起き上がったゴジラは、金色の鱗粉が舞い飛ぶ中、太陽のように輝くモスラを睨みつけた。
突然の闖入者に戸惑いつつも発した放射能熱線がはじき返され、睨みつつも様子をうかがう。
モスラは大きく羽根を拡げ、真下の小学校を守るように浮遊している。ゆっくりと羽根をはばたかせつつ、西側の山腹尾根に移動する。
ゴジラは動き出したモスラに反応して一瞬背鰭を光らせたが、すぐにエネルギーをひっこめた。
モスラはゆっくりと学校から遠ざかると、より多くの鱗粉を発した。羽根から輝きながら鱗粉が舞い散り、ゴジラの周囲に降りかかる。ゴジラの全身がまばらながらも鱗粉に覆われた。
まとわりつく鱗粉そのものには特に効果がなく、ゴジラは訝し気に唸り声を上げる。
そのとき、モスラの触覚が揺れ出した。ふわふわと揺れる触覚からは、肉眼では確認できず聴覚にも反応はないが超音波が発せられているのだ。空気を伝播しながら強く振動する音波は、目標目掛けて放たれている。
ゴジラが大きく呻いた。全身、まとわりついた鱗粉から白煙が昇り始め、苦しげに吼えながら上半身を上下させる。
モスラは触覚からの超音波出力を上げた。鱗粉も超音波も、それぞれ単体では特に害はないが、対象に鱗粉をまとわりつけた上で超音波を当てることにより、鱗粉が原子レベルで振動する。これにより相手を原子振動熱で攻撃することができるのだ。
ゴジラの全身から圧力鍋のような音が出始めた。苦しそうに咆哮すると、もんどり打って山に倒れた。
モスラはその機を逃さず、ゴジラの背後に回った。尻尾を脚でつかみ、浮上した。ゴジラは振動熱に苦しみつつ、モスラに引きずられて学校からさらに奥地へ引きずられていく。
ゴジラほどの巨体が引きずられたため大地が連動して揺れ、体育館に潜んだ棚倉と児童たちは倉庫の中で抱き合って伏せた。やがて揺れは遠ざかっていく。
学校からやや離れたところでゴジラを放すと、モスラはさらに鱗粉を放った。清津川の流れでゴジラの身体から鱗粉がある程度洗い流されたのだが、再び鱗粉にまみれたところで超音波を放出する。
たまらず尻尾をのたうち、甲高い咆哮を上げるゴジラ。怒りに任せて放射能熱線を放つが、太く青い光の筋はモスラの鱗粉に直撃すると、幾何学模様を描いて分散、断続的にゴジラに跳ね返った。
自身が発した熱線に全身を穿たれ、ゴジラは怒りと苦痛に大きく吼える。モスラは降下しながら速度を上げ、ゴジラの顔面に体当たりした。
仰向けにひっくり返り、清津峡溪谷にもんどり打つゴジラ。夜が明けて快晴だが、昨晩降り続いた雨は渓谷の土砂を緩くしていた。
土砂と岩石がゴジラに雪崩れ、うざったそうにのた打つ。モスラの超音波振動波は容赦せずゴジラに降り注ぎ、ゴジラと、鱗粉が混ざった川の水を熱した。濁流は猛烈な水蒸気となって舞い上がり、鱗粉が付着した岩石は融解し始めた。
疎ましげに尻尾を振り上げるゴジラだったが、モスラは尻尾を回避すると攻撃の届かない辺りまで上昇し、絶え間なく鱗粉を放ちだした。
なす術なく渓谷で苦しむゴジラと、鱗粉大盤振る舞いのモスラの上空では、逃げ回るメガギラスをバトラが追っていた。
飛行速度はほぼ互角だが、空間を縦横無尽に動き回るメガギラスの回避能力を前にして、バトラは自慢のプリズムレーザー攻撃が当たらず終いだった。
限られた時間ではあるが、メガギラスは瞬間移動の如く素早い回避行動を取ることができるのだ。従って狙いを定めて攻撃を放っても、着弾したかと思いきやまったく別なところに鎮座している。
この驚異的な回避能力にはゴジラも手を焼いていたのだが、バトラはメガギラスと同じく飛行能力を持っている。そして少なくとも動体視力では、バトラはゴジラを上回っていた。
両目からプリズムレーザーを放ちつつ、メガギラスに接近する。次々と避けたメガギラスだったが、バトラが接近すると急速移動を始めた。
一瞬にして視界から消えたメガギラスにバトラが戸惑った瞬間、バトラは苦痛に呻いた。
メガギラスが下方から急接近し、尾の先端をバトラの腹部に突き刺したのだ。
黄色い血液が流れだした。メガギラスは刺した尾からバトラの血液を吸収し始めた。
苦しみの咆哮を上げるバトラと、眼を細めて嗤うように表情を歪めるメガギラス。
だが次の瞬間、メガギラスは笑う目を大きく見開いた。
バトラが拡げた羽根から、紫色の雷撃が放たれた。プリズムレーザーほどの威力はないが、近接戦闘で放てるバトラのエネルギー放出だった。
今度はメガギラスが苦しげに吼えた。バトラは5本の脚でメガギラスの尾を引き抜くと、固い顎でメガギラスの左腕を咥えた。
金属がこすれ合うような鋭い音が響き、バトラの顎がメガギラスの左腕を噛み破った。
絶叫を上げて蛇行するように離れていくメガギラスを、バトラは追った。レーザーを回避する能力は失われていないが、動きが鈍り始めていた。
一方、モスラによる絶え間のない超音波振動熱攻撃で、とうとうゴジラは動きを止めた。全身から湯気が立ち昇り、ゴジラの周囲は濁流が蒸発していた。
モスラは用心のために鱗粉を放出しながらも、ゴジラをさらに上流へ運ぶべく尻尾に近寄った。夜明け前に自衛隊が設置した指向性爆弾の存在を、モスラは感じ取っていた。そこまでゴジラの巨体を持っていけば、ゴジラに強烈な爆風が四方から炸裂することになる。
尻尾をつかもうとしたとき、動かなかったゴジラが泰然と身を反転させた。怒りに歯を震わせ、怒号を上げる。
モスラは上昇しつつも、鱗粉をゴジラの全身に降りかける。ゴジラの背鰭が青く光った。だが発光が青から白く変わったことにモスラが気づいたとき、ゴジラは怒声と共に口を大きく開けた。
だがゴジラの口から溢れ出たのはチェレンコフ光によって彩られた青く太い放射能熱線ではなかった。
昨年、ガイガンとの決戦で身に着けた熱線攻撃より以前、従来より口から発していた灼熱の吐息、白熱光だった。
空気を伝播する白熱光はモスラの鱗粉に反射せず、モスラの胴体と羽根に炸裂した。
モスラは悲鳴を上げ、力なく清津峡尾根に落下した。胴体は焼け爛れ、羽根はところどころが燃え上がっている。
熱傷に苦しみつつ、斜面をゆっくりと登ろうとしたモスラに、ゴジラは怒りに任せ尻尾を振り下ろした。
大地を割るほどの一撃が加わり、モスラの悲鳴が渓谷に木霊する。続けて尻尾を振り下ろし、一撃によって生じた振動によって大規模な土砂崩れが発生した。
モスラの身体は土砂と共に滑り落ち、溪谷に雪崩れ込んだ。全身を震わせながら再び飛び立とうとするモスラだったが、背部に強烈な一槌が食い込んだ。
ゴジラが右脚でモスラを踏みつけたのだ。
苦しさのあまり絶叫するモスラ。ゴジラは一切の躊躇なく、振り上げた脚をモスラに叩きつける。
そのとき、ゴジラの右頸部が爆発した。
一瞬の出来事に戸惑ったゴジラは、背鰭付近に何かが炸裂したのを感じた。
顔を上げると、バトラが真っ逆さまに降下しながらプリズムレーザーを放ってきた。モスラの悲鳴を聞きつけたのだ。
新たな敵に怒り、ゴジラは放射能熱線を放つ。バトラは回避し、ゴジラは背を向けたバトラを追撃しようとしたとき、背後に気配を感じた。
混乱に乗じてメガギラスが尾を尖らせて迫ってきた。バトラに放とうとした熱線をそのまま振り向き様に放つ。サッと回避したメガギラスだったが、別な敵の存在を失念していた。避け切ったところに、バトラのプリズムレーザーが炸裂したのだ。
右腕が弾け飛び、火花を散らしながらメガギラスは落下した。そこはちょうど、ゴジラ迎撃のために指向性爆弾ブラスト・ボムが複数設置された場所だった。
渓谷に閃光が走り、猛烈な爆風はすべて一直線に罠にかかった獲物に直撃した。あまりの威力に周囲の山が地滑りを起こし、爆煙が渓谷を包んだ。
ゴジラは唸り声を上げつつ、爆発が収まったところへ歩み寄った。
いままで自身を翻弄していたメガギラスは尻尾が喪われ、両方の羽根があちこち穿たれていた。
口から紫色の血液を噴き出しながら、降り注いだ土砂から逃れようともがくメガギラスを、青い光が包んだ。
背中を青く光らせたゴジラが近寄り、ゴジラの口が一気に青くなった。
大きく見開かれたメガギラスの目に、猛烈な放射能熱線が炸裂した。一気に全身が焼かれ、メガギラスは自身を埋め尽くした大量の土砂ごと吹き飛ばされた。火柱が天高く立ち昇り、ゴジラは勝利の歓びを上げるかの如く、何度も大きく吼えた。
燃え上がるメガギラスと山林から首を反転させ、溪谷に落ち微かに羽根をバタつかせるモスラを向いた。
もはや自身より低い場所にいれば、鱗粉攻撃も放てまい。
ゴジラは怒りに歯を鳴らし、背鰭を発光させた。口いっぱいに青い光が拡がった。