怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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ーChapter 59ー

・7月12日 19;03 アメリカ合衆国ユタ州ソルトレイクシティ ジョセフ・スミス記念館

※日本より15時間遅れていることに留意。

 

 

『ハードコアのユアン・ホルムズだ!テレビの前のヘイ、あんた!さあ〜イエローストーン国立公園が噴火間近ということで、もっとも近い大都市のココソルトレイクシティはご覧の通り、天地ひっくり返ったような大騒ぎだよ!』

 

ホルムズの右手が指し示す先には、通りいっぱいに並んだ車両がピクリとも動かず、ただのアイドリング発生装置と化して一面に排気ガスを撒き散らす様子、そして歩道はおろか車道にも溢れかえり逃げ惑う市民が映し出される。

 

『街全体に避難命令が出されたんだがねえ、なんてったってそりゃ、ひとたび噴火すればアメリカが壊滅するってほどの火山だ、逃げようがなくてみんなてんやわんや、あちこちで小競り合いだあ!』

 

混乱の様子を嬉々として伝えつつ、ホルムズは右往左往する若い男の腕をつかんだ。

 

『よぉ兄さん、住む街が吹っ飛ぶ寸前を迎えた心境を聴かせちゃくれんかねえ!』

 

男は焦りと恐怖と怒りで言いようのない表情になった。

 

『さあさ、現場の生の声ってヤツだ!ほら!』

 

グイグイとマイクを突きつけるホルムズを、カメラマンのハンソンは引き離した。

 

「おいユアン。あくまで混乱の現場を映すだけで、避難の支障をきたすことのないようにって方針を忘れたか?」

 

そう訊かれたホルムズはマイクを離した。

 

「ハンソン、このヒヨッコが。いいか、オレたちはな、とにかく過激な映像をこれでもかと流して視聴者に訴えかけるのが仕事だろうが。現場に出もしねえ堅物のお上が決めた礼儀正しい方針なんざクソくらえだ」

 

それだけ言うと、通りの向こうで衝撃音が響いた。業を煮やしたピックアップトラックが歩道を走ろうとして迷走、銀行に突っ込んだのだ。

 

『さあさあ!より混沌が広がってきたよ!地獄が訪れる前にソルトレイクの街は地獄になっちまったってワケだあ!』

 

事故の現場はガラスが散乱、不幸にも巻き添えとなった避難者が歩道に倒れ、地面に鮮血が広がる様子を収める。

 

『ソルトレイクはあと1時間で日暮れ。今日がソルトレイクで拝める最後のサンセットだってのに、市民の誰も夕陽なんぞ拝む余裕がないってのぁ、ご覧の通りだ』

 

リポートしながら、ホルムズは片手でポケットのスマホを見た。局から電話がかかってきている。かまわず保留にすると、人を撥ねた運転手が警察に取り押さえられる現場に迫った。

 

『よう間抜け、こんなときに留置場行きだなんてツイてないな!』

 

警官2人に両腕をつかまれた運転手にマイクを向ける。

 

「この野郎、撮ってんじゃねえ!!」

 

運転手はこめかみが破裂せんばかりに怒鳴った。

 

「邪魔だ、あっちへ行け!」

 

警官の1人が邪険にホルムズを追い払おうとしたが、めげずに警官にマイクを向けるホルムズ。

 

『よっほいお巡りさん!こんな小物釈放してやったらどうだい!獲物はもっともっとデカイんだからさあ!』

 

「ユアン!」

 

ハンソンがたまりかねてホルムズの肩をつかんだ。

 

「ほどほどにしろよ」

 

「ハッ!いいか、こういうときこそ人間の本性が現れるってモンだ。その様子をカメラに収めるまたとないチャンスだぞ!」

 

ついていけない、とばかりにハンソンは下唇を噛んだ。

 

「去年の東京で、ゴジラとガイガンが戦う様子を至近距離で報じたジャーナリストいただろ!まあアイツはYouTubeに載っけて5百万ドル稼ぐなんて邪道な手を使いやがったが、なんだかんだみんなキワドイ映像観たいんだよ、なあ!いいか、それがオレの仕事だ。オレは仕事をトコトン突き詰めたいんだよわかったか!」

 

笑みを浮かべながら怒鳴りまくるホルムズ。元から奇人、変人を通り越して狂人じみた部分があり、それが原因でアラスカ支局へ飛ばされたと耳にしている。

 

数日前アラスカを訪れた日本の怪獣博士へのインタビューは、博士がホルムズの挑発にも乗らずソツなくマジメに答えたため、放送の評判は芳しくなかった。

 

そこへきて北極海から出現した怪獣ダガーラがカナダからシアトルに押し寄せた後、ホルムズはアラスカを飛び出してシアトルへ。被災した市民にイラがらせのごときインタビューを行なった後、イエローストーン国立公園噴火が取り沙汰されたソルトレイクへやってきたのだ。

 

本来なら局のメンバー全員ととっくに避難しているはずのハンソンだったが、アラスカからやってきた鼻つまみ者に運悪くつかまり、こうして行動を共にするハメになったのだ。

 

『さあさ、渋滞で逃げ場なく我先にと車を捨てて走り去る市民!この哀れな狂想曲はいつまで続くのやら!』

 

そんな様子をさも嬉しそうにしゃべるホルムズ。ふと、通りに広がる人々が足を止めた。

 

ホルムズも、そしてハンソンも違和感が足元から昇ってくるのを覚えた。地面が小刻みに揺れているのだ。

 

ドンっ!と、花火が炸裂するような音がした後、市街地を波のような揺れが襲った。片目をカメラ越しに望むハンソンは、北の方角に真っ黒い煙が噴き上がっているのを目撃した。

 

『おあお!噴火だ、噴火が始まったぞぉー!!』

 

嬉々として叫ぶホルムズ。周囲の市民は絶叫しながら、もはや無駄だとどこかでは理解しつつも本能的に噴煙から少しでも距離を取ろうとし始めた。

 

クラクションが鳴り響き、中には強引に車を発進させて前の車両にゴツゴツとぶつける車も多い。理性なき混乱に恍惚の表情を浮かべるホルムズだったが、ハンソンはまた別のことが気掛かりになっていた。

 

イエローストーンから噴き上がった噴煙は300キロも離れたここからでも見えるのだが、ドス黒い噴煙が次第に晴れ上がり、夕暮れ時のオレンジがかった空が垣間見えるのだ。

 

逃げ惑う市民たちも、その異様な様子に気づく者が増えたようで、何人かは北の方角を凝視したまま立ち止まった。

 

ハンソンはカメラから目を離した。一度高く膨れ上がった噴煙は、大気と混ざり合って薄まりつつある。通常、噴火といえば噴火口から絶え間なく噴煙が昇り、まるできのこが成長するように膨れ上がっていくものであるはずだ。

 

ところが、様子を見る限り一度大爆発こそ起きたものの、噴煙も、あるいは溶岩や火山弾が飛び出す様子もない。地響きも収まり、まるで一度の爆発で噴火が終わってしまったような感覚なのだ。

 

「な、なんだあ?これでおしまいかあ?」

 

拍子抜けしたような、間の抜けた声でホルムズがつぶやく。

 

「噴火はこれで収まったってのか?なんだよオイ、せっかくソルトレイクシティくんだりまでやってきたのに」

 

呆気にとられたホルムズの顔は、やがて失望と怒気を帯びた表情になる。

 

大気圏ギリギリまで昇った噴煙は、縦から横に広がりつつあった。この調子なら、イエローストーン周囲に火山灰こそ降るだろうが、いわゆる破局噴火など起きず、ソルトレイクシティ壊滅には至ることはなさそうだった。

 

恐怖に顔を引きつらせていた市民たちにも安堵の色が広まりつつあった。

 

『ええーっと・・・締まらないことになったが、ちくしょう』

 

心底悔しそうに、ホルムズはリポートを始めた。北の方角から風がなびいてきた。

 

『まあ、知っての通りオレはアラスカに名誉ある栄転を果たしながらも使命を帯びて災害の最前線を目指してきたわけだが・・・こうなりゃ、とんだ間抜けだとみんなで笑いやがれ』

 

半ばヤケクソ気味に笑みを浮かべるホルムズ。なびく風が次第に強くなり、砂埃と紙がダウンタウンに舞い始めた。

 

自嘲気味にカメラに向かうホルムズの背後で、再び煙が舞い上がるのをカメラは捉えた。だが火山噴火による噴煙ではない。砂埃が爆発するように、というより、空に吸い上げられているようにも見える。

 

砂埃に混じって、黒い粒が同じように巻き上げられている。地響きが聞こえてきて、吹き付ける風は強風を通り越し、ハリケーン並になってきた。

 

暴風吹き荒ぶダウンタウン。市民たちは風から逃れるべく車や建物に入っていく。

 

『ええいなんだこの風は!竜巻かあ!?』

 

暴風で目を開けるのもひと苦労らしく、ホルムズは目を細めた。

 

「見ろ、何か近づいてこないか?」

 

ハンソンが北の空を指差した。空中に砂、そして黒い粒はどうやら岩石らしく、派手に舞い上がる中、夕陽を浴びてひときわ輝く『何か』が見える。

 

「雷・・・?晴れてるのに・・・?」

 

ハンソンがつぶやいた。夕陽を受けてオレンジ色に輝く物体から、絶え間なく雷が広がり、それは大地に広がると地表の物体を等しく空へ浮かべているように思える。

 

ホルムズ、そして周囲の市民たちが暴風に身を外らせつつも不思議そうに空を見つめる中、ハンソンは背筋をすうっと冷たい汗が流れるのを感じた。

 

去年、日本中央部を滅ぼした怪獣・・・怪獣という表現すら当てはまるのかわからない、圧倒的な災厄そのもの・・・CNNがそう報じたことを思い出した。

 

テレビで見ただけだが、あの怪獣は日本に出現していたゴジラやアンギラス、ガイガンなどとは根源的に異なる、恐怖や畏怖をはるかに超越した・・・たとえるなら、地獄の獣がこの世に具現化したような存在だと思った。否、思わされた。

 

まるで、生命が生きていることすら許さぬとばかりに破壊の限りを尽くすかのように、雷を吐き散らす・・・そんな地獄からやってきたような恐怖が、こちらに迫りつつある。

 

周囲も、そしてホルムズも、何が近づきつつあるか理解したようだ。あのホルムズが、言葉を失い驚愕に顔を引きつらせている。

 

ハリケーンを10も20もかき混ぜたような音が近づき、夕暮れに照らされるソルトレイクの街はアッという間に黄金の光に包まれた。

 

カメラを携えたまま固まったハンソンは、地面と靴が乖離したのを理解した。直後、ホルムズがカメラに突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

ちょうどそのころ、イリノイ州シカゴ、そしてミネソタ州ミネアポリスでは再び市内に混乱が訪れた。

 

ミシガン湖が泡立ち、赤い煙が立ち上ると、湖面を割って黒い何かが飛び出した。

 

眼下に広がるシカゴ市街地を一瞥することなく、復活したダガーラは一目散に西へと向かい始めた。

 

そしてミネアポリスでは、ダウンタウンの州議会議事堂付近に落下し、警察と州軍に包囲されていたバランが起き上がった。

 

ムササビのような皮膜を広げると、大きく吼えながら上空に舞い上がった。

 

 

 

 

 

 

・同日 19:58 アメリカ合衆国コロラド州コロラドスプリングス 北米防空司令部(NORAD)

※日本より15時間遅れていることに留意。

 

 

イエローストーン国立公園噴火に備えていた北米防空司令部では、噴火こそ発生したもののすぐさま収束したこと、同時にユタ州上空に未確認飛行物体が出現し、猛烈な速さで南進を始めたこと、そして未確認飛行物体を囲むようにカテゴリ7のハリケーンが巻き起こったこと、ソルトレイクシティのデンハーグ空軍基地との連絡が途絶え、同時にソルトレイクシティがハリケーンに呑まれたことを事実として認識していた。

 

だが合衆国が崩壊するほどの火山噴火を覚悟していた面々は、誰もが噴火が不発に終わったことへの安堵と、説明不可能な現象が立て続けに起こる事態への困惑で頭を抱えていた。

 

「ネリス基地を発った観測機、応答ありません」

 

「ハリケーン接近に伴い、カリフォルニア州知事が非常事態を宣言しました」

 

いつも口酸っぱくして指示する通り、部下たちは淡々と事実のみを報告する。だが次第にその声色に焦りと驚きが混じるようになってきた。

 

NORAD責任者のギャリスン大佐は腰に手を当てたまま、最悪の想像をしていた。

 

緊急回線の受話器を取ると、首都ワシントンDCの米国国防総省にいるクーリッジ空軍大将を呼び出した。

 

「はい・・・はい・・・間違いありません。我が国は火山噴火による壊滅は免れましたが、新たな、そして別な脅威に晒されています。ええ・・・ただのハリケーンではありません。そうです・・・ええ、そうです、去年日本に現れた、あの怪獣です。それが我が国に出現したのです・・・承知しました。はい・・・はい」

 

受話器を置くと、周囲の部下は固唾を飲んだ。

 

「全軍に指令が下った。カリフォルニアに達したこの怪獣に対し、合衆国軍は持てるすべての戦力を投入する。合衆国西部全域に・・・」

 

ワシントンからの指令を伝えるギャリスンは言葉を詰まらせた。既にハリケーンはカリフォルニアを離れ、太平洋に達していた。

 

「カリフォルニア・ファデマ通信施設からです」

 

もはや感情をなくしたかのような無機質な声で、オペレーターが口を開いた。

 

「サンフランシスコ都市圏をハリケーンが直撃。サクラメント、サンノゼ、オークランド、サンフランシスコとの通信が途絶えました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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