怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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ーChapter 42ー

 

・7月12日 15:36 東京都文京区小石川5丁目 ツインセゾンビル5階 『UTOPIA』編集部

 

 

訪問を午後にしてほしい・・・斉田リサーチ社長から連絡があり、言葉通り編集部を訪れたのは午後3時過ぎであった。

 

通常であれば大幅なアポイントメント変更に当たるため、面会を拒否しても差し支えはないところだが、奄美大島から蝶のような怪獣が出現してからというもの、かつて記事にした『奄美の癒し岩』に関しての問い合わせが相次いでいた。

 

編集長の藤田が調子付いてUTOPIA公式ツイッターでその旨をつぶやいたところ、反応の多さに拍車がかかっていた。

 

それら対応にあたるべく、仮眠していた秋元も眠たい目をこすりながら起き出してきていたため、斉田の訪問が遅くなることはむしろ好都合といえた。

 

外気温が34℃に達した頃、暑い空気と共に斉田が編集部を訪れた。互いに名刺を交換し、応接室に案内した。予定を早めて岩手から三上が戻るということで、癒し岩取材に同行していた三上にも同席を依頼したところ、新幹線到着後すぐさま東京駅から駆けつけてくれた。

 

それぞれの紹介が終わると、斉田から改めて昨年癒し岩を取材したときの詳細、地元の人たちの反応などを尋ねられた。

 

「ふうむ・・・なんとも不思議な岩だったんですねえ」

 

ひとしきり話を聴いた斉田が、そう言って出されたアイスコーヒーをすすった。

 

「いやはや、まさか我々も、あの岩が怪獣だったなどとはまったく信じられませんで」

 

三上が言うと、秋元も頷いた。

 

「でも、私もテレビで観ただけですけど、あの岩から産まれた怪獣、ゴジラやガイガンのような恐ろしさは感じませんでした。むしろ・・・変な比喩かもしれませんけど、あったかいっていうか、包み込んでくれるみたいな優しさがあるように思えるんです」

 

「しかも、ですよ。その怪獣はシカゴでダガーラを倒したそうじゃありませんか。で、最初から出現していた黒い怪獣と共に姿を消してしまったらしい。少なくとも、人類に害となる存在じゃないのかもしれませんねえ」

 

アイスコーヒーを飲み干して、中の氷をボリボリと噛み砕きながら斉田は言った。

 

「新幹線の中で、こんな記事を見ました」

 

そう言って三上はスマホを寄越した。

 

【噴火なんかに負けない 奮起する鹿児島】

 

【蝶々怪獣を攻撃しないで 被災地最新事情】

 

いずれの記事も、噴火によって壊滅的被害を受けた鹿児島に蝶の怪獣が飛来した後、市民たちが元気を取り戻したように動き出し、火山灰など深刻な影響下においても救助活動が順調に進み始めたということ、怪獣を目撃した市民の「怪獣に励まされた気分」「怪獣見たら意欲が湧いてきた」という証言がまとめられていた。

 

「こりゃあ・・・話してた通りだなあ」

 

そうつぶやいた斉田に、秋元が反応した。

 

「話していたって、どなたがですか?」

 

そう訊かれてやや逡巡した斉田だったが、秋元に顔を向けた。

 

「いえね、実は今回の調査は、KGI損保からの依頼なんですよ。そこの担当者が、同じような話をしてまして」

 

そこから、あかつき号沈没事故の生存者姉妹が古代文明の使いを名乗る存在に憑依されていること、その姉妹の予言が当たり、次々と怪獣が出現していること、件の癒し岩から出現した怪獣はモスラといい、平和を愛する人類の味方だということを説明した。

 

「保険会社による調査事項ですから、許可があるまで他言はしないでほしいんですよ。まあこんな話、信じろっていう方がムリあるかな」

 

ところがそんな斉田の言動とは裏腹に、秋元の目が輝き始めた。

 

「いえ、むしろもっと詳しくお話を伺いたいです!」

 

前のめりになる秋元の様子に、斉田は笑みを浮かべた。

 

「まだ記事にしたりしないと約束できるんなら、僕から担当者に話してみますよ。実は今夜の便で、その担当者が姉妹を東京に連れてくることになってるんです」

 

「もう、ぜひ!」

 

「私も、大いに興味がありますな」

 

三上も興味深そうに言った。

 

「でしたら、ひとつ条件があるんですがね・・・」

 

斉田は人差し指を立てた。

 

「今夜羽田到着の便で戻る、ということだったが、奄美はいま大雨警報が出てるらしくてね、飛行機が遅延しているようなんですよ。到着時間がはっきりするまで、ここで待たせてもらうワケにはいきませんかねえ」

 

そう訊かれた秋元は怪訝な顔をした。

 

「図々しい話なのは承知してますが、そのKGI損保の担当者てぇのが、これまた人使いの荒い女でして、業務外のことまで急に調査を依頼してくるモンだから、もう疲れちゃいまして。おかげで御社との約束も午後になったし、まあひどいヤツなんですよ。あ、遅れたことはもうしわけないです、ホント。そんなワケでひとつ、お願いできませんかねえ?もう身体がクタクタでして」

 

「はあ・・・まあ、かまわないと思いますけど」

 

釈然とはしないが、秋元は言った。三上も首を傾げているが、斉田が深くついたため息に納得はしたようだった。

 

「そんじゃあね、早速横にならしてもらって良いですか?よいしょっと」

 

返事を待つまでもなく横になると、斉田は目を閉じた。秋元と三上は応接室を出て、編集部の入り口にあるテーブルへ移動した。

 

「なんだかおかしな人ですね」

 

「うん。ちと図々しいね」

 

2人でささやき合うと、秋元は話を変えた。

 

「ところで先生、癒し岩もですけど、山の神伝説も怪獣だったっていうのがビックリです」

 

「そうだね。いや実はずっと帰路考えてたんだけど、きみが最近まで取材していたあのダイダラボッチの件、あれも怪獣のことだったりしないかと思ったんだが」

 

「そうなんです、私も同じこと考えてました」

 

群馬県榛名山に伝わる巨人、ダイダラボッチ。一昨日まで秋元が取材のため群馬県を訪ねていたのだ。

 

「そんなこと言ったら、日本各地に伝わる妖怪や化け物の類、みんな怪獣になってしまうかもしれんがね」

 

三上は苦笑したが、どことなく否定しきれていない様子だった。

 

「もう一度、榛名山の語り部さんに訊いてみようと思います。あと先生が提唱なさった、赤城山に眠るダイダラボッチ説、そっちも突き詰めてみようって」

 

「そうかね。どれ、いつ飛行機が着くかわからんのなら、僕も手伝おう」

 

 

 

 

 

 

一方応接室の斉田は、秋元と三上が部屋を出た後、スマホで緑川にメールを打った。

 

つくばのスマートブレイン社を訪ねた後、ここの編集部に向かう前にもう一度城南大学の矢野教授、そして伊藤姉妹の両親に関して調査を行うことにしたのだ。

 

過去の新聞記事や雑誌などで矢野教授がこれまで出席した学会、あるいは勉強会を隈なくリサーチしたところ、公開されている出席者名簿に伊藤昭・ミチル夫妻の名前がある場合があった。

 

両者が出席したいくつかの学会のうち、比較的最近開催されて尚且つ主催した財団の拠点が東京の大手町にあると判明したため、学会の様子を尋ねるべく財団の拠点へ向かっていたのだ。

 

応対した担当者は両者を覚えており、学会後の懇親会でかなり親しそうにしており、深い話をしていたと証言してくれた。さらに、その学会は公的機関や企業の研究部署だけではなく、一見畑違いの難波重工やガルファー社といった国内外の大企業関係者も訪れている上、学問研究に興味がなさそうなフリーのジャーナリストたち、そして財団の名誉総裁として日本のフィクサーとされる大澤蔵三郎も出席していたことがわかった。

 

その後、大手町から文京区へ向かおうと車に乗り込もうとしたとき、ハンドルわきに銃弾が置かれているのを発見した。

 

ひとまず車を発進させ一方通行の道路に入ると、東京駅の駐車場に車を入れ、東京メトロを無駄に乗り継いで遠回りし、UTOPIA 編集部を訪れた。

 

この仕事をしているとある程度の度胸は必要になるが、車の施錠を開けられて銃弾を置かれたことは今回が初めてであり、動揺は抑えきれなかった。

 

いったいどこの誰がそんなことをしたのかはわからない。ひとまずこの編集部にいれば、相手は踏み込んでくることまではしないはずだ。その上、ビルの両側は大通りであり、地下では東京メトロに直結している。尾行する側からすれば、厄介な構造だった。

 

とにかく、矢野教授とスマートブレイン社の関係性は想像以上に闇が深そうだった。同時に、あかつき号沈没事故の原因もまた、闇深いらしいことは想像に難くない。

 

文章を打つ途中で『新潟県沖で地震 震源が移動?』『南海域の巨大生物はゴジラか? 海上自衛隊の追跡続く』という号外が飛び込んできたが、一連の事態を報告するメールを緑川に送信した斉田は、ふうっと息を吐くと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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