怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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ーChapter 44ー

・7月12日 19:04 新潟県新潟市中央区万代1丁目 新潟交通万代シティバスセンター

 

 

シャトルバスを待つ行列は歩道まで伸びる中、並ぶ人々の誰もがそうであるように新潟大学3年の上坂優也は滲み吹き出る汗をスッキリシートで拭うと、臨時に設置されたゴミ箱に投げ入れた。

 

ファンであるご当地アイドルグループ『GATAKKO』が夏のスーパーライブと銘打ち、新潟市朱鷺メッセで一大イベントを開催するとなり、4日ほど前から講義終了後直行すべ下準備を進めてきた。ゼミの課題を仕上げ、急に頼まれたレポートも死にものぐるいで完成させると、午後5時過ぎには大学を出ることができた。

 

午後6時半からのライブには充分余裕があったのだが、残念ながら努力は無駄になってしまった。ご当地アイドルとはいえ既に全国区人気であるGATAKKOは今日の午前中、在京キー局のワイドショーに出演後新潟へ戻る手筈だったのだが、午後になり新潟県中部に大雨洪水警報が発令された影響で帰路の新幹線が遅れたのだ。

 

1時間開始時刻が遅れたため、近くのカフェで涼んでいたのが運のツキだった。アイスコーヒーを嗜んでいると、自分たちと同じ(ただし容姿では自分の方がはるかに勝っていると自負しているが)GATAKKOファン、通称ガタヲタが臨時シャトルバスに乗るべく行列を作り始めた。

 

慌ててカフェを出たが、開始時刻が遅れたことで却って混雑したのだろう、シャトルバスはおろか近隣バス停である朱鷺メッセ・佐渡汽船行きの路線バスにもガタヲタたちが並び始めた。止むを得ず行列に加わることにしたのだが、バスの乗車率は200%程度だろうか、すし詰め状態で朱鷺メッセへと向かうハメになりそうだ。

 

ふと、優也の数人前に並ぶ男女がやかましくなった。

 

「すみません、やめてください」

 

恐らく自分と同い年くらいの女性2人組に、2人の男性が声をかけているのだ。

 

「いいじゃん、オレらと一緒だと早く着くって絶対」

 

「満員バスに乗りたくねぇろ?」

 

しつこさに辟易したように、女性たちは顔を背けて無視の姿勢を取った。声をかけた男性を優也はよく知っていた。新潟大4年の安城輝羅と、フリーターの栃尾梨杏だった。

 

2人とも相当なガタヲタなのだが、メンバーの自宅を特定して待ち伏せしたり、はたまたとあるメンバーと夜遊びを派手に行っているなどの目撃情報も複数寄せられ、ガタヲタの間でも悪い意味で有名だった。2人とも父親がそれぞれ県議会議員、地元ゼネコンの社長とあって、遊ぶ金には不自由していないのだ。

 

ナンパが上手くいかず舌打ちすると、2人は行列を離れてタクシーをつかまえて走り去った。

 

傍若無人な2人を非難する声がそちらこちらで聞こえたが、やがてバスの順番がやってきた。どうにか乗り込めたが、座席を詰めないと乗り切れないにも関わらず、リュックやバッグを座席に置いて相席を拒否するガタヲタには面喰らう。つり革につかまり、それを退けてくれれば座れるのに、と恨めしそうな視線を向けているとバスは発車した。

 

国道113号線に入ると、夕方のラッシュによるものか渋滞が始まった。ライブ開始まで時間がないのだ、やきもきしながら前方を見ていたとき、バスのフロントガラスに水滴が叩きつけられた。

 

また雨かと運転手が怪訝な顔をした。そのとき、バスの中でもわかるくらいの強風が通りを吹き巡った。

 

少しして強風が収まったが、今度はバス後方から吹きすさんだ。バスの外ではゴミやら帽子が巻き上げられ、歩いている人々がしゃがみこんでいる。

 

やがて前方の車列から人々が降りてきた。何やら上空を指差している。

 

同じように窓から外の様子を伺おうと乗客たちが身をよじらせ、より窮屈になった。バランスを崩してポールに手をかけてバランスを保とうとしたとき、ちょうどフロントガラスの向こう、空の上に何かが動いた。

 

通り全てを覆い尽くすほどの羽根を拡げた紫色の生物が、上空を飛び回っていた。

 

同じように生物を見た乗客たちが騒ぎ始めた。上空を通り過ぎる度に強風が巻き起こり、何人かは車内だがそのまましゃがみ込んだ。

 

もう一度フロントガラス越しに見えたその生物、たしかレポートを作成する合間にスマホのニュースで見たヤツだ。韓国を襲い、自衛隊と米軍、韓国軍のミサイル攻撃で退治されたといっていたが・・・・・。

 

「メガギラスだ!」

 

ガタヲタの1人が叫んだ。そんな名前がついていたとは。

 

車内は騒然となり、バスの運転手は前後のドアを開けた。外へ逃れるべく通路がもみくちゃになり、身体のあちこちを痛めながら優也も外に出た。だが外へ出たところで、安全だという保証もない。

 

ひとまず最寄りの建物へ急ごうとしたとき、足元が揺れた。気のせいかと思ったが、ズン、という音がして強く揺れた。

 

優也、そして周りのガタヲタたちも戸惑い気味に足を止めた。

 

ズン・・・ズン・・・ズン・・・!

 

地の底から鈍い音が響いてくる。周囲の誰もが、夜空を飛び回るメガギラスよりも、足元から聞こえる不気味な重低音に耳を澄ませた。

 

 

 

 

 

 

・同時刻 新潟港上空 BSN新潟放送ヘリコプター

 

 

BSN新潟放送レポーターの佐藤は、眼下に見える朱鷺メッセの賑わいをマイクに伝えていた。

 

「ご覧ください、収容人数を上回るかのようなファンの数!これこそGATAKKO、そして新潟の力、団結力です!」

 

生中継ではなく、今週末に放送枠が設けられた30分の特別番組で放映される映像を撮っているのだ。

 

「本日は日本海に怪獣出現、そして県南地域では豪雨に見舞われる中、中止も検討されましたが、ファンのため、そして新潟のため、GATAKKOたちが今夜、熱唱します!」

 

これは佐藤自身の言葉ではなく、台本である。元々新潟県民でない佐藤にとっては正直どうでもいいイベントなのだが、GATAKKOは県内の複数有力企業がスポンサーになっており、やはり広告収入を見込むBSNとしては無視できないイベントだった。今年の春に北海道STVテレビから移籍して以来、レポーターとしての仕事しかない佐藤にとっては、身の入らない仕事でもしっかりこなさなくてはならなかった。

 

元々、今年にはSTVテレビでアナウンス室主任への昇進が内定していたのだが、去年夏に網走で『死ぬほど恐ろしい目に』遭って以来、PTSDを発症してしまいSTVテレビを退職してしまった。半年ほど療養した後、縁もゆかりもないがここ新潟でレポーターの求人があったことで、この地に移り住むことにしたのだ。

 

自分ほどのキャリアがあれば入社後すぐに主任くらいにはなるだろうと考えていたが、キャリアはあれど最初は新人がこなすような仕事をさせる方針ということで、ここ数ヶ月は県内をドサまわりさせられる日々だった。

 

札幌ではローカルとはいえ夕方に自身の名を冠した番組を持っていたというのに、と腐る気持ちもあるが、まずは与えられる仕事をこなすことに専念、当分は修行だと割り切ることにした。

 

ヘリコプターにも会場の熱気が伝わってくる。ヘリは旋回し、次の台詞を読み上げるべく台本に目を落としたとき、マリンピア日本海水族館の向こうで海が破裂した。黒い海面に白い飛沫が上がったのだ。

 

思わずそちらへ視線を向けると、海面を割って何かが現れた。刺々しい羽根を拡げた、昆虫のようなものが目に入った。だがここから見ても、明らかにヘリコプターよりも大きい。

 

「あれは・・・・・メガギラス?」

 

隣のカメラマンがレンズを目に当てたままつぶやいた。

 

凶悪な面構えを歪ませると、こちらへと向かってきた。

 

「うおおおおー!!」

 

操縦士が怒声を上げながら操縦桿を傾けた。幸いヘリの上空を飛び去ったことで、衝突は免れた。

 

去年の出来事が記憶から呼び起こされ、佐藤は気道が締め付けられるような苦しさを感じた。冗談じゃない、また過呼吸か!そしてまた怪獣か!

 

「間違いない、メガギラスですよアイツは!」

 

ヘリの音に負けじとカメラマンが怒鳴った。

 

「ミサイルでやられたんじゃなかったのかよ!」

 

恐怖を忘れたくて、佐藤は力の限り大きな声を出した。

 

メガギラスは亀田付近まで行くと、羽根を大きくなびかせてまたこちらへと向かってきた。

 

「ぬわわわわー!!」

 

操縦士が絶叫する。一瞬、目の前が強烈な青い光に染められた。

 

明らかに網膜に害のある光だった。全員が手で目を覆った。気がつくとメガギラスはいつの間にかはるか上空に昇っていた。

 

ズン・・・

 

・・・ズン・・・ズン・・・!

 

仄暗い夜の海から、鈍く重い音が響いてきた。佐藤は口の中が一気にカラカラに渇いた。

 

このそこはかとなく気味の悪い音、たしか去年の網走で耳にしたものだ。

 

「まさか」

 

ポツリとつぶやいた。隣のカメラマンが怪訝な顔をした。

 

また、強烈な青い光が網膜を照らした。信濃川河口やや先が鮮やかな青色となり、猛烈な水蒸気が上がった。

 

・・・ドン・・・ドン・・・ドン・・・!

 

音が次第に大きくなってきた。

 

フッと視界を何かが横切った。メガギラスが降下してきたのだ。ヤツは吹き上がる水蒸気に釘付けになっている。

 

耳元で強風が吹いたような音がした。海面から青い光が一直線に放たれたのだ。メガギラスは急回避して、新潟空港方面へ飛び去る。

 

「あああああ・・・・」

 

カメラマンが声にならない声を上げた。海面が十戒の如く割れ、ドス黒い何かが姿を見せた。激しくしたたる海水を振り払うように動く背鰭、そして、忘れもしない、暗闇でもはっきりとわかる、あの白と黒の瞳。

 

重く、そして高い咆哮が響いた。間違いなかった。去年もこの咆哮を直に聞いたのだ。

 

「ゴ、ゴ、・・・ゴジラ・・・!」

 

カメラマンがかすれそうな声で言った。

 

再びあのおぞましい咆哮がヘリを揺らした。慌ててヘリは反転した。あのときと同じだった。あの姿、あのドス黒い塊から少しでも離れないと、急いで逃げねば・・・極めて本能的な退避行動だった。

 

ガタガタと震える歯を鳴らしながら、佐藤は新潟空港上空からメガギラスが滑空してくるのを目撃した。ゆっくり顔を向けたゴジラの背鰭が青い閃光を放った。

 

猛烈な勢いで口から青く太い光の筋が放射された。すんでのところでメガギラスは回避し、行き場を失った光の筋は昭和シェル備蓄基地を直撃した。

 

一気に新潟の夜空が真昼のように明るくなり、押し寄せる熱気に佐藤とカメラマンはたじろいた。爆炎の波は一気に拡大した。円錐形の石油タンク群が連鎖反応を起こすように炎を炸裂させ、膨大な火球が基地施設を呑み込んだ。

 

さらに放射された青い光はメガギラスの軌跡を追うように空を嘗め尽くした。東北電力新潟火力発電所の煙突が一撃で粉砕され、新潟西港、臨海町が文字通り吹き飛ばされた。

 

「ああああああ!!!!!」

 

完全にパニックを起こした佐藤の絶叫は、そのまま拡がる放射熱線が朱鷺メッセ万代島ビルを直撃した爆音にかき消された。日本海側最大の規模と高さを誇る万代島ビルはちょうど真ん中付近が爆砕、支えを失ったビル上部は炎を吹き上げながら落下し、朱鷺メッセコンベンションセンター、そして雪崩のように拡がる瓦礫の津波は万代島美術館から佐渡汽船ターミナルまで一瞬のうちに押し潰してしまった。

 

爆発と轟音に負けぬ咆哮を上げたゴジラは、黒い巨体を前進させた。激しく炎上する臨海地帯と朱鷺メッセの業火に照らされながら、信濃川河口付近より新潟市に上陸した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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