怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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ーChapter 26ー

・7月11日 8:12 カナダ連邦 ブリティッシュコロンビア州リッチモンド

バンクーバー国際空港

※日本より16時間遅れていることに留意。

 

 

「バラン?あのムササビ型の怪獣はバランというのですか?」

 

フェアモントホテル倒壊に伴う瓦礫と粉塵の飛散によりターミナル内は危険とのことで、尾形たち一行を含めた利用客らは空港外にあるエアカナダの格納庫へ誘導された。

 

ダガーラの襲撃でバンクーバー及び周辺都市圏は大混乱に陥っており、尾形らを誘導した警官によれば「夕方までにはどこか避難場所へと移動の算段がつくと思う、早ければ」とのことだった。尾形らは2、3日は覚悟することとし、それでも外務省の職員は避難・移動の手段を模索していた。

 

そんな中、尾形の携帯に京都にいる剱崎から電話が入ったのだ。

 

『ええ。うちの学生によると、岩手県の民話に出てくる山の神と、今回岩手から出現しカナダへ飛来した怪獣は同じものではないか、伝承に則りバランと名付けよう。そんなツイートがあったようでしてねぇ。こっちではその「バラン」という単語がトレンド入りしていますよ』

 

「バラン・・・」

 

『まあ、ご無事で何より。そちらでは、怪獣コンベンションどころではないでしょうなあ』

 

尾形は唇を噛んだ。ここバンクーバーにて本日開催予定だった国連怪獣対策会議、通称怪獣コンベンションは、とても開催の目処が立つ状況ではなかった。早くからバンクーバー入りしていた動物学や危機管理学の専門家の安否を考えると、暗澹たる思いになった。

 

「剱崎先生、バランに関してはわかりました。で、アムステルダムとロンドンを襲い、ダガーラと争っている黒い蛾の怪獣について、どう思われますか?」

 

『どう思われる、って・・・』

 

電話の向こうで、剱崎が苦笑いの声を上げた。

 

『尾形先生、蝶や蛾といったものは昆虫学でも趣の異なった分野でしてねえ、私としても専門外なのですよ。まして、怪獣ともなればむしろ尾形先生が得意とされる分野なのではありませんかな』

 

「愚問でしたか。失礼しました」

 

『ひとつだけお答えしましょう。蝶・蛾といった昆虫網チョウ目は、いかなる進化を経て巨大化したとしても、目からレーザーのような光線を発射することは生物学的に考えられない。ゴジラやガイガン、巷でいわれるギドラなる黄金龍といった例外はありますがね。となれば、進化の帰結として、あるいは必要に迫られた結果、あのような攻撃能力を持つに至ったと考えれば、どうでしょう。そしてあの能力は、誰に向けられたものなのかも大いに気になる』

 

そう言われ、尾形は考え込んだ。

 

「もしや、今回出現したダガーラや、バランといった存在を想定したものでは?」

 

『いかがでしょうかな。本人に訊いてみる他なさそうですが』

 

フフ、と電話越しに剱崎は笑った。

 

「わかりました。そちらは夜ですよね?遅い時間にありがとうございました」

 

『いえいえなんの。こっちではもう誰もかれも夜更かしですよ。桜島が噴火したせいで、南九州が壊滅する騒ぎです。去年の件以来、みなヒステリックになり過ぎな気もしますがね』

 

そう言って電話は切れた。相変わらず精神がどこにあるか判然としない男だが、普段から常識外れなところは、怪獣という謎多き生態の解明に役に立つ部分もある。

 

尾形は格納庫の向こう、幾筋か黒煙が立ち込めるフェアモントホテルを仰いだ。落下した怪獣バランは瓦礫の中、動くことはなくなっている。軍の到着は時間がかかっているようで、空港警察がありったけのパトカーやバリケードで崩壊したホテルを包囲し、心許なくも拳銃や機関銃をいつでも発砲できるようにバランに向けている。興味本位で近寄ろうとする避難者たちを必死に押し返している様子も見て取れる。

 

外務省の職員から、アメリカ・カナダ両政府より北米全域に民間航空機の全面運行停止が通告され、少なくとも旅客便を利用して移動、はたまた日本への帰国は当分絶望的になったと説明を受けた。

 

致し方なかろう。格納庫にあるテレビでは、911同時多発テロ事件以来の北米本土攻撃と評する危機管理学の教授に、戦慄する米加国民の様子、そしてホワイトハウススポークスマンの談話が放映されている。

 

そこへ何かが大きく引きずられるような音がした。皆が音の方へ頭を向けると、瓦礫が崩れ転がり、バランが身を起こした。

 

「離れろー!!!」

 

バランを包囲しつつ、野次馬を侵入させまいとしていた警官隊が怒鳴ると同時に、野次馬たちは手にしていたスマホを放り投げ、悲鳴を上げて一目散に駆け出した。

 

頭を起こし、バランは吼えた。まさか通用するとは思わずとも、警官隊は拳銃や機関銃の一斉射撃を始めた。

 

案の定、鉄板に小石が当たるような音がむなしく響くばかり。その音も、さらなるバランの咆哮にかき消された。瓦礫を振り払い、被膜を拡げると羽ばたき始めた。

 

バランを囲んでいたパトカーが横転し、滑走路をのたうち回る警官たちは暴風に身体が浮いた。徐々に高度を稼いでいくと、バランは空港を半周すると南へ向けて飛び去っていった。

 

「あの方向、まさかダガーラと黒い蛾を追っているのか?」

 

暴風に身を隠しながら、尾形はつぶやいた。

 

風が落ち着き、随行の政府関係者たちが方々へ電話を始めたとき、テレビの前に群がる人たちが色めき立ち始めた。

 

『テレビをご覧のみなさん、これはドラマでも、映画でもありません。信じられないかもしれませんが、現実の映像です。今朝、バンクーバーに出現した怪獣、通称ダガーラと、ヨーロッパを襲った蛾の怪獣がワシントン州上空に達し、ついさきほど、ダガーラがシアトルに落下したとのことです。シアトル中心部で、複数のビルが倒壊した上、多くの市民が巻き込まれた模様です。また東部時間11:07、オヘア大統領より、911テロ以来となる米国全土への非常事態が宣言されました。関連してこれより、オヘア大統領による記者会見が行われます』

 

 

 

 

 

・同時刻 アメリカ合衆国ワシントン州シアトル 6thアベニュー ベルタウン

 

 

シアトルのランドマークである、高さ184メートルの鉄塔スペースニードルを巻き込んだダガーラは、アマゾン本社群が並ぶシアトルのダウンタウンに激しく滑り込みながら落下した。

 

緊急事態の宣言は発せられていたとはいえ、大勢のシアトル市民は状況を把握するのが精いっぱい、あるいはどこにどう避難すれば良いのかわからず右往左往しているうちに、空から落下してきたダガーラに驚愕して慌てて走り始める有様だった。

 

アマゾン・コーラルオフィスをなぎ倒しながら四足で立ち上がると、上空から滑空してくる仇敵に威嚇の咆哮を上げた。

 

口を閉じたダガーラは、さきほどバランに傷つけられた肩口から赤い煙を放った。すぐさま周囲は赤く包まれ、逃げ惑っている多くの人が喉をかきむしりながら地に倒れた。

 

さらに、横に広げた翼の左右からも赤い煙が発せられ、自身の巨体を隠すのに充分な量が広がった。

 

高い濃度の赤い空気で姿が見えなくなり、一瞬たじろいだが、気配で察知すると急降下しながら紫色の光線を放った。

 

だが光線は赤い煙に吸い込まれたのみで、効果のほどが確認できない。大地を震わせ、進行上のビルを叩き壊しながら、ダガーラはダウンタウンの高層ビル群すれすれに迫った仇敵に赤い煙を浴びせた。

 

急降下から急上昇に伴う衝撃波により、竜巻のような旋風が巻き起こった。

 

不敵に嗤うダガーラはアマゾン・ドリッパーオフィス、ワシントン州議事堂をなぎ倒し、片側5車線の巨大幹線であるフリーウェイ5号線の起点となるフリーウェイ公園に達した。

 

そのとき、上空に迫る気配を察知し、歯ぎしりしながら南西の方角を睨んだ。

 

F/A18戦闘機の5機編隊が隊列を組んだまま、エリオット湾から接近してきた。市街地でも比較的障害物がなく狙いのつけやすいフリーウェイに足を踏み入れた機運を逃さず、地対空ミサイルを発射した。

 

ダガーラは赤い煙を噴き出した。接近するミサイルは赤い煙の壁に吸い込まれていった。高出力の噴射口から火が消え、推進力を失ったミサイルは力なくダガーラの表皮に衝突した。弾頭はつぶれ、炸裂することなく地面に落下した。

 

手応えがなかったことを察知した戦闘機隊はダウンタウン上空を旋回すると、いま一度地対空ミサイルを発射した。

 

結果は同じだった。ダガーラに命中こそするものの、どういうことか爆発しないのだ。

 

戦闘機隊の隊長は近接航空支援を要請すると、弾倉に搭載した無誘導爆弾での爆撃をはかるべく高度を上げさせた。

 

けたたましく警告音が鳴った。レーダーが自機に接近する飛行物体を探知したのだ。

 

急に日差しが失われた。慌てて左を向くと、食いしばった歯を見せて嗤うダガーラの顔がすぐ近くに迫っていた。

 

隊長機が爆散し、残り4機は離脱をすべく旋回したが、不幸にもそのうち1機はふいに接近したダガーラに激突、空の藻屑となってしまった。

 

逃れようとする戦闘機をダガーラは許さなかった。アフターバーナーを点火して速度を上げたが、それ以上の速さで迫り、頭突きで葬り去った。

 

パニックに陥った1機は眼前のダガーラに機銃を浴びせたが、なびかせた翼に粉砕された。

 

最後の1機は必死になってその場を離脱しようとしていた。だがレーダーには、脅威的な速さで迫る存在を探知していた。

 

パイロットが心の中で妻と母を思い浮かべたとき、背後で激しい音がした。やや進んでから後方を確認すると、ムササビ型の怪獣がダガーラに両手の爪を食い込ませ、組み合ったまま空の彼方に消えていった。

 

後を追うように、上空から黒い蛾の怪獣が迫った。3匹はアッという間に見えなくなった。

 

どうにか命が助かったことに安堵しながら、怪獣たちが向かったのは東の方角であることを思い出した。

 

パイロットは無線で警告を発した。あのまま西・・・太平洋に逃れてほしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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