怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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ーChapter 73ー

・7月13日 18:51 東京都千代田区永田町2丁目 首相官邸地下1階 危機管理センター

 

 

「そんなバカなことが」

 

柳の一声は常に否定から物事に構える彼の特性に止まらなかった。閣僚一同、驚き半分、疑問半分に尾形を仰ぐ。

 

「はい。ギドラは本来の力をまだ出し切っていない可能性があります。昨年の東海地方を壊滅させた際のことを思い起こしていただきたいのですが」

 

官邸にあるありったけの資料から抜き出した写真をモニターに映し出す。

 

「ギドラの脅威はふたつ。まずはゴジラの放射熱線と同等、あるいはそれ以上の威力を持つ雷撃状の光線。もうひとつは、あの巨体がはばたくことで発生する猛烈な衝撃波です。ご存知のように、ものの30分でギドラは名古屋から愛知県の東半分、岐阜県・長野県南部を経由して浜松でゴジラと激突するまで、飛び回った地域を灰燼に帰してしまっています。翻って今回は、千葉県を東西に蹂躙こそしましたが、日本へ至るまでにゴジラの超遠距離射撃でかなりの損傷を被ったためか、船橋へ降り立つまで飛行速度が低下した状態であった上、複数の怪獣たちと会敵するまでエネルギーをチャージするかの如く動かなかったと聞いておりますが」

 

「たしかに、木更津の偵察航空隊からは、雷撃を走らせながら眠るように動かぬうちに、身体の傷が回復していったと報告を受けています」

 

高橋が補足するように言った。

 

「そしていま、ゴジラを始めとする複数の怪獣と争っている状態ですね」

 

モニターには昨年の激闘で地形が変わり、大きな入江となった旧浜名湖、浜名湾が映される。

 

「ご覧のように、昨年2日にわたる争いで地形が変わった浜名湖ですが、かねてより私が不思議に思っていたことがあります。ギドラ攻撃に出動した陸自第1飛行隊の観測によれば、双方熱線と光線を入り混ぜた激しい応酬を続けながら浜松市街地から浜名湖へ至るまでの数時間、一見互角の争いを繰り広げたように見えますが、湖西市付近でギドラは一時光線の放射を中止しています。その後ゴジラの熱線攻撃で多大なダメージを負いながらも肉弾戦を仕掛けるかの如くゴジラに襲いかかりました。この際生じた衝撃波で飛行隊が墜落してしまったためここから再展開までの述べ10時間、2体の争いを観測できなかった空白の時間が生まれました。御殿場の特科射撃部隊による遠距離攻撃を経て、浜名湖を包囲するように10式戦車隊が配備される頃には、再びゴジラとギドラが熱線と光線の応酬を交わしております」

 

スクリーンの画像を指しながら饒舌に語る尾形の姿は、彼の本業でもある京都大学で教鞭を取る普段の姿を彷彿とさせた。

 

「すると先生、ギドラはゴジラとの争いでエネルギー切れのような状態を起こし、そこから数時間後に何らかの方法でエネルギーを充填して光線を放射できた、というようになりますか」

 

岡本が挙手した。

 

「はい。そのように考えております。問題は如何にして、ギドラはゴジラと争いつつエネルギーを蓄えられたのか、といった部分です。船橋飛来後の充足期間を考慮すると、負傷の回復を優先しているように思える上、ゴジラを始めとする複数の怪獣を相手にする現状から、完全な状態に回復することは困難ではないかと考えられます」

 

「これほどの力を持ちながら、いまだ完全な状態ではないとは・・・」という氷堂のつぶやきが聞こえ、一同沈黙に包まれた。

 

「では、その完全な状態となるまでどれほどの時間を要するのでしょうかねえ」

 

岡本の疑問に、尾形は目を光らせた。

 

「実は本題の核心はそこです。昨年、そして今回。ゴジラもギドラもまるで惹かれ合うかのように接敵しています。当初、私は互いの動物的闘争本能、あるいは外種に攻撃的な本能に従って衝突したものと考えておりました。ここでひとつ、私の推論に過ぎないのですが・・・昨年の浜名湖において、ギドラは如何にしてゴジラと争いながら力を蓄えたのか」

 

「そんなこと言われてもねえ・・・」

 

柳が困惑したようにつぶやいた。だが望月や北島をはじめ、ピンときたように表情が強張る閣僚も何名かいた。

 

「まさか・・・ギドラはゴジラからエネルギーを得たんでしょうか?」

 

北島が尋ねると、尾形は我が意を得たりとばかりに首を縦に振った。

 

「もし、ギドラがゴジラを目指す理由が闘争本能ではなく、エネルギー確保、あるいは、捕食という表現を用いましょうか。とにかくゴジラの膨大なエネルギーを欲していると考えた場合、いかがでしょうか。無論、現状では私の推論でしかありませんが、ギドラが火山活動を起こしながら休眠する性質を鑑みれば、仮説としてあり得ぬとも言い切れないのではないかと考えられます」

 

「そんな荒唐無稽な・・・」と首を振る柳。

 

だが瀬戸と望月、高橋が顔を背けたり、苦虫を噛んだような顔をしたのを、尾形は見逃さなかった。尾形ばかりではなく、北島もそんな3人に怪訝な表情を作り、佐間野は鋭い眼光でその様子を見遣っていた。

 

「そしてギドラ会敵前、ゴジラが小型の核爆発に似た事象を巻き起こしながら埼玉・千葉を進んだという報告もあります。この不可解な動きを説明するとなれば、ギドラに対抗すべく・・・」

 

そこまで言い淀んだとき、血相を変えた防衛省と総務省、警察庁の役人が走り込んできた。

 

「浦安で大規模な爆発が断続的に発生しているそうです」

 

眉を吊り上げた高橋が言った。

 

「東京消防庁からの報告ですが、浦安市で大規模広域火災が発生したとのことです」

 

どよめく閣僚。尾形は息を呑んだ。自身の仮説が、残酷な現実となって証明されたような感覚に囚われた。

 

 

 

 

 

 

遡ること20分ほど前になる。

 

浦安市今川・富岡地区の住宅街、鉄鋼通りと呼ばれる鉄鋼倉庫街を突き崩しながら、怪獣たちはギドラを追い詰めていた。

 

バラゴンが足元から、バランが空からギドラを切り裂き、ベヒモスの突進とサンダ・ガイラの猛攻に後ずさる。

 

モスラが円を描くように飛来すると、大量の鱗粉がギドラとその周囲を包む。そこをゴジラの放射熱線とバトラのプリズムレーザーが見舞った。

 

いずれも鱗粉に幾度か反射してギドラを360度全方位から突き刺す。もがくギドラに容赦することなく、3、4度と熱線、レーザーを撃ち込むゴジラとバトラ。地響きを巻き起こしながら、とうとうギドラは倒れた。そのまま大地から黒い泡が噴き出し、ギドラを、そして周囲の建物を呑み込んでいく。

 

激しい振動と爆発により、元来脆弱だった浦安の地盤が崩壊、いわゆる液状化現象を起こしていたのだ。弱々しくうめきながら、どす黒い水に沈んでいくギドラ。

 

対岸に当たる南行徳付近からその様子をうかがっていた檜山は、ゆっくりと地に沈んでいくギドラを見つめていた。

 

「おい、これやったんじゃないか」

 

歓声にも似た声を上げる斉田。

 

まるでマラソンを走り終えたランナーのように息遣いが激しいミラは、顔いっぱいに浮き出た汗を拭おうともせず、沈みゆくギドラの様子を凝視していた。そんなミラに、心配そうに寄り添うリラと、詰るような視線を向ける檜山。

 

浦安の一部が海に呑まれるように水が広がり、建物が傾いている。ギドラを渦の中心に巻き起こるかの如くだったが、やや離れた場所から様子をうかがうゴジラは口を閉じたままだった。

 

空を舞うモスラもバトラも訝しそうに黒い瓦礫まみれの水面を窺っている。

 

大地の崩落がゆっくりとゴジラを目指し始めた。足元の異変に首を傾げたゴジラは目を見開いた。

 

気がついたときにはゴジラの巨体が大地に沈み、バランスを崩したゴジラは甲高く吼える。

 

プリンのようになった地盤は周囲ごとゴジラを完全に沈め、混乱したらしいゴジラは放射熱線を撒き散らす。黒い水の中で青と金の閃光が幾度か瞬いた。

 

「なんだ、ありゃあ?」

 

斉田が目を凝らした。

 

「・・・まさか」

 

荒い息を押し殺すように、ミラがつぶやいた。

 

ミラの疑念はモスラとバトラにも伝わったらしい。沈んだゴジラとギドラを警戒していたが、急いで後ろに下がった。それを察知したように、チタノザウルスとベヒモスも吼える。

 

大音量と共に、土砂まみれの黒い水が天に向けて大きな柱を作った。眩く、それでいておぞましさを感じさせる黄金の光が走り、土砂と水を瓦礫ごと巻き上げる。

 

やがて黒い水はきのこ雲状の白煙となり、ややあってその白煙すら黄金の光が破裂することでかき消された。

 

「「ギドラ・・・!」」

 

ミラとリラが憎悪に満ちた顔で、闇夜に浮かぶ黄金の巨体を睨みつけた。そしてその3つの首は、背鰭を青く光らせるゴジラを咥えあげていた。

 

低く鈍い絶叫を上げるゴジラの背中が激しく光る。だがそれ以上にギドラは黄金の輝きに包まれ、やがて満足したようにゴジラを離した。液状化現象で崩落した新浦安駅付近に落下し、暗黒の水柱が立ち昇る。

 

これまでになく、ギドラは吼えた。傷だらけだった全身は輝き、傷など最初から存在しなかったようだ。羽根も皮膚が張るようにシワがなく、血管のように雷撃状の引力光線が身体全体に走っている。

 

その光景は脅威という単語を実体化させたように思えた。檜山たちばかりでなく、本能的に脅威より先に叩かんとしたバトラがプリズムレーザーを放射する。

 

だがひと啼きしたギドラはレーザーが当たってもたじろぐことなく仕返しの引力光線を一閃吐き出す。黄金の光が炸裂し、悲鳴を上げて東京湾に落下するバトラ。水柱に消えたバトラに追いすがるモスラに接近すると、3つの首が極彩色の羽根に喰らい付いた。

 

モスラの羽根が引き裂かれ、鱗粉を撒き散らしながらモスラも海面に落下する。

 

「「モスラー!!」」

 

ミラとリラの叫びをあざ笑うようにギドラは高らかに吼え、地上でいきり立つ怪獣たちに引力光線を見舞った。光線が地を這うだけで大地ごとめくり上げられ、軌跡を追うように煉獄の炎が広がる。バラゴンは為すすべなく吹き飛ばされ、ベヒモスは牙を二本とも砕かれた。光線は浦安から市川市、その北の松戸まで到達し、一帯は大爆発ののち昼間のように明るくなった。

 

炎に包まれる怪獣たちと地表を舐めるように見回したギドラは、これまで散々自身を嬲ってきた連中に復讐するかのように燃え盛る大地に降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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