怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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ーChapter 76ー

・7月13日 19:40 千葉県市川市塩浜1丁目 福山通運塩浜倉庫付近

 

 

対岸のディズニーリゾートにそそり立つ青い光の柱を、檜山たちは無言で凝視していた。ミラとリラは膝をつきながらも、ホッとしたような視線を青い光に向けている。

 

緑川が2人の背中をさすると、安心したように微笑んだ。

 

「やった、のね」

 

緑川が訊くと、2人は頷く。

 

「「モスラの、最後の技です」」

 

青い光は地響きと共にその高さを収めつつある。

 

「こりゃ、思考が追いつかねえ」

 

斉田がぼやいた。

 

「光がすべて呑み込んだのかな。ギドラも、他の怪獣も」

 

三上が誰にともなく訊いた。

 

「まるで、怪獣みんなでギドラを倒したように、私には見えました」

 

秋元がカメラから目を離し、言った。

 

「私にも、そう見えた」

 

立ち上がろうとするミラとリラを支える緑川が口をはさんだ。

 

「おい、あれは・・・」

 

光が淡くなりつつある中、檜山がその先を指さした。廃墟と化したディズニーリゾートにただ1匹、大きな黒い塊がたたずんでいた。

 

ゴジラだった。

 

だがゴジラは歯ぎしりをしたまま、低く唸り続けていた。

 

「まだ安心できるわけじゃないってか。一番厄介なのが残っちまった」

 

斉田は埃まみれになった髪の毛をボリボリ掻いた。

 

「いや、なんだかそれにしては妙じゃないか・・・」

 

檜山は眉間に皺を寄せた。何度か動画サイトで見た、昨年ガイガンを倒した後も凶暴な顔を崩さなかったゴジラの顔が、青い光に照らされてはっきりと見えるのだ。

 

光が渦状になって消え去ろうとする中、何かの影が動いた。

 

瞬間的に檜山は背筋に悪寒が走ったような感覚になった。壊れた古い電話が鳴るような、不快な音が周囲に木霊する。

 

ゴジラが首をすくめたそのとき、3本の光がゴジラの胴体に炸裂した。爆発でゴジラが転倒し、もがくところに追い撃ちをかける3本の光。

 

瓦礫と砂塵を吹き飛ばし、大きな黄金の巨体が舞い上がった。ギドラだった。

 

羽根のそちらこちらが朽ちかけ、全身を青い血に塗れながらも、その巨体を宙に浮かせる能力、そして引力光線を放つ能力は健在だった。

 

倒れながらも放出したゴジラの放射能熱線をかわし、地を這うような低空を滑り込むようにゴジラにまとわりついた。

 

「そんな・・・」

 

ようやく立ち上がったリラはしかし、顔を青くしてへたり込んだ。

 

「モスラの、命を賭した技も、私たちの祈りも・・・」

 

ミラは茫然自失、倒れこむこともなく硬直していた。

 

「・・・違う」

 

急に頭を抱えるミラ。リラは不安そうにミラを見上げた。

 

「ゴジラが、いるから?ゴジラから力を得たから、耐えられたの・・・?」

 

「おい、何を言って・・・」

 

肩に手を置く檜山を、ミラは泣きそうな顔で見つめた。

 

「昔だったら・・・かつてのギドラだったら、倒せたのでしょう。しかし、いまは・・・ギドラは、ギドラだけのエネルギーで生きているわけではないようです・・・」

 

「じゃあ、ギドラはゴジラのエネルギーを奪ったから、モスラの一撃にも耐えられたってことなのか?」

 

ミラは答えず、涙を溢れさせた。

 

「ゴジラ・・・なぜ、あれほどまで恐ろしい怪物が、この世に・・・」

 

リラが消え入るような声でつぶやく。

 

顔を背けるほどの突風が周囲に迸った。ギドラがゴジラを抱えたまま飛び上がったのだ。

 

そのまま3本の首はゴジラの左胸、背中、首筋にそれぞれ噛みつき、再度ゴジラからエネルギーを吸収しているようだった。

 

ゴジラは最初こそ振り解こうと必死にもがいたが、やがて口から泡を吹き出し始めた。せめてもの抵抗の証なのだろうか、背鰭の発光も輝きを失いつつある。

 

「おいおい、今度こそやべーんじゃねぇのか・・・」

 

斉田がたじろいだ。ゴジラにがぶりついたままのギドラが、みるみるその身体を回復させつつあるのだ。

 

朽ちた羽根が膜を張り、再生しつつある。身体中の傷もみるみるうちに塞がっていく。対照的に、ゴジラは頭が垂れ下がり、背鰭の発光も風前の灯火だった。

 

「みんな、下がろう」

 

思わず三上が口にした。あのままギドラが完全に回復したらどうなるのか、説明するまでもなかった。

 

絶望に苛まれるミラとリラを、檜山と緑川が抱えた。秋元はせめてこの様子だけでも、とシャッターを押し、機能しているかどうかわからない編集部にデータを送信した。

 

「言いたかないが、緑川!ちょっとだけお前を恨むぞ」

 

恐怖に顔を痙攣らせた斉田が言った。

 

「とにかく、こっちへ」

 

三上が指さすのは、倉庫内の地下変電施設だった。こんなところでもギドラの引力光線が直撃すれば元も子もないだろうが、地下へ逃れる、というのは妙な安心感があることもたしかだった。

 

ゴジラの苦しげな呻き声が耳を突いた。手も足も垂れ下がり、ギドラに噛み吊るされるばかりとなったゴジラ。だが檜山は、そんな中ゴジラの背鰭が輝きを取り戻していることに気がついた。

 

「檜山さん!」

 

足を止めた檜山を、緑川が倉庫内へ連れ込もうとしたとき、ゴジラの両眼が青く光った。それだけで周囲が一瞬照らされ、美しくも不気味なまばゆい光に檜山は戦慄した。

 

とっさに緑川を抱き寄せ、目をつむった。瞼越しに感知できるほどの猛烈な青い発光だった。継いで鼓膜が破れんばかりの音響が周囲を震わせた。青い光は一瞬で収まったことを悟ると、檜山は目を開けた。

 

噛みつくギドラの口から青い波動のような光が逆流するようにギドラを嘗め尽くし、ゴジラを咥えたまま大地に落下した。土砂と瓦礫が吹き飛び、やがて火の手が上がった。ギドラの身体が燃え上がったのだ。

 

噛みついたまま、今度はギドラが悲鳴を上げていた。ゴジラは高らかに吼えると、全身を青く光らせた。その光が弾けるようにゴジラから迸り、ギドラの巨体を弾き飛ばした。全身から発せられるその青い光は、ギドラも周囲も焼いた。

 

瞬く間にゴジラとその周囲が燃え上がり、黒い海面は白く泡立った。かつてディズニーランドだったところに立ち上がったゴジラ。燃えたぎる炎に包まれながら怒りに歯を喰い縛らせると、たまらず逃れようとするギドラに熱線を浴びせた。

 

一撃で羽根が焼け落ち、大地に沈むギドラ。ゴジラは容赦せず、熱線をギドラめがけて吐きつける。

 

炎と青い血がギドラから噴きあがり、3つの首が絶叫する。吐き出そうとした引力光線はギドラの口から外へ出ることなく、光を失った。

 

だがゴジラも全身を震わせていた。傍目から見ても立っているのがやっとというように見えた。それでも怒り任せに熱線をギドラに浴びせ続ける。右の首が熱線に引き千切られ、勢いよく燃え上がった。

 

対岸の炎は檜山たちにも感じるほどの熱だった。

 

「いいぞ、ゴジラ!」

 

言いながら、檜山は内心首をひねった。なぜゴジラに喝采を浴びせるのか。

 

のたうち回るギドラは最後の力を振り絞って海へ逃れようと、ディズニーシーを這いつくばる。ゴジラは逃すまいと背鰭を光らせるが、もはや限界を超えていた。ゆっくりとボルテージを上げるように、口から光の渦を作り出していく。

 

そのとき、ゴジラは身を引いた。同時にミラとリラが顔を上げた。

 

「「モスラ・・・!」」

 

「なにぃ、どこに・・・」

 

檜山はハッとした。燃え盛る炎に浮かぶように、青と金の粒子が漂い、流れるようにゴジラへ向かい始めていた。

 

リラはスクっと立ち上がり、ミラと手を合わせた。静かに力強く目を閉じ、意識を集中させる。

 

光の粒子はその密度を高めていき、やがてゴジラの眼前でモスラの形となった。

 

ひと吼えの後、ゴジラは熱線を絞り出した。粒子状のモスラを巻き込むと、勢いが何倍にも増したように一直線にギドラへ向かう。

 

一瞬の静寂の後、ギドラの甲高い叫びが木霊した。見たこともない青い爆炎が空にそそり立ち、一拍の後紅蓮の爆炎と化した。その火流は渦を巻くように立ち昇り、周囲ごと焼き尽くした。絶え間なく火柱が天を焦がすと、やがて一帯に拡がり炎上を続けた。

 

炎の中、満足したように吼えたゴジラはゆっくりとうつ伏せに倒れ込んだ。背鰭の光も消え去り、立ち昇る炎に包まれた。

 

「・・・やった・・・」

 

檜山は静かにつぶやいた。ギドラは炎の中、その姿が見えない。

 

安堵したかのようにミラとリラは互いを見つめあい、静かに抱き合った。

 

そんな2人の肩に手を置くと、檜山は抱き寄せた。ふいに自分の娘たちでないことを思い出し手を引いたが、2人は優しく微笑みかけた。

 

ややあって、ミラとリラは静かに頷きあった。向き直った2人に檜山はただならぬものを感じた。それ以上に緑川は顔を強張らせた。

 

「「わたしたちの役目は、終わりました」」

 

そう言うと、フッと微笑む。檜山は戸惑ったが、緑川は悲しげな顔をして歩み寄った。

 

「そっか・・・」

 

緑川の言葉にゆっくり頷くと、2人は困惑する檜山に向き直った。

 

「まさか・・・」

 

2人の達観したような微笑みに、言いようのない衝撃を受けた。

 

「お前たち、力を使い果たして・・・」

 

絶句すると、「なんでこんなことになるんだ!」と怒鳴った。

 

「私たちは、ギドラから地球を守るためにモスラと共に蘇りました」

 

「身を賭してでも守る。それが私たちの役目なのです」

 

そう言うミラに、リラも力強く頷いた。

 

「だから、なんでそこまでして」

 

そう食い下がる檜山だったが、ミラとリラはそんな檜山の手を握った。

 

「始めは、わたしたちもその役目のため、そう思っていました。でも、どうして役目を果たそうとするのか、よりはっきりわかったのは・・・檜山さんのおかげなんです」

 

「・・・オレの?」

 

きょとんとする檜山。

 

「わたしたちのこと、檜山さんは本気で叱ってくれたり、心配してくれました。これまで感じたことのない嬉しさ、暖かさでした」

 

「そんな檜山さんを、そしてみなさんを、お守りしたかったんです」

 

「いや、オレは・・・」

 

戸惑い気味の檜山は、握られる手の感触が薄くなることに気がついた。2人の身体が透明になりつつあったのだ。

 

「おい」

 

檜山は2人の肩に手を置こうとした。その手は空をむなしく切った。

 

「「檜山さん、緑川さん、みなさん・・・ありがとうございました」」

 

そのまま金色の粒子が昇り始め、みるみるうちにミラとリラは消え去っていく。

 

たまらず檜山は泣き出した。

 

ゆっくりと空へ昇った粒子は、モスラの形となった。

 

ー目を閉じてみてくださいー

 

声が聞こえたわけではなかった。だが檜山と緑川には、そんな声が聞こえた。

 

そのまま目を閉じてみた。

 

柔らかな青い海の底。神殿のような建物の中に、虹色の球体が見えた。大きな卵のようだった。

 

ーわたしたちは、いつでもいつまでも、みなさんと共にー

 

また、声が聞こえた。

 

檜山は口を閉じ、静かに涙を流した。緑川も涙していたが、空に向かって微笑んでいた。

 

秋元は穏やかに空を仰ぎ、三上も微笑んだ。

 

目の前で2人の人間が消え去るという信じられない現場を目撃した斉田は、呆気に取られたまま髪の毛をボリボリ掻いていた。

 

 

 

 

 

 

 

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