ニューヨーク時間午前11時25分 日本代表控室。
黒刀がモニターウインドウから視線を外して控室のドアへ歩き出す。
「黒刀、どこへ行く?」
にとりが呼び止める。
その声に皆の視線が黒刀に集まる。
「先にゲートで待つ」
黒刀は背を向けたままそれだけ言って、黒いコートを揺らしながら控室を出た。
映姫が純白の剣を天に掲げる。
「黒刀に繋ぐ為に負ける訳にはいかない!…モードチェンジ!」
映姫が声高らかに詠唱する。
彼女の足元の影が広がり全身を包み込んでいく。
さらに、彼女を包み込む影は肥大化していく。
同時にそれは人の姿へと変化していく。
その姿とは…
「
その存在をモニターウインドウで見た桜は思わずソファから立ち上がった。
「あれは!」
「桜さん、どうかしたんですか?」
幽香が首を傾げて訊くと、桜はハッと気づく。
「いえ。何でもないわ…」
そう答えてソファに座り直す桜。
桜が目にしたもの。
それは30年前に大和と共に倒した四季の始祖、四季影姫の姿と酷似しているものだった。
「(何故あの子があの力を…)」
今、映姫は巨大な『影姫』の化身を身に纏っている。
「何だ…その姿は…」
得体の知れない存在を見てヤハラが口を開く。
「これが…私の新たな力です!」
映姫がヤハラを見据えて言い放つ。
純白の剣が消滅して影の剣が再度、具現化される。
映姫は影の剣を右手で握ると、腕を引いてその場で突きを放つ。
その動きに連動するように『影姫』の化身も右手で突きを放つ。
「(大したスピードじゃない。躱せる!)」
ヤハラが飛行したまま後方に下がり距離を取って躱したと思ったその時。
『影姫』の化身の右手が刃に変形した。
さらに1本の刃が無数に枝分かれしてヤハラに襲いかかった。
「何っ!」
ヤハラは上下左右に飛行して回避しようとするが数は多すぎる為、回避出来ない刃は火の盾で防御しようとする。
だが、影の刃は火の盾を貫通してヤハラの腕、肩、脇腹、足を掠めて切り裂く。
「ぐっ!プロミネンスバスター!」
痛みで呻き声を上げるが何とか耐えて熱線を右手から撃ち放った。
「それはもう見ました!」
映姫は影を操作しては幅3m、高さ5mの影の壁を展開した。
影の壁は熱線を受け止めて消滅させる。
さらに、大技を使用して隙が出来たヤハラに大きな影の手を叩きつけた。
ヤハラは両腕をクロスして全身をかばう。
彼は砂地に叩きつけられて、砂柱が立った。
「えげつな~」
お空が映姫の闘いっぷりを見て、思わず口に出してしまった。
「さすが四季黒刀の姉ですね」
藍もそう言葉を漏らす。
「(まさに化け物姉弟ね…)」
椛は心の中で呟いて、ため息を漏らすのだった。
砂地に叩きつけられたヤハラは片膝をつきながらも何とか立ち上がる。
全身はダメージでかなりボロボロの状態である。
「何て力だ。先程までの彼女とはまるで別人…」
ヤハラは映姫に視線を移す。
映姫は『影姫』の化身の中で立っている。
その立ち姿は一切の隙を見せていない。
「さて、どうしたものか…っ!」
ヤハラが右足を前に踏み出したその時。
ある異変に気付いた。
体が動かないのだ。
自身の体を見下ろすと足に影が絡みついていた。
さらに、その影は全身に回り絡みついていく。
「影牢」
映姫が右手をかざしながらそう口にした。
だが、『影牢』の真の恐ろしさはこんなものではない。
ヤハラの『太陽神アポロモード』が強制解除されて元の姿に戻された。
しかも自身の霊力が全く感じられない。
そう。
『影牢』の神の恐ろしさとは相手を拘束することではなく相手のオーラを無力化してその分のオーラを自身が吸収することだ。
今のヤハラは無力なただの人間だ。
映姫が右手を握り締めて振りかぶる。
それに連動するように『影姫』の化身も同じように動く。
ヤハラが『影牢』の拘束から抜け出そうともがくが全く抜け出せず力も出せない。
「シャドーインパクトォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」
映姫と『影姫』の化身が振りかぶった拳を前に突き出す。
影の拳が無防備のヤハラに真正面から直撃した。
「ぐっ!うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!」
ヤハラの全身に強烈な衝撃が伝わってくる。
吹っ飛ばされ砂地を転がりうつ伏せに倒れた。
《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 四季映姫&魂魄妖夢》
会場が歓声に包まれた。
映姫は『影姫モード』を解除して元の姿に戻る。
「師匠~!」
妖夢が映姫に駆け寄る。
「妖夢、よくやりましたね」
「えへへ♪そうですか~♪」
映姫が妖夢を褒めると妖夢が締まりのない顔になって頭を掻く。
「ですがまだまだ修行不足です」
映姫が上げてから落とすような言葉を吐く。
「あう~」
妖夢が分かりやすくショボンと落ち込む。
そんな弟子を見て映姫は若干、微笑んだ。
気絶したアアルは医務室に搬送された。
ヤハラは気絶まではしておらず、よろけながらも起き上がる。
『影牢』も既に解かれているので霊力も徐々に戻ってきている。
ヤハラは体をかばいながらも映姫に歩み寄った。
映姫はヤハラに視線を移し、黙って待つ。
「私の負けです。数々の失言を謝罪する」
そう言って頭を下げる。
ただ勢いよく頭を下げたので妖夢が驚いてのけ反ってしまった。
「いえ。気にしていません。闘いとなれば少々強気になってしまうこともありますし、身近にそういう人がいるので本当に気にしていません。ですから頭を上げて下さい」
映姫は視線を崩さず真顔で返した。
ヤハラはここで意地を張って頭を上げないのは失礼だと思い、ゆっくりと頭を上げた。
「(あっ…上げる時はゆっくりなんだ…)」
妖夢は黒刀が考えそうな場違いなことを思っていた。
「感謝する。四季映姫と言いましたね?」
「映姫で構いません。苗字だと弟と被るので」
「では映姫」
ヤハラが右手を差し出す。
映姫も意図を察して右手を差し出す。
「いつかまた闘お…っ!」
握手を交わそうとしたその時。
ヤハラの背後から鞭が伸びてきて背中を打った。
その瞬間、ヤハラの全身に電流が流れて激痛が走り横向きに倒れる。
「…余は言ったはずだ。二度と余に恥をかかせるなと」
その声はゲートから聞こえた。
声の主を見たオシリス・レッドリーは恐怖で震えた。
「だが、貴様は敗北するだけでなく敵に対して握手などとくだらぬことを交わそうとした」
声の主は暗闇の中から姿を現した。
「余はエジプト王国第一王子アヌビス・ヘルメスだ!それすら忘れたか?ヤハラ」
アヌビスがフィールドに足を踏み入れたその瞬間。
妖夢は圧倒的なオーラを感じて後ずさった。
「(何て…冷たくて巨大なオーラ…)」
アヌビスがゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
伸びていた鞭が縮んでアヌビスの手元に戻っていく。
その鞭はゴムで出来た物のではなく霊力で出来たものだった。
アヌビスは右手に杖を持っていてその先が鞭に変化していた。
その鞭が縮んで杖先で赤い球体に変形する。
それは魔術師が持つようなロッドだった。
アヌビスがうつ伏せに倒れているヤハラの後ろで立ち止まる。
「貴様には失望したぞヤハラ。余の命令に逆らうとは…もう用は無い。失せろ」
ヤハラに向けて冷酷な言葉を吐く。
「はい…仰せのままに…」
ヤハラは苦しそうに言葉を絞り出しながら痛みを堪えて立ち上がるとアヌビスの横を通り過ぎてゲートへ歩き出す。
「ちょっと待ってください!そんなボロボロの体で動くなんて無理です!医務室に搬送してもらった方が…」
妖夢が止めようとしたその時。
「口を閉じろ。雑兵」
アヌビスが妖夢にロッドの先端を向けた。
妖夢は一瞬怯んだが、それでも前に踏み出して真っ向から言い返す。
「全力で闘った仲間に何であんな酷いことが言えるんですか!」
「余の
アヌビスが怒りを露わにして、ロッドの底を砂地に突き刺したその瞬間、霊力の波動が放たれた。
その波動が妖夢に襲いかかろうとする。
誰もが息を呑んだその時、もう1つ強烈なオーラの波動が放たれてアヌビスの霊力の波動を打ち消した。
「ん?」
アヌビスが目を細める。
その視線の先に立っていたのは…
「先輩!」
妖夢が振り返ってパアッと表情を輝かせて呼ぶ。
そう。
そこに立っていたのは…
『八咫烏』の剣先をアヌビスに向けた四季黒刀だった。
「俺の後輩にちょっかいを出すのはやめてもらえるかな?アヌビス・ヘルメス」
黒刀がそう口に出して『八咫烏』を納刀する。
ちなみに先程、アヌビスの霊力の波動が打ち消されたのは黒刀の剣圧によるものである。
黒刀が足を踏み出してフィールドの中央へと歩く。
彼の存在に多くの人間が注目する。
「ようやく出てきたか。四季黒刀」
観客席に座っているレーニンJrはそう呟くのだった。
ED9 鋼の錬金術師 扉の向こうへ
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