにかくフェリーターミナルへまずは行ってみよう。三島、ここからフェリーターミナルまでどのくらいかかる?」

 

檜山は背後に立つ三島に顔を向け、訊いた。

 

「この時間だと、20分程度です」

 

すかさず、檜山は時計を確認した。間もなく18時になろうとしている。

 

「よし、急ごう。緑川さん、おたくの会社から誰か来て欲しいんだが」

 

「なら、私が」

 

そう宣言すると、緑川は目を丸くしている部下たちに短く指示を飛ばし、三島の車に乗り込んだ。三島は勢いに呑まれるように車を出した。

 

「本当にフェリーターミナルにいると思うか?」

 

走り出した車の中で、檜山は緑川に訊いた。

 

「確信はあるかと訊かれれば厳しいです。でも、空港よりは可能性は高いと思うんです。ここからフェリーターミナルまでは近いですが、鹿児島空港は1時間弱かかる距離です」

 

「そうだな。だがしかし、航路では半日かかる。飛行機なら1時間だ。そのあたりをどう捉えたか、他に金銭的問題もある」

 

とにかくいまは、フェリーターミナルへ行ってみるしかなさそうだ。信号機にひっかかる度に、檜山も緑川も苛立った。夕闇が広がりつつある鹿児島市内はちょうど退勤ラッシュの時間であり、余計に気を揉んでしまう。

 

それでも、出航のちょうど10分前にはターミナルに到着した。三島にはひとまず駐車場へ車を入れるように伝えると、檜山は緑川を伴ってターミナルへ走り込んだ。鹿児島フェリーターミナルはそれほど大きくはなく、地方都市の鉄道駅といった趣きだったが、それでも急ぎ、乗船手続きへと向かった。

 

檜山は身分証を出した。個人情報保護の観点から、関係者以外にはフェリーの乗客に関する情報は伝えられないはずだが、公僕であることを証明すれば、どうにかなるはずだ。

 

だがその懸念は杞憂に終わった。乗船手続きのカウンターで、係員に何かを訊かれ困惑する伊藤姉妹がいたのだ。

 

「君たち」

 

語気鋭く、檜山は駆け寄った。檜山と緑川に気づいた2人はこわばった顔を柔らかくした。

 

「あんた、こんボンさん方の保護者じゃっとな?」

 

受付している年配の男性が、鹿児島の言葉そのままで苛立ち気味に訊いてきた。檜山が身分証を見せると、「あ、こや失礼しもした」と態度を改めた。

 

「この2人が何か?」

 

「いやあ、乗船券なしで乗船しようとしたもして、券買うように案内したらば、要領得なくて」

 

「君たち、お金もなしに乗船しようとしたのか?」

 

檜山が訊くと、ミラと名乗るまさみの方が「お金・・・」と、財布を見せてきた。

 

「なんだ、2千円も入ってないじゃないか。これでは船には乗れないぞ」

 

「でも、この船に乗って、いかないと、バトラ、果てしなく暴れる」

 

「モスラ蘇らせるの、わたしたちの役目」

 

2人がかりで懇願するような目を向けてくる。檜山は顔をしかめ、ため息をついた。困惑と同時に、どこか懐かしく嬉しそうな表情を見せ、緑川は怪訝に感じた。

 

「バトラやらモスラやらよくわからんが、君たちは病院へ戻る必要がある。さ、行こう」

 

檜山は子どもを宥めすかすように言った。だが姉妹は一度顔を見合わせると、再びそれぞれ檜山に目で訴えてきた。

 

「お願い。世界、滅んでしまう」

 

「モスラがいないと、バトラ、ダガーラにも、キングギドラにも勝てない」

 

よくわからない単語を言われても、と檜山はめんどくさそうに眉を顰めたが、あまりにも真剣な姉妹の表情に、コクリと頷いた。

 

「すまないが、一等船室に空きは?和室があったはずだが」

 

檜山は受付の男性に訊いた。

 

「は?はあ、ありもうすが、乗船で?」

 

「では4名。奄美大島の名瀬港まで」

 

受付の職員は戸惑い気味にそれぞれを見たが、檜山は黙って一万円札を数枚出した。乗船券を持つと、そのまま乗船口から船へと向かった。

 

「「ありがとう」」

 

2人は微笑みながら、檜山に礼を言った。照れたのか、檜山は顔を天井に向けた。

 

「緑川さん、巻き込むわけにはいかない。ここで戻ってもらって大丈夫」

 

「いいえ。私も行きます。お2人は大切な顧客ですし。それに・・・・変な話、女の勘みたいなもので、2人が話す内容はともかく、嘘だとは思えないんです」

 

「実は僕もだ。それに、2人にねだられるのが、どうにも弱くて」

 

若干はにかみながら、檜山は答えた。4人は船内の一等船室へ入ると、とにかく腰を落ち着けた。

 

「ああ。僕はしばらくしたら二等船室行くよ。ここは君たちが休めば良い。それにしても、君たちが奄美へ行きたがるのはわかるが、どうしてフェリーにしたんだ?飛行機なら、今日のうちに現地へ着くんだぞ」

 

檜山が訊くと、姉妹は頷き合い、まさみの方が答えた。

 

「飛行機、飛ばない。飛べなくなるから」

 

「どうして?」

 

「もうすぐ炎の獣が目覚める。そうなると、飛行機は飛べない」

 

「それだけじゃない。私たち、看護、してくれたあそこ、もうすぐ死の土地になってしまう」

 

「ええ??」

 

檜山は緑川を見やった。突拍子のない話だが、姉妹はヨーロッパで怪獣が目覚めることを既に言い当てていた。まったく信憑性のない話ではなさそうだ。

 

「死の土地になるって、どういうこと?」

 

緑川が訊くと、リラと名乗るちひろは黙って窓の外を差した。フェリーはすでに出航し、錦江湾中央付近に達しているが、窓の外には雄大な桜島が広がっている。

 

「飛行機が飛べなくなると言ったな。それは、まさか・・・!」

 

檜山が言おうとしたとき、桜島が小刻みに揺れ出したように見えた。山の左右、中腹と複数の箇所から、きのこの如き噴煙が上がり始めた。

 

 

 

 

 

 

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