怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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ーChapter 68ー

・7月13日 17:02 東京都大田区 東京湾海上 調査船「けんざき」

 

 

「先生、あれ・・・・」

 

船が動いてから、秋元が三上に呼びかけ、東の方を指さした。千葉・習志野・市原といった千葉県沿岸部から猛烈な黒煙が上がっていた。とりわけ京葉工業地帯からは黒煙の下にもうもうと盛る炎の筋がここからでも確認できた。

 

「やはり報道の通り、ギドラによって・・・」

 

固唾を呑む秋元に、三上は口を真一文字に結び、頷く。傍らでは緑川がうずくまり、手で口を押えた。

 

「おいおいどうした、二日酔いか?」

 

タラップから降りてきた斉田が、緑川の背中をさする。

 

「ううん、ごめん・・・ちょっと気分が・・・」

 

さんざん二日酔いになった緑川を介抱してきたが、雰囲気がこれまでとまるで異なっている。

 

口にこそしなかったが、昨年名古屋において同じように燃え盛る都市の光景を目撃した緑川は、当時の記憶がフラッシュバックしたことによって眩暈と吐き気を催していた。

 

「船酔いか?すまないな。昔からどうも操舵は苦手でな・・・」

 

操舵室で舵を握る檜山が声をかけてきた。

 

「なんでもない、もう大丈夫だから」

 

無理やり立ち上がった緑川だが、口元の手を離そうとはしていない。

 

「それにしても・・・よくこの船借りられたよな、ホント」

 

呆れ気味に斉田は言った。

 

「檜山さん、立場的に強権駆使できたとはいえ、いろいろマズイんじゃねーの?」

 

ミラとリラの要望で怪獣たちが争う場所に近づくことになったが、道路も鉄道も果てしない混雑が続いている。平時と異なり、千葉まではどのくらい時間を要するかわかったものではない。

 

そんな折、羽田に停泊していた海上保安庁所属の調査船を見つけた檜山は、自身の立場と(ごく内密なやり取りとはいえ)佐間野国交大臣の承認をチラつかせたことで、調査船を借り上げることに成功した。

 

「まあな。そもそも混乱下とはいえ、事故調査をほっぽり出して奄美から東京に来てるんだ。間違いなく懲戒免職ものだろうが・・・このままいくと処分を下すはずの海保どころか、日本て国が吹き飛んでしまいかねん。もはや何でもありだ」

 

半ば諦めて自嘲気味に檜山が言った。

 

「「檜山さん」」

 

ミラとリラが口を揃えた。

 

「「本当にありがとうございます」」

 

檜山はまんざらでもなさそうに微笑んだ。

 

「それより、モスラとバトラは?」

 

「もう少しです」

 

リラが答えた。

 

「ゴジラがギドラへ向けて放った熱線の余波で、一時海中へ逃れたのです。いまこちらへ向かっています。力を温存するため、成層圏ではなく雲の中を飛んできています」

 

ミラが続いた。

 

「願わくは、早く来てもらいたい。あの様子だと、すでに怪獣たちが争い始めているようじゃないか」

 

荒れ始めた波に苦戦しながら、檜山は言った。目指す先、船橋方向には時折土煙と轟音が空に広がっている。

 

「しかし大丈夫なのか?モスラはともかく・・・バトラだっけ?あのオランダとイギリス襲ったヤツ、どう見てもギドラより悪者だぞ」

 

モスラとバトラについての話は一通り聞いていたものの、斉田が訊いた。

 

「バトラは、攻撃と破壊本能に司られた存在です」

 

「ですがモスラと一緒にいることで、本能を抑え行動できるのです」

 

「カミさんに頭上がんねぇのは怪獣も一緒か・・・」

 

そうボヤくと、頭を掻きながらタラップに出た。船内にいると波による揺れと檜山の腕前で嘔吐しかねなかったこともあるが、数十分前から気になることがあるのだ。

 

「ギガ数持ってくれよな」

 

そうつぶやきながら、YouTubeを開く。三蔵院永光が主宰している宗教団体『黄金の救い』が持っているチャンネルでは、富士吉田にある教団大講堂にて演説する三蔵院の様子が映し出されていた。

 

『滅びの刻は救いの刻です。みなさん、どうぞここ富士の地へお越しください。そして共に祈り、滅びと救いを共に享受するのです』

 

すると秋元が顔色を変えてやってきた。

 

「これって・・・」

 

「ああ。救世主到来 救いの集い100万人運動だかって、昼過ぎから始めてたんだけどな・・・。既に富士山麓に、数万も集まってるらしい。JR各線動かなくなってるが、中央線だけは動けてることも拍車をかけてるみたいだぞ」

 

秋元は憎悪に満ちた顔で、澄まし顔で語る画面先の三蔵院を睨みつける。

 

「なあ、気持ちはわかるが稲村さんの死に彼らが携わってる証拠はない」

 

普段の秋元らしからぬ表情に、斉田は窘めの言葉を投げた。すぐさま穏やかないつもの秋元に戻ったが、斉田は気分をなんとか保っている緑川に目を向けた。

 

まだ確証はないが、緑川と関係があるらしき近藤というジャーナリストが稲村の死にまつわる何らかの秘密を握っているのではないかと、斉田は睨んでいた。折からの首都圏混乱でこの独自調査はストップしたままだが、思わぬところに糸口があるのでは・・・。

 

名探偵でもあるまいに、そんなことを考えたせいか、思わず身震いした。

 

だがその身震いは、周囲の空気が引き起こしたものだった。

 

「ねえ、なんだか寒くない?」

 

緑川が両腕をさすりながら、立ち上がった。

 

「え・・・うそ」

 

手のひらに舞い降りた物体を見て、秋元がつぶやいた。

 

「・・・雪?」

 

ちょうど向かう先の船橋付近では、金色の光が幾筋か伸び、鈍い地響きが巻き起こっていた。

 

 

 

 

 

瓦礫に埋もれたギドラは動きを止めていた。チタノザウルスは低く唸ったままギドラを睨みつけ、ガイラは警戒しながらギドラににじみ寄る。

 

一瞬金色の閃光が四方に走り、瓦礫がさらに細分化されて吹き飛んだ。近づいていたガイラは勢いで吹き飛び、マンションに背中から激突する。

 

まだ不完全だが、あちこち破けた羽根が回復しつつあるギドラが宙に浮いていた。大きく羽根を動かしつつ、ゆっくりと上昇している。

 

サンダとガイラ、そしてチタノザウルスが恐れていたことだった。大きくダメージを受けたギドラがその傷を癒さぬうちに叩き潰さんとしたのだが、相手の回復速度は予想を上回っていた。

 

雄大に羽根を前後に動かすギドラ。道路上の車両やビル屋上の看板、家屋の屋根瓦が砂のように舞い上がり、サンダとガイラは怯んだ。

 

雄叫びを上げながらチタノザウルスは尾の先端を拡げた。背鰭の先端が鈍く光り、眼にも止まらぬ速さで身を翻す。尾の先端がギドラの右脚を切り裂き、苦痛に吼えるギドラ。高空へ上がらぬうちにと、チタノザウルスはギドラの左脚に喰らいついた。

 

暴風から逃れたサンダとガイラはチタノザウルスをまね、ギドラの尾にそれぞれしがみついた。

 

だが空へ昇ろうとするギドラの力は、3匹の抵抗を上回った。噛みついたまま、そしてしがみついたまま、脚が大地を離れてしまった。

 

そのときだった。局地的に大地が揺れ、いくつかのビルが突然生じた地割れに沈んだ。

 

異変に気付いたギドラの左首が大地を睨んだとき、裂けた大地から一気に溶岩が噴き上がり、何かが飛び出した。

 

溶岩に彩られたバラゴンだった。チタノザウルスが作った右脚の裂傷に矢の如く角を突き刺したのだ。

 

ギドラは叫び、痛みのためか浮力が奪われたように降下を始めた。バラゴンが作った地割れに脚が食い込み、横倒しになる。

 

ビルと大地を崩しながらギドラは身を起こす。周囲を4匹の怪獣が囲んでいた。上空を覆っていた黒雲から止んでいたはずの雨が滴り始め、やがて白い個体となる。

 

急激に冷えた空気に、ギドラは東を仰いだ。強烈な冷気を纏いながら2本の巨大な牙を揺らしつつ、ベヒモスが悠然と向かってきていた。

 

そして中央の首は上空を向いた。黒雲を破り、バランがらせんを描くように舞い降りてきたのだ。

 

力を充填させるかのように全身を電撃が走るギドラ。合図するかのようにサンダとガイラが吼えると、囲んだ怪獣たちが一斉にギドラへ進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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