怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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ーChapter 24ー

・7月11日 7:00 カナダ連邦 ブリティッシュコロンビア州バンクーバー市 ウォーターフロント駅

※日本より16時間遅れていることに留意

 

 

深い霧に覆われた昨夜から一転、バンクーバーは絵に描いたような青空に覆われていた。

 

昨夜行われたパーティの疲れは残っているが、鈴木陽子は留学先であるヘレフォード大学へ向かうべく、駅のホームがある地下から地上へ続く階段を昇った。

 

突き抜けるような青空に、陽子は思わず顔をほころばせた。スマホを取り、空とビル群を撮影する。この陽気なら、バンクーバー湾の景色も素晴らしそうだと思い、パンパシフィックホテル脇にあるバンクーバー五輪モニュメントに向かった。

 

思った通りだった。バンクーバー湾をはさんで対岸のノースバンクーバーまで、ハッキリとよく見える。穏やかな水面と空を写真に収め、早速インスタグラムにアップした。日本にいる友人たちも見てくれているだろうか。

 

「ちょっと、お金恵んで」

 

背後から声をかけられた。自分と大して年齢が変わらないと思われる、金髪の女性が虚ろな目を向けていた。

 

「持ってない、ごめんね」

 

早口で言うと、陽子はスマホを仕舞った。この付近によくたむろしている、ホームレスだった。

 

最初は自分と変わらぬ歳でホームレスになっている彼女たちを不憫に思い、1ドル程度だがお金を恵んでいたが、ホームレスたちはそのお金で薬物を買っているという事実を知ると、適当にあしらってその場を去ることにしていた。

 

「あんた日本人でしょう?お金持ってないわけないじゃん」

 

その女性が食い下がってきた。たいていは一言ふた言で済むのだが、よく見るとさして暑くもないのに汗をかいており、それでいてガタガタと震えている。それにレザーのジャケットは明らかに季節を違えている。

 

「ごめんなさい、本当にないの」

 

足早に去る陽子に、ホームレスは放送禁止用語を叫んできた。聞こえないフリをして横断歩道を渡ると、バンクーバーのダウンタウンへ向かう。

 

去年、カナダでは大麻の使用が合法化されて以来、あの手のホームレスは増える一方な気がする。去年から留学している陽子だが、誘われるいろいろなパーティでは前にも増して大麻を嗜む人が多い(実際は非合法時代から変わらない、とバイト先の先輩は話していたが)。

 

留学生である日本人の多くは「合法だから」「断ると気まずい」との理由で大麻をよく吸っているが、陽子は断固として吸わなかった。

 

せっかく気分良く写真撮ったのになあ、と不貞腐れもしたが、気を取り直してダウンタウンのにある日本人向けのお店「こんびにや」へ向かうことにした。今日はあそこでおにぎりでも買って、学内で食べることにしよう。

 

ふいにサイレンが鳴った。どこかで火事なのだろうか。周囲の人々も、突然の音に驚いたようで、辺りをキョロキョロしている。

 

交差点を渡りきると、ちょうどイタリア料理店でテレビが流れていて、何人かが不安そうな、あるいは困惑した顔でテレビを見ている。

 

カナダのクレーバー首相が何かをしゃべっている。かなり深刻そうな顔だ。

 

突然、大地が揺れ、轟音が陽子の耳を叩いた。驚いてしゃがみこんだ。周りの人々は悲鳴を上げて、轟音が響いた先を見ている。

 

顔を上げると、青い空に黒煙が立ち込めていた。ノースバンクーバーの方角だ。そして地響きは鳴り止まず、なにかが壊れるような音もする。

 

ウォーターフロントの方から、大勢の人が走ってきた。車も混乱しながら、何台かは信号を無視して曲がろうと交差点に進入していた車に激突していた。迷走する車に轢かれてしまう人もいて、陽子は目を覆った。

 

地響きが強くなり、灰色の煙が舞い上がっている。陽子は似たような光景を見たことがあった。

 

そうだ、去年留学する直前。首都圏に発生した大規模な停電で大学が休校となり仙台の自宅で暇を持て余していたときだ。

 

教科書でしか聞いたことのない怪獣、ゴジラが、汐留でガイガンという怪獣と争っている様子を、YouTubeで配信しているジャーナリストがいた。思わず見入ったその映像に似通っていた。爆発的に広がる土煙に、絶え間のない轟音。

 

あれ以来、「KAIJUU」は世界共通語となった。そして、いま海辺から逃げてくる人々は、その「怪獣」という単語を口にしている。

 

水飛沫が雨のように降ってきた。陽子は走り出したが、道路いっぱいに人と車が溢れ、思うように走ることができない。気持ちばかり焦るのは皆同じだったようで、転倒する人が続出、助け起こそうにも人の波に押され、より混乱する結果を招いていた。

 

背後を向くと、土煙に混じって、赤い煙も見えた。そしてその煙は、次第にこちらへ迫ってくる。

 

フェアモントホテルの交差点まで逃れたとき、一層の轟音が地を揺らした。パンパシフィックホテルが崩壊し、瓦礫とコンクリートの土煙から姿を現した怪獣は、龍のような、あるいは猛犬のような、険しい顔をした四足歩行の生物だった。

 

首と肩の辺りから赤い煙を噴き出しつつ、ウォーターフロント駅を突き崩すとこちらへ向かってきた。

 

陽子は思わず足を止めた。赤い煙に巻き込まれた辺りで、人々が大勢倒れていた。皆、苦しそうに首を押さえ、助けを求めるように手を伸ばしながら這いつくばっている。

 

頭の中が真っ白になり、陽子は走り出した。先ほどのホームレスが隣を走っていて、彼女が赤い煙に包まれた。

 

ヒュ、と短く悲鳴を上げ、ホームレスは倒れた。

 

突然、喉と気道が締め付けられるように痛み出した。たまらず陽子はその場に膝をついた。自分の前を走る人々がバタバタと倒れていくのがわかったが、そのあと視界が狭まり、やがて真っ赤になったところで、陽子はその意識を永遠に失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

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