怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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ーChapter 28ー

・7月12日 5:17 鹿児島県奄美大島名瀬湾

 

 

曇り空の向こうに、奄美大島名瀬港が見えてきた。窓から見るとすぐ近くに見えるが、本来5:30着岸の予定が20分ほど遅れるらしい。

 

二日酔い、というより昨夜の酒がまったく抜けないまま、緑川は痛む頭を押さえたままため息をついた。

 

朝になると、わけもなく悲しくなる。自制の効かない飲酒に嫌気が差し、もう今日限りでこんなことやめる、そう思い続けた朝は1年経過しても変わらなかった。

 

普段なら迎え酒を呑んでこの不機嫌さを吹き飛ばしてしまうところだが、今日はこれから檜山と伊藤姉妹たちと「大切な仕事」へ向かわなくてはならない。言い様のない悲しさと不安と虚しさを忘れさせてくれる酒に頼らず、悪感情とつきあいながら我慢することにしたのだ。

 

ロビーには下船準備をした乗客たちが集まっている。到着が近いこともあるが、立て続けに飛び込んでくるニュース速報に夢中なのだ。

 

ヨーロッパとカナダ、アメリカに出現した怪獣に、桜島噴火、そしてロシア北部の都市で発見されたマンモスが目覚め、季節外れの寒波が雪を降らせているというニュース。皆、不安げに画面に釘付けになっている。東京・渋谷や大阪・道頓堀では明け方だというのに、この世の終わりだと騒ぐ人々の狂騒が報じられた。

 

深いため息をつき、緑川はロビーの椅子に座り込んだ。アルコールの作用で悪心がすることもあるが、鹿児島やバンクーバー、ロンドンの惨状が映し出されるたび、脳を締め付けられるような苦しさを覚えるためだ。近くに座る老夫婦は、緑川から漂う酒の臭いに顔をしかめている。

 

スマホがなった。東京の斉田だった。

 

『朝早くに悪いな。大丈夫か?』

 

「ううん、ありがと」

 

『ありがとって、なんか変だなぁ。目覚ましにでもなったか?』

 

緑川は答えず、微笑んだ。斉田の声を聴き、悪感情がだいぶ萎えたのを感じたのだ。

 

「まあね。で、どう、そっちは」

 

『伊藤姉妹なあ、彼女たちはいわゆる不思議ちゃんだったようだぞ。学業や学内では評判良いんだけどな、黄金の救い教団に執心したり、2人とも経済学専攻してるのに、生物科学科の矢野って教授のラボにしょっちゅう顔出したり。それも双子揃って行動するんだ、けっこう目立ってたって話だったぞ。あ、そうそう。2人が懇意にしてた矢野教授だけどな、沈没したあかつき号に乗船してたのがわかった』

 

緑川は一気に酔いが醒めた気がした。

 

『乗船名簿はそっちでも把握できるんだろ?調べてみると良い。だが、学部違うのに仲良しの教授と学生が同じ船に乗って沈んだっての、偶然にしては妙な気もする』

 

「そうね・・・だからといって、沈没原因に結びつくこともないけれど、それにしても、て気はするよね」

 

『だよな。もうひとつ、その矢野教授、双子姉妹だけじゃなく、伊藤家とも親密な様子らしいんだ』

 

「なにそれ?」

 

『城南大学の生協店員が話してたんだけどな、大学で保護者交流会が開かれたとき、伊藤姉妹の両親と矢野教授が何やら話し込んでるのを見たっていうんだ。それも、だいぶ長い時間に及んだらしくてな、だからこそ記憶に残ってたらしい』

 

「えっと、2人のご両親て、たしか・・・」

 

『2人揃ってスマートブレイン社の研究職だ。お前も、スマートブレイン社って聞いたことあるだろ』

 

株式会社スマートブレイン。アメリカの大手商社を親会社に持つ製薬会社で、ベルギーとドイツ、そして日本に巨大な研究拠点を持つ。日本では京都府宇治市、そして茨城県つくば市に研究施設を保有し、総合感冒薬から抗がん剤まで、ありとあらゆる薬剤の開発・研究・販売を行なっている。

 

だが昨年、ドイツにて行政の許可なく大規模な研究用大麻栽培を行なっていることが発覚した。これにより多額の罰金を支払うことになったばかりか、欧州における大麻生産・流通のエージェントではないかという疑惑が持ち上がり、ドイツ司法当局の捜査を受けたことがあった。

 

また日本では研究所で人体実験まがいの研究が行われていたと、元社員による匿名の告白が週刊文春に掲載されたこともある。

 

「前に法人営業やってたときのクライアントだったもの、よく覚えてるよ、あたしも」

 

『お前ホント会社始まって以来のゼネラリストだな。まあいいや。今日はつくばへ行ってみるつもりだ。ご両親の有休取得理由や業務内容を尋ねる程度だけどな』

 

軽く話すが、斉田が学部の違う教授と学生の接点、そして学生の両親が勤める企業の構図・関係性に興味を抱いていることはわかった。彼がKGI損保の調査部にいたときからそうだった。彼がいくつかの疑問にこだわり始めた場合、上司が止めてもとことん突き詰めると、よく調査部の人間がこぼしていた。

 

「お願いね。あ、それともうひとつお願いなんだけど・・・」

 

『ああ、なんだ?』

 

「UTOPIAってオカルト雑誌あるでしょ。そこに去年、奄美大島に存在する不思議な巨石の記事が掲載されたらしいんだ。それで、その記事を書いた記者の人に詳しい話を訊いてもらいたいんだけど・・・」

 

『ちょっと待てよ、それはKGI損保からの正式な依頼なのか?』

 

「それが違うの。会社とは関係ない、あたしのお願い」

 

『お前、オレはこれから高速飛ばしてつくばへ行かなきゃならねーんだけど』

 

「ね、お願い。東京戻ったら、焼肉死ぬほど奢るから」

 

大きなため息が聞こえた。

 

『しょーがない。うちの一大クライアント様の頼みなら。ただし焼肉じゃなくて、高輪プリンスの鉄板焼きだぞ』

 

「うん、わかった。ボーナス出たらね」

 

再びため息が聞こえ、緑川は電話を切った。船は着岸間近になっていた。

 

船室へ戻ると、檜山は入り口に座ったまま舟を漕いでいた。緑川に気がつくと目を覚まし、布団に横たわる姉妹を見やった。

 

「あれからずっと寝てる感じ?」

 

「いや・・・30分前くらいかな。起きてたんだ。また何か、気配を感じたらしいんだが・・・」

 

「・・・何て?」

 

正直、尋ねるのが怖かった。彼女たちがなにかを口にした後、例外なく怪獣が現れていたからだ。

 

「ええっと、調停者が来るとか、メガニューラ?とか、どうして、早過ぎる、とか・・・」

 

 

 

 

 

 

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