怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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ーChapter 46ー

・7月12日 19:36 新潟県新潟市中央区東大通

 

 

新潟大学3年、上坂優也はむせ返るような熱気と息苦しさ漂う国道7号線から一本裏路地へ逃れた。万代島から逃れてきた人の波、そして渋滞に業を煮やし車を捨てて逃げ出す、あるいは反対車線を走行しようと無茶なハンドルさばきをして電柱やガードレールに激突する運転手らの喧騒が少しは静かになる。

 

改めて北の方角を仰いだ優也は短く悲鳴を上げた後、二の句が継げなかった。朱鷺メッセは崩落し、暗闇でもわかるほど太く大きな黒煙が昇っている。愛するGATAKKOが辿った運命は考えるまでもなかった。

 

そして自宅がある臨海町付近は昼間のような明るさの炎が夜空を照らし上げている。もはや騒ぎが落ち着いたとしても、自宅へ帰ることは絶望的だった。

 

警察、救急車、そして消防車両が狂ったようにサイレンを鳴らしながら通りを駆け抜けるが、いずれも逃げ惑う群衆に行く手を阻まれてしまった。大きく木の幹が折れるような音がした。さっき頭上を飛び回っていた怪獣メガギラス、そしてこの目で見るのが信じられないのだが、黒い巨体を揺らしながら万代島に上陸した怪獣、ゴジラが信濃川対岸でもみ合っている。

 

ホテルオークラ新潟を巻き込んで倒れ込んだ2匹は萬代橋を押し潰し、吹き飛んだメガギラスがこちらへ飛んできた。クラウンプラザ新潟に激突し、瓦礫に埋もれるメガギラス。猛烈な土埃は一気に周囲へ拡がり、逃げ惑う人々の視界を奪い去った。

 

目前の埃煙を振り払い視界を確保すると、信濃川にそそり立つ黒い巨体がうなり声を上げていた。背鰭が青く発光し、同じ色の放電現象が起こる。恐怖を覚えるほど鮮やかな青い光だった。

 

背中一面じっとりとした汗をかいた優也が唾を飲み込んだとき、すぐ近くで爆発が起こった。瓦礫から飛び出したメガギラスが目にも止まらぬ速さでゴジラへ向かった。いま気が付いたのだがメガギラスの両腕は鋭利なハサミのようになっているのだ。

 

ゴジラの顔面めがけてハサミを突き刺そうとしたが、すんでのところで回避したゴジラは、口から青い閃光と共に熱線を吐き出した。メガギラスが飛び出したことで、ゴジラの熱線はこちらから闇夜へ飛んでいったことは幸運だった。

 

とにかくこの場から少しでも離れようとしたが、東大通から駅前通りに向けて避難する群衆が合流し、至るところで怒号と悲鳴が上がっていた。おしくら饅頭状態で交差点まで辿り着いたが、目の前がクラクラした。新潟駅までの通りはこれまで以上に人の頭でいっぱいであり、人の流れは新潟駅でせき止められているようだった。

 

左右両方に伸びる自由通路以外に駅を抜ける方法がない上、駅周辺の通りはどこも狭く、これほどの群衆が殺到しては動ける術がなかった。

 

甲高い咆哮が上空から耳に不快な刺激を与えてくる。舞い戻ったメガギラスが空中に滞留していた。やがてゆっくりと羽根を上下に羽ばたかせ始めた。

 

髪の毛が引きちぎられるほどの強風が吹いたかと思うと、耳が痛くなった。優也も周囲の人々も耳をふさいだ。不快な音が物理的に耳を攻撃してきた。

 

羽根の上下運動が激しくなると、やがて目にも止まらぬ速さで羽根が上下する。空気が波となり、メガギラスの真下を叩いた。超高速の振動がそのまま衝撃波となってLoveLa万代、新潟交通バスセンター、新潟日報ビル、新潟伊勢丹を粉砕した。大小無数の瓦礫が降り注ぎ、群衆が身を伏せた。

 

辛うじて歩道橋の陰に身を寄せた優也は、メガギラスがその状態でゴジラの頭上に迫ったところを目撃した。

 

信濃川の水面が派手に波打って堤防を襲い、T・ジョイ新潟万代が粉微塵になったが、ゴジラはうなり声を上げつつ歯ぎしりしている。

 

そのままゴジラの背後へ回り込んだメガギラスは尻尾の先端を尖らせた。獰猛なオオスズメバチの攻撃を思わせる速さでゴジラへ向けて急降下した。

 

ゴジラの咆哮が甲高くなった。メガギラスの尾が背中に刺さったのだ。大きく身をよじるが、メガギラスの尾は簡単には抜けないようで振り回されながらも口元を妖しく歪めている。

 

ふらつきながら八千代橋を川面に沈めたゴジラは、NST新潟総合テレビに倒れ込んだ。引っ張られるようにメガギラスも巻き添えとなり、粉塵の中ゴジラに尾をつかまれた。

 

そのまま乱暴に引っこ抜くと、ゴジラは尾を振り回し、市立南万代小学校にメガギラスを叩きつけた。

 

地面が大きく揺れ、優也たち避難民が倒れ込んだ。また青い光が輝いた。背鰭の放電が激しくなり、大砲を撃つような衝撃音が放たれた。

 

間一髪メガギラスは飛び上がり、的を外した青い熱線が春日町から弁天、そして新潟駅を直撃した。

 

一直線に大爆発が巻き起こり、優也はその場に頭を抱えてしゃがみ込んだ。歩道橋、動かない車列、そして通りにあふれる人々に瓦礫とガラスが燃えながら降り注ぎ、絶叫がこだまする。髪の毛が焦げる臭いがする。

 

轟音が止んできて、倒れた人々のうめき声、そして巨体の咆哮が遠くで聞こえた。メガギラスが燃え盛る炎のはるか上空へ飛び去り、ゴジラが背鰭を揺らしながら後を追い始めたのだ。

 

咳をしながら立ち上がった優也は、左足にズキンとした痛みを感じた。ガラス片が膝下あたりに突き刺さっている。

 

顔を上げて呆然とした。新潟駅万代口は業火に包まれ、群衆が横倒しになっている。嗅いだことのない焦げた臭いがしてくる。

 

痛む足を引きずりながら、とにかく少しでもこの場から離れようとした。だが交差点の先は倒壊したクラウンプラザホテルの瓦礫がすべてを埋め尽くしており、何人かが泣き叫びながら瓦礫の下へ声を上げたり、瓦礫を持ち上げようとしている。

 

優也は瓦礫に歩み寄り、ひしゃげた大きな鉄骨を持ち上げようとする人々に加わった。わけもなく涙が出てきた。

 

 

 

 

 

 

「・・・ちゃん!瑛里華ちゃん!!」

 

聞き覚えのある声でフッと意識が戻った瑛里華は、激痛にうめき声を上げた。

 

「瑛里華ちゃん!!」

 

希美ママが泣きながら自分を揺さぶっていたのだ。脇腹に鈍く強い痛み、そして左腕に焼けるような疼痛がある。

 

「ママ?」

 

吐き気を催すほどの痛みで声がかすれた。希美ママは額から血を流しているが、軽傷らしかった。

 

「瑛里華ちゃん!誰か、誰か救急車ー!」

 

ママの絶叫も、地獄の底から聞こえてくるようなうめき声と風の音で良く聞こえない。

 

顔を倒すと、自分と同じように地面に倒れた人たちが目に入る。数メートル先で倒れている中年の女性は驚愕に見開いたまま動かない。下半身が瓦礫に潰されているらしく、じわじわと赤い血が広がっている。

 

「おお!おおーい!希美ママだぞおー!!」

 

そのとき、水炊き大将の声がして、ドヤドヤと数人が駆け寄ってきた。近隣の飲食店組合の人々だった。

 

「ママ!大丈夫か!?」

 

「あっ、おい、瑛里華ちゃん怪我してるぞー!」

 

「救護班ー!来てくんなせー!!」

 

続々と馴染みある声がして、安心したのか希美ママが抱き着いてワンワン号泣し始めた。

 

 

 

 

 

 

・同日 19:58 鹿児島県奄美大島笠利町 奄美空港

 

 

『間もなく午後8時になりますが、NHKでは予定を変更して、このままニュース7を続けます。お伝えしてます通り先ほど午後7時17分頃、新潟県新潟市に韓国より飛来したメガギラス、そして和歌山県沖太平洋を航行していたと思われたゴジラが続けて現れ、新潟市中央区、西区、南区に甚大な被害が出ております。その後ゴジラとメガギラスは争うように南へ進行し、現在新潟県南蒲原郡田上町に達した模様です。なおゴジラの出現を受け、昨日発生した桜島噴火への対応を協議していた瀬戸内閣総理大臣はそのまま官邸危機管理センターにて緊急の閣議を開催、現在対応を協議中です。なおゴジラ、メガギラスの進行に伴い進路と予想される新潟県南蒲原郡、燕市、三条市、加茂市、見附市に避難指示、長岡市、小千谷市に避難勧告が発令中です。え、いま入りましたニュースです。被災対応に当たる新潟市消防本部及び新潟県警察本部からの情報によると、被害の大きかった新潟市中心部の放射線モリタリングポストに、著しい反応があったとのことです。これを受けて五十公野新潟県知事は・・・・・・』

 

離陸を待つ空港出発ロビーでは、これから東京へ向かおうとする人々がテレビに釘付けになっていた。

 

ここ数日日本を含む世界各地で怪獣出現が報じられたが、ゴジラ出現の報は別格だった。不安そうに連れ合いと語り合う人、テレビとスマホを交互に見て情報収集に努める人、真剣な表情でどこかへ電話している人でいっぱいだ。

 

飛行機へ乗る前に一杯ひっかけようとしていた緑川は、気の抜けたビールもすっかり忘れてテレビに夢中になっている。電話をかけに行った檜山が戻ってきた。

 

「やはりダメだ。佐間野・・・国交大臣含め閣僚には如何なる電話も取り次げないらしい。無理もないがな」

 

ため息混じりに言うと、椅子にかけているミラとリラに視線を向けた。一見眠っているようにも見えるが、固く閉じた目は意思があることを物語っていた。

 

やがて目を開くと立ち上がり、檜山と緑川に近寄ってきた。青白い顔をしてテレビに映る黒い巨体を見た。

 

「ずっと気になってたんだが、もしかしてお前たち、ゴジラを知らないのか?」

 

檜山が訊いた。これまで彼女たちからモスラ・バトラだダガーラだベヒモスだといった怪獣たちの名前は聞いていたが、思えばゴジラの名前が出てこなかったのだ。

 

「「ゴジラ・・・・・」」

 

力なくつぶやくミラとリラ。

 

「ねえ、モスラは何か話してたの?」

 

緑川が訊いたが、息を吸い込んだまま表情が硬い。

 

「こんな恐ろしい存在が、この世界に存在してるなんて・・・」

 

リラが絞りだすような声でつぶやいた。

 

「ダガーラともメガニューラとも・・・いえギドラとも違う。禍々しい波動を感じます」

 

ミラが2人に顔を向けた。

 

「言われてみれば、ゴジラは君たちの時代には存在しなかったんだろうな」

 

檜山は自分で言って納得した。

 

「この、ゴジラという存在はどうして産まれたのですか?これほどまでに慄き恐るべき存在を、地球が自然に育んだとは思えません」

 

「この時代の文明は、かつての文明よりも恐ろしい神を作り出したのでしょうか?」

 

2人の問いかけに、檜山も緑川も説明に窮した。

 

「話せば、長くなるんだけれど・・・それより、モスラは?」

 

「「到来を拒否しました」」

 

「・・・なんだって?」

 

「モスラは、相手がどうであれ戦うと言いましたが、私たちは来ないで、と説得したのです」

 

「モスラでもバトラでも・・・いえ2匹がかりでも敵いそうにありません。そんな相手に、みすみす死ににいくようなものです。来てはダメ、と祈りました」

 

緑川は絶句し、檜山はテレビに映る、古代文明の申し子すら戦慄する化け物を見遣った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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