怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

55 / 83
ーChapter 53ー

・7月13日 6:27 東京都港区高輪台2丁目 国道1号線

 

 

昨夜出現したゴジラの影響は、首都・東京にも及び始めていた。新潟県を縦断し群馬県境で立ち往生してはいるものの、ゴジラが目指す先は首都圏であるため、夜遅くのうちに都内から避難する人々は決して少なくはなかった。

 

渋滞を見越して5時過ぎに茗荷谷の『UTOPIA』編集部を出た斉田だったが、見通しは甘かった。首都高速は軒並み渋滞、一般道もこの時間帯にも関わらず進みがイマイチで、信号の度に止まる程度しか進まない。

 

本来なら首都高湾岸線、あるいは羽田線へ出れば緑川らが待つ羽田空港まではさほど時間がかからないが、昨年6月のゴジラとガイガンの戦いで有明、汐留、新橋地区がかいめつにちかい被害を受けたことでいずれの路線も破断、並走する国道15号第一京浜や357号線も全線復旧には至っていなかった。当初の予定では昨年9月までには復旧するはずだったのだが、翌月のゴジラと黄金龍による東海地方襲来で工期が無期限に近く伸びていた。

 

「こりゃあ、羽田着くのは8時くらいになりそうですよ」

 

斉田は後部座席の三上と秋元に言った。

 

「仕方がない、辛抱しますよ」

 

三上が手を挙げた。昨日から徹夜に近い状態で何かの記事をまとめている。群馬に伝わるダイダラボッチだかいう巨人のことらしいが、正直そこまで興味が湧かない。

 

記事の内容に関して盛り上がる2人を差し置き、斉田はナビに映るテレビに目を向けた。一昨日からの報道特番は桜島噴火から欧州・米国での怪獣出現に近畿・東海沿岸に押し寄せた津波被害、そしてゴジラ新潟上陸のニュースと移り変わっている。朝のワイドショーがそのまま特番の形式を取っているようで、普段原稿読みを噛んでははにかむ下手くそなフリーアナウンサーがヘルメットをかぶり、深刻な顔で画面に向かっていた。

 

『江崎さん、ありがとうございました。先ほど救助された小学生が避難した、新潟県津南町からの中継でした。さて、幸いにも無事救助された小学生と教諭ですが、twitterでは[避難が遅れたせいで自衛隊の攻撃が満足に行えなかった]、[なぜ避難できなかったのか、責任は重大]などといった声が出ておりますが、社会学者でゲストコメンテーターの新市寿憲さん、ご意見をいただきたいのですが』

 

『これね、とんでもないですよ。昨日からの大雨で孤立してたかどうか知りませんけどね、結果的に自衛隊が避難に手を貸したためにゴジラへの攻撃が不十分になっただなんて、まともな判断じゃないと思いますよ。仮にですよ、外国と同様に政府も自衛隊も腹くくって地上での爆弾攻撃と空からの爆撃行っていれば、ゴジラを倒せていたか、少なくとも侵攻を阻止できていたかもしれない。10名の命と、首都圏に住む何千万の命と、天秤にかけることがそもそもおかしいと思いますね』

 

『まあ、今回はゴジラの他にもメガギラスですとか、2匹の蝶怪獣が同時に出現しましたから、作戦の想定を上回ったと、先ほどの会見で官房長官による説明が行われましたが』

 

『そんなことは問題じゃないですよ。怪獣が多数出現したとしてもですよ、新潟で食い止めることはできたはずです。何のための怪獣対策基本法ですかと問いたい』

 

『あの新市さん、10名とはいえ同じ日本国民ですよ。政府の基本方針として、国民を等しく守るという発想に立って行われたことですから、一概に攻撃しなかったことは愚かと断じるのはどうかと思うんですけれども』

 

黙っていられなくなった様子で、隣に座るコメンテーターが口を出した。

 

『いや、ね、こんなときに国民が平等とかそんなことを気にするから対応が後手に回るんですよ。犠牲を払ってでも断固たる姿勢をみせなかった瀬戸内閣の責任は大きいですよ。だいたい僕、いつ判断が愚かだって言いましたか?』

 

『愚かだって言ってるようなものでしょ』

 

『いやだから、愚かだとは明言してないですよね!』

 

『明言はしてないけれど、あなたの言動がそう言ってるように聞こえるんですよ!』

 

次第に感情的になる両コメンテーターと、苦笑いするアナウンサー。観てられないとなかりに斉田はテレビを消した。

 

「困ったものですなあ。報じるべきことはもっとたくさんあるでしょうに」

 

斉田はため息混じりにぼやいた。

 

「みんなゴジラが出ておかしくなってるんですよ。昨日からスーパーやコンビニじゃ食料やトイレットペーパーの買い占め、避難しなくても良い連中が避難して混乱する、避難先で自衛隊の対応がヌルいと関係ない役所の人間に食って掛かる。まあなんとも、いつから他者を思いやれない国になっちまったんでしょうねえ」

 

噴飯やるかたなさそうに、斉田はなおもぼやく。

 

「個人的な意見ですが」と三上が口を出した。

 

「目に見えないものを敬う心をなくしてしまってるんです、みんな。即物でなく、ある種の信仰というか、拠り所のある人は肝が据わってます。今回はその目に見えない信仰の対象が本当に現れたのは実に示唆的だと考えてます」

 

「ああ、さっきお話なすってた岩手のバランですか。さしずめ、いまお2人がまとめてる群馬のダイダラボッチも姿を現わすやもしれませんなあ。何でしたっけ?」

 

「伝承は様々ですが、ダイダラボッチは兄弟と謂れてましてね。赤城に山娜(サンダ)、榛名に海羅(ガイラ)なる巨人が眠るとされています。バランや、奄美から現れた蝶の怪獣に倣い、これらも怪獣なのではないかと」

 

三上の説明に、斉田は苦笑いした。これ以上、怪獣が現れてどうなるものか。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。