唸り声と共に口から熱線を放射しようとしたゴジラだったが、首筋に紫色のプリズムレーザーが直撃した。
バトラが高速で接近しつつ、ゴジラに注意を向けさせた。振り向いた頃にはゴジラの頭上を通過し、急旋回してレーザーを放つ。ゴジラの後頭部で爆発が起き、うるさそうに首を振る。
バトラのプリズムレーザーはメガギラスやダガーラにこそ有効だったが、ゴジラに対しては注意を引くものの皮膚を穿つほどの威力ではなかった。古代に対峙した怪獣たちは行動、能力を把握していたが、モスラもバトラもゴジラとの対決は初めてだった。
少なくとも自身最大の武器ではゴジラにダメージを与えられそうもないことを悟ったバトラは、大きく上昇するとゴジラめがけて急降下を始めた。上空から空気を裂いて接近するバトラを察知したゴジラは、鬱陶しそうに唸ると放射能熱線を吐き出すべくエネルギーを貯め始めた。背鰭が発光し、放電現象が起こる。
いままさに放射能熱線が吐き出されようとしたとき、バトラが素早くプリズムレーザーを放った。だが紫色の光線はゴジラを目指さず、周囲の谷間、山の尾根を嘗め尽くした。
雨混じりの土砂が激しく巻き上がり、豪雨で緩んだ尾根が崩落を始めた。ゴジラの周囲に大規模な地滑りが起きたのだ。
下半身が土砂に埋まり、ゴジラは熱線放出を中断、足元に視線を送った。その眼前にバトラが立ちふさがると、力一杯羽根を羽ばたかせた。
土砂が風で巻き上がり、ゴジラの顔面にまとわりつく。視界が奪われたことで混乱したゴジラは咆哮を上げたが、その隙にバトラは谷底で横たわるモスラを脚でつかんだ。
モスラを持ち上げたまま飛び上がったとき、視界が開けたゴジラがバトラを察知した。反撃の熱線を撃ち出そうとしたとき、モスラが弱々しくも羽根を振るった。
鱗粉が舞い上がり、ゴジラは熱線を引っ込めた。そこにバトラがプリズムレーザーを放出した。モスラの鱗粉に反射し、幾多もの光の筋がゴジラに突き刺さる。四方から直撃するレーザーにゴジラは怒り、土砂に埋まり不自由な下半身をもがかせた。
バトラはゴジラ両脇にそびえる山の頂上付近にプリズムレーザーを当てた。山体崩壊が起こり、膨大な土砂がゴジラを埋め尽くした。
怒りと困惑に雄叫びを上げるゴジラはとうとう首筋から下が土砂に埋まり、身動きを封じられた。その間にバトラはモスラを抱えて清津峡を離れ、越後湯沢上空を通過して新潟・群馬県境の三国峠付近に着陸した。
ゴジラの白熱光で爛れたモスラに、バトラは顔を寄せて羽根から雷撃を放った。モスラの傷が徐々にだが治癒していき、モスラは感謝するように啼いた。バトラも啼き返すと、顔を近づけてモスラと額を合わせた。バトラの全身から紫色の波動が拡がり、周囲の森が優しくざわついた。
・7月13日 5:27 東京都大田区羽田空港 羽田エクセルホテル東急
「ミラ、ミラ!」
祈りの途中で崩れ落ちたミラを、リラは泣きながら抱き起こした。
「大丈夫・・・ありがとう、リラ」
息も絶え絶えだが、ミラはリラの手を握ると微笑んだ。緑川は水を持ってきてミラに飲ませ、タオルを濡らして額に当てた。
「おい、いったいこれは・・・」
檜山が心配そうに訊いたが、ミラは微笑みを檜山に向けた。
「大丈夫です、心配してくれて、ありがとうございます」
「ミラ、大丈夫じゃないでしょう!力の限界以上祈ったら、貴女の身体は・・・」
「リラ」と、ミラは諭すような視線を向けた。
「モスラもバトラも戦ってくれてるの。私たちに出来ることは、祈ることだけ。でも、強く念じれば、モスラもバトラも強くなれる」
「だからって、ミラの命を削ってまで・・・!まさか・・・私に無理をさせまいとして?」
ミラは答えず、リラを抱きしめた。
「おい、よくわからないが、無理はしないでくれ」
諭すような、怒るような檜山の表情は父親のそれだった。
「檜山さん、私は」と言いかけたミラに「しゃべるな」と制止する檜山。
「どんな理由かわからんが、自分を犠牲にしてまで何かを成そうとするのはよくない。自分を大事にするんだ」
これまでにない強い口調だった。ミラは黙って目を閉じ、リラはミラを強く抱いた。
緑川はタオルを替えた。冷たいタオルを当てられて、ミラは多少は気分が戻ったようだ。
付けっ放しになっているテレビでは、ゴジラとモスラが争った新潟県の様子を報じていた。
『こちらは新潟県津南町です。たったいま、昨夜の豪雨によって孤立していた小学校から、自衛隊のヘリコプターが到着しました。児童も先生も全員が無事ということで・・・親御さんと、校長先生でしょうか、ヘリコプターから降りた子どもたちに駆け寄っています。十日町市では念のため救急車を待機させていたということで、これから児童と先生の・・・』
「良かった・・・」
ミラが微笑んだ。だいぶ体調が良くなったらしい。
「大丈夫?」
緑川が訊くと、笑顔で頷いた。顔色も良くなっている。
『怖くなかったですか?』
テレビでは、レポーターが母親に抱かれた女児にマイクを向けた。
『ゴジラとトンボみたいな怪獣は怖かったけどね、ちょうちょの怪獣が守ってくれたから大丈夫だった。みんなと先生も一緒だったから、みんなで頑張った』
ミラとリラは手を合わせた。
「モスラは、大丈夫なの?」
緑川が訊いた。テレビでは、清津峡奥深くで繰り広げられた怪獣たちの戦いまでは放映できていなかったのだ。
「深い傷を負いましたが、バトラと一緒です。ゆっくりですが、治っていきます。それに、みんなに想われると、モスラは元気になるんです。大丈夫です」
ミラが答えた。
「モスラは、自分よりも他者を思いやれる私たち人間を守ってくれます」
檜山と緑川は困惑したような、安心したような不思議な感覚になった。ちょうど緑川のスマホが鳴った。昨日落ち合うはずだった調査会社と、『UTOPIA』の記者が文京区の会社を出発したらしい。ゴジラ出現で都内にも動揺と混乱が拡がっており、道路が混まないうちに、とのことだった。
「ところで」と、檜山はミラとリラに顔を向けた。
「ゴジラはどうなったんだ?」
「残念ながら、モスラもバトラもゴジラには及びませんでした」
顔を下に向けたリラが答えた。
「バトラの機転で身動きを封じましたが、そのまま動けなくなるのか、また動き出すのか、それはわかりません」
ミラが言い、「「ただ」」と姉妹は声を揃えた。
「ゴジラは、先へ進もうとすることだけはたしかなようです」
「先って、どういうことだ?」
言いながら、檜山は昨日モスラが示した言葉を思い出した。たしか、東京、あるいは首都圏で再び怪獣同士が激突するといった内容だった。