怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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ーChapter 56ー

・7月13日 9:04 東京都大田区羽田空港 羽田エクセルホテル東急 小会議室

 

 

『ご覧いただいておりますのは、現在の群馬県沼田市の様子です。市内北西部、え、ゴジラが侵攻中と思われる地域から、いく筋かの黒煙と、土埃が昇っております。市内各所から、パトカー、あるいは救急車でしょうか、サイレンの音がひっきりなしに聴こえてきます。え、そして、さきほど榛名山、赤城山より突如として出現した獣人型の怪獣に関して、新たな情報が入ってますでしょうか。NHK群馬放送局の遠山記者です』

 

緑川の依頼でホテルが用意した会議室で、檜山はテレビに見入っていた。アナウンサーは続々と舞い込む原稿を戸惑い気味に処理しながら、努めて冷静に読み上げる。

 

『群馬放送局よりお伝えします。20分ほど前、赤城山、榛名山両山から突然怪獣が現れました。群馬県警、沼田市消防本部に寄せられた情報によりますと、赤城山より出現した怪獣は身長が推定50メートル、榛名山より出現した怪獣は推定45メートルの大きさです。いずれの怪獣も現在、沼田市をそれぞれ関越自動車道、国道120号線沿いに進んでおり、ゴジラ侵攻を受けて行われている市内の避難活動に大きな影響が出ております』

 

『遠山さん、遠山さん。一部情報によれば、それぞれ出現した怪獣は姿が酷似しているとのことですが、行動、生態に関して類似点は認められますか?』

 

『えー・・・姿が似ているということに関しての情報は寄せられてますが、それ以上に関しては現在はっきりとはわからないですね』

 

『遠山さん、またその2匹は沼田市を南下しているゴジラに向かっているのではないかという情報もありますが・・・?』

 

『そうですねえ・・・進行方向を考えるとその可能性があるようですが、はっきりしたことはなんとも申し上げられません。ただ、ゴジラから避難する経路である国道、県道いずれもこれら怪獣出現によって大混乱に陥ってます。沼田市では怪獣の進行に厳重な注意を払いつつ、避難を的確かつ迅速に行うとのことでした』

 

『わかりました、遠山さんありがとうございました。群馬放送局、遠山記者でした。政府の動きです。望月官房長官はさきほど9時の定例記者会見にて、群馬県内に新たに出現した怪獣に対して、引き続いているゴジラ掃討を含め自衛隊に対応を指示したと発表しました。ただ現時点で即物的な対応を取れる部隊が周辺に存在せず、防衛省内では・・・』

 

続々と悪い情報ばかり飛び込んでくる。檜山はうんざりしたように首を回すと、窓の外に広がる羽田空港の滑走路に目をやった。

 

昨日のメガギラス出現で北陸、北日本には飛行制限が出されたが、首都圏の3空港は平常通り運航されている。だがゴジラ出現に加えモスラ、バトラの行方が分からず(ミラとリラによれば群馬県の谷川岳付近に身を潜め傷を癒しているらしいが)、山形以北と富山、小松への便は欠航となっている。また桜島噴火の影響で、南九州3県の空港も閉鎖されてしまった(奄美空港に影響がなかったのは幸いだった)。

 

これにより、通常運航しているのは羽田以西、関西三空港あるいは広島、岡山、北九州に福岡といった西日本拠点空港程度となっている。

 

この会議室を開けてくれたホテルのスタッフによれば、ここへきてゴジラが首都圏へ向けて侵攻を始めたことで、始発から羽田を発つ便に混雑が見られているらしい。ターミナル内も心なしか旅客で溢れているようにも思えた。

 

会議室のドアが開き、ミラとリラが入ってきた。後ろから緑川もついてくる。

 

「2人とも、具合はどうだ?」

 

檜山は立ち上がって訊いた。ミラの体力消耗が激しかったようだが、リラが付き添って休んでいたのだ。

 

「「もう平気です」」

 

2人声を揃えると、檜山は安心したように息を吐き出した。

 

「心配させやがって。でも顔色も良さそうだし、良かったよ」

 

そう言って2人の頭をそれぞれポンポンと叩いた。不思議そうな顔をするミラとリラに、つい思わず娘たちによくしていたことをやってしまった、とやや顔をしかめる檜山。そんな姿を見て、ミラとリラは顔を見合わせて微笑んだ。

 

「ちょうど私のお客さんも来たし、2人も体調良さそうだから連れて来たの。いま案内するね」

 

緑川の案内で男性2人、女性1人が入ってきた。

 

男性の片方は天然パーマなのか、くしゃくしゃの頭を無造作に伸ばした風貌。学生時代によく読んだ小説に出てくる、探偵の金田一耕助の挿絵がこんな感じだった。

 

年配の方は、豊かに刻まれた皺と、穏やかかつ聡明な瞳を湛えた男性だった。傍らの女性は若く、好奇心旺盛なのか滑走路に広がるANAの機体群に視線を走らせている。

 

「紹介するね。私の同期で、いまは調査事務所の社長してる・・・」

 

「斉田といいます」

 

緑川より言うが早く、斉田という男性は檜山にお辞儀してきた。つられるように檜山もお辞儀する。緑川の同期、ということは、KGI損保にいたのだろうか。およそサラリーマンには見えない男だ。

 

「国土交通省、運輸安全委員会調査官、檜山です」

 

職業柄、どうしても長い役職を名乗ってしまう。ついつい敬礼しそうになる海保時代のクセもなかなか抜けない。

 

「それから、民俗学を専攻なさっている三上先生と、『UTOPIA』記者の秋元さん」

 

緑川の紹介に、2人は会釈した。

 

「檜山です。お二人は先に、モスラが眠っていた癒し岩を取材なさってたとか?」

 

「ええ、そうなんです。ここにくるまでの車内で、モスラのことや、モスラの巫女として古代文明の双子がいるとか、もういろいろお話をうかがいたくて」

 

秋元という記者は好奇心を隠せないようで、ウキウキした様子だった。ミラとリラを守るように目配せした檜山を見て、秋元は気まずそうに肩をすくめた。

 

「早速いろいろお話をうかがいたいところですが・・・先ほどからテレビが気になってまして」

 

一行が席に着くなり、檜山が切り出した。深緑の体毛を揺らしながら、送電線の高圧鉄塔をなぎ倒し進む怪獣の様子が映されている。

 

「これも、古代の神なの?」

 

緑川はミラとリラに訊いた。

 

「私たちも詳しくはわからないです」

 

リラが答え、「おそらく、伝え聞くところによるモスラが眠りについてから創り出された神々だと思います」とミラ。

 

「そうか。最初に君達が眠りについてからまた目覚めるまで、2万年経過してたんだったよな」

 

檜山の言葉に、斉田は訝しげな視線を送り、秋元は興味津々といった様子で檜山と双子姉妹に視線を這わせた。

 

「秋元くん、これは伝承通りだね」

 

今度は三上が、檜山と緑川の好奇に溢れた視線を受けた。

 

「そうですね・・・。黄土の体毛に包まれた山娜(サンダ)、黒い緑の毛を生やした海羅(ガイラ)・・・。取材の通りです」

 

「こりゃまず、そっちの話を聴くことにしませんか。ちょうどテレビでやってることだし」

 

様子をまとめるように、斉田が言った。

 

「この2匹、ゴジラに向かってるのかしら?」

 

緑川がミラとリラに訊くと、2人は戸惑いながらも頷いた。

 

「どうやらそのようです。意思を読み取ることはできませんが、ゴジラと戦おうとしているようです。あと、そして・・・」

 

ミラの言い澱む姿に、全員の視線が刺さる。

 

 

 

 

 

 

・同時刻 群馬県沼田市東原新町 市立沼田中学校

 

 

『消防本部より各隊、赤城並びに榛名より現れた怪獣により国道17号高崎方面、国道120号片品方面への避難移動は不可能。昭和村、赤城高原方面に避難路を集約させ市民の誘導に当たるよう指示』

 

無線から聞こえてきた指令に、沼田市消防本部消防士長の白鳥航平は無線機を握りつぶしたい衝動を覚えた。

 

「こちら本部車両4号車、具体的にどの道路を以って避難誘導すべきか、具体的な指示を請う」

 

同様の問い合わせが、他複数の車両からも寄せられたようだった。

 

『現在警察と共同で避難路の特定中。追って指示を待たれよ』

 

半開きのドアを拳骨で叩き、「それじゃ間に合わねえよ!」と怒鳴った。無線のスイッチを入れたままだが、反応はなかった。

 

白鳥の班がいる沼田中学校の校庭には、三方から迫る怪獣によって逃げ場をなくし、どうしようもなく集まってきた車両や人々が大勢いる。皆、途方に暮れたように消防車両を囲み、不安そうに佇んでいた。

 

時折地響きと、板が割れるような音が聞こえてくる。沼田市北部を受け持つ班と消防団は、ゴジラ通過によって発生した火災を消し止めるべく出動したようだが、ゴジラ侵攻で上水道に損傷が生じた上、散乱する瓦礫で防火水槽などの水利の確保がままならず、延焼を防ぐ手立てがないと報告があった。

 

だが市内北部は比較的スムーズな避難が行われていた。問題は2つの国道と関越自動車道が交差する市内中央部だ。元より市街地は道が細い上に四角四面な区画となっていることで、混雑が始まるとアッという間に渋滞してしまう。

 

そこへ赤城と榛名両方向から別な怪獣が現れたことで市内はパニックとなり、車を乗り捨てて避難する人が出たことで、もはや市内からの迅速な避難は絶望的だった。

 

このような状況下、普段から避難場所となっている中学校に市民が集まるのは自然なことだった。問題は台風や水害などと違い、堅牢なコンクリートの建物に逃れたとしてもまったく安心できないことだ。

 

『消防本部より各隊、市内中央部の避難路として、県道・・・』

 

そこで激しくノイズが走った。白鳥は思わず耳を覆って仰け反った。轟音とともに土埃が上がり、次いでおぞましい咆哮が聞こえてきた。

 

「ゴジラだ、ゴジラがきたぞー!!」

 

乗り捨てられた車両で動かなくなった国道を、反対側から何人かが全速力で横断してきた。ゴジラがきた、という叫びに、校庭に集う人々のざわめきが強くなった。

 

「おい、どういうことだ!ゴジラがきたのか!?」

 

白鳥は走りこんできた男性の腕をつかみ、訊いた。

 

「も、もうすぐそこだ。ゴジラが関越道の高架をぶっ壊したんだ」

 

息も絶え絶えに答える男性。

 

ズン・・・ズン・・・ズン・・・!

 

強く不気味な足音が聞こえてきた。

 

「くそったれ!」

 

罵り声を上げて、白鳥は消防車両のマイクをオンにした。

 

「ゴジラが近づいています!すぐそこまできています!いますぐ、学校か体育館に入ってください!」

 

もはや避難路を訊き返す時間もなかった。建物ごと壊されたらひとたまりもないが、屋外よりは屋内の方が・・・という、絶望的な選択だった。

 

白鳥の声で、人々は建物へ走り出した。だが人に揉まれて転倒する者、高齢者や小さい子どもは出遅れ、家族とはぐれたであろう小さい子どもが泣き出した。

 

白鳥は班の隊員たちと協力して逃げ遅れた人々を体育館へ誘導する。何かが倒れる音がして、校庭を走る全員が身をすくめた。

 

振り返ると、国道を挟んだ住宅群の屋根から、黒い何かが見えた。白と黒、はっきりと分かれた目玉が見える。

 

咆哮を上げるゴジラに、人々は足を止めた。というか、足が止まってしまった。蛇に睨まれたカエルとはこのことだろうか、白鳥はイヤな汗が頬を伝うのを感じた。

 

そのとき、一瞬頭上を何かが横切った。パラパラと小石が落ちてきて、白鳥のヘルメットを叩いた。

 

鉄がひしゃげる大きな音がした。ゴジラに鉄塔が当たったのだ。

 

驚いたように周囲をうかがうゴジラ。川向こうの高台から、ゴジラとは異なる咆哮が聞こえた。

 

全身、黄土色の体毛をたたえた怪獣、というか、人間のような怪獣が雄叫びを上げていた。右手に握った鉄塔を放り投げ、ゴジラの顔面に直撃した。

 

怒りの咆哮をゴジラが上げたとき、国道の向こうからもう1匹現れた。黒い緑の怪獣だった。高台から鉄塔を投げつけた怪獣に似ているが、こちらの方が獰猛な顔つきをしている。

 

様子をうかがうように唸るゴジラに、緑色の怪獣は気合を入れるように叫ぶと、右手拳を振り上げてゴジラに襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

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