怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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ーChapter 27ー

・7月11日 13:17 アメリカ合衆国ワシントンDC ペンシルバニアアベニュー

ホワイトハウス地下1階 大統領補佐官執務室

※日本より13時間遅れていることに留意。

 

 

地上1階のプレスルームで大統領が米国本土に怪獣が出現したことによる記者会見を開いている中、国家安全保障問題担当大統領補佐官のアンドリュー・タイスはただでさえ強面の顔面をさらに強張らせていた。

 

緊張感と威厳をふりまく補佐官に、副官や顧問たちは脂汗を浮かべた。

 

「トニー、いま一度説明願おう。ダガーラに攻撃が当たらなかったり通用しなかったのではなく、攻撃が機能しなかったのだな?」

 

タイスに問われた軍事担当副官は、蛇に睨まれたカエルのような顔をした。

 

「はい。レーダーでは間違いなく着弾を確認したのですが、爆発が起こらず仕舞いだと・・・」

 

ギョロリと睨まれて萎縮した副官を助けるかの如く、受話器を置いた情報担当の副官が席を立った。

 

「タイス補佐官、カナダ科学アカデミー及び、我が国の感染症対策局から報告がありました。ミサイルが機能しなかった理由に関してです」

 

「話してみたまえ」

 

強烈な視線が自分に向けられ、副官は思わず二の句が告げなかった。

 

「ダガーラが発する赤い霧ですが、結論から申し上げれば、毒物でも感染症を引き起こす微生物の集合体でもありません。ただ単に・・・その・・・未知の大気であると」

 

言い淀む副官だったが、続きを促すようにタイスは首を縦に振った。

 

「ええと、つまり、ダガーラは酸素とも窒素とも異なる大気組成を吐き出しているそうです。現にバンクーバーでもシアトルでも、赤い霧の犠牲になった人々の死因は窒息死、あるいは低酸素症であることが判明しました。また、あれだけの破壊活動にも関わらず、赤い霧の漂うエリアでは火災が一切確認できません。これはカナダ科学アカデミーの出した仮説ですが、酸素を奪うあの霧によって火が燃える事象に至らず、我が軍の攻撃も通用しなかった、というか、肝心の弾頭着火が起こらなかったのではないかと」

 

「では、ダガーラに有効な兵器は皆無ということかね?」

 

恐ろしい事実に慄く様子もなく、タイスは訊いた。

 

「そ、それはなんとも・・・」

 

「タイス補佐官、陸軍に確認はしますが、爆発による目標破壊ではなく貫通を骨子とした徹甲弾、はたまた、日本と共同開発したゴジラ攻撃用のフルメタルミサイルであれば、活路は見出せると考えます」

 

軍事顧問が傍から口を挟んだ。

 

「では直ちに軍の方で検証をしてくれ」

 

軍事顧問が頷くと、タイスは再び情報担当副官に視線を投げ掛けた。

 

「ダガーラが出す大気とは、どの程度の脅威なのかね?」

 

副官はメールに添付された資料に目を落とした。

 

「幸いなことに、当初想定された感染症や有害汚染物ではないこと、及び風などによる空気の攪拌で霧が薄まることは確認されました。問題は・・・ダガーラは、あの霧をどれほどの量吐き出せるのか、そして吐き出す場所によっては、深刻な脅威となり得ること、だそうです。もしバンクーバーやシアトルのように大都市で吐き出された場合もですが、たとえばジェット気流が起こる上空などで吐かれ続けた場合、地球そのものの大気組成への影響は大いに懸念される、と・・・」

 

副官は一度、タイスの顔を窺った。

 

「それと、アラスカのネイティブに伝わる伝承に、あの赤い霧のヒントがあるそうでして。なんでも、ベーレムの霧といって、ダガーラは果てしなく件の赤い霧を吐き出すことで、文明を崩壊させた、とか」

 

「おとぎの世界は夜、ベッドで子どもに話してあげたまえ」

 

タイスは副官を一瞥すると、ひっきりなしに報告が舞い込むマータフ内政問題担当補佐官に歩み寄った。

 

「被害の方はどのような程度かね?」

 

大統領補佐官の中でも、国家安全保障問題担当と内政問題担当のそれはとりわけ修羅場を潜り抜けた威厳を保っている。巨漢のマータフはアラスカのヒグマの如くどっしりと鎮座したまま、タイスの問いに答えた。

 

「シアトルでは建造物の破壊に加え、ダガーラの発した霧による犠牲者数が深刻だ。現地当局によれば、ダウンタウンに居た少なくとも3万から4万の市民が窒息死したという推計を弾き出した。最初にダガーラが現れたバンクーバーでは、その倍以上と報告されている」

 

さらに深刻なのは、とマータフは人差し指を立てた。

 

「ダガーラがシアトルの心臓部を破壊したことの意味を考えることだ。アマゾン、マイクロソフト、スターバックス、コストコ、ボーイングといった我が国の企業本拠地が集まるのがシアトルだ。既に各社の株価は暴落の兆しを見せている上、3か月の短期的経済指標に照らし合わせた場合、商務省の試算では3千億ドルの損害と弾き出した。これがさらに1年、2年と積み重ねた場合・・・言うまでもあるまい?」

 

マータフは頭を振り、タイスはしかめ面を手で覆った。

 

「トニー、ダガーラと、他の怪獣たちの動向は?」

 

「はあ・・・2分前に、ダガーラと2匹の怪獣が三つ巴のように取っ組みあったまま、モンタナ州のロッキー山脈内に落下したとのことです。現在、空軍が続々と編隊を向かわせてますが・・・」

 

「また空へ飛び出したら、意味もあるまい」

 

タイスは壁を向いた。自分たち大統領補佐官はあくまで情報の収集と分析であり、そこを踏まえた結果とその先の行動決定は大統領の領分だ。

 

現時点で、合衆国にとって好材料はひとつもない。保有する兵器ではダガーラに歯が立たず、徹甲弾攻撃を行うには、どこかにダガーラを縛り付けない限り陸軍は展開できない。犠牲者は今後増大確実な上、時価総額世界有数の企業群が膨大な損失を抱え、下手をすると、ダガーラによって地球の大気が変えられてしまう・・・。

 

「マータフ、最終手段の検討を考慮しよう」

 

タイスは言った。さすがに声が上擦った。

 

「賛成だ。大統領の選択肢に加えるべきだ」

 

マータフが頷いたとき、副官が声を張り上げた。

 

「イエローストーン国立公園で、また地震です。公園管理局は、公園内を全面入場禁止にした上、噴火警戒レベルを3に引き上げました」

 

 

 

 

 

 

・同日 20:34 ロシア連邦ムルマンスク州ムルマンスク プロスペクト通り

※日本より6時間遅れていることに留意。

 

 

懐に忍ばせたウオッカの小瓶を開け、ひと口含み、熱い息を吐いた。

 

元ロシア連邦陸軍中尉で、現在は地元の警備会社に雇われている今年72歳のコンスタンティン・ソコロフは、殺風景な工場跡地の引き戸を閉め、体内から暖めるべく再度ウオッカを呑んだ。

 

ムルマンスク郊外で氷漬けのマンモスが発見され、その状態のまま閉鎖された工場に移送されてきた。

 

餓死から逃れようとする貧乏人をつまみ出す仕事が多い冬場と違い、夏場は暇を持て余すことが多いソコロフにとって、マンモスの夜警は降って湧いたような仕事だった。

 

とはいえ世界各国のプレスが集う日中とは違い、夏とはいえ低いときは夜間5℃まで下がる中、わざわざ廃工場にマンモスを見学しに来るような物好きの地元民などいない。

 

世紀の大発見だの、地球の神秘だの諸外国やモスクワのテレビは煽るが、世界でもっとも北極に近い亜寒帯の地方都市に暮らす人々はその日どうやって金を稼ぎ、どのくらいジャガイモとウオッカを買えるかしか興味がない。

 

そのため侵入者に気を使うことはなく、警備そのものは楽だったが、今夜は特別冷える上に上着をアパートに置いてきてしまったため、ウオッカで体内の血液を循環させて暖まるしかなかった。

 

食道から胃が暖まると、ソコロフは手をこすり合わせながら簡易照明に照らされるマンモスを見た。

 

工場内に収まったということは、コイツは高さ15メートルもない。両目の下から勇壮に伸びる牙は立派だが、マンモスにしては鼻が短いということが物議を醸した。

 

ロシアのエライ博士はマンモスだと言い張るが、イギリスの動物学の権威はマンモスではない、などと自説を唱える。

 

ソコロフにとっては特段、どうでも良いことだった。

 

強いて希望するなら、研究材料としてモスクワへ運ばれることなく、見世物としてここムルマンスクに置いてくれた方が良かった。そうすれば見物客で街は賑わい、ソコロフも年間通して夜警の仕事が増える。ただアパートで夜酒を嗜むより、仕事しながら酒をチビチビ楽しんだ方がよっぽど良い。

 

外から賑やかな声が聞こえる。地元の不良たちがウオッカを片手に、集団で歩いている。ここに鎮座するマンモスを何やら揶揄しているようだが、地球の歴史より今夜クラブにどんな美女が来ているか気にする方が忙しい連中だ。中に入ってイタズラなど起こすまい。

 

よしんば侵入してきたとしても、こっちは兵役が義務付けられた社会主義時代からの軍隊上がりだ。老いても若いモンには・・・。

 

などと夢想していたとき、何かが軋む音がした。

 

古い工場だ、ガタが来ているのだろう。そう思って2本目のウオッカを開けたが、まるで木の幹が割れるような音がする。

 

振り返ると、マンモスが揺れていた。というより、軋むような音はマンモスから聴こえてくる。

 

ソコロフは目をこすった。マンモスは軋むような音を立てながら、少しずつ大きくなっているように見えるのだ。おかしい、そこまで呑んじゃいないはずだが・・・?

 

だがすぐに、自分が酔ったわけではないことを思い知らされた。マンモスの頭が廃工場の天井を突き破ったのだ。瓦礫と鉄骨が降ってきて、足がもつれたソコロフは尻餅をついてしまった。

 

痛む尻をさすりながら、ソコロフは後ずさった。すぐ目の前に牙が迫っていたのだ。頭を覆って伏せた。伸びる牙は鉄製の引き戸を叩き壊した。

 

急に冷気が吹き荒んだ。まるで冬の外に出たようだった。鼻水が出てきて、身が震える。

 

なおも大きくなるマンモスに慄いたソコロフは、酔いも忘れて道路へ駆け出した。道路上では車が続々と停車し、目の前の出来事に目を白黒させていた。

 

車のフロントガラスが白くなった。肌を刺すような冷気が漂い始め、やがて空から何かが降ってきた。

 

夕方から降り続いた小雨が、この辺りだけ雪になっていた。

 

自分が酔っ払いかどうか、ソコロフだけでなく周囲の全員が自身に問うた。そうでないことはすぐさまわかった。猛烈な寒さに耐え切れず、車に転がり込み、暖房を最大にした。

 

廃工場は耐え切れぬように崩れ落ちた。山のように大きくなったマンモスは牙を揺らしながら歩き始めた。

 

たちまち、濡れる路面が氷結していき、雪が激しくなった。

 

巨体を揺らしながら歩くマンモスの周囲が氷結していくのは、夜でもわかった。7月にはあり得ない光景だった。

 

すっかり腰を抜かしたソコロフは、両手足の感覚が失われていることに気づいた。手を見ると、ひどい凍傷だった。

 

わけもわからず轟音と地響きがした方を見た。アパートよりもずっと大きくなったマンモスは、ムルマンスクの街を踏み荒らしながら海へ向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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