怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

47 / 83
ーChapter 45ー

・7月12日 19:26 東京都千代田区永田町2丁目 首相官邸地下一階 官邸危機管理センター

 

 

新潟港付近よりメガギラス現出との報告がもたらされたのは、2日前に発生した富山湾一帯の小型怪獣群出現および、昨夜発生した桜島噴火に対する激甚災害指定を決定する閣議の設置を協議している最中であった。新潟県庁より報告を受けた総務省自治局及び消防庁は、ただちに所管官庁の長である北島へと報告を上げた。

 

同時に、TBSで新潟市に怪獣出現の速報を流したとの情報も入り、危機管理センターのテレビが点けられたのだが、飛び込んできた映像はメガギラスではなかった。一同青ざめ、センター内の喧騒も静まり返った。

 

紅蓮の炎に照らされた黒くゴツゴツした皮膚、白と黒はっきり識別できる眼、大きく振り上げられた太い尾。60年以上前に東京、大阪、そして昨年やはり東京と浜松、湖西市を灰燼に帰した、恐るべき怪獣・・・。

 

「ゴジラ・・・」

 

そちらこちらから、乾いたつぶやきが上がった。

 

「バカな、和歌山県沖じゃないのか」

 

瀬戸が驚愕と憤りの混じった表情と声色でつぶやいた。

 

「すると、和歌山沖の怪獣は、なんなんだ?」

 

氷堂がつぶやいた。

 

にわかに閣僚周辺が慌ただしくなった。とりわけ総務、国土交通、防衛の各大臣にはペーパーを握った官僚が列をなすほどだった。

 

急遽官邸入りした荒川統合幕僚長が危機管理センター入りしたことで、事態の深刻さがはっきりした。高橋に書類を渡し、報告聴取に追われる各大臣たちの喧騒の中で、荒川は低くそれでいて野太い声で荒川への報告、説明を始めた。

 

「和歌山県沖のゴジラと見られていた怪獣に関しては、改めての詳細調査を命じました。また出現したメガギラスに対しては引き続いて航空戦力を以ての対応を行うとして・・・防衛省の幕僚会議では、かねてより省内でシミュレーションしていた複数の対ゴジラ作戦行動のうち、山岳地帯でのゴジラ封じ込めを骨子とした作戦が最適であると結論が出ました」

 

「すると、幕僚長。作戦Bー02を適用ということだね?」

 

高橋が訊いた。この場に及んではどうぜ閣議で説明するのだから声を潜める必要もないのだが、防衛機密を扱う職務上、つい小声になってしまう。

 

「左様です。山地に囲まれた新潟県の場合、東西南北いずれかの方角へ進行したとしても作戦Bー02での対応が最適と考えられます。また距離的にも、習志野と宇都宮の陸上総隊拠点から移動、作戦実施が充分に可能です」

 

慇懃な口調の荒川に、高橋は頷いた。

 

「わかった。総理始め閣議の席で私から説明する。具体的な作戦行動の立案を至急、頼む」

 

「承知しました」

 

 

 

 

 

・同時刻 新潟県新潟市中央区古町通り8番町 ラウンジ『サードプレイス』

 

 

市内随一の繁華街、古町通にあるラウンジ『サードプレイス』では、午後8時の開店前にママの希美とスタッフの瑛里華が支度をしていたところだった。

 

お通しのスナック盛り合わせを仕込み、制服であるドレスに着替えたとき、東の方から轟音と、猛獣が吼えるような音がした。

 

瑛里華が店の外に出て様子をうかがうと、同じように異様な音と地響きに戸惑う近隣のラウンジやスナック、キャバクラのスタッフや馴染みの居酒屋の大将らが顔を出していた。

 

明るいオレンジ色に染まる方向では、炎が天を突かんとばかりに立ち昇っている。新潟空港、はたまた西港の石油備蓄基地の辺りだろうか。鼻腔を刺すような焦げた臭いが漂い始めた。太鼓を力一杯叩くような音が2、3度響き渡り、都度風船のように炎が膨れ上がった。

 

砂埃がサッと立ち昇り、一陣の風が通りを走った。ネオン越しに空を見ると、何か大きなものが空を舞っている。

 

「おい、瑛里華ちゃん!」

 

向かいの水炊き店の大将が声をかけてきた。

 

「早く逃げなんせ、ゴジラ出たすけ!」

 

「はあ?ゴジラ?」

 

瑛里華が眉を顰めたとき、また耳をつんざくような轟音と、全身に発疹ができるような咆哮が聞こえてきた。何かを破るような大きな音がして、地響き、そしてパラパラと小石のようなものが降ってくる。

 

音がした方を見ると、通りの先、古町12番町辺りに蠢く、黒く大きな何かが見えた。

 

再び風が吹き、空を舞う羽根のようなもものが目に飛び込んでくる。怒号が通りを震わせ、黒い巨体が動いた。

 

これまで報道、そして動画サイトで見た存在でしかなかった、あのゴジラが通りの先にいる。そして空から急接近する、昆虫のような怪獣。

 

周囲の人々は息を呑んで見守っていたが、東堀前通り付近まで迫ったとき、上の階のママが悲鳴をあげた。思い出したようにゴジラと反対方向へ駆け出す人々。瑛里華は店に入ると、誰かと電話してる希美ママの肩をつかんだ。

 

「ママ大変!」

 

ちょうど電話を切った希美ママが、恐怖と困惑を混ぜたような表情で言った。

 

「新藤ちゃんから電話だったの。万代にゴジラが出たって・・・・・」

 

先ほどより激しい地響きがして、2人はよろめいた。水炊きの大将が店の中に駆け込んできた。

 

「あたけねで!逃げねとあぶねぇっけよ!」

 

まだ状況を呑み込めていない希美ママの手を引くと、瑛里華は外に出た。通りいっぱいに人が拡がり、一目散に走っている。地響きはより近づき、ゴジラは10番町付近まで達していた。足元の建物が激しくめくれ上がり、乗り捨てられた車両がおもちゃのように吹き飛ぶばされている。

 

人の流れに従い、とにかく国道116号線方面を目指して走り出す。目の前で横転したサラリーマンをよけると、とにかく瑛里華はママの手を引いた。いま気がついたが、ママはすっかりドレスアップしており、足元がヒールだ。瑛里華はドレスこそ着ているが、靴はスニーカーのままでトラックパンツを履いたままだった。

 

アパホテル前まで走ってきたとき、瑛里華は足を止めた。市のシンボルともいえる高層ビルのNEXT21方面から大勢の人々が駆けてくる上、暴走する車があちこちで衝突事故を起こしていた。地響きはより激しくなってきた。ビルの影で見えないが、ゴジラはここより北側の西堀通り辺りを進んでいるらしかった。

 

とにかく先の萬代橋を渡り、新潟駅方面へ逃れようとしたが、人の多さは年末の渋谷以上だった。萬代橋の方向は人の頭で埋め尽くされ、徒歩よりも動きが遅い。

 

アッ、と瑛里華は声を上げた。新潟空港方面から炎と黒煙が昇り、朱鷺メッセは無残にも途中から消失していた。焦げ臭さは勢いを増し、人の多さも相俟って息苦しい。

 

地面が波打ち、多くの人がよろけた。鼓膜が破れそうな大きい音がして、土煙が周囲に拡がった。反射的に、瑛里華はママの手を引いて大通りを外れ、脇の小道を縫うように信濃川を目指した。逃げる先は、むしろゴジラがやってきた古町10番町、東堀前通りだった。人の流れに逆流するが、全員が同じ方向へ逃れるより安全かもしれない、という咄嗟の判断だった。

 

自分もママもだいぶ息が切れてきたが、死にものぐるいで走るとやがて信濃川河川敷に出た。ここも大勢の避難者が溢れており、皆萬代橋を渡って逃れようとしている。

 

歩きづらいヒールのため、ママは壁にへたり込んだ。瑛里華が肩を支えたとき、再び鼓膜が揺れた。何かキラキラと輝くものが飛散し、土埃が破裂した。瑛里華は希美ママと抱き合い、死を覚悟した。揺れと埃が落ち着くと、河川敷の人々は足が止まっていた。顔や腕、足が赤く染まり、絶叫がこだまする。

 

瑛里華は建物わきから顔をのぞかせた。通りの先に普段見えるはずのNEXT21がなくなっており、ゴジラと昆虫型の怪獣・・・たしかメガギラスとかニュースでやっていた・・・が揉み合い、旧新潟三越が倒壊した。

 

人々は巻き上がったガラスの破片で怪我をしていたのだ。そして、ママが建物にもたれたことで、自分たちは無傷だったのだ。

 

それでも這々の体で河川敷を先へ逃れようとしたとき、猛烈な突風が周囲に拡がった。ゴジラとメガギラスはもみ合ったままホテルオークラ新潟を突き壊すと、萬代橋を押し潰した。バランスを崩したゴジラは信濃川に倒れ、メガギラスは勢い余って対岸のマンションをなぎ倒し、クラウンプラザ新潟に突っ込んだ。轟音と共に破片が周辺に降り注ぎ、瑛里華と希美ママはなす術なく地に伏せた。腕と背中に激しい痛みを感じ、瑛里華は一気に気が遠くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。