怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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ーChapter 78ー

・7月28日 9:37 山梨県南都留郡鳴沢村大坂道

 

 

敷地内いっぱいに広がった仮設住宅に面食らいつつ、斉田はレンタカーを進ませた。仮設の住人たちは猜疑溢れる視線を送る者、目が合い会釈する者さまざまだが、移動販売の車両や炊き出しの準備が進められているところを見ると、ここのところ日本全土に広がりつつある物資不足とは無縁のようだ。

 

前回お目にかかれたおかげか、『黄金の救い』教祖の三蔵院永光へアポイントメントを取り付けることは思ったより簡単だった。しかしながら国家の窮状にあって10万とも20万とも言われる信者を集めたことにより、教団の不気味さ、不可解さも増しているような気もした。

 

仮設住宅が広がったことで駐車場は手狭になっていたが、白い教団服を身につけた信者が空きスペースに誘導してくれた。

 

「どうも」

 

身を乗り出して笑顔を見せたが、一瞥しただけで硬い表情に変化はなかった。

 

教団本部を案内に従って進むと、応接間のようなスペースに通された。そこには既に教祖の三蔵院が鎮座しており、窓から見える仮設住宅群を見つめていた。

 

「教団敷地内だけで3千、麓の街を含めれば2万、当教団を頼ってきた信者たちが暮らしている」

 

斉田には目を向けず、三蔵院は言った。

 

「行政として避難者の受け入れを認可してないってことで、だいぶ問題視もされてるようですがね」

 

斉田のイヤミに傍らの信者は目を光らせたが、振り返った三蔵院が視線で制した。

 

「我々が信奉する神を頼ってきたのだ、無碍にはできませんからな」

 

そう言うと斉田に座るよう促し、淹れられた茶を口に含んだ。斉田も合わせるように口に含んだ。味わったことのない、辛味と刺激のある風味だ。

 

「その神も滅びてしまいました。良かったのか悪かったのかは、わかりませんがね」

 

斉田の言葉にも、フフと微笑むばかりの三蔵院。

 

「まあ、おたくらの神はあれだけの暴れ方をしたんだ。イヤミのひとつでも言ってやりたいのが人情ってものでしょうね。ですが、何もそのために謁見を請うたワケじゃない。2つ、要件がありまして。まずは伊藤姉妹です」

 

じっくり話を聞こうとばかりに、三蔵院は目を閉じた。

 

「ご存知かと思いますが、3日前に鹿児島で遺体となって発見されました。心神喪失状態で病院を抜け出した後、不幸にも桜島の噴火による火砕流に巻き込まれたようなのです」

 

「存じてますよ。入院していた病院の管理責任を問う声が高まっているようだが、あれだけの混乱が直後に起きたのです。不幸としか申し上げようがございますまい。それはそれ、として」

 

三蔵院は信者からタブレットを受け取ると、なにやら画像を開いてよこした。

 

「伊藤姉妹について、ある信者から情報提供がありましてね。その信者のフォロワーが2週間前、羽田空港の混乱ぶりをツイッターに載せたこの写真なんだが」

 

示された画像は羽田空港第2ターミナルのチェックインカウンターに並ぶ人の列だった。

 

「ここ、フロア奥にホテルがありますね。そこにいるこの2人、伊藤姉妹に見えてならないのですよ。ぜひあなたにもご意見うかがいたいと、今日は思いましてね」

 

斉田は言葉に窮した。

 

「しかも、一緒に写っているこの女性。KGI損害保険の海損部長を勤めていて、この当日ここのホテルに宿泊し、会社名義で会議室も使用している。鹿児島で行方不明になっているはずの姉妹が、加入している保険会社の要職と東京にいるというのは、いささか不可思議だ。そもそも姉妹の調査をあなたに依頼したのも、KGI損害保険でしたかな」

 

斉田は鳥の巣のような頭をボリボリ掻いた。この宗教団体の力は、ギドラ襲来後想像以上に強まっているようだ。

 

「仕方がない。教祖様には正直にお話するしかありませんな」

 

常識を疑われそうですが、と斉田は前置きをした上で、伊藤姉妹に古代文明の巫女と思わしき別の人格が顕れたこと、モスラとバトラに祈りを捧げ、ギドラを倒しモスラとバトラも消滅すると共に、光になって消え去ったことをかいつまんで話した。

 

「こんな話、信じろというのは無理があるでしょうなあ」

 

斉田は言ったが、話を聞く三蔵院は思ったよりも不思議そうな顔をせず、時折何かを思案するように顎に手を当てていた。

 

「たしかに、SF小説のような信じ難い内容ですな。さしずめ、あなた自身もどこか信じきれていないのでは?」

 

「よくお見通しですな」

 

斉田は頭のてっぺんをポンポンと叩いた。

 

「昔、シリアで似たような話を聞きました。かつて、悪の神が大地を荒らしていた頃、1人の少女が善の神に祈りを捧げ、善の神が悪の神を滅ぼした。シリア辺境にある村に伝わる話だったのですが、もしかしたら古代にも、ギドラとモスラが争うようなことがあったのやもしれませんな。そして、怪獣の巫女となる存在も・・・」

 

斉田はポカンとした顔をしたが、三蔵院は苦笑した。

 

「いやいや、とにもかくにも、現実的でないにせよこの画像にも一応の説明はついたので良しとしましょう。これを以って私がKGI損害保険を糾弾するつもりとお考えなら、それは杞憂ですぞ。で、伊藤姉妹に関して他にうかがいたいことが?」

 

「はあ、姉妹が持参したという青い石、なのですが。あれをどこで手に入れた、という話をしていたかと思いまして」

 

「それは私も詳しくは知りません。それが、なにか?」

 

「ええ。関連してふたつめの質問ですが」

 

斉田はスマホをタップし、ある男性の写真を出した。

 

「稲村友紀。フリーのジャーナリストですが、ご存知では?」

 

「ええ。当教団に取材しに来たことが何度かあります。彼が何か?」

 

「2週間前、富士の樹海で変死体となって発見されました」

 

ほう、と三蔵院は意外そうな表情をした。

 

「その様子では、ご存知なかったですか?」

 

「知りませんでした。しかし、もし変死体なら警察が動くはずですな。あのような混乱があったとはいえ、我々への事情聴取にも来ないとなれば、自殺だったのでは?」

 

「ええ。その公算が強いようです。ですが教祖様、稲村氏は伊藤姉妹が持ってきた青い石のことをお尋ねになったのではないですか?」

 

そう訊くと、三蔵院は押し黙った。傍らの柔道選手のような信者が斉田を睨みつけた。

 

「勘違いしてほしくないですが、あなた方が稲村氏に手をかけたとは思ってません。いや、そもそも他殺だと断定もできないですからな。もう一度うかがいましょう、稲村氏は青い石に関して深い取材をしていたのではありませんか?」

 

「その通り。ですが、それ以上でも以下でもない」

 

「もうひとつ。稲村氏とは別にこの男性が取材に訪れたことは?」

 

斉田はスマホの画像を手繰った。

 

「いや、この方は把握してませんな。はて、どこかで見たような・・・」

 

「近藤悟。やはりフリーのジャーナリストで、昨年ゴジラとガイガンの決戦を動画配信した男ですよ」

 

「ああ。そういえば。たしか、水商売の女性と複数関係を持ったとかで、だいぶ週刊誌に叩かれたんでしたか」

 

「ええ。そしてこの男も、現在行方が知れません」

 

三蔵院の顔が曇った。

 

「なぜこの男の名前を出したかというと、稲村氏とだいぶ懇意にしていたことがわかったからです。そしてこの2人と関係があると思われる人物が・・・」

 

斉田はまた別の画像を表示させた。

 

「大澤蔵三郎。大物右翼で、政界の黒幕ともささやかれますな」

 

大澤の画像と名前を出したところで、三蔵院の顔が強張った。

 

「稲村氏が青い石について取材したのは、ただの興味本位などではなさそうですな。大澤の影があるということは、相当深い事情があってのこと。そしてそれは、伊藤姉妹が乗船していたあかつき号沈没事故にも関わりがある。果たして飛躍した考えでしょうか」

 

「あなたはあかつき号沈没の原因を探っていたのですか?調査対象はあくまで伊藤姉妹のはずだ」

 

「ええ、ええ。ですが調査を進めるうち、無視できないことが増えてきましてね」

 

「よろしい。はっきり申し上げましょう。たしかに我々は伊藤姉妹から青い石の提供を受けたが、ギドラを奉る上での目的を果たしたにすぎない。青い石にそれ以外の目的や用途があるのだとしても、それは与り知らぬところです」

 

斉田は三蔵院の目をじっと見つめた。三蔵院は目をそらすことも、泳がせることもしなかった。

 

「わかりました。でしたら、これ以上お尋ねすることはありません。貴重なお時間をありがとうございました」

 

斉田は一礼すると立ち上がった。三蔵院は座ったまま首を下げた。

 

「老婆心ながら申し上げよう。この件に関しては、深入りは危険を伴うでしょう。ほどほどになさることだ」

 

背中越しに三蔵院が声をかけた。

 

「ご配慮、痛み入ります。私も老婆心ながら・・・。あなた方が信じる神は消滅しました。これから、いかがなさるのですか?」

 

振り向きざまに斉田は訊いた。

 

「いかにも、ギドラはその身を滅ぼしました。しかし、神としてのギドラは我々に充分すぎるほどの印象を残してくれた。何をすべきか、どうするべきか、ますますわからなくなる世の中だからこそ、強き神を信奉するのです。その心ある限り、肉体が滅びてもギドラは神であり続けるのです」

 

「肉体が残るゴジラを神として崇める人々も出始めましたからね。とんだ商売敵ですな」

 

斉田のパンチにも、三蔵院は眉をひそめなかった。両隣のゴリラの如き信者はいまにもつかみかからん顔で斉田を凝視した。

 

 

 

 

 

車を発進させると、斉田はテレビをつけた。ちょうど朝のワイドショーをやっており、相変わらず怪獣災害の内容だった。

 

『さて、群馬県と埼玉県の怪獣被害を支える市民団体が、逃げ遅れた小学生たちを適切な行動で避難させていれば清津峡におけるゴジラ攻撃を実施し、関東地方侵入を防げたとして新潟県津南町と津南町教育委員会を提訴した件ですが、これについて新市さんいかがお考えでしょうか』

 

カツラ疑惑のあるキャスターが振ると、若い社会学者が滔々とまくし立てた。

 

『これねえ、本当にふざけた話ですよ。前日からの大雨で小学校が孤立していたって、それなら前日のうちから避難要請出すなり、いくらでもやりようはあったんですよ。訴えられて当然ですよ、この町も教育委員会も』

 

『新市さんみたいに、さっさと逃げ出してれば良かったって話ですか』

 

傍らの皮肉屋なコメンテーターが口を挟むと、社会学者は顔を紅潮させた。

 

『いや僕はですよ、逃げたんじゃなくて、講演先で交通機関が止まったから戻れなくなっただけです。そんな風に言われますけれどね、心外です』

 

『でも私も講演先で足止め食らいましたが、3日歩き通して番組に穴を開けないようにしましたよ』

 

『いやバカでしょそれ。混乱すさまじい中がんばって戻ることが立派ですか?かえって危険ですって』

 

『清津峡の小学生も先生も、豪雨の中避難しなかったのは同じ理由だと思うんですけどねえ』

 

『いやそれとこれとは違うでしょ』

 

「クソったれが」

 

テレビに毒づくと、ホルダーに設置したスマホをタップした。

 

『もしもし?』

 

3コールで緑川は出た。

 

「おうお疲れ。いま黄金の光教団を出たところだ」

 

『お疲れ様。どうだった?』

 

「やはり三蔵院教祖は青い石について、教団の目的以外に利用したことはなさそうだ。伊藤姉妹に関しても、前回以上の情報は得られなかった。連中は無関係だろうな」

 

『わかった。こちらも日本海洋銀行を通して調べてみたんだけど、去年融資を受けて右翼団体の街宣車に騒がれて以降、融資対象となったスマートブレイン社の研究実績が遅滞したみたい。新薬開発に壁ができて研究に時間がかかってる、て説明だったらしいよ』

 

「なるほどな。クサイのはそっちだな、やはり。だが、深入りは無用では、と三蔵院にクギ刺されたぜ」

 

『こちらも、伊藤一家への保険金支払いが決定したから、これ以上の調査はもう大丈夫になった。ありがとね、公ちゃん』

 

「ほう、決まったのか」

 

『うん。ただ、保険金受取人が親子間相互に設定されてたから、法定相続人になる伊藤昭さん・・・お父さんの弟さんが受取人になるんだけど・・・』

 

「何か問題生じてるのか?」

 

『弟さん、昭さんの秋田のご実家継いで漁師やってたようなんだけど、去年から精神患って精神病棟に入院してるの。受取人調査を秋田支店に依頼して、今日には報告上がる予定』

 

「そりゃ面倒だな。受取人が前後不覚なら、保険金宙に浮いちまうぞ」

 

『最終的には国庫への帰属になるでしょうね。そうなったら、手続きすごい面倒』

 

斉田はふうっと息をついた。

 

『あ、あとね、さっきロンドンの進ちゃんと連絡取れた』

 

「進藤と?あいつ無事だったのか?」

 

『ビルが半分崩れて救出されるのに時間かかったけど、怪我もないって』

 

「悪運が味方するなあ、相変わらず」

 

『3人でドライブ行ったときも、事故巻き込まれたけど進ちゃんだけ怪我しなかったもんね』

 

2人は笑いあうと、『じゃあ、またね』と緑川は電話を切ろうとした。

 

「お、その前にひとつだけ、良いか」

 

『なに?』

 

「近藤悟」

 

電話の向こうで、しばし沈黙が流れた。

 

『知らないよ、そんな人』

 

「オレは近藤悟を知ってるかどうかとは一言も訊いてないぞ」

 

さきほどまでの和やかな空気は一変した。電話の向こうで、緑川が歯噛みするのがわかった。

 

「前に近藤悟の名前を出したとき、お前の反応が明らかに妙だった。そして近藤悟は、稲村とも大澤蔵三郎とも関係があるらしい上、稲村の死について情報を持っている可能性がある。お前が彼を知ってるのなら、そのセンから情報辿れるかと思ってな。改めて訊く。近藤悟はお前の知り合いか?あるいは、彼について何を知ってる?」

 

しばらく沈黙が流れた後、普段の緑川には似つかわしくない声色で話し出した。

 

『公ちゃん、この調査は終了って話したよね?これ以上は余計なことだし、料金も発生しないんだよ?』

 

「わかってる。じゃあ最後にひとつ訊く。近藤悟を知ってても良い。彼はいま、どこにいるかわかるか?」

 

『知らない。私はわからない。これだけははっきり言っておくけど、もし彼の行方を私が知っていたら、あなたに話さないってことにはならない』

 

「・・・そうか。わかった。悪かったな、余計なことを訊いて。あ、あと次、こっち来たときは約束通り死ぬほど焼肉奢ってくれよ」

 

『うん・・・じゃあ』

 

素っ気なく電話は切れた。大きく息を吐くと、斉田はテレビのボリュームを上げた。

 

『さてCMの後は海外の話題。1週間前から続くニュージーランド沖の群発地震と、発生して2週間以上になりますね、ニューギニア島山林火災の続報です』

 

そこからCMに入ったが、怪獣災害の影響で企業広告が激減、公共広告機構のCMが繰り返されるばかりだった。アイドルグループが献血を呼びかけるいつもの内容に入った瞬間、画面が切り替わった。

 

『ここで、いま入りましたニュースをお伝えします』

 

報道フロアのアナウンサーが矢継ぎ早に渡されるニュース原稿に目を落としながら、興奮を隠せない口調で話し出した。

 

『海上保安庁・第9管区海上保安本部の発表によると、さきほど9時30分頃、石川県能登半島に、怪獣と思われる巨大な生物が漂着したとのことです』

 

画面が切り替わり、4脚で背中がひどく刳れた、豚のような醜悪な顔をした巨大生物が岸壁に押し寄せている映像が流れる。

 

『海上保安庁の発表によれば、この巨大生物はすでに死亡しているらしく、漂着の十数分前に海面に浮上、能登半島に漂着したとのことです。京都大学の劍崎教授によれば、この巨大生物はこれまで、国内外に出現したいずれの怪獣とも形態が異なる、新たな存在と見られるとのことで、防衛省と海上保安庁の要請により、本日中にも劍崎教授を中心とした調査チームが組織され・・・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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