怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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ーChapter 38ー

・7月12日 12:04 種子島沖南東75キロ海底 日本列島大陸棚付近

海上自衛隊第一潜水群第五潜水隊そうりゅう型潜水艦「はくりゅう」

 

 

「電波を発した、だと?」

 

新島から報告を受けた榎並は、オウム返しに訊いた。

 

「は。40分ほど前から、目標より解析不能の電波が発せられています。同時に、他方から目標へ向けて、やはり解析不能の電波が発せられているのをキャッチしました」

 

「40分前・・・奄美大島に蝶のような怪獣が出現した時刻と一致するが、もしや、目標は彼の怪獣と交信している、とでもいうことだろうか」

 

自分でも飛躍し過ぎな発想だとは思ったが、榎並は口にしてみた。

 

「実は、私も同じことを想像していました」

 

新島ばかりでなく、CICに集った隊員全員がそう考えているようだった。

 

「目標がゴジラだとして、彼にそんな能力があったとは・・・」

 

榎並が顎の髭に手を置いたとき、ソナー担当が声を発した。

 

「目標の詳細な探知ができました。体長は113メートル、前と後ろに脚、というか・・・手足のようなものが確認できます」

 

「こちらのソナーに反応したようです。目標、移動を開始。速度を上げて黒潮に乗るように距離を置きつつあります」

 

榎並は海図を見た。新島も覗き込んだ。

 

「彼の動きは、このように黒潮に沿って動くと考えられます」

 

新島が黒潮の流れを指でなぞった。

 

「そして、市ヶ谷が指示する交戦地点は、ここだな」

 

防衛出動が発令されて以降、日本近海を動き回る対象を駆逐するべく、防衛省では潜水艦、護衛艦、対潜哨戒機を駆使した多重攻撃作戦を立案していた。いくつかの候補がある中、哨戒機、護衛艦の運用を考慮した場合の会敵地点のうち、有力な場所として志摩半島沖合80キロ地点と定められた。

 

「相手の方から向かうことになるな」

 

「はい。現在のところ、彼にもっとも近い艦船は、当艦です」

 

「よし、呉の潜水隊司令に連絡。当艦はこれより対象の追い込みにかかる」

 

新島は頷くと、通信司令担当に矢継ぎ早に指示し始めた。

 

榎並は艦長席に立つと、操舵手に命じた。

 

「両舷前進、最大戦速ヨーソロー!」

 

 

 

 

 

 

・同時刻 東京都千代田区永田町2丁目 首相官邸地下1階危機管理センター

 

 

メガギラスが日本の領海上空に達したとの報告がもたらされたため、海上自衛隊舞鶴基地所属のこんごう型護衛艦「みょうこう」、そしてあたご型護衛艦「あたご」、また滋賀県にある航空自衛隊饗庭野分屯基地に配備された第4高射群のPAC3による多重迎撃が実行されるに至った。

 

高橋より瀬戸に実行の容認を確認され、瀬戸は実行を下命した。高橋の命によりただちに攻撃準備が行われ、日本海上空を警戒中のE767早期警戒管制機からの情報如何で発射されることとなった。

 

「総理、舞鶴の護衛艦隊、並びに滋賀の高射隊共に攻撃準備を整えております」

 

高橋が報告すると、瀬戸は頷き、高橋に視線を送った。

 

「米軍と韓国軍は?用意はどうなっている?」

 

「在韓米軍においては、韓国水原の防空部隊。また釜山にて、韓国海軍のイージス艦世宗大王が同様に準備を終えています。我が国からの攻撃が行われ次第、連動して目標に対空誘導弾が発射されます」

 

高橋が説明すると、脇に座る柳が鼻を鳴らした。

 

「日本の領土に侵入してからの攻撃とは、対応が遅すぎるんではないか?韓国にいる間に発射してしまうのが危機回避ではないのかね、防衛大臣?」

 

傍らに控える防衛審議官の村田が思わず顔をしかめた。高橋は視線を向けて村田を牽制しつつ、無知な大臣を向いた。

 

「無論、技術的には攻撃対象が我が国の領域外にいても攻撃できる能力を、自衛隊は保有しております。ですが我が国の防衛はあくまでも専守防衛です。敵方が我が国へ侵入して初めて攻撃が可能となることを失念されては参りますな」

 

最後には語尾に力が入った。柳は険しく目を瞑ると、腕組みをして大きく息をついた。

 

「戦闘機のミサイルが通じなかったと聞いてますけど、イージス艦とPAC3で充分に対抗できるのですか?」

 

北島が訊いてきた。

 

「本作戦は同様のシステムを共有する我が国の自衛隊、そして米軍、韓国軍による同時多発攻撃です。数を以て対抗できますし、よしんば回避、あるいは効果が薄かったとしても、ただちに同様の攻撃が二重にも三重にも加わります。全弾命中した場合の効果は確実にあると考えられます」

 

高橋の説明に北島は頷きこそしたものの、まだどこか訝し気だった。無理もない、昨年浜名湖における作戦では、自衛隊が保有するあらゆる兵器はゴジラと黄金の怪獣にはまったく効果が認められなかったからだ。

 

だがあのときはイージスシステムを含めた同時多重攻撃を敢行する作戦が立てられなかったという事情もある。片や放射能を含んだ白熱光、片や高電力の光線を吐き散らしながら争うような状況では、自衛隊の保有する兵器の運用が満足に行えなかったこともたしかなのだ。

 

だからこそ、当時の苦い実績を踏まえ、今回対怪獣戦闘としては初めてイージスシステムを駆使した火力重視による怪獣撃滅作戦の運用が可能となった。陸海空自衛隊、そして防衛省としてはこれまでの雪辱戦となる。増して、今回は米軍と韓国軍との合同作戦である。昨年とはもちろん、かつてのゴジラ東京出現時、ゴジラとアンギラスの大阪決戦時とは事情が大いに異なる。

 

村田が緊迫した表情でメモを渡してきた。高橋はそれを受け取ると、スッと瀬戸と望月を含む全閣僚を見据えた。

 

「能登半島沖の早期警戒機より、攻撃命令の要請がありました」

 

高橋の言葉で瀬戸は口をつむぎ、望月は目を閉じた。何人かの閣僚は思わず背筋を伸ばした。

 

「攻撃を許可する。確実に当ててほしい」

 

唾を呑み込むと、瀬戸は言った。高橋は大きく頷き、同様の命令を下した。

 

 

 

 

 

 

・同時刻 石川県能登半島上空 航空自衛隊早期警戒管制機E767

 

 

「総理の指令を確認、舞鶴の艦隊司令、及び中部防空司令より発射命令が発令」

 

通信担当の隊員が読み上げ、観測手は日本全体の地図が電子的に表示されたモニター

を注視した。京都の舞鶴、そして滋賀県の高島市から幾筋か赤色の線が伸び、隠岐の島北西63キロ地点上空をマッハ1で飛行する緑色の点に向かいつつある。モニターには新たに別な地点から赤い線が伸びてきた。

 

「釜山、水原からも誘導弾発射を確認。着弾まで20セカンド」

 

発射された誘導弾は日本から7発、韓国から10発の計17発だった。もしもメガギラスにこれら誘導弾群が通用しなかった、あるいは回避された場合でも、ただちに第二波、第三波の攻撃を仕掛けることができる。モニター上の赤い線はみるみるメガギラスに接近していく。

 

モニター上の緑色の点が赤く広がる円に呑み込まれた。

 

「目標に着弾を確認。目標健在!」

 

驚くべきことに、これほどの多重攻撃を浴びせられてもメガギラスは空に存在していた。仮に回避されたとしても、容易には逃れられないほどの波状攻撃のはずだ。

 

「目標、速力低下!マッハ0.3!高度も低下しています!」

 

E767の報告を受けた舞鶴と滋賀の司令は、すぐさま第二波攻撃を命じた。舞鶴から4発、滋賀から3発が西へ向けて伸びていく。いまのメガギラスは明らかに誘導弾より遅い。

 

韓国からも、計10発の誘導弾がメガギラスを捉えた。

 

「第二波、目標に接近。着弾まで12セカンド」

 

メガギラスは隠岐の島に接近していた。幸いにも海上のため、落下した場合の被害は想定し難い。

 

「目標に着弾を確認」

 

再び赤い円が広がった。そこから飛び出してくる緑色の点は確認できなかった。

 

「目標、飛行を確認できず」

 

偵察及び効果確認のため、ただちに山陰地方を飛行中の岐阜基地所属F4支援戦闘機が2機、偵察に向かった。

 

「隠岐の島沖の偵察隊、隠岐の島沖海上に目標の体液と思われる液体を確認。目標、海へ落下した模様」

 

その様子は偵察隊に撮影され、すぐさまE767から防衛省へ転送された。舞鶴からは護衛艦あさぎり、せとぎりが現場海域に派遣され、海中の探索・警戒に当たることとなった。

 

 

 

 

 

 

・同日 12:37 石川県輪島市河井町

 

 

暑くて動けそうにないから迎えに来い、仕事中にも関わらず老齢の母に呼び出された窪山は昼休みを利用して輪島朝市へと車を走らせた。

 

たいていの職場の例に漏れず、窪山が勤める介護施設も昼休みは一時間と決められているが、良い意味で田舎の緩さがあった。雨の日も雪の日も、早朝から地元名物の輪島朝市で元気に声を張り上げる窪山の母は地元でも有名人であり、施設長から「親孝行してあげなさい」と言われたので、多少の後ろめたさはありつつも職場を離脱した。

 

今日はフェーン現象とやらで朝からうだるように蒸し暑く、出掛けに母に「この暑さだから無理するな」と釘を刺したが、「お客が待ってるから」と聞く耳を持たなかった。言わんこっちゃないの一言でも浴びせてやりたい気分だったが、当人は朝市に出ることが生き甲斐なのだ。

 

県道の路肩に車を停車させ、朝市が行われている本町通りを歩く。暑さのせいもあるが、一昨日富山県に現れたフナムシの化け物騒ぎのせいで、能登半島を訪れる観光客が極端に減ったこともあり、いつもの賑わいは影を潜めていた。

 

まったく、能登半島には現れていないし、とんだ風評被害だ、などと思いつつ、ポツポツと店仕舞いしていないテントを見て歩く。

 

「ここやここや」

 

ちょうどテントを仕舞った母の頼江が元気に手を上げた。

 

「そんなに元気なら、迎え呼ぶことなっとないやろ」

 

「せーもむな」

 

仕方がないとばかりに、窪山はテントと売れ残った野菜を車まで運び、母のために助手席を開けた。

 

「仕事あるから、早く戻るかって」

 

「おーけんで、昼飯せーかくから」

 

息子の都合などおかまいなし、ほとほとうんざりしたが、ひとまず窪山はキーを回した。そのとき、防災無線からけたまましい音が鳴った。

 

「まーそい、何ね?」

 

頼江がびっくりして訊いてきた。

 

『こちらは防災輪島市広報です。ただいま、能登半島沿岸に、津波注意報が発令されました。海岸から離れて・・・』

 

おかしい、地震などなかったはずだし、ラジオをつけてもそんなニュースはやっていない。韓国から飛来した怪獣の撃墜に成功したニュースが続報待ちでひっきりなしに繰り返されるばかりだ。

 

そのとき、通りの先を流れる河原田川が氾濫し逆流するのが見えた。通りの隙間から海を見ると、土用波ほどの大きさの波が列をなして防波堤に直撃している。

 

まさか防波堤を超えて流れ出すことはないとは思うが・・・窪山は車の向きを変え、海から離れるように進む進路を取ることにした。

 

そのとき、車が左右に激しく動いた。追いつくようにスマホの緊急地震速報が鳴り、助手席の頼江が悲鳴を上げて頭を覆った。

 

幸いにも揺れはそれ以上強くなることはなく、細かい振動がしばらく続いたが、ゆっくりと収まっていった。

 

「どうして津波の後に地震なんか起きるんだ?」

 

頼江の無事を確認すると、窪山は独り言を言った。

 

「お、な、なんねあれは!?」

 

頼江がいつも朝市で出すようなボリュームで、窓の向こうを指さした。そちらを仰ぎ見た窪山はギョッとした。

 

沖合に大きな白煙の柱が見えた。膨大な海水が蒸発して天を目指し昇っているのだ。

 

「まさか、噴火とかなのか?」

 

呆然とつぶやいた。再び足元が揺れ出した。まるで地の底を巨大な何かが這い回るような、不気味な揺れ方だった。

 

そして揺れに合わせるように、白煙が上がる範囲が広まっていく。

 

「まんで音しねえか?」

 

頼江が訊いてきた。言われてみれば、地響きとも異なる、低く重たい音がする。

 

蒸発した水煙は収まりつつあるように見えるが、いま一度、不気味な低温の響きが耳に入ってきた。まるで地の底が咆哮を上げているように思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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