怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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ーChapter 67ー

・7月13日 16:38 千葉県船橋市浜町1丁目

 

 

『ただいまららぽーと東京ベイ、船橋競馬場が臨時待避所として開放されています!市民のみなさんは、速やかに建物内部の、可能な限り奥まった場所へ退避してください!押さないで、押さないで!』

 

市役所の広報車に備え付けられたマイクに向けて、船橋市役所下水道計画課主査の小泉晴樹は声量の限りを繰り返しぶつけていた。

 

ギドラが船橋市に舞い降りる前後から滝のような豪雨となり、小泉の必死の呼びかけも雨垂れの音にかき消されんばかりだったが、声帯を潰す覚悟で小泉はマイクに向かった。

 

本来、住民の避難誘導といった業務は市役所防災課、あるいは警察・消防の仕事なのだが、小泉を含めた市役所職員は本日午前中のうちから、担当部署の枠組みを取り払って怪獣接近に伴う避難活動支援に当たっていた。もともと南関東地震や昨今の風水害に備えて有事の際に対応可能なように訓練を進めていた上、昨年のゴジラ、ガイガン騒動もあり、近隣自治体と比較しても効率的に有事への対応をこなせていた。

 

だが鉄道による市民の避難を想定した行動は完全に破綻していた。京葉・武蔵野・総武の各JR線、もしくは京成電鉄を利用して市街へ逃れようにも、東京都内から膨大な避難者を満載してくるため、市民が乗り込める余地など皆無だった。その上、とにかく東京から脱出せんとする多くの都民が船橋・南船橋で降りてくるため、いずれの駅舎も避難者で押し合っていたのだ。

 

そして30分前、ギドラが暴風を伴いながら船橋にやってきた頃から、千葉県庁、千葉県警察本部との交信が途絶えた。電話線・携帯基地局損傷によるものと思われたが、千葉市中枢が全壊したという噂も流れてきた。

 

かかる事態に至り、小泉たち市役所職員は“お上”からの情報・指示を得られなくなったことで、とにかく現場レベルで避難支援に取り組もうということになったのだ。

 

「小泉さん、雨が弱まってきましたよ」

 

隣でハンドルに手をかけたまま、後輩職員の香藤乃が口を開いた。言った通り、フロントガラスに叩きつけられる雨粒が小さくなってきた。外のアスファルトも、水柱の勢いが弱まりつつあった。

 

「おい、外の様子見てこい」

 

もはや声を出すだけで喉から出血しそうだったが、咳払いをしながら小泉は言った。

 

「外、出るんですか?」

 

香藤乃は戸惑い気味にフロントガラスと小泉に視線を逡巡させた。

 

「あのギドラの野郎に何かあったのかもしれねぇからな。あんなのがまた空飛び始めたら、この辺みんな吹っ飛んじまう。ホラ、早く確認しろよ」

 

香藤乃はいやそうな顔を隠さなかったが、渋々といった様子でドアを開け、ここから北東の方角へ視線を這わせた。雨は細かい霧雨が風に巻き上げられて横から降っている状態で傘も役に立たないが、土砂降りよりかはマシといえた。

 

「さっきより電撃が減ってるようですよ。相変わらず動きはなさそうです」

 

豪快な体格の割に臆病な香藤乃は、ガラリとドアを開けて車内に乗り込むなり、言った。

 

船橋に飛来したギドラはその巨大な翼を閉じ、自身の身体を包むように覆うと金色に発光し始めた。まるでテスラコイルのように空中放電を繰り返し、どういうわけか周囲の車両やビルの看板が吸い寄せられた。昔、砂場に磁石を持って行ったら砂の中の砂鉄だけくっついてきた様子を、小泉は思い起こしていた。

 

「あの野郎、エネルギー充填中ってか?ふざけやがって」

 

そう毒づいたが、もしまた活動を再開したら、この辺りも一瞬で吹き飛ばされてしまうだろうことは容易に想像がつく。昨年現れたときはほんの10分で名古屋を滅ぼし、ゴジラと激突した浜松に至っては3分ですべてを吹き飛ばされたとの報告もあった。

 

いま小泉たちがいる浜町一丁目交差点も、ギドラがいる辺りから1キロと離れていない。飛来前と違い渋滞はしていないが、乗り捨てられた車両で市内の道路は溢れていた。いざとなれば広報車を捨て、手持ちの拡声器で何とかする他あるまい。喉が使い物にならなくなろうが、もはや知ったことでは・・・。

 

突然、地面が揺れた。地震ではない。車両が縦揺れ、というよりも持ち上がったように飛び跳ねたのだ。一拍置いて、もう一度。

 

「どど、ど、どうしたんでしょう・・・」

 

運転席の香藤乃が泣きそうな顔になっている。周囲の人々も動揺し、歩む足を止めて狼狽えている。

 

咄嗟に小泉はららぽーとの方を見た。無作為に道路に捨てられた車両ばかりで、車を走らせることはできなさそうだ。第一車を出したところで、またあの揺れが起きた場合、運転操作が狂って避難する市民を巻き込みかねない・・・。

 

「くそったれ!」

 

喉に鉄の味が広がるのもかまわず、小泉は怒鳴った。

 

「おい降りるぞ!みんなを建物ん中に入れろ!」

 

言いながら拡声器をひっつかみ、『いますぐ建物に入ってください!急いで!』と叫んだ。

 

「ちょ、車どうすんですか」

 

事態についていけない香藤乃が訊いてきた。

 

「そんなモン捨てろ!ホラ早く手伝え」

 

小泉の呼びかけで周囲の市民たちは手近の建物に入っていき、ある者たちはここから見えるより堅牢な建物、船橋ららぽーとへと向かい出した。

 

『ギドラだ!急いで!』

 

先程からの揺れは、ギドラ以外に思いつかない。とにかく路上から逃れるように・・・と思っていたところ、ららぽーとの方から踵を返した市民たちが「ヤバい!」「逃げろ逃げろ逃げろ!」「急ぐなっしー!」と絶叫しながらこっちへ戻ってきた。

 

「おい!何で戻ってきてんだよ!」

 

思わず傍らを抜けようとした男性をつかみ、訊いた。

 

「かか、怪獣が、海から・・・!」

 

男性は声がかすれていた。揺れがより激しくなってきた。

 

「こ、小泉さんアレェ!」

 

香藤乃が素っ頓狂な声でららぽーとの方を指差した。ビルを突き抜けるほど巨大な首がそびえ、大地を揺らしながら向かってきたのだ。まるで首長龍・・・たしかチタノザウルスとかテレビで言ってた・・・は甲高い咆哮を上げながら、京葉線・東京湾岸道を突き崩し、船橋埠頭付近に上陸してきた。

 

「しゃらくせえ!」

 

小泉は拡声器をつかみ、『とにかく離れて!急いで!』と声を張り上げる。船橋高校付近にギドラが鎮座し、埠頭からチタノザウルスが現れたなら・・・小泉は瞬時に判断した。

 

『北だ!みんな湊町の方へ逃げるんだ!』

 

ギドラがいる場所より東は飛来時の衝撃で混乱をきたしている。北ならば・・・そう考え小泉も走り出したとき、前方で市民の足が止まり始めた。

 

「おいどうした!何やって・・・」

 

小泉も絶句してしまった。船橋競馬場駅の向こう、宮本町辺りに2匹の怪獣が立っていた。毛むくじゃらの全身を揺らしながら、東を目指している。あれは午前中のニュースでやってた奴らだ。ゴジラと群馬県北部で交戦してた、サンダとガイラだったか・・・。

 

「おお!?」

 

香藤乃が声を上げた。彼が仰ぐ東側、ビル群の先から、3つの首がゆっくりと伸びてきた。

 

一斉に怪獣たちが雄叫びを上げた。あまりの轟音と光景に市民は呆気に取られ、小泉は歯噛みし、その場にたたずむ他なかった。

 

 

 

 

 

 

3つの首を伸ばして身を起こしたギドラは、迫ってきた存在に各々首を向けた。

 

海からはチタノザウルス、利根川方向からはサンダ、ガイラ。

 

ギドラの全身をまとう放電は鳴りを潜め、威嚇するように3つの首が吼える。反応したかのようにサンダ、ガイラ、チタノザウルスも天に大きく吼えた。

 

ギドラは獲物を物色するかのように、それぞれの怪獣を舐め回すように見る。体格の差は比べ物にならないが、3匹とも動じず吼え続けている。

 

切り込み役を果たしたのはガイラだった。本町通りを駆け出し、京成電鉄の高架橋を飛び越えた勢いでギドラの土手腹に正拳突きを叩き込んだ。助走つけた一撃にギドラが怯むと、追って拳骨を叩きまくる。

 

反撃とばかりにギドラは3つの首で噛みつかんと首を振り下ろす。わきに逃れたガイラは両脚で踏ん張り、ギドラの脇腹に飛び蹴りを喰らいこませた。

 

自身の3分の1ほどに過ぎないガイラの攻撃では地に伏せることもないが、2、3歩よろけて大きな隙を作った。

 

ガイラは背後に回り込み、ギドラの背中を駆け上がるとボロボロの両羽根にしがみつき、中央の首付け根に噛み付いた。ギドラからすれば死角であり、左右の首が後ろを向いてもガイラまで牙が届かない。ガイラは噛む力を強め、さらには鋭い爪をより食い込ませた。ところどころ破けた羽根を拡げたが、ガイラは手を離さない。

 

そんなガイラの背中を、ギドラの2つの尻尾が殴りつけた。一撃目は耐えたが、続けざまの2本同時攻撃にはたまらず牙と爪を離してしまい、市立宮本中学校に吹き飛ばされた。

 

逆襲すべくガイラに近づくギドラだったが、右の首に何かが激突した。サンダが脚元の車両をつかみ、ギドラの顔に当てたのだ。ガソリンを満載したタンクローリーを嗅ぎつけると、サンダは力いっぱい投げつけた。ギドラの胸元に激突し爆炎が上がる。

 

サンダに標的を定めたギドラが大きく口を開いたとき、前のめりになってバランスを崩した。身を立て直したガイラが2本の尻尾を引っ張り、進撃を妨害したのだ。

 

それでもギドラは馬力で勝り、尾をつかんだまま引きずられるガイラ。そこへ左脇からチタノザウルスが突進を仕掛けた。体格的にサンダ・ガイラを上回る突進力にギドラはバランスを崩し、横倒しになった。

 

サンダは首を踏みつけ、ガイラは背中を蹴りまくる。たまらず空いた首がサンダに喰らいつこうとしたとき、チタノザウルスの一突きがギドラの土手腹に炸裂した。横倒しのままビル群を薙ぎ倒しながら滑り行く。

 

怒りに唸りながら立ち上がったとき、チタノザウルスが懐に入り込んだ。中央の首に噛み付き、上半身を振り上げる。噛みつかれたままギドラの身体が宙に舞い、さらに首を振りかぶるとチタノザウルスはギドラを放り投げた。およそ1キロほど吹き飛ぶと船橋駅前から市役所にかけて倒れ込み、瓦礫の中でギドラはもがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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