怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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ーChapter 49ー

・7月13日 3:20 新潟県中魚沼郡津南町下船渡 津南町文化センター

 

 

「田沢地区と堀ノ内地区は・・・了解、避難完了な。あと、西田尻と倉俣は・・・ひっちゃかめっちゃかか。よし、引き続いて確認頼むすけ」

 

自家発電機のエンジン音に片耳を塞ぎながら通話を終えると、十日町市防災安全課長の相山慎平は建物を出て、続々と避難者が集まる文化センター駐車場に目を馳せた。

 

ゴジラが新潟市に出現した際、市役所で折からの豪雨災害指揮を執っていた相山だったが、ゴジラの進行方向によっては十日町市への襲来が予想されたこと、総務省及び新潟県庁から信濃川・清津川沿いの避難徹底を要請されたこともあり、主に河川沿いの指定避難所となっている行政センター、小中学校から別な避難場所への選定・移動計画を速やかに作成、実行に当たっていた。

 

河川流域地域避難徹底要請が出されたことは、信濃川沿いに街が開けた十日町市にとって街を捨てることに他ならなかったが、豪雨によってある程度避難が進んでいたことは助けにもなった。そもそも信濃川の水位が増しており、住民の抵抗が予想よりも少なかったことは幸いと言えた。

 

午前1時過ぎ、ゴジラの十日町市侵入が決定的となったころには、最大の人口を有する市の中心部から国道253号線を経て塩沢地域、湯沢地域への避難を済ますことができていた。その先で予想進路とされる清津川流域は上流からの土石流に加えて土砂崩れが至る所で発生していたことで道路の寸断、停電が生じていた。石打方面へ逃れられる国道353号線が土砂によって封じられてしまったため、避難経路が断たれてしまったのだ。そこで近隣の津南町へ避難受け入れを要請したところ、津南町はこれを了承。十日町警察署と連携し飯山方面への二車線一方通行という交通規制が行われた国道117号線を利用して避難を図ったことで、十日町市南部の避難も順調に進んでいた。

 

だが津南町も豪雨によって生じた土砂崩れで町内全域が停電しており、自家発電による不安定な電力供給では有線による電話・ネット回線が心許なく、市内各所及び県庁、警察・消防との通信は各々携帯電話に頼るしかない有様だった。

 

「慎ちゃん」

 

背後から声をかけられた。消防の合羽を着用した同級生の芳沢順だった。

 

「おお分団長。避難誘導おごったね」

 

「だすけさー、ばか雨降ったすけよぉ。でも上がってくれたのが何よりでぇがて」

 

芳沢が言う通りだった。日付が変わる頃には雨が上がり、3時を回ったころには雲も晴れて星空が見えてきた。

 

豪雨によって大地も空気も冷やされ、夏にも関わらず肌寒かった。半そでで避難している中学生たちが両腕をさすりながら車を降りて、避難所として開放された文化センターや商工会議所へ入っていく。

 

「慎ちゃん、避難の目処はついたがい?」

 

「おお、西田尻と倉俣地区の安否確認できれば完了だすけ」

 

「あそこばか土砂崩れ起きてひっちゃかめっちゃかだすけよぉ、あっちの分団ごーぎに忙しかったがーて」

 

「しかもゴジラ、そっちへ向かうって県警から連絡きたすけよぉ、確認急がしてぇがーて」

 

事態は深刻だったが、相山も芳沢も同級生同士顔を合わせたことで、避難の混乱が続いた中で一息つけられた気分になった。

 

そのとき、商工会議所の玄関が騒がしくなった。誰かが大声を上げ、眠たい目をこすりながら会議所の職員がこちらを指さしていた。

 

「あれ?あのおんつぁ、倉下小学校の田口校長先生でねすか?」

 

芳沢が言った。あちらも気が付いたらしく、こちらへ駆け寄ってきた。

 

「相山課長ー!おごったー!!」

 

「どんげしたの校長先生、でぇっこい声出してぇ?」

 

駆け寄ってきた田口校長は、息も切れ切れに話し始めた。

 

「あ・・・あれ、消防と警察よばってくんなせや!」

 

「先生落ち着いて。どんげしたのよ?」

 

校長の勢いを落ち着かせるべく、相山は穏やかな声色で訊いた。

 

「しょ、小学校に児童9人と、棚倉先生が取り残されてるんらて」

 

「えっ!?どうしょば・・・」

 

相山は芳沢を見遣った。芳沢も愕然とした表情をしていた。倉下小学校は県道389号線、清津峡手前にあり、当の389号線は道中至る所で土砂崩れが報告されていた。そのうえ清津川と山の畝から流れる支流の水量は危険水位を迎えており、夜間ということもあり、二次災害を防ぐべく下流域で侵入を防いでいたのだ。

 

加えて清津峡は自衛隊によるゴジラ要撃地点に指定されたこともあり、午前2時過ぎから自衛隊の特殊部隊がヘリで降下し、攻撃の準備を進めていると通達があった。

 

「たしかあそこの子ら、西田尻地区から通学してたすけ・・・」

 

芳沢がつぶやいた。

 

「親御さんたちの何人かが県道上ったんだけども、ちっとばかも進まねぇて。土砂崩れひどくて・・・」

 

息切れしながらもそう話す校長。芳沢は消防無線で清津地区の分団に連絡を取ってみた。

 

「ダメだ、つながんねぇすけ」

 

「課長、何とかしてくんなせ!子どもらと棚倉先生危ねぇすけ!」

 

必死の形相で迫る校長。とにかく県庁へ連絡をしようと電話を手に持ったとき、電話がなった。新潟県庁からだった。

 

「十日町、相山です・・・。えっ!ゴジラが清津川へ進みだして・・・夜明けを期して攻撃!?」

 

相山は東の空を仰いだ。うっすらと明るくなりつつあり、夜の闇が押し出され始めていた。

 

風が心なしか強くなってきた。清津峡の方を向くと、まだ暗い空に点が見える。そしてその点は、ゆらゆらと空を舞っている。かすかに猛獣の吼えるような声がした。そして、地の底から聞こえてくるような、ズン・・・ズン・・・という、不気味な振動音。

 

空がけたたましくなった。明け方の空に、戦闘機の爆音が響き出した。

 

 

 

 

 

 

・同日 3:34 東京都大田区羽田空港3丁目 羽田エクセルホテル東急

 

 

うつらうつらとベッドの中でまどろんでいた檜山は、隣室の緑川から電話を受けたことで飛び起きた。

 

羽田に到着したのは昨夜23時近かった。当初はその日のうちに緑川の知り合いである興信所の社長と雑誌『UTOPIA』担当者に落ち合う予定だったが、夜遅くなったことと、雑誌記者が取材の精査を行わせてほしいと要請してきたことで、一晩羽田に宿泊し翌朝合流することとした。

 

熱いシャワーを浴びて床についたが、まんじりともできなかった。ゴジラが新潟県を縦断して未明に掃討作戦が開始されると繰り返すニュースが気になること、そして隣室の姉妹も気になっていた。

 

同じ人間なのだろうが、夜はしっかり休むのだろうか、モスラと交信することで疲れてはしないか、気になるというか、心配してしまうのだ。

 

それでも明け方になり、意識が飛び飛びしていた矢先だった。

 

「どうした?」

 

『起こしてごめんなさい。ちょっと来てもらえる?ミラとリラがケンカしてるの』

 

どうにもため息が出そうだった。昔、宿直先へ妻の美佐枝が娘二人のケンカ仲裁してほしい、と夜中にしてきたことを思い出した。

 

ホテルのガウンを羽織ると、一杯の水を飲んで隣室へ向かった。緑川が出迎えて室内へ入ると、檜山が想像していたケンカではなかった。

 

自身の娘である真希と真子は普段とても仲が良いが、ひとたびケンカとなれば取っ組み合いひっかき合いのケンカを繰り広げる。だがミラとリラは互いに向かい合い、ミラがリラの肩に手をかけていた。リラは泣いていた。

 

「私、そんなの我慢できない・・・。ミラはモスラもバトラも死んでしまって良いの?」

 

涙声のリラだったが、そんなリラをミラが窘めているようだった。

 

「リラ、私だってモスラもバトラも大事だよ。でも、モスラはどうしてもゴジラと戦うって話してる。守らなきゃいけない命があるから戦うんだよ」

 

「でも・・・でも・・・」

 

「思い出して。私たちに古来から伝わる伝承を。モスラは、自分よりも他者を愛し大事にする私たちを守ってくれる存在だって。皆が大事な人を命に換えても守るんなら、私はそんな皆を守ります、って。守るために傷ついた私たちの祖先を、優しく癒してくれたことを。やっぱり、私たちが何を言っても、モスラは私たちを暖かく守ってくれるんだよ。もう一度考えようよ?私たちは、モスラの無事を祈ることも大切だけど、私たちのために戦い傷ついてしまうモスラのために祈るのが使命なんだよ?」

 

リラは相変わらず涙を流すが、やがて泣きながらも頷いた。ミラはそんなリラを抱きしめると、リラを促し、檜山と緑川に向き直った。

 

「「檜山さん、緑川さん。やはり、モスラもバトラも戦います。いまから、ゴジラとメガギラスが争う地へ向かいます」」

 

2人はいつの間にか、普段の使命感溢れた巫女の顔になっていた。

 

「「でも、勝てないかもしれないけど・・・きっと負けません。負けないように私たちが祈ります」」

 

そう言うと、ベッドの上にひざまづき、目を閉じて祈り始めた。悲壮感、あるいは必死ともいえる覚悟を込めた祈りなのだろうが、不思議と心が安らぐような心地を檜山と緑川は感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※おごった → 大変だ
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