怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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ーChapter 32ー

・7月12日 8:58 東京都文京区小石川5丁目 ツインセゾンビル5階 『UTOPIA』編集部

 

 

「おう、秋元っちゃん。お帰り」

 

編集部に戻るなり、編集長の藤田が声をかけてきた。いつものような軽さはなく、心配げに秋元に視線をよこしてくる。

 

秋元は一礼だけすると、疲れと悲しみで脱力したように自席についた。

 

昨日、稲村の死を耳にして東京へ戻ろうとしたが、八幡平から出現したバランの影響で東北新幹線が2時間あまり運行を停止したため、東京には22時回る頃到着した。その頃には稲村の遺体が山梨から地元の蒲田へ移されたため、そのまま蒲田の斎場へ足を運んだ。

 

稲村は天涯孤独の身だったが、大森に住む稲村の従姉妹夫婦が斎場の手配から一切を取り仕切ってくれたため、その日のうちに葬儀や通夜の段取りを決められた。

 

稲村は秋元が予想していた以上に顔が広く、夜遅くにも関わらず報せをきいた知り合いが斎場へ訪れたため、成り行きで秋元も受付や応接を手伝うことにした。少しでも、役に立ちたかったのだ。

 

従姉妹夫婦の取り計らいで斎場にて少し仮眠を取り、改めて通夜・告別式に出席することとして、こうして会社へ戻ってきたのだ。

 

「大変だったな、ご苦労様」

 

いつもは無理難題をふっかける藤田も、こういうときは優しい。リポビタンDを手渡しながら、秋元と向かい合うように座った。

 

「今朝がた、三上先生から連絡があった。調査対象が現実に現れてしまったので、今日中に東京へ戻ることにしたそうだ。何でも、同行してる大学生の1人が鹿児島出身らしくてな、昨日からの噴火でかなりショックを受けてるそうだ」

 

藤田の話も、半ば上の空だった。斎場では応接やらで忙しかったが、こうして稲村の元を離れ、現実に戻ったことで、かえって悲しみが押し寄せてきたような気がする。藤田はそれを悟ったらしく、秋元が落ち着くまでそれ以上話しかけるのをやめた。

 

少しして、気分を振り切るようにリポビタンDを一気飲みした秋元は、「すみません」と頭を下げた。

 

「編集長、ひとまず、木曽の雪男伝説の取材準備に当たります」

 

気を取り直そうとしているのだろう、秋元は手元の資料をまとめ始めた。

 

「ああ、それより、お前に話を聴きたい人から連絡があってな」

 

そういうと、藤田はデスクからメモを持ってきた。

 

「斉田リサーチって調査会社からだ。去年記事にした、奄美大島の癒し岩に関して詳しい話を聴かせてもらいたいって、今朝の7時前に連絡があった。まったく迷惑なモンだよ、始業時間前だってぇのに」

 

とはいえ徹夜も当たり前なこの業界をよく知った者なのだろう。

 

「10時過ぎに来社するそうだ。それまで、仮眠でも取ってろ。雪男はそれからで良いから」

 

藤田は自席に戻った。他に編集部には2人いるが、いずれもテレビに夢中になっている。昨夜からの桜島噴火に関して、望月官房長官による何度目かの記者会見だった。だが聞き耳を立てると、噴火と併せて鹿児島に怪獣が出現したということらしい。

 

色めき立つ記者たちから怪獣とはゴジラなのか、なぜ事前に察知できなかったのか、怒声のような質問が浴びせられている。一昨日の豪華客船沈没事故以来、官邸もマスコミも休む間もなく続々と発生する国内外の大事件に翻弄され続けている。詳しくは11時の定例記者会見にて、と告げて望月は壇上を降りた。

 

騒然とする中記者会見は終了し、ワイドショーは続けて昨日から都内各地で活動が活発化しているという、黄金の救い教団の動きを報じ始めた。

 

そういえば、蒲田の斎場を出て会社へ向かおうとしたところ、JR蒲田駅前には独特の衣装に身を包んだ集団が声を張り上げていた。

 

「この世の終焉が近い。黄金の救いを受け入れましょう」

 

「伏して拝みましょう、黄金の終焉を」

 

宗教団体『黄金の救い』の一団だった。地元区議会議員の朝の演説を妨害するかのように声を上げていたが、ほとんどの人は奇異な視線を向けて避けて通っていた。

 

稲村は死の直前、山梨にある黄金の救い教団本部へ向かっていた(死亡したのは教団を音ずれた前か後かは、現時点で判然としていない)。憶測にしか過ぎないが、もし、この教団が稲村の死に関わっていたとすれば・・・。

 

「稲村君は、他社の依頼でこの教団へ行って『ギドラ』なる存在の話を取材してくるって言ってたな」

 

藤田が口をはさんできた。

 

「まさか、何かこの教団の秘密に触れて、稲村さんは・・・」

 

かねてからの疑念を口にしたが、「それはないんじゃないか」と藤田は否定した。

 

「そりゃ、この教団は奇想天外だが、殺人を犯してまで秘密にしなきゃならないことがあるかなあ。第一、彼はまだ変死扱いだ。いずれ警察も足取りを追って、教団に時事情聴取はするだろうさ」

 

そうなのだ。あくまで秋元の想像に過ぎない。秋元はイヤな夢を振り払うように、頭を少し振った。

 

「なあ秋元っちゃん。オレはむしろ、稲村君が話してた、世の中をアッと言わせる情報だっけか。そっちが気になってるんだが」

 

「ええ。中身は教えてくれませんでしたけど」

 

「ああ。そのたまげた情報にこそ、彼が死に至った原因があると思わないか。ま、推理小説の読みすぎかもしれんが」

 

「そういえば」と、秋元は昨夜遅くの出来事を思い出した。

 

「昨日斎場で弔問に来た人々の応接してたんですけど、香典持ってきた人の中に、誠和会の使いを名乗る方が」

 

「誠和会、ってたしか・・・」

 

「その前に訪れたOREジャーナルの大久保編集長が後で教えてくれたんです。国内最大勢力の右翼結社だって」

 

藤田は大きく頷いた。秋元の言う通り、規模・資金面では日本最大の右翼団体だが、いわゆる暴力団とは異なる、純粋なる国粋主義者の団体だと聞いている。靖国神社や皇居周辺にてしょっちゅう清掃などの奉仕活動を行っているのを見たことがある。

 

「それで、その使いの人が持参した香典が2つあって、ひとつは大澤蔵三郎名義、もうひとつは近藤悟名義だったんです」

 

「おいおいおい、一気にきな臭くなってきたな。日本のフィクサーと成金ジャーナリストの名前が出てくるとは」

 

「私も思いました。大澤蔵三郎って、日本を影で操る男、とかって聞いたことがありましたから。でも、近藤悟さんて・・・」

 

近藤悟。去年、東京に現れたゴジラとガイガンの戦い、そして浜松におけるゴジラと、いわゆるギドラと呼ばれる黄金の怪獣が争う様子をごく間近で撮影し自身のYouTubeチャンネルに投稿。いずれも4憶回以上の再生回数を誇り、一躍時の人となったジャーナリストだ。

 

だが昨年10月、水商売で働く複数の女性との逢瀬を週刊文春に報じられ、「命すら賭けるジャーナリストの鑑」から「成金ジャーナリスト」「浮気無双」などとネットで散々揶揄されたことで、ここ最近姿を見せなくなっていた。

 

「なんか解せないな。大澤はともかく、なぜ近藤の香典を誠和会が預かってきたのか」

 

「私も気になったんです。有名人の名前が一度に2人でしたし、持ってきた人も厳つい風貌だったもので」

 

そのとき、秋元の電話が鳴った。岩手にいる三上からだった。

 

「秋元です。先生、本当にもうしわけありませんでした」

 

『いやいや。それより、どうだったかね。落ち着いたかな?』

 

「はい。おかげさまで、葬儀日程もスムーズに決まりました。私もお手伝いできたし・・・。先生、本当にありがとうございます」

 

言いながら、秋元は嗚咽がこみ上げてきた。

 

『そうか。僕も葬儀にはお邪魔するよ。こちらも、今日の夕方には東京へ戻ることにした。ほら、3年生の南野さん。彼女、実家が鹿児島の霧島温泉だから、動揺してて気が気じゃなくってね。図らずも伝説は本当だったと証明もされたし、大学へ戻ろうという話になったのだ』

 

「先生、お気をつけて。戻られたら、またお目にかかりましょう」

 

『うん。それでは』

 

三上の声を聴いて、より落ち着きが戻った気がした。少し睡魔も感じてきた。藤田の言うことに甘えて、少し仮眠をとることにした。

 

三上と学生たちが戻るのなら、夕方落ち合って、改めて急遽戻ったことを詫びよう、そう思った。

 

(この時点では誰も知る由もなかったが、いずれ東京へ戻ったことを激しく後悔する結果となるのは、もう少し先の話である)。

 

 

 

 

 

 

・同時刻 茨城県つくば市赤塚 スマートブレイン社日本支社つくば研究所

 

 

当日とはいえアポイントは取っておいたのだが、通された研究所守衛室前のプレハブ小屋はお世辞にも来客用とは言い難く、斉田は怒りがこみ上げてきた。

 

KGI損保からの依頼で行方不明になっている社員の調査に来ているのだから、もう少しもてなしの精神があっても良いのではないか・・・!KGI損保の名を出したことで調査を断られはしなかったものの、自身は招かれざる客であると露骨に思い知らされた。

 

釈然とはしないが、斉田は愛想笑いを浮かべながら伊藤姉妹の両親、伊藤昭・ミチル夫妻に関して尋ねた。

 

「すると、ご夫妻そろって職場は同じだったのですか」

 

応対しているスマートブレイン社総務課長補佐で木場という男は、白髪交じりのオールバックヘアをなでつけながら頷いた。

 

「そうです。ショウジョウバエの遺伝子組み換えを行っておりました」

 

「ほう。それと、薬の製造と関連があるんですか?」

 

「斉田さん、とおっしゃいましたか。製薬の方法は、様々なところから生まれるものです。弊社は研究予算が同業他社より多額でしてね、他所で研究できないことでも積極的に研究し、社会に役立つ薬を開発していくのがモットーでしてね」

 

笑みを浮かべてはいるが、この木場という男、目は笑っていない。斉田は質問を変えることにした。

 

「伊藤夫妻は、1週間の休暇を申し出たそうですね。理由は何でしたか?」

 

木場はファイルをたぐった。

 

「旅行、とありますね。滅多にない豪華客船の旅だ、さぞかし楽しみにしていたことと思うが・・・あのようなことになって、残念です」

 

「ご遺体は上がっていないので死亡と確定されたワケではないが、残念なことに生存確率は著しく低いと言わざるを得ませんからね・・・。ところで、御社には、というか伊藤夫妻を訪ねて、城南大学の教授がいらしたことはありませんでしたか?」

 

「さあ・・・。どうでしょうかなあ。まあ、ここは御覧の通りつくばにありますから、さまざまな研究職の方がいらっしゃる。無論、保安上の理由で来社の際にすべての方に身分証明を求めてますが、当社研究員との関係性となると、すべてこちらで把握できておりません。当該部署にお問い合わせいただきたいですね」

 

部署に問い合わせてみる、といった気の利いた行動は、とってくれないらしい。

 

「そういった方々も、このプレハブ小屋で応接なさるんですかねえ?」

 

自分でも厭味だとは思ったが、そうでも言わねば気が晴れない。木場は少しムッとしたように目を逸らした。

 

「そうそう、ところでその城南大学の教授、偶然にもあかつき号に乗船してましてねえ。やはり行方不明なんですよ。しかもですよ、伊藤夫妻のご令嬢方、城南大学に通われてまして、学部がまるっきり違うのに教授と昵懇の仲だったようなんです」

 

「ほう、偶然とは恐ろしいものですな」

 

「でしょう。もしかして、その教授とは一家で家族ぐるみのお付き合いだったのではないかと思いまして。何かご存知じゃありませんか?」

 

「ですから、そこまで把握はしておりません。我々総務は、来客簿の管理を行うのみです」

 

「でもですよ、けっこうな頻度でお越しなんじゃないですか?城南大学に問い合わせたら、ここ最近つくばへ出かけることが多かったらしい。こちらへもしょっちゅう立ち寄ったのではないかと思いますが?」

 

「つくばは研究都市ですから、当社以外にも訪れそうなところは多い」

 

「じゃあ、教授はいつも松風堂の羊羹をお土産に買っていったと聞きましたが、ご存知ですか?僕はね、あれがいっとう好きでして。教授も素晴らしいセンスをお持ちだなあ、と」

 

「いい加減にしてもらえませんかな」

 

とうとう忌々しげに木場は口を尖らせた。

 

「あなたは何をしにいらしたのだ?そんなに矢野さんのことを訊いてどうなさる?」

 

「ああ、いや、お気を悪くされたらもうしわけない。とにかく、伊藤さんたちは社の業務であかつき号に乗船したのではないのですね。であれば、もう確認できました。お邪魔してもうしわけなかったです」

 

おもむろに立ち上がると、斉田は引き戸を開けた。

 

「KGI損保と打ち合わせて、問い合わせ事項が増えたら、また参ります。本日のところは、これにて。ああ、もし次、参ったときは、御社の応接間に通していただけませんかねえ。こちらもね、松風堂の羊羹を手土産にしますから」

 

素早くお辞儀をすると、木場もお辞儀で返した。上げた顔は厳めしいままだが、動揺は隠せていなかった。

 

車に乗り込み発進させると、斉田は大きく息を吸った。まさかという疑念は確信に変わりつつあった。

 

斉田は城南大学の教授としか言わなかったのだが、木場は始めこそトボけたものの自分から矢野教授の名前を出してきた。研究部署とは直接関わりのない総務課長補佐が固有名詞を知っているということは、少なくとも矢野教授は大勢の来客の1人ではなさそうだった。

 

矢野教授は伊藤一家はおろか、スマートブレイン社とも並々ならぬ関係があったとみるべきだ。もしかしたら、いまだ原因不明となっているあかつき号沈没の理由もそこにある、とは飛躍した考えだろうか。

 

ひとまず、斉田は車を東京方面へ走らせることとした。今度はKGI損保とは関係のない、緑川の依頼だ。

 

ナビを設定すると、文京区までの所要時間はおよそ90分と出た。斉田ははやる心を抑え、思わず力が入るアクセルを緩めた。

 

 

 

 

 

 

突然の来客が戻った後、渋い顔をしてプレハブ小屋を出た木場の前に、総務部長の園田が現れた。

 

「あなた何やってるの?」

 

眼鏡の奥に怒りをにじませ、園田は小さくも強い口調だった。

 

「もうしわけありません!」

 

脂汗を流し、木場は頭を下げた。

 

「あんな単純な手にひっかかるなんて」

 

悪態こそついたが、監視カメラで見ていた園田自身、内心ではあの斉田という男の一見朗らかだが、ここぞというときには蛇のような目になる様に背筋が寒くなった。

 

「監視はつけたから、必要以上の動きがあれば報告がくるはず。まあ、矢野教授の名前が出たことは失態だけど、現時点ではそれ以上相手もわからないだろうし。次、あの男は出禁。場合によっては・・・」

 

ため息をつくと、園田は研究所内専用のPHSを出した。

 

「乾所長、園田です。ええ、木場の失態こそありましたが、相手はそれ以上何も知りませんでした。はい・・・はい・・・。さきほどの男には監視をつけました・・・。ええ、いざとなれば・・・。・わかりました。Gセルのセクションは厳重に封鎖します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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