怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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ーChapter 1ー

・7月10日 14:32 群馬県渋川市渋川辰巳町 JR渋川駅

 

 

「ちょっと、どういうことですか!?」

 

秋元が上げたあまりの大声に、改札近辺の乗客、キオスクのおばさん、駅員が目を丸くした。

 

『いやあ、上から突かれちまってねえ、出張費使いすぎだって。だからさ、新幹線はやめて、在来線、普通列車で戻ってきてよ』

 

電話の向こうで、編集長の藤田がいつもの通り軽い口調でまくし立てる。

 

「だって・・・!そしたら東京着くの夜になりますよ!?」

 

『夜になっても良いよ。それから原稿、仕上げてもらえば良いんだから。ね、会社に貢献すると思ってさ。言うこと聞いてちょうだいな』

 

「・・・・・わかりましたぁ」

 

口をすぼめ、「もうっ」と電話を切る。秋元は駅の電光掲示板を見た。本来乗車しようとしていた上越線の次に、特急くさつがある。

 

ノコノコ在来線で東京まで戻るなど以ての外だが、かといって新幹線料金自腹というのもキツい。多少の持ち出しは覚悟した上で、折衷案である特急くさつの自由席を利用することにした。新幹線の速度には及ばぬにせよ、普通列車よりいくらか早いはずだ。

 

(どっちにしても、また徹夜かなあ)

 

ため息をつくと、秋元は不謹慎にもキオスクで500ミリのビール2缶購入すると、早速駅の待合室で封を開けた。

 

苦くてうまい液体が豪快に喉元を流れ去り、大きく息をつく。苛立つ心もこの爽快感の前で払拭される。

 

列車が入るまで、秋元はこの2日間取材した内容のおさらいをすることにした。

 

A5サイズのノートにビッシリと書かれたメモに、旅館の旦那から思わず聞き及んだ内容を収めたスマホのメモ帳を照らし合わせ、頭の中で原稿の雛形を組み立てる。

 

主に超常現象やオカルト、不思議体験や古代文明などを取り扱う雑誌『UTOPIA』編集部に勤めて6年。元々ミステリアスな話が大好きで、人の話を聴くことが得意だった秋元には天職ともいえる仕事だったが、雑誌編集の常として、時間があまりにも不規則かつ長時間に及ぶことにだけは未だ慣れなかった。

 

その上、上司である編集長の藤田は人使いが荒い上にシブチンで有名で、今回のように煮え湯を飲まされることはしばしばだった。

 

「あんたそれ、ブラック企業じゃない?」

 

昨年、久しぶりに顔を出せた高校の同窓会にて、同級生に憐れみの目でそう指摘されたことは今でも気にかかる。

 

それでも、こうしてデスクに座ってばかりではなく、アクティブに動き回れるところは嫌いではないし、しょっちゅう行われるカンフル剤的な飲み会や書店組合、印刷所の接待なども、酒好きの秋元にはむしろご褒美であった。

 

こうして取材の合間、こっそりとひとりで乾杯できるのも、モチベーション維持のために必要不可欠だった。

 

とはいえ、昨年からそうした飲み会、接待も控えめになってきた。ただでさえ出版不況と言われる時代である上、昨年続けて起きた大事件、すなわちカマキラスによる東京大停電からのゴジラ東京上陸(いわゆるガイガンショック)、黄金の怪獣による東海地方壊滅以来、日本経済は底を打った状態で推移していた。ここ最近、今回のように取材費が搾られるのも、単に藤田がケチなだけではあるまい。

 

実は、昨年のガイガンショック以前は、ゴジラ、そしてかつて現れたアンギラスといった巨大怪獣を積極的に扱っていたのは、他ならぬUTOPIAであった。ゴジラ、アンギラスの生態に迫ったものから、古代から伝わる怪物、妖怪伝説に絡めたもの、果ては宇宙人による生物兵器説を取り上げるなど、大きく特集を組めば雑誌の売り上げが期待できるキラーコンテンツであったのだ。

 

ところが、昨年再びゴジラが現れてから、ゴジラの扱いは一般的な週刊誌や新聞、ネットニュースにお株を奪われていった。逆に、従来UTOPIA が特集していた内容には『不謹慎』だの『被害者の心情に沿ってない』だの謂れてしまう有様だった。

 

その他、国内外の未確認生物ネタなども、実際に現れた超常生物の前には霞となって消えてしまうのだった。

 

いまでは細々と、日本各地に伝わる妖怪伝説を特集するばかり。以前秋元も携わっていたゴジラ専従班も肩身の狭い思いをしていた。

 

今回、群馬県の榛名山に伝わる巨人『ダイダラボッチ』伝説の取材に訪れたわけだが、地元に語り継がれてきた民話に触れられて内容こそ充実したものの、1年を経てもいまだニュースの中心を占めるゴジラ、ガイガン、そして黄金の怪獣ネタにははるか及ばぬインパクトだろう・・・。

 

いつのまにかビールを空けてしまった。秋元は席を立ち、ビールのお代わりに目を丸くするキオスクのおばちゃんに千円札を渡し、対価として500ミリ缶2本を受け取った。

 

待合室のテレビでは、昨夜九州南西海域で沈没した豪華客船『あかつき号』沈没事件を大きく報じていた。

 

コメンテーターの落語家が、乗客乗員約600名がほぼ犠牲となる大惨事の中、双子の姉妹が助けられた奇跡に触れていた。

 

また沈没原因も、船体の老朽化から、操船ミス、はたまたゴジラ犯人説など、多岐に及んだ。

 

列車待ちの乗客も、この話題でもちきりだった。人が3人も集まれば、自然とこの話題になるほどだった。

 

「オレこの落語家嫌いだ」

 

そう言いながら、地元民と思われる老人がテレビのチャンネルをNHKに変えた。

 

ちょうど国会中継の最中で、あかつき号事故、ならびに昨今の日本経済弱体を徹底的に攻める野党連合のヤジが飛ぶ中、冷静に答弁する瀬戸内閣総理大臣が映し出された。

 

その老人以外、品位のない国会中継に興味を失った待合室の乗客たちは、テレビから視線を外して各々のおしゃべりをし始めた。

 

仕方なく、秋元はスマホで原稿執筆を始めた。遅くなるのはやむを得ないとして、徹夜は勘弁したいところだ。移動中にいくらかでも執筆しておきたかった。

 

周りの雑談が気になるので、イヤホンでラジオを聴くことにした。

 

『はぁーいみなさんこんにちはー!CFM「kimmy’s garden」パーソナリティの吉住紀美子です。まずはいつものコーナーから。「kimmy’s breakin'news」!ロシア連邦北部ムルマンスクにて、氷漬けのマンモスが発見されたそうです!ロシア科学アカデミーのイワン・ライコフ教授は「古代地球の謎を解くことが大いに期待できる」と興奮気味だとか。早速、世界各国の著名な動物学者が調査を行うべく続々とロシア入りしているそうです。ねー、マンモスにしては鼻が長くないとか、大きさが不自然とか言われてるようですが、真相は如何に!?』

 

 

 

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