怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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ーChapter 74ー

・7月13日 18:58 千葉県市川市塩浜1丁目 福山通運塩浜倉庫付近

 

 

爆風が幾陣もなびき、大小の破片が降り注いだ後、檜山たちは恐る恐る顔を上げた。

 

新浦安から北にかけて市街地が激しく炎上し、炎と煙の中にうごめくいくつかの巨大な影。そして天を支配せんとばかりに存在感を溢れさせているギドラ。

 

金色の稲妻を全身に走らせ、ギドラは大きく吼えた。負けじと地上の怪獣たちも吼えるが、どこか慄いているかのようだ。

 

海上では羽根を破られたモスラを、白煙を上げながらも救い出そうとしているバトラが海面を波立たせている。

 

「ギドラが、なぜゴジラを目指すか、ようやくわかりました」

 

膝立ちになっているミラが、息も絶え絶えに言った。

 

「おい、どこか怪我したのか?」と心配そうに支える斉田だったが、檜山は険しい顔でミラを見遣る。

 

「ゴジラが、ギドラにとって捕食の対象、というか、力の源だったなんて・・・」

 

檜山の視線に気づかないのか、あるいはわかっていて無視したのか、ミラは荒い息のまま立ち上がった。

 

「すごい、まるで段違いの力だ・・・・・」

 

三上が埃に染まった髪を気にも止めず、ただただ感心したようにつぶやいた。その傍らで、一心不乱にその様子をシャッターに納める秋元。

 

対岸で大きな音がした。ガイラが叫び、炎と瓦礫の中を駆け出した。勢い良く飛び上がり、ギドラの腹部に正拳突きを打ち込む。

 

だがギドラはまったくひるまず、舐めずるようにガイラを見遣ると、間髪入れず二打目を放とうとしたガイラの右脚に喰らいついた。

 

そのまま持ち上げると、頭上で振り回してから放り投げた。鮮血が溢れ出し、苦しげに瓦礫の中でもがくガイラ。対象を見据えたギドラは口内を発光させた。

 

右脚の機能を失ったガイラは這いずり回って逃れようとするが、ギドラの攻撃範囲から逃れられるはずもない。引力光線を放射され運命は決したと思われたとき、ガイラの前にサンダが立ちはだかった。

 

ガイラをかばうように両腕をいっぱいに拡げ、歯をくいしばるサンダに3筋の引力光線が直撃した。

 

サンダの唸り声と、ガイラの悲痛な慟哭が木霊したが、全身を引力光線に穿たれたサンダの肉体は黒炭となり、塵になって崩れ去るように霧消した。

 

「サンダ・・・!」

 

シャッターを切り続けた秋元が呆気にとられたようにつぶやく。

 

ガイラは悲しみと怒りに吼え、片脚だけで立ち上がると血塗れの右脚を犠牲にして飛び上がり、忿怒に満ちた表情でギドラに正拳突きを叩きこまんとした。それより速く3つの首でガイラを咥えあげたギドラは、3方に首を振りかぶった。

 

ガイラの身は3つに引き裂かれ、無惨にも大地に叩きつけられた。

 

「ガイラ!」

 

秋元の叫びも、血をしたたらせながら満足気に吼えるギドラにはまるで届かない。羽根をひと振りさせて飛び上がると、炎と瓦礫の中で懸命に動こうとしている瀕死のバラゴンを踏みつけた。

 

血を噴き出しながら絶叫するバラゴンだったが、骨と内臓が圧壊する音が響くと、眼の輝きを失って地面に伏した。

 

これ以上の暴虐は許さんとばかりに上空から迫るバランにカウンターから噛み付き、そのまま引力光線を放つ。全身を弾かれたバランは白煙を上げながら江戸川に没した。

 

「バランまで・・・」

 

力なくつぶやく三上の傍で、息を荒げて姿勢を正し眼を瞑るミラ。

 

満身創痍でありながらも羽根を食い破られて自由を失ったモスラを引き揚げたバトラだったが、炎が尽きるかのように眼の輝きが失われつつある。モスラが呼び掛けるように啼くも、弱々しく吼えるばかりだった。

 

そんな2匹を残酷にもギドラは睨み付け、口内を発光させた。と、そこを青い光の濁流が直撃し、圧されるように弾かれた。海面から身を起こしたゴジラが2発目の放射能熱線を放とうとしたとき、目標を変えたギドラの引力光線が3筋、ゴジラをなぞった。

 

爆発の勢いでゴジラは転倒し、再び海中に沈んだ。邪魔者がいなくなったとばかりにギドラはモスラとバトラへ再度狙いをすました。妖しく嗤うと口内に引力光線を迸らせ、首を引いて大きく口を開いた。

 

刹那、眼の輝きを取り戻したバトラは渾身の力で羽根を振るい、モスラを守るべくギドラに全身を向けた。放たれた引力光線に身を焼かれながらもバトラは耐え、突進してきたチタノザウルスの一撃で吹き飛ばされ、ギドラの放射が終わるまで引力光線を浴び続けたバトラは木の葉が舞うように空中を漂うと、東京ディズニーリゾートに静かに墜ちた。

 

甲高いモスラの慟哭が空気を揺らした。

 

「バトラー!」

 

絶叫するリラの傍で、膝をつき崩れ落ちるミラ。顔中に玉のような汗を浮かべながらも、顔を上げて眼を閉じた。

 

「ミラ、ミラ!!」

 

リラの呼びかけにも応じず、必死に念じ続けるミラ。

 

「もうやだよぉ!!ミラばかりこんなになるの」

 

泣きながらミラに抱きつくリラ。対岸では地に伏せたギドラとチタノザウルスが揉み合い、モスラは地を這うように震えながらバトラへ歩み寄っている。

 

「おい、どういうことだ?」

 

泣き叫ぶリラに、檜山は訊いた。

 

「モスラの巫女として・・・やるべきことをやるんです」

 

息づかいに任せるような絶え絶えの状態で、ミラが答える。

 

「ダメ!もうミラ限界じゃない!やめて、お願い!」

 

ミラを揺らしながら必死に呼び掛けるリラだったが、ミラは頑なに首を横に振ると、なおも眼を固く閉じて立ち上がろうとする。

 

そんなミラの肩をつかみ、檜山は向かい合った。

 

「ミラ、もうよすんだ。お前が身を削ってモスラとバトラを助けるのは」

 

檜山が言うと、ミラは眼を開けた。

 

「大丈夫です・・・モスラとバトラは、命をかけてでも・・・」

 

「ふざけるな!」

 

檜山は一喝し、ミラの肩を揺らした。

 

「オレはこうなるような気がして、お前たちについてきたんだ。命棄ててまで祈るのを止めるためにだ。ミラ、自己犠牲は尊いかもしれんが、正しいとは限らない。自分の命を大事にすることの方が尊いんだぞ」

 

檜山の迫力は怒りによるものばかりではなかった。そこを察したかのように表情を変えたミラだったが、なおも眼を閉じ、唇を結ぶ。

 

「ミラ、いい加減に・・・」

 

頑ななミラに対し、さらに声を荒げた檜山の腕を、緑川がつかんだ。

 

「ミラ、あなたが守ってるのはモスラとバトラだけじゃない、そうでしょ?」

 

緑川が訊くと、ミラは目を大きく見開いた。

 

「自分を犠牲にしてでも、リラを守ってるんだね」

 

ミラの肩に手を置き、そう問いかける緑川。図星を突かれたように下を向くミラと、驚いたようにミラを見つめるリラと檜山。

 

「ミラ、なんで・・・」

 

リラが訊いたが、ミラは答えない。

 

「リラ、サンダはガイラを守ろうとした。バトラはモスラを守ろうとした。ミラはずっと同じことをしてたんだよ」

 

緑川が代わって答えた。「えっ・・・」とつぶやくリラ。

 

「ミラ、お前」

 

檜山が訊こうとすると、ミラは頷いた。

 

「力を使って、モスラとバトラを助けるのは、私だけで良いんです。だから・・・」

 

歯を食いしばるミラに、リラは抱き着いた。やがて声を上げて泣き出した。檜山はミラとリラの頭に、ポンと手を置いた。

 

自身の娘、真希と真子によくしていたことだったと、檜山は思い出した。

 

「リラ、良いから。あなたには・・・」

 

そう微笑みかけるミラ。リラは泣き顔を引き締めた。決意を込めたように唇を結ぶと、ミラの手を握った。

 

「リラ・・・」

 

呆気に取られるミラに、意志がこもった目で頷き、静かに目を閉じるリラ。

 

何かを感じ、通じたのだろう。ミラも目を閉じた。2人の身体が淡く光り始めた。

 

「おい、お前たち」

 

なおも止めようとする檜山だったが、緑川が檜山の腕をつかみ、静かに頷いた。

 

ミラの顔から汗が引き、淡い光はそのまま輝きを増した。

 

バトラまでたどりついたモスラが呼び掛けるが、全身を焦がされたバトラは動かない。対岸では揉み合っているうちにギドラがチタノザウルスの首と肩に喰らいつき、宙に浮かせて地面に叩きつけている。

 

バトラと向き合い、涙を流すような声色で吼えるモスラ。ふいにバトラの身体が優しく輝き出した。自身を彩る紫ではない。ミラとリラ、そしてモスラと同じく、淡い金色の光を纏い始めたのだ。

 

少し驚いたように触角を震わせたモスラだったが、まるで納得したようにバトラに顔を付き合わせた。モスラの青い目が金色に変わり、バトラの身体が輝いたまま崩れ出した。

 

金色の粒子になり始めたバトラは、モスラを包むように撫でた。引き裂かれたモスラの羽根が伸び出し、元に戻る。バトラの身体が消滅すると、モスラの身体が波状に光を放ち始めた。

 

途中苦しそうに顔を歪めるミラの頭を、リラは抱きつつんだ。檜山たちはそんな2人とモスラの神々しい様を見つめた。

 

チタノザウルスを放り投げ、とどめの引力光線を放たんとしたギドラは、異様な雰囲気を察知してディズニーリゾートの方へ目を向けた。

 

弾けんばかりの金色の粒子が撒き散らされ、太陽のように強烈な光を放つものが飛び上がった。

 

だがその姿は従来のモスラではなかった。すべてのものを弾かんとばかりに硬質化した身体に、鋭利な刃の如く鋭さを誇る羽根。白銀と青、そして本来の金色を施したようなそのモスラの姿に、ギドラは身をたじろがせた。

 

即座に引力光線を浴びせるが、派手に火花を散らすばかりでモスラはまったく動じない。いきり立ったギドラは宙に飛び上がり、モスラに向かった。

 

「こんなことって・・・」

 

接近するギドラを軽くあしらい、その羽根でギドラを地に沈める新たなモスラに、緑川は驚嘆していた。

 

「まるで鎧をまとったようだ・・・」

 

三上の比喩に全員が得心したように頷いた。再度攻撃を仕掛けるギドラは返り討ちに遭い、東京ディズニーシーに落下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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