・7月13日 18:14 東京都千代田区永田町2丁目 首相官邸2階 官邸秘書官室
「詳しい情報をいただけませんか?」
尾形は官房長官秘書官の西條に訊いた。
「いや、私も又聞きですし、なにせ情報が殺到している上、刻一刻と変化する状況への対応で精一杯ですから、正確な情報とも言えないのですが・・・」
西條は口を尖らせた。面倒くさい相手にしゃべってしまったものだ、といった後悔がありありと顔に浮かんでいる。
「総務省からうちに出向しているリエゾンからの話ですが、いまから30分ほど前に千葉県野田市付近でゴジラが突然発光したかと思うと、全身から猛烈な熱波・・・というか、核爆発に酷似した衝撃波を放出して、周囲が壊滅状態になったというのですよ。自衛隊の化学科部隊に調査が命じられたようですが、この混乱ですから・・・」
「確認しますが、口から熱線を放射したのではないのですね?」
「そ、そのように聞いてます」
あまり自分の口から余計なことは言えませんよ、言外に匂わせて西條は忙しいフリをして尾形の元を離れた。
尾形はソファに腰かけると、顎に手を当てた。
昨年7月、浜名湖を崩壊させながら3日にわたりゴジラとギドラが争った際、ゴジラが不可解な爆発を起こしたという未確認の情報が寄せられた。詳細は不明な点が多いが、全身を一気に爆発させた、ないしは全身から放射熱線を発射した、などという報告があったのだ。
自衛隊の波状攻撃もことごとく失敗した上にゴジラとギドラによって多大な損傷を受けたことで、横須賀と呉から向かいつつあった海上自衛隊のイージス艦に攻撃を引き継いで撤退中であったため、まともな観測が為されずじまいだったようなのだが、その直後にギドラが遠州灘へ逃れ、追うようにゴジラが続いて太平洋へ消えたのはたしかだった。
未知の部分も多く仮説と推測になってしまうが、利根川から江戸川に入ったゴジラがギドラとの邂逅を前に、攻撃の準備をしたとすれば・・・。
尾形は席を立ち、防衛省から出向している首相秘書官が電話を切ったタイミングで声をかけた。
「現在の市川市付近の避難状況は、どうなっていますか?」
「確認しますが、かなりの混乱が生じていると報告を受けてますが」
なぜそんなことを訊くのか、不思議そうに上目遣いを向けてきた。
「可及的速やかに避難を実施するよう、閣僚と自治体へ進言してください。去年の浜名湖のようなことが起きるかもしれません・・・」
秘書官は怪訝な顔で首を傾げるばかりだったが、ゴジラとギドラが激突したことで浜名湖一帯がどうなったかは理解していた。総務省と防衛省の担当を内線で呼び出すと、尾形の言うことを繰り返した。
全身に熱量を溜め込んだゴジラとギドラは、同時に口から放射熱線と引力光線を放射した。2匹のちょうど中央で青と金色の光波が衝突し、光波同士が圧し合う。ギドラは3つの首から引力光線を放つのだが、ゴジラも負けずに熱線の放射を続けている。
やがてゴジラの熱線が引力光線を押し始め、ギドラは放射を止めて首をひねって熱線を回避した。そこから再度引力光線を放ち、ゴジラの脚に当てる。火花と白煙が弾け、ゴジラは叫びながら熱線を放った。ギドラの右脇腹付近に命中し、熱線の勢いもあって後ずさるギドラ。
怒りに吼えながらゴジラは突進し、ギドラの胸元に牙を当てようとした。暴風を伴いながらギドラは飛翔し、3つの首がゴジラめがけて引力光線を発射する。
首筋から腹部をなぞるように金色の光線が命中し、ゴジラは甲高く絶叫しながら倒れる。満足げに大地へ降りようとするギドラは、周囲が揺れていることに気がついていなかった。
ギドラが着地した大地が陥没し、半身がめり込んだ。驚くギドラの腹部に牙が突き立てられた。地中に潜航していたバラゴンが空洞を作ったところにギドラが沈んだのだ。地中から噛みつかれたギドラは3つすべての首が地中のバラゴンに向かっている。
そこを正面から走り込んできたサンダとガイラが正拳突きで首の付け根を叩いた。左右の首を大地に叩きつけ、脚で踏みつけることで動きを封じる。中央の首が怒り狂って口を開けたところ、滑空してきたバランが爪で喉元を切り裂いた。青い血がほとばしり、上空のバランを討たんと狙いを定めたとき、ベヒモスが大きな牙を突き刺してきた。
悲鳴を上げるギドラ。サンダとガイラは脚を離し、その場を逃れた。地中からバラゴンが姿を現し、全身の熱を放出する。
周囲の大地が熔け、溶岩のように煮えたぎる。その高熱がベヒモスの冷気と衝突し、猛烈な上昇気流が発生した。
上空のバランが上昇気流に乗ったかと思うと、急速に減退する上昇気流が崩壊することによって猛烈なダウンバーストが発生した。
衝撃波となって地表へ叩きつける暴風に乗ってバランは両手の爪を立て、ギドラの背中に突き刺した。
青い血が噴水のように飛び出し、大きく吼えるギドラにチタノザウルスが向かってきた。
中央の首に噛みつくと、ギドラの巨体を咥え上げて全身を陥没した大地から引っこ抜く。絶叫するギドラの首を3つまとめてつかみ上げると、背負い投げのようにギドラを大地に激突させた。
叫ぶ咆哮もかすれ、どうにか首をもたげて身を起こそうとしたとき、青い光がギドラに炸裂した。起き上がったゴジラが放射熱線を当てたのだ。
ギドラは熱線に圧されるまま大地を引きずられ、南行徳から湾岸線を叩き壊して新浦安方面へ吹き飛ばされた。
大きく吼えてギドラを追うゴジラに、サンダとガイラが襲い掛かった。ゴジラによじ登り、爪で皮膚をえぐる。身体を大きく振るいながら吼えるゴジラに、空からバランが攻撃を仕掛けた。切り裂かれた背中に火花が散り、足元からはバラゴンがゴジラの脚にかじりつく。
一方手負いのギドラが再び立ち上がったとき、失った脚から血を流しながらも飛び上がったバトラが羽根で殴りつけた。住宅や街灯を吹き飛ばしながら低空を高速で飛行してきたモスラがギドラの腹部に体当たりをし、仰け反ったところをバトラのプリズムレーザーがギドラの皮膚を焼いた。
大きく吼えながら突進してきたチタノザウルスがギドラの正面に頭突きを喰らわせた。仰向けに倒れたギドラは新浦安駅、オリエンタルホテル東京ベイと浦安ブライトンホテルをなぎ倒しながら瓦礫に身を沈めた。
塩浜から怪獣同士の戦いを見守っていた檜山たちは、ゴジラとギドラが怪獣たちに蹂躙する様子を目撃したまま立ち往生していた。
「めちゃくちゃだな、こりゃあ」
斉田がぼやいた。浦安ではギドラが、行徳ではゴジラが雄叫びを上げてたかりくる怪獣たちを威嚇している。
「だが、このままいけば、ゴジラもギドラも倒されるのでは・・・」
三上がつぶやいた。
「もしそうなれば、少なくとも2つの脅威が消失することにはなりますね」
檜山が言った。
「いやでも、残ったアイツらが暴れ続けないって保証はないでしょうが」
いまひとつ怪獣に懐疑的な斉田が口をすぼめた。
「ねえ、この戦い、どうなると思う?」
緑川がミラとリラに訊いた。心なしか、ミラの額にじっとりと汗が浮かび、呼吸が乱れている。檜山は険しい顔でミラを見遣った。
「・・・わかりません。わからないですが・・・」
リラが答えた。
「私たちもモスラも、ゴジラの思考がまったく読めないですし、意思の疎通を図りようもありませんが・・・」
やはり、どこかミラは息遣いが苦しそうだ。
「「少なくとも、共通の敵はギドラであることは違いありません」」
2人が答えたとき、浦安と行徳の2カ所同時に爆発が起きた。ゴジラとギドラがそれぞれ熱線と光線で周囲を薙ぎ払ったようだった。爆風と飛んでくる破片に身をすくめる檜山たち。まとわりついていた怪獣たちが怯んだ隙に、炎の中をゴジラが動いた。旧江戸川を渡らんとしたとき、上空にモスラが羽根を拡げた。
いきり立って熱線を放たんとするが、モスラが鱗粉をまき散らしたことで、忌々しげに唸る。そのままモスラはサンダ・ガイラたちの方へ向かった。
「「モスラは、まずギドラを倒そうと話してます」」
どうやらすぐに意思が伝わったのだろう、バラゴンとバランがゴジラの後に続いた。
「サンダとガイラ、あいつら言葉通じるのか?」
斉田の懸念は杞憂に終わった。2匹もギドラに向かい始めた。
「「意思の疎通はできませんが、本能が察知したようです」」
「聞き分けの良い奴らで良かったぜ」
斉田がそういって頭を掻くわきで、秋元が微笑んだ。
「おい、少し下がろう」
檜山が全員を後退させた。バトラが背後から、ゴジラが正面から飛び道具で攻撃を仕掛けたのだ。
爆炎に包まれたギドラが羽根を動かした。飛び上がらんとしたが、脚が大地を離れない。回り込んだベヒモスがギドラの足元に牙を向け、大地ごと下半身を氷漬けにしたのだ。
怒りに吼えるギドラに、次々と放射熱線とプリズムレーザーが命中していく。
「よっしゃ!」
斉田が感嘆の声を上げた。
「行けるぞ」
檜山も目を輝かせた。
だがミラとリラは唇を噛んだ。表情を輝かせない2人に、緑川は一抹の不安を覚えた。