怪獣総進撃2020   作:マイケル社長

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ーChapter 79ー

・7月28日 10:25 大阪府大阪市中央区 大阪ビジネスパーク内 KGI損害保険本社

 

 

『はい、こちらは怪獣たちの争いで甚大な被害を受けた、千葉県浦安市の現場です。ご覧いただいてます通り、ここから先は液状化現象による地盤沈没で立ち入りが困難となっております。被害を受けたビルや住宅再建の目処は立っておらず、また浦安市のシンボルともいえる東京ディズニーリゾートは、深刻な放射能汚染や意識を失ったまま倒れているゴジラの存在もあり、運営するオリエンタルランドは再建の断念も視野に入れた経営計画を策定すると発表しました。また主に北関東から東北地方に避難した浦安市民は住民全体の9割にも達し、これらほとんどの世帯が現住所に戻るすべもなく、避難先では急激に増加した人口に対応できず、行政や民間の支援も虚しく問題の長期化は避けられない様相です。ここでお話をうかがいます。市内でタクシー運転手を勤める大沢木・・・』

 

テレビの内容もまったく耳に入らず、たまった灰を落とすこともなく緑川は煙草を燻らせていた。さきほどの斉田と通話してからというもの、どんな情報も頭に入ってこなかった。

 

斉田との会話に出てきた相手・・・近藤悟にメール、あるいはLINEでやり取りを試みようとしたが、やはり思い直してスマホをしまうばかりだった。

 

気がついたら5本ほど吸っていた。半分以上残る煙草をもみ消すと、緑川は喫煙室を出てオフィスに戻った。いつもならすれ違う部下に声をかけるところだが、気分的に無言でデスクに戻る。普段と違う上司に部下たちも戸惑うばかりだった。

 

「あの、緑川部長・・・」

 

今年入ったばかりの若手がおそるおそる声をかけてきた。

 

「んっ?あ、何?」

 

声を掛けられて慌てて明るく振舞おうとしたが、いつもより甲高い声が出てしまう。動揺は治まっていないようだ。

 

「今日お弁当、注文どうしますか?」

 

そういってデリのチラシを見せてきた。

 

「ああ、ありがと。ちょっと見せて」

 

受け取ったものの、普段30種類はある弁当の種類も関東地方の怪獣被害で原材料の調達に大きく支障が出ているようで、ほとんどが「売り切れ」あるいは「販売休止」とラベルが貼られている。

 

適当にサバの味噌煮弁当を頼むと、デスクに貼られたメモに気がついた。

 

『秋田支店・今田支店長 call backお願いします』

 

すぐさまデスクの受話器をあげ、秋田支店の短縮番号を押す。そのまま秋田支店長につないでもらった。

 

『あ、秋田の今田です』

 

やや秋田訛りのある声が響いた。

 

「本社海損部の緑川です」

 

『緑川部長、お待たせしてすみません。あの伊藤勝さんの件ですが』

 

伊藤姉妹の叔父で、亡くなった4人に掛けられた保険金の法定相続人であった。

 

『あとでファイル送りますからお目通し願いたいんですが、結論から申し上げると現状では相続人として不適となる可能性が高いんです』

 

ある程度予想はしていたが、これからの手続きを考えると緑川は目を覆った。

 

『勝さんは秋田の仙州総合病院精神科に入院してまして、主治医の先生とも相談したんですが、治療を継続して回復すれば良いが、見込みに関しては何とも言えねいって話なんです』

 

「わかりました。こちらとしても、並行して相続人不在の手続きを進める準備はしますが、基本方針として相続人への支払いが可能なら相続人にお支払いします。本年末まで猶予期間がありますから、治療状況に関して引き続きフォローをお願いします」

 

『わがりましたぁ』

 

ところどころに出る秋田の方言に和みつつ、「それにしても」と緑川は続けた。

 

「伊藤勝さんは元々壮健だったときいてますが、いつごろから精神疾患を罹患したんですか?」

 

『それが、去年9月だって言うんです。それまでは元気に漁をしてたっつんですが』

 

信じらんねぇ話だども、と口ごもり、今田は話し始めた。

 

『去年の9月ですが、勝さん、北海道沖で操業してたとき、怪獣を見たって言ったらしいんです』

 

「・・・北海道沖で、怪獣?」

 

『はい。勝さん、漁師仲間と漁船団で仕事してたどき、エンジン故障して漁船団から遠ざかったらしいんです。で、救援にかけつけた漁師仲間が、故障修理そっちのけで真っ青な顔してガタガタ震えてる勝さんみっけたようなんです。で、「怪獣だ。怪獣見た」って・・・。誰も信じらんねくで、そのまんま勝さん恐怖から精神病んじまったみだいです』

 

「でも、レーダーとかに反応は?」

 

『いや漁協にも確認とっだんですけども、当時そんなモン映ってながったって言うんです。病院の先生が・・・カウンセリングですか?やったとき、勝さん「でっけぇトカゲみでぇな怪獣だった。引きずりこまれるみでに、海さ沈んだ」って話したようですよ』

 

途中から、緑川は完全に言葉を失っていた。檜山が話していた、「去年9月、怪獣を目撃したと証言し自死してしまった部下」のことを思い出し、背筋に冷たい汗が流れた。『もしもし?部長?』という今田の困惑気味の問い掛けにも、しばらく反応できなかった。

 

 

 

 

 

 

・同日 11:07 長崎県佐世保市立神町

 

 

「本気で話しているのか?」

 

目的地まで移動の車中、後部座席の檜山は電話口に語気を強めた。

 

『もちろん。お前の能力を見込んだ上での話だ。形の上では職務遂行不良の責任を問う形だが、実質的に栄転だと考えてくれ』

 

佐間野の言葉に、檜山は二の句が継げなかった。かつての同期とはいえ現職の国交大臣が直々に連絡をよこしてきたかと思えば、内々に処分結果を告げてくるとは。

 

『理解してもらえると思うが、お前が本来取った行動は懲戒処分に充分該当する内容だ。そこをうまくごまかしたんだ。友人としてな。そしてこれは、友人としてお前にチームへ加わってほしいという思いの現れだ。引き受けてくれると信じているし、それ以外の方向を見つけるのは難しいと思う』

 

半ば脅しにしか聞こえないが、さりとてこの話を蹴るようなマネもできない。

 

「わかった。謹んでお引き受けしたい」

 

『感謝する。具体的なことはお前の上司を通じて説明する。よろしく頼むぞ』

 

一方的に電話は切れた。

 

桜島噴火による混乱の最中かつ事実を知る者は限りなく少ないとはいえ、調査対象を連れ出した上に事故調査そっちのけで東京へ戻ってきた檜山の行動は、たしかに問題視されてしかるべきではあった。だが伊藤姉妹、もといミラとリラの言葉から、国内に複数の怪獣出現という未曾有の事態にあって的確に行動した佐間野への政界評価は事後高まるばかりだった。檜山としてはやや不本意ながら、檜山の処分に際して強権を発動するようなこともあったらしい。

 

佐間野が告げてきた内容は『時期組閣で経産大臣に内定している。昨年ゴジラとギドラに壊滅させられた東海地方を復興特区に位置づけ、産業振興を図るため霞ヶ関を横断して幅広い部署からメンバーを集めたプロジェクトチームを作るため、檜山にはそちらへの出向をお願いする』ということだったのだ。

 

いかにも政治屋らしいやり方と発想に檜山は虫唾が走るところもあるが、形の上でも左遷として処分を受けたことになるのもたしかであるし、何より・・・ここで職を失うようなことはしたくなかった。

 

栃木県那須塩原に住む親類の元へ避難したという元妻の美佐枝と、娘である真希・真子の2人とは、1週間前に連絡が取れた。

 

既に別れた身ではあったのだが、美佐枝とzoomで対面した際、かなりホッとした顔をしたことが印象的だった。そのまま、同じく避難した人々が集まる場所へボランティアへ出掛けてたという娘2人と対面を果たせたとき、檜山は隠すこともせず涙を流した。

 

2人はだいぶ困惑していたが、落ち着いたらなすへ赴き、ゆっくり話をしたい、と素直に話すとぎこちないながらも笑顔を見せてくれた。

 

「ちょっと、だいぶ変わったんじゃない?」

 

苦笑いしながらも、美佐枝が訊いてきた。檜山は照れ笑いするばかりだったが、元とはいえ家族と話せる喜びは隠せなかった。

 

佐間野が提示したプロジェクトチームへの出向はもうあと1ヶ月先になるだろう。少しだけ落ち着けるタイミングで那須へ向かうとして、それまでは本来の仕事である、あかつき号沈没事故の原因究明を行わなければならない。

 

一連の怪獣災害で長引きはしたものの、あかつぎ号の船体引き上げ作業は5日前から行われ、昨夜のうちに引き上げを担った南海サルベージの佐世保船着所へ運ばれていた。

 

今朝のうちに長崎へ移動し、地元海上保安署の車両でドッグへと向かっているところだった。

 

「時間帯的に混雑します。もう少しかかりそうです」

 

運転役の若い海上保安官が言った。

 

「わかった。悪いが、NHKをつけてくれないか?」

 

そう頼むと、黙ってテレビをつけてくれた。

 

「なんでパパってすぐNHKにするの?」「こっち観たいのに」

 

昔、娘たちとそんなやり取りをしたものだ、と檜山はふいに思った。

 

『・・・先週財政破綻を宣言したカナダ・バンクーバー市に続き、イエローストーン国立公園から出現したギドラによって甚大な被害を受けた米国カリフォルニア州・ハワイ州も財政非常事態を宣言したことにより、米ニューヨーク市場で株価が暴落、1929年の世界恐慌や2008年のリーマン・ショックをはるかに上回る経済的恐慌となる恐れが強まりました。これにより東京市場も定期銘柄を中心に値下がりが続き、バトラの被害により機能不全を来しているロンドン市場と併せ、過去類を見ない世界的経済危機が起こるとの見方も強まっております。続いて、ニュージーランド沖で続く群発地震の続報です。日本時間昨夜9時過ぎ、3日連続となるマグニチュート7.2の地震が発生したことで・・・』

 

ニュースを聴きながら、檜山は2週間前を反芻していた。

 

「あまり報じられないですが」と、運転役の保安官が口を開いた。

 

「2週間前から、九州西方において外国漁船の違法操業が激増しています。他に比べてニュースバリューが少ないせいかもしれませんが、九州では深刻な脅威です」

 

「中国か?」

 

「はい。ダガーラとギドラの被害で米国の体力が弱まっている現状が関係していると、上司が話していました」

 

檜山は顎に手を当てた。思えばあかつき号沈没直後も、周辺海域に原子力潜水艦を派遣するなど過激とも言える中国の動きは枚挙に暇がない。

 

一昨日の会見で佐間野も有事における周辺海域への警戒を強めると話していたが、あくまで海上保安庁についての話だ。陸海空各自衛隊も統括する防衛省も、いつまた現れるか知れぬ怪獣(昨日能登半島に漂着した怪獣の死体は、これまで出現記録のない個体だった)、何より浦安で臥せったままのゴジラ警戒にかかりきりだ。第1、今回の対怪獣戦闘で自衛隊の損耗が激しく、国防上極めて不安定な状況を迎えている。

 

テレビがニュージーランド沖の地震を報じた後、ニューギニア島に広がる山林火災を取り上げたところで、車両は南海サルベージのドッグに到着した。

 

 

 

 

 

数分後、言われるがまま放射能防護服に身を包んだ檜山は、突然の事態と不愉快なほど暑苦しい防護服にムッとしながらドッグの事務所へ入った。

 

やはり防護服を着用した、応対する南海サルベージの社員は鈴花と名乗った。傍らには南海サルベージが用意したものとは異なる防護服が2名。いずれも海上自衛隊佐世保基地の自衛官だった。

 

「ご説明願います」

 

不機嫌さを隠さず檜山が言うと、恐縮しきった鈴花が口を開いた。

 

「昨夜遅くです。万が一と考え・・・本当にそう考え、船体の放射線モニタリングを行ったんです。そうしたところ、激しく損傷を受けたところを中心に1.7シーベルトの反応があったことから、船体調査を即座に中止し、作業に当たった者たちを隔離した上で、消毒を実施しました。事態が深刻でしたので、船体回収に協力してくださった海自へ報告を行いました」

 

暑さばかりでなく汗をかく鈴花を差し置き、海自の担当が一歩前に出た。清野と名乗る2等海佐だった。

 

「放射性物質が確認された事案ですので、こちらとしても情報発信には慎重にならざるを得ないという判断に至りました」

 

それがさも当然だと言わんばかりの態度に檜山は不機嫌さを強めた。

 

「でしたらなおのこと、事前にこちらへの説明があってしかるべきではありませんか」

 

「事故調査委員会といえど、直前まで伏せろ。上からの指示でしたので」

 

同じ役所勤めならわかるでしょう、そう言いたげだった。面白くはないが、ここでこれ以上詰問しても仕方がない。

 

「船体を見せていただきたい」

 

檜山がそう言うと、鈴花は事務所の扉を開け、ドッグへ一行を通した。

 

豪華客船は無残にも朽ち果て、泥や砂にまみれていたが、何よりも異様だったのは大きく穿たれた船底だった。

 

「これは・・・」

 

思わず檜山は口にした。

 

「これだけ見ると、何らかの現象で船体に大きく損害が生じたことで沈没した。そう考えられますが・・・」

 

「問題は如何にしてこのような損傷を受けたのか、ですね」

 

清野がかぶせてきた。

 

「あなた方の見解はいかがですか?」

 

あまり気に入らない相手だが、檜山は清野に訊いた。

 

「放射線量が気になりますので」と、清野は鈴花に目配せをした。鈴花はカメラ付ドローンを操作し、船体に向かわせた。隅のデスクにはカメラが捉えた映像がモニターに反映されている。

 

「放射線量だが、客船上部の客室付近は低く、抉れている船底付近が極めて高い。そして収容できる限りの遺体を調査したところ、ほとんどが溺死、もしくはどこかにぶつけた等での損傷によるもので、放射線障害が認められない。この事実を元に見解を出すというのは、困難だと考えますがな」

 

いちいち不愉快だが、沈没原因として真っ先に考えられることがある。

 

「やはり、ゴジラによるものと考えてしまいがちですな」

 

「だがそれならば、船体にもっと大きな損傷があると考えるべきでしょう。仮にゴジラの放射熱線を浴びたとすれば、その威力から船体が大きく吹き飛んでいるだろうし、高熱による船体炎上、融解などがあるべきだ。ところが実際はどうですか」

 

たしかに、そこは不可解だった。

 

「この辺りなのですが」

 

ドローンを操作する鈴花が口を出してきた。

 

「何か、鋭利なもので切り裂かれたというか・・・相当な力が加わったようです」

 

映像は船体の切断部分を捉えている。

 

「切り裂かれた、というよりも、この形・・・噛み付かれたというようにも思えますが」

 

「あなたもそう考えますか」

 

ここで初めて檜山は清野と意見が一致した。

 

「この辺りなど、歯型にも見えますね・・・まさか、ゴジラが船体に噛み付いた?」

 

だとすれば、海自が情報を渋ったこともいくらかは理解できる。

 

「そこについては、いま少し議論の余地がありまして」

 

今度は清野がタブレットを開いた。ゴジラの顔面が映し出された。

 

「ゴジラの口ですが、直径が約10メートル。そして船体の損傷箇所だが、どうやら幾度か噛み付かれた模様だが・・・もう少し接近してくれ」

 

清野が指示すると、鈴花はドローンをより接近させた。「画面停止」と言うと、より大きく損傷箇所が反映されたところで画面が止まった。

 

「接近できないので画面上での計測だが、ここの部分を噛み付いたとした場合、口径が12メートルほどになる」

 

「ゴジラより大きい?・・・だが、必ずしも口の大きさがそのまま損傷の間口になるとは言えないが・・・いや、これは?」

 

檜山が指をさした箇所。両端が大きく切り裂かれているのだ。

 

「そう。仮に怪獣が噛み付いたとして、ゴジラにはこれほど大きな牙はない。そしてこれは我々の見解だが、あかつき号が沈没した頃、ゴジラは九州南西ではなく、日本海に存在していた可能性が高い」

 

防護服内の汗が一気に冷たくなった気がした。もう少し詳しい調査が必要だが、たしかにゴジラが噛んだにしてはおかしい。すると別の怪獣が船を襲ったという仮説が成り立つようだが。

 

「この頃、チタノザウルスが九州南西海域に存在していたようだが」

 

「その可能性も検討したが、チタノザウルスはゴジラよりもっと口径が小さい。第一、船体の放射能を説明できない」

 

「すると別な怪獣・・・放射能を帯びた存在なのか?」

 

「昨日、能登半島に漂着した怪獣ならどうですかな」

 

そう言われ、檜山は考え込んだ。

 

「テレビで観た限りだが、あの未知の怪獣ならば口も大きいし、両方に牙があった。あれだというのですか?」

 

そう訊くと、清野は首を横に振った。

 

「まだ公表してないが、あの怪獣自体から放射能は検出されなかった。背中に生じた大きな傷から・・・むしろ背中を粉砕されたと言っていい。そこからは大量の放射能が確認できた。状況的にゴジラの熱線を浴びたと考えられるが・・・」

 

清野の言葉を耳にして、檜山は押し黙った。モスラが感知できていない怪獣も存在したらしいことは、ミラとリラが話していた(現にサンダとガイラ、そしてゴジラの存在を知らなかったのだ)。

 

「すると、さらに未知の怪獣が存在しているのか・・・?」

 

檜山がつぶやいた。誰も怪訝な顔をしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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