怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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ーChapter 62ー

・7月13日 12:15 東京都大田区羽田空港 羽田エクセルホテル東急 小会議室

 

 

『えー、ありがとうございました。横須賀市役所防災課、羽鳥さんでした。神奈川県警察本部からの情報によりますと、12:10現在、神奈川県逗子市に上陸した怪獣はJR横須賀駅付近から海上自衛隊横須賀総監部、米海軍施設を損壊させた後、横須賀市小川町付近を侵攻中とのことです。このまま進路を取った場合、東京湾へ進入すると見られております。現在横須賀市全域は特別警戒区域に指定され、警察・消防による避難誘導が行われております。該当区域にお住いの方は、防災無線等行政機関の指示に従い、至急の避難行動をお取りください。命を守る行動を、とってください。えー、いま入りましたニュースです。官邸の発表により、以後横須賀を侵攻中の怪獣をチタノザウルス、チタノザウルスと呼称することといたします。NHKでは政府の通達に従い、横須賀を侵攻中の怪獣をチタノザウルスと呼称します。続いて、ゴジラ関連の情報です。群馬県警察本部、並びにNHK群馬放送局からの情報によれば、12:10現在、利根川沿いに侵攻中のゴジラは前橋市から佐波郡玉村町に達しました。なおゴジラ侵攻に伴い、JR両毛線、北関東自動車道が破断。群馬県内の交通機関に深刻な損傷が発生したことにより、今後の避難行動への影響が大変心配されております。またゴジラの予想進路に基づき、伊勢崎市、桐生市、太田市の利根川河畔より半径5キロ圏内を中心とした地域に新たに避難指示が・・・・』

 

テレビ画面に映し出された赤い表皮の怪獣を見て、斉田が口を尖らせた。

 

「これが、君らがさっき話してたタイタヌスか。全然違う名前になってるじゃないか」

 

そう言うと、モジャモジャの髪の毛を掻きむしった。

 

「こんなバケモノがうじゃうじゃ闊歩してたなんて、君らの時代は全世界サファリパークだたのか」

 

そんな斉田に怪訝な表情を浮かべるミラとリラだったが、タイタヌス、もといチタノザウルスの姿を凝視している。

 

「タイタヌスは大人しく温和な海の神です。ですが、自身に危害を加える相手には容赦しません」

 

「一度怒り出すと、海に壁を作り出して大陸を押し流すこともありました。今回も、続けて攻撃されたこと、そしてモスラとの交信を妨害されたことで、ものすごく怒ってしまったみたいです」

 

ミラとリラが答えた。

 

「何とか、怒りを鎮めてもらうことはできないかね?」

 

三上が席を立って、ミラとリラに訊いた。

 

「ええ、モスラに諭されたことと、陸に上がったことで、怒りは収まりつつあるみたいです」

 

「このまま海へ戻ってから、タイタヌスを再び怒らせない限り、また荒れだすことはないでしょう」

 

「そうは言っても」と、斉田が口を挟んだ。

 

「こんなのが東京湾に潜んで、自衛隊が攻撃しないワケがない。湾内であんな津波を起こされちゃ、ゴジラどころの騒ぎじゃないぞ」

 

斉田の懸念はもっともだった。テレビでは東京湾アクアラインが全面通行止め、羽田空港発着の避難臨時便の運航制限を報じ始めたのだ。

 

「どうだろうな」

 

檜山は傍から疑義を唱えた。

 

「ゴジラとサンダ・ガイラの首都圏接近で、自衛隊は攻撃から国民の避難誘導へと方針を切り替えている。その上、チタノザウルスには攻撃を加えたことで状況が悪化したという事実があり、迂闊に手を出しにくい状況だ。第一、海上自衛隊の指揮統合を担当する横須賀の総監部が機能不全に陥っているからな」

 

言いながら、檜山は会議室の入り口でホテルの支配人と話す緑川に視線を向けた。何言かやり取りした後、緑川がやってきた。

 

「ホテル、閉鎖するって。間もなくしたら、ここも待機場所として開放させてほしいって」

 

入り口では、支配人がもうしわけなさそうに頭を下げてきた。羽田には時間を追うごとに避難者が溢れてきており、空港に併設されているこのホテルのロビー、レストランにも避難待ちの人々が流入してきている。

 

「やむを得ないだろうな。しかも喉元に怪獣が現れたんだ」

 

ちょうど空港のアナウンスが入り、チタノザウルス出現により空港の滑走路閉鎖を告げていた。空港内のざわめきと動揺が、この部屋にも聞こえてきた。

 

「だがね、この状況ではどこにも行きようがないのでは・・・」

 

三上はホテルの外に見える東京モノレールを仰ぎながらつぶやいた。滑走路閉鎖を知る由もない避難者が、すし詰め状態で車両に乗っている。また地上階には、やはり臨時運行している都バスや京急バスが続々とバスターミナルに進入、炎天下の中空港を目指す避難者がアリの行列よろしく続いている。

 

「車も、出せそうにありませんねえ」

 

斉田が駐車場を見ながら言った。ここから見える首都高羽田線、国道357号線では車列が上下線共にまったく動くことなく並んでいる。

 

ここにいる誰もが、モスラと交信するミラとリラを気遣っているのだ。

 

「・・・あの、こんな状況の中、ギドラが東京にやってきたら・・・?」

 

秋元が一同面々、顔を見回して訊いた。

 

「想像したくもねえな」

 

より激しく頭を掻きむしる斉田。

 

「・・・もうすぐ、モスラとバトラがギドラに戦いを挑みます。でも、すごく疲れてる・・・」

 

リラが半ば放心状態でつぶやいた。

 

「再び、大気圏外から飛行する方法を取ったんです。ゴジラとの戦いで負った傷も、満足に癒えてないのに・・・」

 

補足するようにミラが言った。リラと違い、表情に確固たる意思が滲み出ているようにも見える。やはり何がしか思うところがあるのか、そんなミラを心配そうにリラは腕をつかむ。

 

「でもその前に・・・ダガーラ」

 

ちょうど、テレビの画面が切り替わった。

 

『いま入りましたニュースです。アメリカ軍統合参謀本部の発表によると、日本時間のついさきほど、ハワイの米軍太平洋司令部指揮による黄金の怪獣掃討作戦をハワイ沖北西200キロの海上において実施したものの、効果が見られず失敗に終わったとのことです。これはホノルル基地所属の米空軍F22中隊、同じく米海軍の艦対空誘導弾による同時且つ多重攻撃によって撃滅を図ったものですが、全弾命中したものの勢力が弱まらず・・・続けてのニュースです。イラオニハワイ州知事は、ハワイ州全域に緊急事態を宣言・・・新しい情報・・・?え、たったいま入りましたニュースです、ハワイ州ホノルル市に、怪獣と思われる飛行体が落下した模様です。この怪獣は昨日、カナダ・バンクーバーからシアトルを襲撃した怪獣、ダガーラであると思われ・・・・・』

 

 

 

 

 

 

・7月12日 17:15 アメリカ合衆国ハワイ州ホノルル市ワイキキビーチ

ヒルトンハワイアンビレッジ ワイキキビーチリゾート

※日本より19時間遅れていることに留意。

 

 

けたたましいサイレンを鳴らしながら市警察のパトカーがホテルの前を走り去っていくと、続くように住人や観光客が避難場所として指定されたコンベンションセンターを目指して駆け足で向かっている。

 

そんな様子を見て自身も逃げ出したい衝動を堪え、JOTツアーズワイキキデスクのシーファー・由紀は情報を求めてデスクに殺到する日本人に現状を説明するのにてんてこ舞いだった。

 

「ここから1キロ先のコンベンションセンターが避難場所に指定されましたから、そちらへ向かってください、そこからは警官の指示に従って行動してください」

 

「それなら地図をくれ!」

 

「英語話せないんだけどどうしたら良いの!?」

 

デスクに群がっているのはほとんどが中高年であり、英語が話せる、あるいはとにかくなんとかしようとする人々はグーグルマップを開いてコンベンションセンターを目指し始めている。

 

「市警察には日系の警官もいますから、とにかくいまは避難場所へ向かっていただけますか?」

 

そうは言うものの、まるで通訳として同行してもらいたい、そんな空気が漂い始めている。中には、明らかに自社の顧客ではない日本人観光客も少なくない。そうこうするうちに、日本人が固まっている様子を見た別の日本人観光客が集まり始め、どうすれば良いのか問い合わせてくるのでまた一から説明をするハメになる繰り返しだ。

 

何度目かの案内をすべく声を張り上げたが、上空を空軍の戦闘機が慌ただしく飛び交っており、「聞こえないぞ!!」と怒号が上がる。

 

一瞬怒鳴り返そうとしたが、由紀はグッと我慢した。数日前に自社がツアーを造成した豪華客船あかつき号が沈没してからというもの、JOTツアーズへの信頼は著しく揺らいでしまっている。ここでさらに信頼を毀損させてしまうわけにはいかない。

 

同時に、ホテルの上空を戦闘機が飛んでいくたび、ホノルル基地に勤める夫のクリス・シーファーのことが気になって仕方がなかった。夫は兵装担当でコクピットに座り怪獣と戦うことはないが、それでも最後の最後まで避難できない立場である。

 

さきほどまでの陽光が急に影を差したかと思うと、大粒の雨が降り始めた。南国のホノルルでは突然のにわか雨は珍しいことではないが、由紀も、そしてデスクに集う中高年たちも突然の雨に背中が冷たくなるのを感じた。

 

思わず席を立ってロビーから空を仰ぐと、ひっきりなしに飛び立つ戦闘機の先に、もくもくと広がる黒雲が見えた。時折、雲の隙間から金色の稲妻が走っている。風が強まり、ビーチのパラソルやベンチが吹き飛ばされ、空高く舞い上がった。

 

雨まじりの強風がロビーのガラスに叩きつけられ、危険を感じた由紀はガラスから後ずさった。黒雲から何かがこぼれ落ち、そのままこちらへ落ちてくるのが見えた。

 

豆粒ほどの大きさだったが、やがてダイヤモンドヘッド山頂に激突、轟音を上げながらカピオラニ公園に落下した。

 

デスクの棚が床に落下し、由紀はその場に身を伏せた。恐る恐る顔を上げると、カピオラニ公園から赤い煙が昇りはじめ、獣のような咆哮が上がった。

 

赤い煙が何を意味するのか、ここ数日アメリカ西海岸で起きた出来事をニュースで観ていた人々はパニックになり、叫び声をあげながら煙から逃れるべく暴風雨の中を駆け出した。つられるように、日本人観光客たちも蜘蛛の子を散らすように走り出した。

 

由紀も外へ出たものの、通りを吹き荒ぶ横殴りの風で転倒する者が続出する中、全員が目指すコンベンションセンターは却って危険と感じたことで、北側のハワイ大学方面へ走り出した。数メートル先の視界確保もままならない土砂降りだったが、アラ・ワイ公園に達する頃には急に雨が小降りになった。

 

違和感に足を止めたとき、赤い煙の中から翼が広がるのが見えた。だが翼はところどころ朽ち果てたように破れ、どうみても空を飛ぶことは叶いそうにない。

 

周囲が黄金に照らされた。まるで宗教画の如く、黒雲を割って黄金の巨体が舞い降りてきたのだ。あまりに美しく神々しい姿だったが、由紀は全身がしびれたように身動きができなくなった。雨に打たれ顔はびしょ濡れなのに口の中が渇き、言いようのない恐怖に身体が小刻みに震え出した。

 

黄金の巨体が舞い降りるために羽ばたかせたことで、赤い煙が晴れた。朽ち果てた翼の持ち主、ダガーラが後ろ脚で立ち上がり、絶叫するような咆哮をあげる。だがそれは威嚇するようにも、はたまた命乞いするようにも思えた。

 

よく見ると、ダガーラは全身あちこちが血にまみれ、片眼が潰されていた。ゆっくりと狙いを定めるように黄金の怪獣が3つの首でダガーラに焦点を合わせる。

 

ダガーラの肩口、そして翼から赤い煙が勢いよく放たれた。それはダガーラの倍以上はあると思われる黄金の巨体を包み込むほどの広がりを見せたが、黄金の怪獣はまったく意に介さない様子だった。苛立ち気味にさらなる煙を放出するダガーラを嘲笑うように3つの首で吼えると、黄金の怪獣はそれぞれの首から稲妻を放った。

 

地をなぞるように這う稲妻は、酸素を奪い燃焼という現象を無効化するダガーラの赤い煙などおかまいなしにダガーラの周辺を大地ごと巻き上げた。

 

吹き飛ばされたダガーラはハレ・コア・ホテル、そしてさきほどまで由紀がいたヒルトンに激突しながら落下した。

 

飛んできた破片に思わず身を屈めた。道路上の車両にコンクリート片が激突し、目の前の看板が火花を上げて倒壊する。

 

悲鳴のような絶叫が鳴り響いた。見ると、黄金の怪獣は3つの首でダガーラをくわえ上げていた。噛み付かれた状態そのまま、ダガーラの全身が稲妻に包まれた。断末魔の雄叫びを上げたかと思うと、ダガーラは弾け飛んだ。だがバラバラになったというレベルではなく、まるで粒子が飛散するように細かく飛び散ってしまったのだ。

 

一瞬静寂が訪れた。黄金の怪獣は大きく吼えると、自身ほどはある羽根で飛び上がった。その羽ばたき一度でプリンス・ワイキキからアラモナビーチ、そしてコンベンションセンターからダウンタウンまで吹き飛んでしまった。叫びながら地面に這いつくばる由紀。

 

次の羽ばたきは周辺を嘗め尽くした。

 

轟音が収まり、由紀は顔を上げた。全身が痛むが、どうやら命は助かったらしい。

 

立ち上がると、自分以外すべてのものが横倒しになっていた。さきほどまで周囲にいた人々もいない。車両もガラス片を残して消え去っている。辺りを見回すと、何人かが建物だった瓦礫に打ち付けられ、赤い塊になっている。

 

状況が理解できぬまま、由紀は夫が勤めているホノルル空軍基地・ダニエル・K・イノウエ空港の方を向いた。ここから望めるはずの滑走路は瓦礫が散乱し、至る所で火の手が上がっている。

 

急に雨が降り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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