怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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ーChapter 58ー

・7月13日 10:03 東京都大田区羽田空港 羽田エクセルホテル東急 小会議室

 

 

「本当なの、それ?」

 

少し話がある、メールでは言えなかったことだ・・・そう告げられて隣の部屋に入り話を聞いた緑川は、目を丸くして斉田に訊いた。

 

「ああ。これが証拠だ」

 

斉田はポケットから、布に包んだ銃弾を広げて見せた。緑川の表情が強張るのがわかった。

 

「じゃあ、命を狙われっている、ってこと?」

 

上目遣いに緑川は訊いた。

 

「いや、命を取るつもりなら、とっくに仕掛けてるだろう。あくまで警告なんだろうが、殊に日本でこんなことがまかり通るとはな」

 

斉田は苦笑いを浮かべるが、どこかひきつっている。

 

「じゃあ・・・どうするの、これから?」

 

暗に、これ以上の調査は勘弁してくれ、緑川は斉田にそう言わせたかった。

 

「こんなことをしてくるってことは、だ。スマートブレイン社と矢野教授の関係性は誰かの命を奪ってでも重要、そして暴かれたくないということを証明したようなものだ。奴等が進めようとしていた研究は・・・いまは別人格のようだが・・・伊藤姉妹も関係してくる上、あかつき号沈没の原因となった可能性も充分出てくるとオレは思う」

 

「でも・・・弊社は・・・ていうか、私はあなたの命を危機に晒してまで調査してほしくないんだけれど」

 

「それはオレも同じだ。そりゃしがない調査会社経営してて借金まみれだし、家では妻のデカイ尻に敷かれる毎日だが、オレだって命は惜しい。それに、奴等が伊藤姉妹が健在と知った場合、何をしてくるかわからないからな。なので、ここから先はお前の出番だ」

 

そう言われ、緑川は目をキョトンとさせた。

 

「勘違いするな、直接スマートブレイン社に改めて調査協力を依頼しろってワケじゃない。そんなのがいまのお前の仕事か?損害保険最大手の海損部長の肩書きはどうした?」

 

「わかった、スマートブレイン社日本法人の資金の流れを追えば良いわけね?」

 

「察しが良いのは昔からだな。あそこはKGI損保だけじゃない、日本海洋銀行(KGI損保のグループ企業)にとっても大事な取引先だからな」

 

「早速やってみる」

 

言うが早いか、緑川はスマホを取り出し、日本海洋銀行本店の調査部へ連絡を始めた。

 

それにしても、と斉田は頭を掻いた。顔こそシラフだが、かつての同期で現海損部長様はとにかく酒臭い。酒量が増えて、とのたまっていたが、話は本当のようだ。

 

斉田がKGI損保に勤務していたころ、部署こそ異なるが同期の中でも特に仲の良かった斉田と進藤、緑川はよく本社のある大阪キタで朝まで飲み明かしたものだったが・・・。あの頃と酒量は変わっていないらしい。

 

そういえば、昨日電話で話した際、ロンドンの進藤といまだ連絡が取れない、と泣きそうな声でしゃべっていた。その頃も飲んでいたのだろうか。

 

電話に夢中になる緑川をそのままにし、隣室へ入った。秋元がテレビに映る人型の怪獣2匹について、何やら熱く語っていた。これまで自身が取材していた対象だったらしく、だいぶ興奮気味だ。傍らの三上と、向かいに座る檜山は話に聴き入るばかり。というか、檜山の方は半ば聞き流してすらいるように思える。

 

とりあえず座ろうとしたとき、緑川が戻ってきた。

 

「詳細は調査結果を待つとして・・・。銀行の調査部に呑み仲間がいてね。いま把握できる情報だけは仕入れた。スマートブレイン社への融資が、ここ1年で前年の3倍に増えてるの」

 

「ほう。研究熱心なこった」

 

「それもある時期から、ね。借り換え含めた巨額融資の申し入れが、昨年7月に打診があって、翌月に追加融資を受け付けてるの」

 

昨年7月何があったか・・・考えるまでもなかった。

 

ゴジラとカマキラス、ガイガンの争いによる混乱もひと段落つき、首都機能不全と怪獣災害からようやく復興の芽が育まれようとした矢先の、あの黄金の三つ首竜襲来で東海地方が壊滅。日本経済の凋落が決定づけられ、政府による歴代最大規模の赤字国債発行で官民金融機関を通した災害緊急時融資が乱発した頃だ。

 

怪獣災害による損害対策とされた史上最大規模の補正予算だったが、罹災の有無おかまいなしに融資を求める企業が少なくなかったことも事実だ。

 

「あと、気になることがある、とも言ってたの」

 

緑川の言葉に、斉田は顔を向けた。

 

「スマートブレイン社への融資を実行してからしばらくして、スマートブレイン社と、融資を実行した日本海洋銀行の本店に右翼団体の街宣車が乗りつけたんだって。罹災証明に乏しい企業への融資を乱発してる国賊、とか怒鳴られたって」

 

斉田は俄然興味を持った。

 

「もしかしてそれ、誠和会じゃないのか?」

 

「わからないけど・・・誠和会って、けっこう大きな国粋主義団体だったっけ?」

 

首をかしげる緑川に、斉田はスマホを手繰って写真データを引っ張り出した。

 

「メールでも報告したろ、例の矢野教授、シンポジウムやらで伊藤姉妹の両親と接触した可能性が高いって。そのうち比較的最近行われたシンポジウムの資料なんだが・・・列席者に矢野教授と、伊藤夫妻の名前もあるが、発起人の名前を見ろ」

 

「大澤蔵三郎・・・これって」

 

「現代の妖怪、日本を影から操る男・・・。お前も聞いたことはあるだろ。そしてこの、稲村友紀ってフリージャーナリストなんだが、数日前変死体で発見されてる」

 

緑川の顔色が変わった。

 

「しかも見ろ、あの近藤悟の名前もある。去年YouTubeの視聴回数で数億稼いだ野郎だ。狂ったような風俗通い報じられて最近見かけなかったが・・・とにかく、胡散臭い連中がよくもマジメなシンポジウムに集まったものだと思わないか」

 

緑川は斉田の話に反応しなかった。

 

「おい?」

 

怪訝に思った斉田が顔を寄せると、ハッとしたように緑川は我に帰った。

 

 

「あ、ごめん。とにかく、その街宣車は誠和会のものだったか、こちらから問い合わせてみるね」

 

取り繕ったような顔でそそくさとスマホを握ると、緑川は再び電話をかけ始めた。

 

彼女のいまのような顔を、斉田は昔一度だけ見たことがある。

 

『斉田、ちょっと今夜つきあってくれへんか?』

 

15年前、まだ斉田がKGI損保の調査部にいたころ、同期の進藤から電話があった。

 

なんでも、緑川は当時在籍していた第1法人営業部の先輩とイイ仲になっていたが、一方的にフラれたらしく、ひどく落ち込んで酒に呑まれてるから一緒に励ましてくれんか、という話だった。

 

『あたしが悪いの、アハハ!仕事頑張り過ぎちゃったから、アハハ!』

 

しこたま呑んだ挙句、そう泣き笑っていた緑川だったが、遠からずして真相が明らかになった。彼氏だったその先輩社員は取引先の重役の娘と二股をかけており、相手に結婚を迫られたことで緑川をフッたということが判明した。

 

「なんでそんな男をかばったんだよ」

 

後日斉田と進藤に問い詰められた緑川は、さきほどのような取り繕ったような顔で笑うばかりだった。

 

斉田が電話中の緑川の背中に猜疑の視線を強めたとき、背後で椅子が倒れる音がした。

 

振り返ると、伊藤姉妹が立ち上がっている。

 

「どうしたんだ、いきなり」

 

驚きと若干の憤りで檜山が語調を強めた。同時にテレビから速報を伝える音がした。

 

【速報 群馬県前橋市上空に2体の飛翔体。行方不明の蛾の怪獣か】

 

【速報 米国 イエローストーン国立公園で爆発的噴火が発生】

 

 

 

 

 

・同時刻 群馬県沼田市奈良町

 

 

片足を地下古墳に沈めたゴジラは、サンダとガイラに為されるがままとなっていた。

 

正面からサンダが突進してゴジラの胸部に肘を食い込ませ、背後からはガイラがゴジラの首筋に噛み付いている。

 

一見ゴジラが完全に劣勢へと追い込まれたように見えるが、サンダもガイラも焦りを滲ませていた。

 

あらゆる攻撃を駆使してゴジラを痛めつけているはずなのだが、ゴジラが一向に倒れないのだ。

 

最初こそうるさそうに身体を揺らしていたが、やがて反撃することもせず唸り声を口から漏らすようになった。

 

そしてガイラの鋭利な歯も、ゴジラの皮膚を貫くことはかなわず、噛み続けるガイラの方が音を上げて田圃に倒れ込んだ。自慢の強靭な歯もゴジラには文字通り歯が立たず、顎の筋肉が限界を迎えたのだ。

 

立ち上がったガイラは、息が上がりつつも爪を立ててゴジラに手刀を食い込ませた。それでもゴジラは動かず、眼だけは凄まじい怒りの色を帯びたまま唸り続けていた。

 

ゴジラの口から青い煙が昇り始めた。サンダもガイラもゴジラの異変に気がつかず、尽き始めたスタミナを振り絞るようにゴジラを殴りつけまくる。

 

そのとき、ゴジラは首を捩り、東の方向を向いた。

 

サンダとガイラの手も止まった。東の方角を向き、息を呑んだ。

 

低く唸るゴジラは口を閉じ、沈んだ右足を持ち上げた。そんなゴジラには目もくれず、サンダとガイラは東の方向を睨みつけるばかりだった。

 

ややあってサンダとガイラは頷きあうと、ゴジラを放って走り出した。

 

ゴジラもそんな2匹を追うように、というよりも東のはるか果てに意識を向けるかのように、歩みを始めた。

 

それまで湛えていた忿怒の色ばかりか、激しい憎悪すら滲ませた眼をたぎらせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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