怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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ーChapter 2ー

・7月10日 14:37 東京都千代田区永田町1丁目1ー7 国会議事堂 衆議院

 

 

「国民行動党、鳩中幸成君」

 

櫻井衆議院議長に促されると、国民行動党党首、鳩中はマイクの前に立ち、対面に座りうつむき加減の内閣総理大臣、瀬戸周一朗を見据えた。

 

「えー、先ほど我が党の野村副党首が質問したことと関連しますが、総理!IMFによれば、今年度の日本の国内総生産はイギリスの後塵を拝する6位に落ち込むと発表がありました。これはつとに、昨年我が国を襲った相次ぐ怪獣災害。カマキラスによる東京大停電での経済活動停滞に加え、ゴジラ、ガイガンの出現、さらには、愛知県、岐阜県、静岡県西部を完全破壊してしまった黄金の怪獣による被災が原因でありますが、あれから1年が経つというのに、東海地方の復興は遅々として進まず、我が国屈指の工業地帯が稼働しないことで、GDPが一昨年の8割強にまで落ち込んでしまいました!」

 

「前置きが長いぞー」という与党側のヤジを受け、鳩中はコップの水を少し含むと、続けた。

 

「復興推進を公約に政権を勝ち取りながら!まったく公約が果たされぬどころか、わずかな見通しすらついていない!これは現政権ひいては、与党の怠慢であり、国民に対する裏切りと言えるのではありませんか!?」

 

「そうだそうだ!」「どうしてくれるんだ!」と激しくヤジが飛ぶ中、瀬戸は目を閉じた。

 

「総理にお尋ねしますが、今後の具体的な復興案、そして国内総生産の嵩上げを如何にして行うのか、ぜひお答えいただきたい!」

 

怒鳴りつけるような声でマイクを離れ、鳩中は席に着いた。

 

「内閣総理大臣、瀬戸周一朗君」

 

櫻井から声を掛けられたが、瀬戸は補佐官とのやり取りがやや長引き、すぐには席を立てなかった。

 

「早くしろー」「自分の言葉で答弁しろよ」とのヤジは意に介さぬフリをして、マイクの前に立った。

 

「現在、新幹線が開通した静岡県西部に関しては、法人税減税特区構想に基づき、従来の工場地帯復旧並びに、新たな工場建設を希望する企業を募り、復興の最前線とする計画であります。また特に被害の大きかった愛知県については、地元財界との協議の上で、構想を固めて参る所存でございます」

 

瀬戸の落ち着いた答弁に、「質問の答えになってないぞ」「前も同じこと言ったな」と声が上がり、与党側からも応戦が入る。

 

「誠に残念ながら、名古屋市を中心とした地域は瓦礫などの撤去、死者行方不明者の捜索、遺体の収容すら完了しておりません。本年度末を目処に完了する予定ですが、その後の復旧工事に関しては、今月末に競合入札を始める予定でおります」

 

すかさず鳩中が挙手した。櫻井に促され、マイクを前にする。

 

「仮に復興したとして、愛知県だけで延べ120万人の死者が出ております。名古屋市を元通り復旧させた場合、その都市機能も元通りになるのでしょうか?」

 

今度は素早く反応する瀬戸。

 

「遺憾ながら、名古屋市を元通りということにはなりません。が、地域の均衡に合わせた都市を造ることで、地元経済、ひいては、日本経済の成長に貢献できるものと考えております」

 

一気に院内がざわついた。突っ込むべき部分は多いが、鳩中の隣に座る野村が挙手したことで、鳩中は席に下がった。

 

「総理にお尋ねします。復興が果たされたとして、これ再びゴジラなどの怪獣が現れた場合、また日本は甚大な被害を受けることが予想されます。予想される事態に対応するには、自衛隊の装備拡充及び、有効な作戦が打ち立てられる保証があるのか、国民が安心して暮らせるのか、お答えいただきたい」

 

「事業見直しで防衛予算削ったのあなたたちでしょ!」

 

瀬戸の後ろに座る、北島香澄総務大臣がドスの効いた高音を上げた。

 

瀬戸はふたつ隣の高橋仁雅防衛大臣に視線を向けた。高橋は短く頷くと、右手を上げた。

 

「高橋仁雅防衛大臣」

 

高橋は立ち上がり、傍若無人にヤジる野党議員たちに射るような目を飛ばした。

 

「昨年来、陸、海、空、全自衛隊、並びに、在日米軍、韓国軍と連携し、日本近海での怪獣警戒を続けております。同時かつ多重なる捜索警戒網により、日本本土上陸前に軍事行動を取り、撃滅を期する作戦も、自衛隊で立案されております」

 

我慢ならん、とばかりに野村が立ち上がった。

 

「果たして自衛隊の装備はゴジラに対して有効なのですか?我々が事業見直しで仕分けしたゴジラ貫通弾は、まったく通用しなかったことが昨年の浜名湖で証明されたではありませんか!」

 

高橋は野村を睨み、食い気味にマイクを握った。

 

「浜名湖決戦においては、自衛隊の行動展開が充分ではなく、結果的に軍事行動の禁忌とされる、戦力の逐次投入となってしまったことは、大いなる反省点でありました。またその際、対象はゴジラだけではなく、黄金の怪獣も存在したことに加え、激しく争う2匹に照準を合わせることがいささか困難であったことも、本来の兵力が充分に活かされなかった理由でありました。現在、ゴジラ及び黄金の怪獣を早期発見に努め、航空、そして海上からの火力集中投射によってこれに対抗できるものと想定しています」

 

「本土に近かったらどうするんだー!」「また同時に現れたらどうするんだー!」

 

ざわつく院内だったが、「静粛に、静粛に!」と櫻井が呼びかける。本来であれば審議のメドがつくまで議会は行われるのだが、瀬戸始め主要閣僚が午後4時から駐日米大使との会談を控えているため、午後3時を期して審議を終了させなくてはならないのだ。

 

それでも、とても終了まで持っていける雰囲気ではなかった。与野党共に質問、そしてヤジの応酬合戦となり、静粛を呼びかける櫻井の声も次第に大きくなっていった。

 

 

 

 

 

半ば強制的に議会は終了、明日へ持ち越しとなり。瀬戸以下閣僚は国会議事堂から首相官邸へと戻っていた。

 

昨年、カマキラスによって頂点を穿たれた国会議事堂中央塔を仰ぎ見ながら、瀬戸は疲れた様子でため息をついた。歩きながら、米沢首相補佐官がまくし立てているのは、本日未明に沈没した豪華客船、あかつき号に関する内容だった。

 

「状況はわかったが、運輸安全委員会の調査はどうなっている?」

 

瀬戸が訊くと、背後を歩く佐間野力哉国土交通大臣が答えた。

 

「鹿児島の第十管区海上保安部所属の調査官、並びに、霞ヶ関の委員会所属の次席調査官が本日夕刻より、関係者への事情聴取を行うことになっております」

 

「そうか。事故原因の究明は本日中には難しいかね?」

 

「はい。現場では、生存者捜索が最優先で行われております。早くて1週間を期して、沈没船の引き揚げを行う予定です」

 

瀬戸は頷くと、今度はそばに控える望月官房長官に向き直った。

 

「明日の審議では、対怪獣の防衛計画が問われるだろうね?」

 

「でしょうな。明日朝一番で、防衛省による総理レクを行いましょう」

 

瀬戸は頷き、再びふうっと息をついた。

 

「それにしても、よくもいけしゃあしゃあと私たちを非難できますよね、鳩中さんたち」

 

国会を出てから、険しい表情を崩さない北島が誰にともなく口にした。

 

「与党時代の事業見直しで、防衛予算削ったの自分たちでしょーが」

 

「まったくですなあ、困ったものだ」

 

望月が同意したが、瀬戸は前を向いて歩くのみ。北島の怒りが伝染したかのような、険しい表情をしていた。

 

「総理?」

 

自身への同意を求めるのが半分、北島は瀬戸の顔を伺った。

 

「ん?ああ、すまない。いささか疲れてね」

 

瀬戸ははにかむと、腕時計をチラと見た。

 

「デリンジャー大使との会談には必ず向かう。皆、先に執務室へ行っていてほしい」

 

本来は閣僚全員で向かうはずだったため、SPが虚を突かれたように足を止めた。

 

「突然すまない。10分で良いので、総理と話すべき事案があってね」

 

望月がフォローを入れると、SPは短く打ち合わせ、陣形を整えた。

 

瀬戸と望月、そして補佐官の米沢は4階の官房長官執務室へ向かった。残された閣僚たちはSP先導の下、5階を目指した。

 

「総理レクなんて予定にあったかしら?」

 

北島が隣を歩く佐間野に訊いた。

 

「デリンジャー大使への手土産が必要だろうからな」

 

佐間野は言いながら、一緒に歩く閣僚が全員揃っていないことに気づいた。

 

「気に入らないな。相手を選別する内容のようだ」

 

高橋防衛大臣、そして岡本文部科学大臣が見当たらないのだ。

 


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