怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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―Chapter 25-

・7月11日 8:34 アメリカ合衆国コロラド州コロラドスプリングス 北米防空司令部(NORAD)

※日本より15時間遅れていることに留意。

 

 

「カナダ空軍太平洋司令部より報告。バンクーバーに出現した怪獣は市内を南北に横断し、現在市内キツラノ付近に達した模様」

 

「カナダ空軍のF16、怪獣要撃のため出撃するも、市街地において市民の避難が間に合わず、攻撃不可能」

 

続々と悪いニュースが入ってくる。ギャリスン大佐は眉間をつまんだが、さらにもたらされた情報には愕然とした。

 

「報告は確かか?」

 

情報担当副官に、鋭い目付で尋ねた。

 

「間違いありません。バンクーバー市内で、多数の市民が犠牲になっています。怪獣の移動に伴う建造物倒壊ではなく、怪獣の胸部器官より発せられる未知の気体によって市内中心部は汚染され、大気を吸い込んだ市民はおろか、救援に駆け付けた消防や警察にも多数の犠牲者が出ています」

 

ギャリスンは顔が強張った。怪獣が北米に出現することは初めてな上、報告の通りだとすれば、致死性のガスを噴出しながら怪獣は移動しているということだ。

 

「バンクーバー中心部との連絡が途絶えました。怪獣が発する赤い気体は市内各所に広がり、収束の見通しは立っていません」

 

軽く眩暈がした。状況から推測すると、事実上バンクーバーのダウンタウンは壊滅したということだ。それも怪獣による物理的な破壊だけではなく、未知の気体によって人命が奪われる事態に陥っているとは・・・。

 

怪獣が再度飛び立つ前に、空爆を敢行すべきではあるが、大勢の市民が避難もできていないのでは、それも不可能だ。

 

極めて不謹慎だが、ギャリスンは民主主義国家を呪った。

 

「それと、さきほどアラスカ州知事から情報提供があったというが?」

 

ギャリスンは副官に尋ねた。

 

「はっ。アラスカに住む複数のネイティブ(先住民)指導者たちから指摘があり、彼らに古くから伝わる伝説の魔獣に酷似している、とか・・・」

 

「この際おとぎ話でもなんでもいい。それはどのような存在なのか、話してみたまえ」

 

副官はグッと息を呑んだ。

 

「伝承によれば、バンクーバーに飛来した怪獣はダガーラ。ひとたび現れると死の赤い霧を放ち、人も獣もすべて死においやる。そのように伝わっていると・・・」

 

いつもであれば、バカバカしいと一笑に付すところだが、そのおとぎ話がいま、現実に起きているのだ。しかも去年、日本では立て続けに怪獣が出現した。いずれ合衆国に及ぶと思われた脅威に備え、アメリカは軍備と警戒を強化していたが、敵は想定を上回る存在だったのだ。

 

忸怩たる念を振り切るように、ギャリスンは頭を振った。

 

「現在、アメリカ・カナダ国境において、両国の陸軍が迎撃態勢を整えております」

 

現実的な軍事展開だ、そう思った。このままだと、カナダ一国で怪獣を攻撃することなど不可能だ。アメリカ国境まで、人口密集地が続くのだ。

 

政治は絶対に認めぬだろうが、事実上見捨てられたに等しいバンクーバー及びアメリカ国境までに住むカナダ国民に、ギャリスンは十字を切った。無力である自分たちに許しを乞うた。神に祈ったのは何年ぶりだろうか。

 

再び、防空警報が鳴った。

 

「バンクーバー市に、新たな飛行体が接近中、バンクーバー島東部からまっすぐ向かってきます!」

 

「フェアチャイルド基地より、迎撃のためF16飛行隊発進準備」

 

 

 

 

 

・同時刻 カナダ連邦 ブリティッシュコロンビア州リッチモンド バンクーバー国際空港

※日本より16時間遅れていることに留意。

 

 

尾形がアンカレッジからの航空便でバンクーバー空港に到着したとき、ちょうど防空警報が市内に響いた。

 

とりあえず荷物を受け取り、今後の動きをどうするか確認を取るべく、随行の外務省職員が在バンクーバー日本領事館へ電話をかけたが、まったく繋がらない。

 

やがてバンクーバーに怪獣が出現したことが判明し、空港内はパニックに陥った。市内へ向かうスカイトレインは運行を停止し、道路は避難しようと飛び出した人々により、あっという間に大渋滞となった。

 

怪獣はまっすぐ、バンクーバー南部に位置するこちらへ向かっていると判明し、大勢が右往左往する中、尾形たち一行はとにかく空港に留まることにした。こういうときは、地下に逃れるのがもっとも安全だと、かつて4度に渡る怪獣出現の教訓は教えている。

 

やがてバンクーバー空港にも、怪獣が接近する微動が地面を揺らし始めた。滑走路の向こうには、黒煙とコンクリート片、そして不可思議な赤い煙が巻き上がるのが確認できた。

 

「とにかく落ち着いて。もう少ししたら、地下へ逃れましょう。地下二階程度であれば、真上を歩行しない限り生存率は飛躍的に高まるはずです」

 

尾形の説明に、随行の職員たちは頷いた。とはいえ、今回現れたのは未知の怪獣だ。どれくらいの大きさと重量を誇るのか、まったくわからない。地下ならいくらかマシ、その程度に考えていた方が良さそうだ。

 

テレビに映し出された怪獣を見てハッとした。昨夜アンカレッジで出会ったエスキモーの酋長が見せてくれた、ダガーラという伝説の魔獣によく似ていた。

 

尾形は覚悟を決めた。もはや家業となったゴジラ研究を途上で投げ出すことになるかもしれぬことを、祖父である山根恭平博士に詫びた。

 

1階ロビーの向こうに見えるビル群が崩れ去り、さきほどテレビに映った怪獣、ダガーラが赤い煙を纏いながら姿を見せた。

 

「目視のみの計算だが、ビルと比較して体高は50メートル程度。かつてのゴジラと同じ大きさか」

 

こんなときに何を、という目で、職員たちは尾形を見た。

 

上空では、戦闘機があわただしく飛び交い始めた。まさか、空爆を始めるのだろうか。

 

ロビーのガラス越しに上空を仰いでいた尾形はしかし、戦闘機とは異なる黒い点が上空から迫ってくるのが見えた。黒い点は次第に大きくなり、空港上空を滑空し始めた。

 

重低音の咆哮が、尾形たちの耳にも入った。空港に別な怪獣が現れたのだ。

 

戦闘機が放ったミサイルが何発か命中したようだが、意に介さぬ様子で大きく身体を拡げた。まるで大の字のように翼、というより腕から腹部にかけて伸びる被膜を用い、速度を落としてダガーラに一直線に向かっていった。

 

接近してくる怪獣に気が付いたダガーラだったが、向けた顔を強かに打たれた。舞い降りた怪獣の前脚が直撃したのだ。

 

「まるで、ムササビのようだ」

 

職員がつぶやき、尾形は頷いた。身体こそダガーラに匹敵する大きさだが、飛行形態からして、ムササビにそっくりだった。

 

身を起こしたダガーラは突進し、ムササビの怪獣に頭突きした。重量はダガーラの方が勝るのか、ムササビの怪獣は大きく後ずさり、数棟のアパートメントが犠牲になった。

 

ムササビの怪獣は大きく吼え、負けじと頭突きをした。やはりダガーラより軽いようで、ダガーラはビクともしない。

 

だが次の瞬間、鮮血が舞った。ダガーラの肩口に噛みついたのだ。

 

ダガーラは苦しそうに吼え、どうにかムササビの怪獣を引き剥がそうとした。猛追に一度は口を放したムササビの怪獣だったが、今度はもう片方、左側の肩口に噛みついた。

 

ダガーラは前脚を踏ん張り、ムササビ怪獣の首に牙を当てたが、血が吹き出ない。前脚でひっかいても、まったく通用していない様子だった。

 

「あのムササビ怪獣、皮膚が頑強なのか」

 

そう感心する尾形は、完全に生物学者の顔をしていた。早く避難を、そう目で訴える職員にも気がつかないようだった。

 

ダガーラの肩口を前脚の爪でえぐり、さらに出血しながらダガーラは横倒しになった。そこへ猛然と迫るムササビ怪獣。

 

だが、出血する肩口からダガーラは赤い煙を放出した。ムササビ怪獣はのけ反り、苦しそうにのたうち回った。

 

口を閉じて嗤うと、ダガーラは近寄って前脚で蹴り上げた。仰向けになったムササビ怪獣を踏みつけ、顔面に赤い煙を吹き付ける。

 

ムササビ怪獣は悲鳴を上げた。振るう爪も届かず、ダガーラの出す赤い煙に対抗できない。

 

ダガーラは力を込めて前脚を振り上げた。ムササビ怪獣の顔が滑走路にめり込んで、空港ロビーのガラスが派手に割れた。思わず怪獣同士の対決に見入っていた人々は思い出したように悲鳴を上げ、降りかかるガラスから逃れた。

 

踏みつけられていた怪獣が顔を上げ、口いっぱいに加えた滑走路の破片をダガーラの顔面に吐きつけた。それに怯んだスキに身体を転がし、両腕をはばたかせた。ダガーラを怯ませるばかりでなく、吐き出された赤い煙が風に舞って薄れた。

 

ムササビ怪獣は後ろ脚を軸にして立ち上がり、二足歩行のような体型になった。気合いを入れるかの如くひと吼えすると、再度傷口を狙って飛び込んだ。

 

すんでのところで、ダガーラは飛び上がった。目標が外れ、スカイトレインの高架橋に突っ込むムササビ怪獣に、ダガーラは上空から襲い掛かった。

 

全身を使ってムササビ怪獣にのしかかり、圧し潰そうとする。ムササビ怪獣は口から血を溢れさせ、威嚇のための咆哮もかすれてしまっている。

 

二度、三度と飛び上がっては圧し潰すことを繰り返すと、ムササビ怪獣は動かなくなってしまった。

 

ダガーラは勝利の咆哮を上げ、再び翼を拡げた。だがムササビ怪獣は力を振り絞るように顔を起こし、ダガーラの後ろ脚に噛みついた。

 

驚くダガーラだが、血を吐きながらも脚にかじりついたまま、放そうとしない。グイグイと歯が食い込み、血が流れる。

 

そのとき、ダガーラをふた筋の紫色の光線が襲った。ロケット花火が炸裂したように火花が飛び散り、その衝撃でムササビ怪獣は落下、空港ビルを挟んだフェアモントバンクーバーエアポートホテルに突っ込んだ。

 

大轟音と共に空港ロビーが揺れ、ドアが吹き飛んで土煙が飛び込んできた。ロビーにいる全員がしゃがみ、頭を覆った。尾形にも小石程度の瓦礫がいくつか当たった。

 

顔を上げると、空港上空に黒い蛾のような怪獣が鎮座していた。凶悪な顔をして睨みつけるダガーラに、目から紫色の光線を放つ。白煙が弾け、ダガーラは翼を羽ばたかせて身を翻した。黒い蛾の怪獣は同じように羽根をなびかせ、ダガーラを追って飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

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