怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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ーChapter 43ー

・7月12日 17:42 鹿児島県奄美大島笠利町

 

 

『ご覧いただいてますのは、現在のシカゴ・ダウンタウンの様子です。ダガーラと蛾の怪獣が争ったことにより、市街地中心部は大規模に倒壊。空軍のF15が数機墜落したことにより、各所にて火の手が昇っております。現在、ダガーラをミシガン湖に沈めた蛾の怪獣、そして近似種と見られる蝶の怪獣の行方を空軍が追跡中ですが、いまだ発見されず、さらなる怪獣の出現に、市民は困惑と不安を隠しきれません』

 

海外のテレビ局報道を、そのまま日本語訳で報じるNHK-WORLDに目を落としながら、檜山は外にいるミラとリラ、緑川を見遣った。

 

一時時速10キロも出せないほどの豪雨となったが、この時間には降り方も小康状態になってきていた。本来なら17時発奄美~羽田行きの旅客機に搭乗しているはずだが、大雨の影響で奄美空港発着の航空機は運航を停止している。雨が上がったとはいえ、いましばらくすれば運航再開至るだろう。ここまでくれば、空港まで10分程度で到着する。

 

そのためか、ミラとリラは外に出たがった。モスラと交信するため、精神を集中させたいらしい。国道から少し脇に逸れた路側帯に停車すると、大雨で冷やされた空気とにわかに暖かい海風が入り混じった、なんともいえない大気が漂っている。

 

緑川が助手席に乗り込んできた。

 

「いまメールきた。私たちの便、20:20出発に変更だって」

 

檜山は声を出さず、首を縦に振った。どのみち空港へ着いたところで、遅れに遅れた離発着便を待つ旅客でごった返しているはずだ。このままのんびり二人につきあうのも良いだろう(レンタカー代金はかさむが)。

 

「二人は?何かわかったのか?」

 

檜山が訊くと、緑川は首を横に振った。

 

「まだ話してる最中みたい。いろいろ、話が尽きないんじゃない?」

 

相変わらずテレビではシカゴの様子を報じている。レポーターの女性が警察官の制服を着た男性にインタビューしている。

 

『ああ、そうだよ。子どもが産まれたんだ。怪獣たちが争ってる最中にね。いまはとても幸せな気持ちだよ。聞いてよ、僕の妻は出産に耐えられるかわからなかったんだ。その上こんなひどいときに・・・いやだからこそ、がんばってくれたんだ。これからは妻も娘も、しっかり大事に守っていこうと思う』

 

『新たに出現した蝶の怪獣が病院の真上を飛び去ったそうですが、大丈夫でしたか?』

 

『それが、そのう・・・変な話に聞こえるだろうけれど、あの怪獣は僕たちを守ろうとしてくれたように感じるんだ。彼女・・・なんで彼女って言っちゃったのかな?まあ、彼女が羽根から鱗粉のようなものを撒き散らしたとき、緊迫した状況だっていうのに心が安らいだんだ。それだけじゃない、ダガーラが発したガスも薄れたように見えたんだ。僕だけじゃない、出産中の妻も不思議と陣痛が収まり、安らかさを感じたみたいだよ。彼女の姿も見えなかったはずなのにね』

 

『実は、複数のシカゴ市民に尋ねても、あの蝶の怪獣に恐怖や畏怖を感じなかった、むしろ懐かしい友に出逢ったみたいだ、そんな声が少なくありません』

 

インタビューの内容に、檜山も緑川も妙に納得した。岩状の繭から現れたモスラに、二人とも似たような雰囲気を感じていたからだ。

 

「すべての怪獣が人間にとって相容れない存在ではないってことなのか」

 

檜山がつぶやいた。

 

「そうなのかも。彼女たちの話だと、かつての文明はモスラと共存していたっていうし。そもそも、他の怪獣たちだって人間が造り出したものらしいじゃない?」

 

「あんな恐ろしいものを造り出すだなんて、その頃、いったいどんな世の中だったんだろうな?」

 

トントン、とドアを叩く音がした。ミラとリラだった。モスラとバトラがダガーラを湖に沈めたとわかったときの表情とは大きく異なり、暗く神妙な顔つきだった。

 

「もう大丈夫なの?」

 

緑川がセレナに招き入れ、訊いた。

 

「前脚は失ってしまいましたが、間もなくバトラの傷が癒えるそうです」

 

「モスラは、大気圏突破の疲れはありますが、同じく元気です」

 

そうは言うが、どこか奥歯に物がはさまったような印象だ。

 

 

「だが、まだ何かあるのか?ダガーラはまだ死んでないとか?」

 

檜山が訊いた。

 

「それもありますが・・・」

 

「モスラもバトラも、空を自在に飛ぶことはできますが、水中に潜ることは苦手なのです。海の神がいれば、ダガーラの生死をたしかめられるのですが、はるか遠い地ですから・・・」

 

「でも、傷は負ったけれどひとまず撃退できたんでしょ。モスラもバトラも、ゆっくり休んだらどうかな?」

 

緑川が訊くと、二人はかぶりを振った。

 

「「もうすぐ、モスラはこの大陸に戻ります」」

 

意味をつかみかねた檜山と緑川は、後部座席を向いた。

 

「恐ろしい存在が間もなく現れ、大きな混沌と叫喚がこの地を包む。モスラはそう言いました」

 

「その存在を倒さない限り、ギドラは目覚め、この大地から地球すべてが滅んでしまう。けれど、モスラとバトラが力を合わせても、抗えるかどうか・・・」

 

あまりにも不穏な話に、檜山も緑川も顔を曇らせた。

 

「君たちの話をきくと、つまりこの日本で、間もなくそんな事態が起きる、という意味に聞こえるんだが?」

 

檜山が額に脂汗を滲ませつつ、訊いた。

 

「そうならないように、モスラ、そしてバトラ、がんばります」

 

「いまは、私たちもモスラとバトラを信じるのみです」

 

車内を沈黙が包んだ。一度止んだ雨は霧雨となり、再び奄美の大気を冷やし始めた。

 

NHKに速報のテロップが入り、アナウンサーが原稿を手にした。

 

『ただいま入りましたニュースです。政府は今夜9時を期して、現在和歌山県沖を東へ航行している巨大生物に対し、志摩半島沖南東80キロの海底にて一斉攻撃を仕掛けると発表しました。この決定に伴い、三重県志摩地方、和歌山県沿岸、並びに旧愛知県知多・渥美半島、浜名湾一帯には避難勧告が発令されます。該当区域にお住いの方は自治体、テレビ・ラジオの情報に従い・・・続けてニュースです。海上自衛隊によれば、和歌山県沖の巨大生物は体長から推察した場合、ゴジラである可能性が高まったとして、作戦展開のより一層の・・・・・・』

 

 

 

 

 

 

・同日 17:51 新潟県十日町市小出葵 十日町市立清津倉下小学校

 

 

『時刻は17:51、東京半蔵門のスタジオから吉住紀美子がお伝えします。この時間は通常の放送を変更して、NFN、日本エフエムネットワーク報道特別番組をお送りしております。いま入りましたニュースです。世界各地で相次ぐ怪獣出現により、国連安全保障理事会は緊急招集を決定、日本時間明日午前9時にニューヨーク国連本部にて緊急会合を開催する運びとなりました。ただ米国内の飛行禁止令がいつ解除になるかは現時点で不明のため、開催時刻の遅延も充分に予想されるとのことです。続いてのニュースです。韓国大統領府は、メガギラス襲来による首都ソウル・仁川広域市における犠牲者が3万人を突破、なおも救助要請が絶えないことを踏まえ、首都非常事態宣言を維持したまま首都広域圏の消防・警察を総動員する法律に基づき・・・』

 

ラジオから不穏な情勢が伝えられる中、倉下小学校ただ一人の教諭、棚倉亜由美は猛烈な豪雨に耳を塞ぎながらスマホを耳にしていた。

 

「はい、児童は全員無事です。いま視聴覚室に集めています。ええ、ええ・・・はい、調理実習用の食材がありますから、今晩は大丈夫です。そちらは・・・はい」

 

1時間に260ミリと、この地域では前例がないほどの降雨量は通話先の校長との会話を極めて聞き取りにくくしていた。

 

「わかりました、万が一浸水したら、2階の図書室へ避難させます。はい・・はい・・・」

 

途中で通話がプツリと途切れた。折り返しかけようとしたが、不通を知らせる音が鳴るばかりだ。電波状況を確認すると、圏外と表示されていた。

 

棚倉は想像をめぐらせた。もしかすると、最寄りの基地局も土砂崩れで流されてしまったのだろうか。

 

今日の13時過ぎだった、天気予報通り、あるいは予報を上回る雨が一帯に降り始め、麓と学校を結ぶ唯一の道路である市道389号線が土砂崩れで通行不能となってしまった。

 

ここは観光地である清津峡の近く、市道のどん詰まりに位置しており、周辺は観光客をアテにした土産物屋やドライブインが3軒あるのみ。他は清津川と、このまま新潟・群馬県境にかけて広がる深い山脈が連なるのみ。児童たちは市が運営するスクールバスで麓の集落から通学している。

 

唯一の交通路が塞がれた上、折からの怪獣騒動で観光客が少ないらしく、近隣の店舗はいずれも休業していた。さらに学校のすぐ目の前で別の土砂崩れが発生、電柱が倒され、電気も電話線も寸断されてしまった。

 

そして携帯電話も通じないとなったいま、乾電池で稼働するラジオのみが情報源となってしまった。

 

清津倉下小学校は6年生2名、5年生3名、3年生1名、1年生3名の全校児童9名の学校で、学年の枠を取り払い、校長と教頭を除くとただ一人の教諭である棚倉がクラスを受け持っている。学年間で授業内容は異なるが、校長、教頭も授業に参加し、少ないながらも児童たちが困らないように対応していた。

 

棚倉は大学を出て念願だった小学校教員となり、初任地が想像を絶する僻地であったことに最初は戸惑ったが、学年は違っても児童たちは皆仲が良く、校長も教頭も立場関係なしに授業や行事に協力してくれる。児童の保護者や地元の人たちも非常に好意的で、硬直化した教務体系やいわゆるモンスターペアレントに頭を抱える大学の同期たちとは一線を画した、充実した教師生活を送れていた。

 

だがそんな清津倉下小学校も、今年度をもって閉校が決まっていた。今年卒業する6年生はともかく、下の子たちはスクールバスでここよりさらに麓にある小学校へ統合されるのだ。

 

取り巻く環境は人々も含めて良好だったが、深い山脈地帯の底を流れる清津川に沿った渓谷は、大雨となるとひとたまりもなかった。斜度の高い山々は崩落の危険がつきまとい、清津川はひとたび大雨が降ると荒れ狂うような流れとなる。学校は山から離れた台地にあるため土砂崩れに巻き込まれる心配はないが、土砂崩れによる道路寸断で完全に孤立してしまった上、間の悪いことに校長も教頭も市の教育委員会会合に出席のため、学校には今日一日不在だったのだ。

 

棚倉は不安に押しつぶされそうだった。胃が重たくなり、呼吸が苦しくなったが、ここで自分が不安そうな顔をするわけにはいかない。

 

保護者のお迎えも、スクールバスも望めない以上、今夜は学校に全員で泊まり込むしかない。古い木造建築だが、麓への道はいつまた土砂崩れが発生するかわからない。

 

両頬を叩くと、棚倉は児童たちの元へ向かった。視聴覚室の長椅子にみんな並んで座っていた。

 

「みんなごめん、先生のスマホも繋がらなくなっちゃった」

 

正直に伝え、不安で泣きそうになる子、イマイチ状況が呑み込めない子、どうするか考える子、たった9人でも反応はさまざまだった。

 

「なので、今日はこのまま学校にお泊りしようと思います。ご飯はあるから、こないだみんなで調理実習やったよね?あのときみたいに、みんなでご飯の支度して、明日まで頑張って我慢しよう!明日になったら、きっと助けに来てくれるからね」

 

これほどの雨量だ、明日になっても救助が来るかは未知数だったが、少なくとも雨は夜早い時間に上がる予報だった。事実、18時近くなって雨量は弱くなりつつある。

 

「よし、じゃあみんなでご飯作ろう!一緒に家庭科室にいくよ」

 

「はーい!」と子どもたちは元気に返事をした。年長の子たちが低学年の子たちをしっかりフォローしてくれるのはいつものことだが、この状況下では非常に頼りになる。

 

「ほら、調理実習のときは手を洗って、エプロンするんだよ」

 

「包丁はオレたち使うから、みんな茶碗と皿並べて」

 

先日の調理実習さながら、テキパキと下の子たちに指示する。だが本当は彼らも不安なはずだ。

 

(ここは、私がしっかりしなきゃ)

 

棚倉は決意を込め、右こぶしを握った。

 

「先生、じゃんけんするの?」

 

そんな棚倉を見て、1年生の三友紀ちゃんが無邪気にパーを出してきた。

 

「あはは!そう!先生負けちゃったね」

 

こんなときでも純粋な子どもたちに、棚倉の心はほぐれた。幸いにもガスはプロパンガスなため、煮炊きは可能だ。もう30分もすると陽が落ちて暗くなるが、非常用電灯とろうそくである程度の灯りは保持できる。乾電池も事務室に豊富にあるので、なんとか今晩は乗り切れそうだ。

 

そのとき、携帯ラジオから緊急地震速報が流れた。

 

【緊急地震速報です。強い揺れに警戒してください】

 

棚倉も児童たちも、不快な速報音に凍り付いた。揺れは感じない。

 

とりあえずガスを消し、ラジオの音量を上げた。

 

『ただいま新潟県中越地方で地震が発生しました。新潟県小千谷市で、震度4を観測しました。震源地は・・・震源地は新潟県長岡市沖20キロ、地震の規模を示すマグニチュードは5.0と推定されます。この地震による津波の心配はありません。また稼働停止中の東京電力柏崎刈羽原子力発電所は・・・』

 

小千谷が震度4、ということは、この辺りは大したことはないだろう。棚倉は安堵してガスの火をつけた。

 

緊急地震速報で動揺したのか、小さい子たちに不安の色が見られる。

 

「さ、美味しいの作ろ。みんな、サラダ盛りつけてくれるかな」

 

サラダといってもキャベツの千切りだが、調理自習で学んだように、人数分均等にキャベツを盛りつけ始めた。

 

それにしても、昨日から新潟県沖で地震が相次いでいるのは気になった。もしかしたら、十数年前の新潟県中越、中越沖地震のような強さの揺れが来る前兆だろうか、この雨で地盤は大丈夫だろうか。あるいは・・・今日の昼、韓国から南下して日本海で自衛隊に退治されたメガギラスが生きていて、海底に地震を引き起こしながら動いているのだろうか・・・。努めて明るい表情を作るが、棚倉は頭の片隅に不安の残滓がこびりついていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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