怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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ーChapter 47ー

・7月12日 20:43 東京都千代田区永田町2丁目 首相官邸地下一階 官邸危機管理センター

 

 

「現在、新潟県内を進行中のゴジラに対し、かねてより防衛省内、並びに自衛隊幹部幕僚会議にて立案されたいくつかの作戦群のうち、出現地域、並びに予想進路を複合的に勘案した結果、対ゴジラ作戦B-02号の適用を提案いたします」

 

緊急安全保障会議の場において、高橋が時折メモに目を落としながら話した。

 

「具体的な作戦内容は、どのようなものですか?」

 

望月がうかがいがちに目を細めた。

 

「そちらに関しては、わたくしから」と、荒川統合幕僚長が挙手した。

 

「山岳地帯への侵攻を想定し、地の利を活かしたゴジラ封じ込め、及び動作を停止したところへの集中攻撃によって撃滅を図ることを目的とした作戦であります」

 

具体的には、と言いかけたところで、すかさず防衛省の官僚がA4の冊子を閣僚に配布した。

 

「まず、ゴジラを山岳地帯の溪谷、あるいは尾根の谷間へ誘導します。こちらの誘導は木更津と八戸の混成ヘリコプター隊が行いますが、指定された地点にゴジラが達した際、陸上総隊隷下の特殊作戦群、並びに第一空挺団により・・・資料3ページにある99式高性能単一指向性破裂弾、通称ブラスト・ボムを複数設置いたします。これによりゴジラへの直接攻撃を行うと共に、両側の尾根に仕掛けられた埋没式破裂弾を爆破することで、人工的に山崩れを誘発させます。多量の土砂によってゴジラの動きを封じたところへ、三沢基地所属のF2支援戦闘機による集中爆撃を敢行することで、ゴジラの行動を封じることを骨子とします。併せて、ゴジラと並走するように飛行するメガギラスに対しても、ゴジラ要撃地点付近にて航空攻撃を実行します」

 

普段から慇懃な荒川の説明に得心したように頷く閣僚、柳を筆頭に、効果に疑問を感じ首を傾げる閣僚、あるいは北島や佐間野のように、作戦実施に伴う住民の避難活動、交通機関への影響を懸念する閣僚など、反応は様々だった。

 

「防衛大臣、統合幕僚長。まず確認したいのだが」

 

瀬戸が口を開いた。

 

「この作戦によって、ゴジラを倒すことは可能だろうか?」

 

瀬戸だけではなく、誰もがまず疑問に感じたことだった。

 

「忌憚なく申し上げますが」と、実直な荒川は前置きをした。

 

「現時点では、このブラスト・ボムをゴジラに対して使用した実績がなく、効果の程は不確定要素が存在します。とはいえこのブラスト・ボムは、厚さ10メートルのコンクリート壁すら破裂させるほどの威力があることを実験で立証しておりますので、複数同時に炸裂することにより、ゴジラへの損害を多大なものにできると考えられます。また山崩れによるゴジラ封じ込めにより、少なくともある程度の侵攻阻止を果たすことは期待できます」

 

「しかしだねえ、去年の浜松では、ゴジラにはヘリのミサイルも富士からの誘導弾も効果なかったじゃないか。私はピンとこないがねえ」

 

柳が口を尖らせた。

 

「柳大臣、この作戦はゴジラ駆除も目的としておりますが、何よりも侵攻阻止を主眼としています。第一、戦車及び機動戦闘車、特科大隊の榴弾砲隊を配備するには、距離も時間も足りないのです。現状では、この作戦が機動性・即応性含めもっとも適当だと考えられます」

 

高橋がフォローしたが、柳は面白くなさそうに目をつむった。

 

「効果の程は別にして、この作戦、具体的にどこで実行に移されるのですか?それにより、該当地域の避難徹底を図る必要があるのですが」

 

北島が訊いた。

 

「作戦実行地帯はいま少し検討の余地があります。現在ゴジラは三条市まで達しましたが、予想進路の確定にはより詳細な分析が必要とされます」

 

「わかりました。作戦実行となった場合、避難指示の範囲が拡大される上、地元自治体との協議が必要です。総務省としては、可及的速やかなご検討を望みます」

 

北島の要望を受けて荒川は頷き、高橋は実行地帯の特定を急がせるよう村田に目配せした。

 

「総務大臣、新潟での避難は順調かね?」

 

瀬戸に訊かれ、北島はさきほど巡ってきたメモに目を向けた。

 

「避難指示が長岡、小千谷市へと拡大したことで、各地で交通渋滞、避難所の収容能力が限界を迎えるなど混乱が生じています。対象地域をより絞ることが可能であれば良いのですが、ゴジラとメガギラスがどこを目指しているか不明なため、一元的な発令しかできかねる状態です。逆に、独居世帯、高齢世帯を中心に、避難指示が出ても避難を拒む例もいくつか報告されています」

 

「生ぬるいこと言ってないで、さっさと避難命令を出せば良いだろう。こういうときは有無を言わせず避難所へ引っ張り出さんと」

 

柳の野次に、北島は険しい視線を向けた。

 

「我が国には避難命令のような、行政によって避難を強制する制度は存在しません。それに地震や台風と異なり、どこへ向かうかわからないゴジラのような怪獣出現による避難活動はある程度の『ブレ幅』が必要だと、昨年の閣議で決定したはずですが」

 

この無知で浅はかな老人を、いますぐにでも叩き出してやりたい衝動を、北島は抑え込んだ。

 

「とはいえ、せめてゴジラの進路がある程度予想ができればありがたいことはたしかです。それによって運行・通行が可能な交通機関・道路の活用が検討できますから」

 

佐間野は腕組みをして、北島と高橋に視線を向けた。

 

「それに関して・・・・・有識者をお招きできました」

 

岡本文科相があわてた様子の所管官僚からメモを受け取り、思わず立ち上がった。

 

「京都大学の尾形大助教授が到着されました」

 

米沢が危機管理センターに尾形を招き入れた。閣僚たちは立ち上がると、尾形を出迎えた。

 

「尾形先生、ご足労をおかけしまして」

 

そう言って頭を下げる望月に、尾形は一礼をして返した。メガギラス出現によって東アジア全域における商用航空便飛行停止措置が発令されたが、外務省が手を尽くし、たまたま日本へ戻ろうとプライベートジェットに搭乗していた在大阪カナダ領事の便に尾形を同乗させてもらい、商業便よりもやや早く日本へ戻ることが叶った。

 

ちょうど羽田に到着したタイミングでゴジラ出現の報告がもたらされ、外務省と文科省で尾形を安全保障会議へ招集することにしたのだ。

 

「お疲れのところ、誠に恐れ入ります」

 

氷堂が頭を下げた。

 

「いえ。それより、羽田からの車内で詳細はうかがいました。ゴジラの進路予想に関して、ですか」

 

尾形が言うと、特に高橋と佐間野、北島が感心強い視線を送った。

 

「・・・では、まずはこちらのモニターにご注目ください」

 

尾形が言うと、官邸の職員がモニターにとある写真をいくつか表示させた。いずれも白黒写真であり、停電したのか暗いビル街、ひときわ明るく目立つ火災、そして川を巻き上げながら争い合うゴジラとアンギラスが写っていた。

 

「これらは65年前、大阪に現れた2頭目のゴジラを捉えた写真です。ご覧の通り、大阪湾から上陸したゴジラとアンギラスは、淀川を遡上しながら内陸部に達し、中之島から大阪城へと到達したところでゴジラが勝利しました。その後、こちら右下の写真にある通り、ゴジラは淀川を下って大阪湾へ逃れました」

 

「尾形先生、65年も前の写真を引き合いにして、要するに何を言いたいのですかな」

 

瀬戸と望月以外には誰にでも不平をぶつける柳が、忌々しそうに毒づいた。

 

「ちょっと待って」と、北島が写真に集中した。

 

「・・・ゴジラは、いずれも淀川を移動している・・・・?」

 

そうつぶやいた高橋に、「その通りです」と、尾形は言った。

 

「便宜上、私はこの個体を2代目と呼称しておりますが、一番初めに東京を襲撃し東京湾底に沈んだ初代と異なり、移動経路がある程度一定しています。かつて水棲生物だった頃の名残なのでしょうか、2代目は水のある場所を好んで移動していると考えられます。もちろん、仮説の域は出ませんし、昨年の東京・浜松でも上陸後すぐ会敵したためなお議論の余地はありますが、今回新潟から上陸したゴジラの経路をご覧いただきたいと思います」

 

おそらく移動の車内で書いたものだろう、手書きの簡素な地図にゴジラが進んだ経路が表示された。

 

「そうか、今回ゴジラは上陸後、ほぼ信濃川に沿って進んでいる・・・」

 

佐間野のつぶやきに、尾形は我が意を得たりと頷いた。

 

「申し上げたように、仮説の域を出ませんが、より確度が高まったと私は考えております」

 

尾形が話す間、高橋は最新のゴジラ侵攻地点を問い合わせた。

 

「20:42現在、ゴジラは燕市を侵攻中。やはり、信濃川を南下しているとのことです」

 

高橋の報告に、北島が挙手した。

 

「すると、ゴジラは今後も信濃川を遡上するように侵攻する、と考えてよろしいのですか?」

 

「ええ。私はそう見てます。そして今後ゴジラがさらに侵攻した場合、ここが分岐となると考えられます」

 

表示されたグーグルマップのとある地点を、尾形は指した。

 

「長岡市、小千谷市を通過後、ここ越後川口付近で信濃川が分岐します。ここからJR飯山線に沿うように長野方面へ向かうか、はたまた魚野川に沿って魚沼・越後湯沢方面に抜けるか・・・私は後者を推します。なぜならば、いずれの方角へ進んだ場合も山脈地帯にぶつかりますが、地形上もっともゴジラが進みやすいのは、この地点だからです」

 

次に指したのは、新潟県南部・清津峡だった。

 

「険しい谷間ではありますが、川沿いを進むとなった場合、このルートになることでしょう。三国峠を超えるとは思えませんし、長野方面である津南・飯山よりも進みやすいはずです」

 

尾形の話は仮説の域を出なかったが、これまでのゴジラの行動からすると説得力があった。高橋と荒川はただちに作戦実施地点の特定にかかり、北島は消防庁担当者と該当区域の避難状況に関して素早く打ち合わせた。

 

「それであれば、信濃川沿いに避難指示を徹底させることで、地元自治体の避難対応における負担は軽減されます」

 

北島に続き、高橋が手を挙げた。

 

「現在、作戦を実施する特殊作戦群と第一空挺団が入間で合流、群馬県相馬原駐屯地を目指しています。相馬原からであれば、ゴジラがいずれかの地域に進んだとしても作戦展開・実施が可能です。陸上総隊指令部には、各所の地形を調査し作戦に当たるよう、通達しました」

 

ある程度だが先が見えたことで、閣僚たちは活気づいた。

 

「現在新潟県南部には、大雨洪水警報が発令中です。現在も十日町市と越後湯沢で一時間に200ミリを超える雨量が観測されていますが、警報発令に伴い既に避難が為されています。作戦実施による避難活動もスムーズに進むと考えられます」

 

気象庁の担当官と話した佐間野が答えた。

 

そのとき、血相を変えた官邸と防衛省の官僚がメモを握って高橋に駆け寄った。

 

「なにッ・・・!海上自衛隊横須賀総監部より緊急連絡です。志摩半島沖で巨大生物警戒に当たっていた護衛艦はたかぜといずもが沈没、海中を航行していた潜水艦群にも損害が出た模様」

 

続いて、青い顔をした佐間野が発言した。

 

「三重県志摩市に津波到達、高さ8メートル。気象庁より、東海地方沿岸に大津波警報が発令されました」

 

北島にも、消防庁の職員が駆け寄った。

 

「和歌山県那智勝浦町、新宮市に津波被害。未確認ですが、旧浜松市・湖西市にも津波が到達したとの情報が寄せられています!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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