怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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ーChapter 71ー

・7月13日 17:58 千葉県市川市塩浜1丁目 福山通運塩浜倉庫付近

 

 

「バカヤロー、こんなとこ命がいくつあっても足りねえ!」

 

拝借した巡視艇が市川市沿岸部の倉庫街に着岸し、檜山ら一行が上陸した直後、ギドラが縦横無尽に吐き散らかした引力光線による破壊力を目の当たりにした斉田が、おののきながら怒鳴った。季節を無視した寒気に覆われながらも、膨れ上がった爆発の焔が空気を焦がすのが伝わってくる。

 

秋元と三上は呆気に取られ、緑川は寒さのせいばかりではなく、カタカタと小刻みに震えている。

 

そんな中、ミラとリラは互いに頷き合うと手を繋ぎ、目を閉じた。

 

爆炎のせいではない、ふわりとした暖かさが上空から伝播した。雲を割ったモスラとバトラが、祈りを捧げるミラとリラに呼応するかのように現れたのだ。

 

ミラとリラは目を開けた。目一杯鱗粉を繰り広げるモスラに、スッとした視線を向ける。

 

バトラの攻撃でギドラは江戸川に落下し、地面が大きくバウンドする。倉庫街のガラスが一斉に砕け、降り積もった雪が小麦粉のように舞い上がる。

 

通りの先には、なす術なく逃げ惑っていた大勢の人々が上空を旋回するモスラに、惹かれるような目を向けている。ギドラや他の怪獣の脅威を忘れさせてくれるような、不思議な魅力を感じているかのように見えた。

 

「モスラとバトラは、勝てるのか?」

 

固唾を呑んだ檜山が訊いた。

 

「モスラは、自信がないけれど、命を懸けて立ち向かうそうです。バトラも」

 

リラが不安げに答える。

 

「私たちも祈ります」

 

対するミラは、決意固く答える。檜山は不思議と、ミラとモスラが重なって思えた。

 

モスラが鋭く啼いた。それだけで周囲の空気が浄化されたように思える。気がつくと激しく燃え上がっていた江戸川対岸の船橋・市川方面がいつのまにか炎が静まっていた。

 

繋がるミラとリラの手が、より強く握られた。どちらかと言えばミラが強く握ったように見えた。

 

モスラとバトラが同時に吼えたかと思うと、直近に雷が落ちたような凄まじい音と光が迸った。全員が目を覆い、ついしゃがみ込む。恐る恐る目を開ける檜山。ギドラを金色と紫色の閃光が包み込み、幾筋かが矢のようになってギドラに突き刺さる。光の矢が直撃するごとにギドラの表皮が爆発し、3つの首が天を仰いで吼える。

 

「・・・すごい」

 

思ったままの言葉を口にする檜山。雪雲とギドラの光線で昇った黒煙でいつもより早く闇が近づく中、極彩色の光に身を穿たれるギドラ。

 

モスラとバトラの羽根から雷撃のような光が放たれ、ギドラを纏う鱗粉に注がれると粒子状になって鱗粉に反射を繰り返し、中心のギドラへ向かっていくのだ。

 

より一層強くギドラの身が爆発し、古い電話のような奇妙な音を口から鳴らしつつ横転する。

 

「おお・・・!」

 

感嘆の声を上げる三上。

 

「やった!・・・のか?」

 

猛烈な白煙に包まれたギドラを見て、思わずガッツポーズをした斉田だったが、真剣な表情のミラとリラに気圧されたように訊いた。

 

地響きと共に甲高く、それでいておぞましい雄叫びが空気を揺らした。空に向かって3方向に引力光線が迸り、すんでのところで回避するモスラとバトラ。

 

急旋回したモスラが檜山たちの頭上で旋回し、10センチほど積もった雪が浮かび上がって激しい地吹雪となる。

 

「こんなことならブルゾン羽織ってくるんだった・・・!」

 

半袖のまま身をすくめる斉田が歯を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと浮遊しながら態勢を整えたモスラは、再びギドラと睨み合った。羽根から絶え間なく鱗粉が放たれ、ギドラの身体にまとわりついていく。

 

怪訝に首をかしげるギドラに、モスラの触角から超音波が放出された。分子レベルで鱗粉が振動し、ギドラの身体から白煙が上がった。身を焼く強烈な熱に苦痛の雄叫びを上げ、反撃とばかりに3つの首から一斉に引力光線を放つ。

 

通常であれば光を介した光線や熱線の類を乱反射して弾き返すモスラの鱗粉なのだが、ギドラが放つ引力光線は構成される物質そのものが光や熱とも根本から異なっており、鱗粉の性質をまったく無視してモスラへ一直線に向かっていく。

 

直前で回避したモスラは超音波を緩めず、むしろ増幅して放つ。江戸川の水面が波打ち、周囲のガラスが一瞬でひび割れる。

 

舌を出して苦しむギドラがいま一度発光したとき、急降下してきたバトラの脚がギドラの頭部を斬り裂いた。青い血が噴き上がり、虚を衝かれたギドラが急上昇するバトラを見据える。

 

そこを背後から猛スピードで突っ込んでくるモスラが両翼で殴りつけた。前のめりになったギドラは再度転倒し、河川敷の野球場に突っ伏した。

 

好機とばかりに容赦なく超音波振動熱で攻撃するモスラ。高熱で野球場のスタンドライトが真っ赤になって熔け落ち、アスファルトが蒸気を上げて煮上がった。

 

唸りながら首を起こすが、全身を分子振動による超高熱に支配されたギドラは動きが鈍い。続々と音波を送り込むモスラ。大勢は決したかと思われたとき、突如ギドラは3つの首で天を向き、一斉に引力光線を発射した。モスラにもバトラにも照準を合わせていない、苦し紛れの一撃なのかと思われたが、奇妙なことが起きた。

 

3つの光線は途中で絡まり合い、竜巻状の渦となって天を目指す。そこにモスラの鱗粉が巻き込まれ、極大の光の渦と共に空へ昇っていく。3筋の光線をひとつに合わせることで強力な引力の渦となり、空気中に漂う鱗粉はおろか、周囲の土や江戸川の水、はては家屋や倉庫、道路までが引き込まれて浮かび上がった。

 

接近していたモスラの身体も自由が利かず、慌てて離脱する。状況悪化を悟ったバトラがプリズムレーザーで牽制するも、一心不乱に引力光線を吐き続けるギドラは微動だにしない。

 

とうとう撒き散らされた鱗粉のほとんどが周囲から消滅した。光線を吐き終えたギドラは不敵に嗤い、仕返しとばかりに正面のモスラへ引力光線を放射する。

 

回避して逃げ回るモスラだが、3つの首があらゆる方向から迫り、いつ直撃してもおかしくない。ギドラの背後からバトラが接近してプリズムレーザーを放つが、気配を察知したギドラの右首が後ろを向いて引力光線で応戦する。

 

バトラの両目から繰り出されたレーザーより、引力光線はその威力で優っていた。光が激しく弾けてバトラが吹き飛ばされ、回転しながら墜落しかかったところに引力光線が炸裂した。

 

悲鳴を上げながらバトラは2本の脚を砕かれ、 白煙を纏いながら東西線行徳駅、ドン・キホーテをなぎ倒して瓦礫に埋もれた。

 

悲痛な声を上げてモスラが飛び寄って、バトラに覆い被さる。失った脚から紫色の血液が大地と瓦礫を侵している。

 

ギドラは大地を震わせながら、妙典から2匹が降りた行徳を目指して進撃を始めた。巨体が移動するだけで建物は砕け去り、地面が波打つ。

 

苦痛に声を上げるバトラと、必死に癒そうとするモスラだったが、バトラが顔を上げた。モスラもバトラが顔を向けた方角を向く。ギドラとはまったく異なる、おぞましくすさまじい殺気を察知したのだ。

 

ギドラが迫る揺れとも異なる振動が地を震わせている。気づいていないのか、モスラとバトラに報うべくやってくるギドラはその歩みが止まらない。

 

突如空気が大きく波打ち、ギドラの背中が大爆発を起こした。青い光がギドラの羽根以上に拡がり、次いで爆炎が空気を焼き打つ。ギドラは前のめりに倒れ、焼け焦げた背中を露わにした。モスラとバトラはグッと身構えた。

 

 

 

 

 

バトラが墜ちたことで悲痛な表情だったミラとリラだったが、即座に表情を凍りつかせた。バトラが傷を負い悲しむ様子ではなかった。蛇に睨まれた蛙、あるいは獅子に対峙する草食動物が本能的に恐怖を感じるならば、こんな表情になるだろうか。

 

「おい、どうした?」

 

そう檜山が訊いた直後、青い閃光が周囲を照らし、檜山も目を覆った。膨れ上がった爆発は空気を焼きつかせ、皮膚がヒリヒリする。

 

何事かと目を開けたとき、ズン・・・ズン・・・ズン・・・と腹の底に響くような足音がする。

 

ギドラとも、はたまたモスラ・バトラとも違う咆哮が轟いた。これまで報道、あるいはネット映像でしか耳にしていないが、トラウマのように鼓膜にまとわりつく、あの声だった。

 

足音と建物が崩壊する音がしたかと思うと、「あああ!」と声を上げた斉田が北の方を指差した。

 

イオン市川妙典店の向こうにヌッと姿を現した、黒い巨体。再度雄叫びながら地に伏したギドラへ向かい始める。逃げ惑っていた住民たちも、その咆哮と異様な威圧感、迫力にただただ佇み、その正体を凝視することしかできなかった。

 

「「・・・あれが、ゴジラ」」

 

氷のような顔をしたミラとリラがつぶやいた。いま一度吼えるゴジラに、唸りながら立ち上がったギドラが怒りの雄叫びを上げる。

 

ゴジラとギドラは向かい合ったまま吼えあい、ゴジラは全身に青いチェレンコフ光を、ギドラは雷のような光を纏い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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