東方剣舞   作:kuroto xanadu

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OP9 ハイキュー3期 ヒカリアレ


覇王再臨

 再度、化成体に包囲されて黒刀がそれらを華麗な動きで倒していく中でその光景を見ていたレーニンJrが口を開いた。

 

「ザウル、『南太平洋の悲劇』は知っているな?」

 

「そりゃもちろん。有名な話だからな」

 

突然の問いに疑問符を浮かべたザウルはとりあえずそう答えておく。

 

「『南太平洋の悲劇』。『セラフィム』の伝説の中の1つでもある。

…2年前、シンガポールが帝国に新型兵器が出来たという情報を入手した。

その事実にシンガポールはあることを危惧した。

強大な力を手に入れた帝国はかつてのように自分達の国を植民地化するのではないかと…もちろん帝国にその気はなくシンガポールの被害妄想だが先走ったシンガポールは近隣諸国と連合を組み、税金を上げ、さらに観光事業で得た資金を全て軍事資金に使った。

そのおかげで戦艦30隻、空母10隻を手に入れた彼らは帝国に対して侵犯攻撃を仕掛けた。

第一防衛線を突破した彼らだったが第二防衛線に突入する前に彼らは不運にも出会ってしまった。

………全ての敵を殲滅する天使『セラフィム』に…。

たった1機と高を括っていた彼はそのまま突撃を仕掛けた。しかし、結果は無残なものだった。

戦艦30隻と空母10隻は全滅、生き残っている兵士もいなかった。

偶然ロシア軍の観測兵がいたおかげと工作部隊の情報収集によってこの伝説は明るみとなって世界中に知れ渡った。『セラフィム』の名前は一般公開はせずにな」

 

レーニンJrはそこで語り終えた。

 

「つまり何が言いたいんだ?まさか士官学校の復習をさせようとでも言うのか?」

 

試合を観ながらしっかり聞いていたザウルは冗談交じりに返した。

レーニンJrは試合を見ながらこう口にした。

 

「つまり…『セラフィム』に数は関係ないということだ」

 

余談だが艦隊を壊滅させられたシンガポールは後に世界各国から警告と非難を受けた。

国民からは税金と観光事業で得た資金を搾取された上に敗北したのでデモ、暴動などが勃発してかなり荒れた。

新体制の政府を発足したことで徐々に立ち直してきている。

それ以来、各国の軍部ではこう言われている。

『セラフィム』と遭遇したら即撤退しろ。

これは各国の士官学校でも特に厳しく教えられてきている。

 

 

 

 

 

 黒刀は短剣で突き刺してきた化成体の攻撃を躱して、短剣を持った腕を肘ごと斬り落とす。

斬り落とした腕を右手で掴んで別の化成体の胸に投擲した。

化成体の胸に短剣が突き刺さり雲散霧消して消滅する。

 

「しぶとい!矢を放て!」

 

アヌビスの命令で弓を持った化成体が一斉に矢を放つ。

放たれた矢の数は100本を超えている。

 

「おっと!」

 

黒刀は矢が降り注ぐ前に背後から大剣を水平に斬ってきた化成体の剣撃をしゃがんで躱すと振り返って大剣の化成体の両腕を斬り落としてから背後を取り背中を掴んで降り注ぐ矢の盾代わりにした。

盾代わりにされた化成体や周囲の化成体に矢が突き刺さる。

矢の攻撃が止むと、黒刀は盾代わりにした化成体の首を斬り落として捨てた。

 

 

 

 

 

 ニューヨーク時間午後0時1分。

 

「何て奴なの…あの軍勢にここまで闘い続けるなんて…一体何者?」

 

目の前の試合をゲートの壁に背中を預けながら見ていたオシリスは信じられないものを見るような目で呟いた。

 

 

 

 

 

 同様に観客席から試合を見下ろしていた田中は教え子を見るような目をしていた。

 

「(うんうん。体術の訓練は怠っていないようだね。さすが黒刀君だね…)」

 

 

 

 

 

 

「…仕方ない。この手は使いたくなかったが…」

 

アヌビスはロッドを玉座の前に突き立てた。

両手を肘掛けにかけて指先を叩き始める。

すると、化成体の内の何体かの動きが急に変わった。

 

槍を持った4体の化成体が四方から黒刀を突く。

そのスピードは先程までとは段違いに鋭く速い。

黒刀がジャンプして躱す。

そこへ剣を持った化成体がタイミングを合わせたかのように剣を水平に振る。

『八咫烏』で受け流し体を捻って上から回転斬りする。

その剣撃を大剣を持った化成体が下から割り込み防ぐ。

間髪入れず横から大剣を持った化成体がもう1体薙ぎ払ってくる。

『覇王の盾』を展開してガードする。

だが、大剣の重い一撃で吹っ飛ばされて砂地を転がる。

そこから右手をついて跳ね起きる。

 

「(動きが鋭くなった上に連携を取り始めた。考えられる可能性は…)遠隔操作か」

 

黒刀が答えを導き出す。

 

「ほう。たった1回で気が付いたか」

 

アヌビスが心のこもっていない感嘆の言葉を吐く。

 

「何体かを遠隔操作しているんだろ?」

 

「だが、分かったところでどれを余が操作している奴かなど分かる訳もない」

 

アヌビスが勝ち誇った笑みを浮かべる。

それに対して黒刀はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

「それはどうかな?」

 

その言葉と同時に黒刀は『覇王の眼』を発動した。

すると、見えたのだ。

遠隔操作されている化成体から肉眼では見えない霊力の糸がアヌビスの指先に繋がっているのを。

その数、10本。

 

「なるほど。種が割れてしまえば大したことは無いな」

 

「何?」

 

黒刀の言葉を侮辱と受け取ったアヌビスが眉を顰めた。

 

「お前が遠隔操作できるのは両手の指の数と同じ10体。指先から不可視化した霊力の糸で遠隔操作しているに過ぎない。差し詰め…『マリオネット』と言ったところか」

 

黒刀はアヌビスの霊術を完全に見破った。

 

「…許さぬ。余をここまで侮辱したこと………許さぬぞ!」

 

アヌビスが激昂して化成体を遠隔操作で攻撃をさせた。

 

「同じ手を何度も食うかよ」

 

黒刀がそう吐き捨てると、その体に青白い電気が帯びる。

 

「電光石火…四季流剣術 壱の段 一騎当千!」

 

黒刀は先程までとは比べ物にならないスピードで10体の化成体を斬り倒した。

アヌビスは目を見開くが何とか冷静さを保つ。

 

「焦るな…そうだ…余には無限の兵士がいる。()()()()()()()とは違う!余の命令に忠実に従う()の兵士がな!アハハハハハハ!!!」

 

そう言って高笑いした。

その言葉に黒刀がピクリと反応する。

 

「役立たずの道具?王だと?」

 

「そうだ!余こそが真の王に相応しい!」

 

「…哀しい奴だ」

 

「何だと?」

 

「お前は『王』という存在がどういうものなのか分かっていない。『王』っていうのはな…………運命に選ばれ宿命を背負った者のことだ

 

黒刀の言葉にレミリア・スカーレット、河城にとり、洩矢諏訪子が反応した。

それに対してアヌビスはフッと鼻で笑った。

 

「くだらぬ。王とは如何に国を支配し駒を上手く使える者を指すのだ!」

 

そうこう会話している内に化成体が次々と現れて黒刀を取り囲む。

 

「いずれにせよ貴様はここで終わりだ。とどめを刺せ!」

 

アヌビスがそう命令する。

黒刀を包囲する化成体が一斉に跳び上がって突き刺そうと襲い掛かった。

その時。

 

「(黒刀、頼みがある…)」

 

黒刀の中からザナドゥ卿の声が聞こえた。

 

「(ああ。言わなくても分かっている。だけど上手くやってくれよ)」

 

「(承知した)」

 

ザナドゥ卿の声が最後に聞こえた。

次の瞬間、黒刀のペンダントが赤と青、二色の輝きを放った。

 

「今更遅い!」

 

アヌビスが叫ぶ。

黒刀の体は何十体もの化成体の山に埋もれて見えなくなった。

二色の光も中に閉じこもって見えなくなった。

 

「フフフ…所詮は雑兵」

 

アヌビスが勝利を確信した笑みを浮かべたその時。

 

「モードチェンジ!」

 

化成体の山の中から声が響いた。

化成体は強い衝撃波によって吹き飛ばされた。

その中心に現れたのは首にぶら下げているペンダントから赤と青の輝きを放つ黒刀だった。

 

『黒刀!』

 

日本代表控室にいる全員が思わずその名を呼んだ。

 

さらに、黒刀の足元から黒い瘴気のような闇が溢れ出す。

それは柱となって黒刀を包み込む。

黒刀の姿が変わっていく。

闇の柱が天に昇った。

黒刀の変わった姿。

それは…

 

「ザナドゥ!」

 

かつて妖夢達が闘った『覇王』…そして、旧ザナドゥ王国国王クロト・ザナドゥだった。

漆黒の鎧、漆黒の籠手、漆黒のブーツ、漆黒のマントを装備した『覇王』だった。

次の瞬間、会場に重力のような威圧感がのしかかる。

 

『っ!』

 

それは世界の強豪にとっても強すぎるものだった。

 

「何だこれ…重い…」

 

チャーリーが耐えながら声を絞り出す。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

 

「これは…『威圧』。何て強さだ…」

 

にとりも圧倒的なオーラのプレッシャーに押し潰されそうになりながら声を絞り出す。

 

「久しぶりに味わったけど…やっぱりきついな…」

 

魔理沙も苦しそうに声を絞り出す。

 

「前に経験したことあるの?」

 

愛美が訊く。

 

「まあな」

 

魔理沙はそう返すしかなかった。

しかし、この中で平気な顔をしている者がいた。

博麗霊夢、白金真冬、洩矢諏訪子、四季映姫の4人である。

霊夢はザナドゥの血が入っている為、真冬はザナドゥの血は入っていないが白雪真冬の魂を受け継いでいる為、残りの2人は単純に超人的だから。

 

「このオーラ…前にも…そうだ。俺と闘った時も同じオーラを…だが、あの時とは桁違いだな…」

 

優がそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 イギリス代表の中にもこのプレッシャーに耐える者がいた。

レミリア・スカーレットとレオ・アルハートである。

 

「マリー、魔力を全身に纏わせるイメージをするんだ。少し楽になる」

 

レオがマリーにアドバイスする。

 

「はい。お兄様」

 

マリーは言われた通りにする。

すると、何とか姿勢を正せるくらいには良くなった。

 

 

 

 

 

 観客席のお空とさとりは目を輝かせて喜んでいた。

 

「「帰ってきた!」」

 

 

 

 

 

 ニューヨーク時間午後0時5分。

 

()()強すぎたか」

 

そう呟いて『威圧』を緩めたのは四季黒刀ではなくクロト・ザナドゥである。

今は黒刀に代わってザナドゥ卿の意識が表に出ているのである。

ザナドゥ卿の視線がアヌビスに移る。

その瞳は『覇王の眼』となっており紫色の五芒星が浮かび上がっている。

 

『威圧』から解放されたアヌビスは息を吐き出す。

 

「はぁ…はぁ…おのれ…」

 

毒づくアヌビスに対し、ザナドゥ卿は無言でゆっくりと歩き出す。

 

「っ!」

 

アヌビスの顔が引き攣る。

 

「ナメるな!」

 

そう言い放って化成体を具現化して突撃させる。

ザナドゥ卿はそのまま歩き続ける。

その背後から剣を持った化成体が斬りかかる。

アヌビスは勝ち誇った笑みを浮かべる。

誰もが息を呑んだ次の瞬間。

その化成体は雲散霧消して消滅した。

 

 

「なん…だと…」

 

あまりの出来事にアヌビスは驚愕する。

化成体の剣の刃がザナドゥ卿に触れる寸前で化成体は消滅したのである。

ザナドゥ卿は止まることなくゆっくりと歩き続ける。

 

「どういうことだ!何が起きている!」

 

アヌビスは叫ぶが答える者はいない。

化成体が四方八方から次々と攻撃を仕掛けるが全ての攻撃が届く前に化成体は消滅した。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

 

「そうか!」

 

妖夢が思い出したように声を上げた。

 

『?』

 

一同が首を傾げる。

 

「『ザナドゥモード』の先輩には気力や霊力を用いた攻撃が無効化されてしまうんです!」

 

「つまり霊力によって具現化された化成体は全て消滅してしまうってことね…」

 

霊夢が納得する。

 

 

 

 

 

 ザナドゥ卿は特別なことは何もしていない。

ただ歩く…それだけ。

だが、たったそれだけで敵に強烈なプレッシャーを与える。

 

『ザ・ピラミッド』の前に辿り着いたところで立ち止まる。

そこで中段構えを取る。

 

「まずはそこから…()()()

 

その場で『八咫烏』を水平に振った。

しかし、何も起こらない。

 

「こけおどしか」

 

「覇王一閃」

 

ザナドゥ卿が呟いた直後、空間を斬りかねないほどの黒い斬撃が『ザ・ピラミッド』を横一線に切り裂いた。

『ザ・ピラミッド』は崩壊して元の砂に戻る。

 

「ぐ、ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

アヌビスはこれまで聞かせたことのない断末魔を上げて落ちていく。

幸い砂漠フィールドなので砂がクッションになってダメージは緩和された。

アヌビスはロッドを持って立ち上がる。

 

「おのれ…許さぬぞ。よくもここまで余を侮辱してくれたな!」

 

アヌビスは怒りを露わにして吠える。

ザナドゥ卿は静かに目を閉じた後、ゆっくりと開けた。

 

「1つ聞こう。お前にとって『国』とは何だ?」

 

「支配する為のものだ!民と兵はその為に存在にしていればいい!」

 

アヌビスは目を細めた後、そう吐き捨てた。

 

「そうか………()は違う。『国』とは民あって存在できるものだ。民無くして『国』も『王』も無い!」

 

ザナドゥ卿はそう宣言して、『八咫烏』の剣先を天に向けた。

 

「パーソナルフィールド展開!」

 

フィールド全体が変わっていく。

そのフィールドには石造りの家があり、壁があり、王宮があり、天井が無い玉座の間があった。

そう…ここは…

 

「ザナドゥ!」

 

まさに旧ザナドゥ王国だった。

ザナドゥ卿は玉座の間で玉座に腰を…掛けず中央に立っていた。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

 

「(旧ザナドゥ王国…1000年ぶりですね…)」

 

真冬は白雪真冬としての記憶に耽っていた。

 

「(何なの…この感じ…)」

 

霊夢はドクンッと胸が熱くなるのを感じていた。

ちなみに真冬が記憶を取り戻しているが、霊夢はまだ博麗聖夢としての記憶が戻っていない。

なので胸を熱くするそれが何なのか理解していない。

 

 

 

 

 

 

「何だこの古びて薄汚れた場所は?」

 

旧ザナドゥ王国の風景を見渡したアヌビスが吐き捨てた。

その時。

 

「ここは歴史に忘れられし王国…ザナドゥ王国だ。1000年前に1人の王が滅ぼした王国だ」

 

そう口にするザナドゥ卿の声には悲しみがこもっていた。

 

「己の国も守れない王などただの愚王だ。余はそのような者とは違う!来い!無敵兵団!」

 

アヌビスがロッドをかざして詠唱する………が何も起きない。

 

「どうした?来い!無敵兵団!」

 

再度、詠唱するがやはり何も起きない。

 

「何故だ!何故、無敵兵団が発動せぬ!」

 

アヌビスは憤慨して叫ぶ。

 

「無駄だ」

 

ザナドゥ卿の声が響いた。

 

「このフィールドではザナドゥの血か魂を受け継ぐ者以外、気力と霊力が無力化される」

 

「なん…だと…」

 

ザナドゥ卿の言葉にアヌビスだけでなく会場中の人間が驚愕する。

映姫の『影牢』もオーラを無力化するという効果は同じだが、それに比べてこちらはフィールド全体の為、効果範囲が広い。

 

アヌビスはロッドを投げ捨てて駆け出す。

霊力が使えない以上、ロッドを持っていても邪魔でしかないからだ。

駆け出した方向は玉座の間………ではなく反対側。

つまり逃げ出したのだ。

アヌビスは急いで家屋の中に入る。

当然、人の気は無い。

 

「(まずは視覚的に見えぬ場所で待機して好機を待つ。建物の中なら奴からは見えぬし狙いも定まらぬ)」

 

アヌビスは逆転の一手を考えながらチャンスを待った。

 

 

 

 

 

 ニューヨーク時間午後0時10分。

 

「なるほど。身を隠し好機を待つか。俺が『千里眼』を使うと考えているという訳か。確かにいい考えではあるな………『千里眼』ならば」

 

ザナドゥ卿はそう口にして『覇王の眼』でアヌビスの居場所を視た。

『覇王の眼』は『千里眼』と違って不可視を視通す力がある。

例え建物の中に隠れようとその内部を視ることが出来る。

『八咫烏』を下段に構えて斬り上げたその瞬間、石造りの家の中にいるアヌビスの背中に突如、斬撃が走った。

 

「ぐあっ!」

 

アヌビスは前のめりに倒れてうめき声を上げた。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

 

「彼は一体何をしたのですか?」

 

雪村が驚愕して呟く。

 

「空間霊術だ」

 

その疑問に答えたのは優だった。

 

「空間霊術?」

 

「ああ。空間魔法の霊術版みたいなものだ」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!空間系の魔法や霊術は干渉力が関係する筈です。原則として対象が体内から発しているオーラの範囲には空間系の魔法や霊術は発動しない筈。ですがあれは…」

 

「ゼロ距離だった」

 

「はい。ですのでいくらなんでもそれは…」

 

「忘れたのか?あいつの言葉を。今あの場であいつ以外は気力と霊力が無力化されている。つまり今のアヌビスにはオーラがない。ただの人間だ。もちろんオーラの干渉力なんてない」

 

「ということは今の彼には座標さえ分かればどこからでもゼロ距離で攻撃することが出来る」

 

その結論に一同が少なからず恐怖を抱いた。

不可視を視通す『覇王の眼』。

気力と霊力を無力化するパーソナルフィールド。

ゼロ距離で放たれる斬撃。

まさに『覇王』の名に相応しいコンボ。

皆が言葉を失う中、ただ1人違った。

 

「凄いです!」

 

そう声を上げたのは妖夢だった。

 

「やっぱり先輩は凄いです!」

 

妖夢は喜んでいた。

 

「妖夢、お前…分かっているのか?今の黒刀がどれだけヤバいのか」

 

魔理沙が恐る恐る声をかける。

すると、妖夢はこう言った。

 

「え、だって超えるなら壁は高い方がいいじゃないですか」

 

妖夢はさもそれが当然と言いたげな顔で言い切った。

 

「(こいつ、マジか…)」

 

妖夢の言葉に魔理沙は困惑した。

 

 

 

 

 

 アヌビスは逃れられない斬撃を受けてボロボロになっていた。

 

「理由はどうであれ余の位置は知られているようだな。ならば!」

 

アヌビスは窓ガラスをぶち破って飛び出した。

そして、減速することなく王宮へ走り出した。

 

「(こんな風に走り回るのはいつ以来だろうな…)」

 

アヌビスの顔に自然と笑みが浮かぶ。

狙いが少しでも定まらぬように不規則なジグザグで前進する。

 

 

 

 

 

 エジプト代表控室。

 

「あんなアヌビス様を見るのは久しぶりですね」

 

アヌビスの試合を見守っていた控えメンバーの背後に突然、ヤハラが現れた。

 

「ヤ、ヤハラさん…ええ、アヌビス様があんな苦戦するなんて初めて見ました」

 

「そうか…(いや、私が言いたかったのはあんな楽しそうなアヌビス様を見るのは久しぶりということなんだが…)」

 

ヤハラはモニターウインドウに映るアヌビスを微笑ましそうに見守っていた。

 

 

 

 

 

 王宮へ進む途中もあぬびしゃゼロ距離で斬撃を受け続けていた。

しかし、不規則なジグザグの動きが功を奏したのか何とか立っていられている。

 

「(それにしても気になるな。奴は言っていた。ザナドゥ王国は王が滅ぼしたと…そして、こうも言っていた。このフィールドではザナドゥの血か魂を持つ者以外、気力と霊力が無力される。つまり奴の言うことが正しければ奴はザナドゥの血か魂を持つ者。これだけの力を持ち、あの風格…間違いない。奴は…)」

 

そこまで考えたところでアヌビスは急に立ち止まった。

ザナドゥ卿もアヌビスの次の行動を待って攻撃を中断した。

アヌビスは大きく息を吸った後、こう声を張り上げた。

 

「貴様に問う!貴様はこれだけの強大な力を持ちながら何故、国を滅ぼした!」

 

観客はアヌビスが何のことを言っているのか理解出来なかった。

ザナドゥ卿をアヌビスの言葉を聞いて目を閉じた。

 

「(あやつは気づいている。余がザナドゥ王国の王であったことを…)」

 

それから目を開ける。

 

「ザナドゥ王国が滅んだのは俺が弱かったから………ただそれだけだ」

 

ザナドゥ卿はそれだけ答えた。

 

「話は終わりだ」

 

その瞬間、アヌビスの周囲から空間霊術の術式が4個展開してそこから黒い鎖が飛び出してアヌビスを拘束した。

七瀬愛美の使用する『バインド』とはまた違った『バインド』である。

アヌビスは必死にもがくのかと思いきや縛られたまま両手を広げて立っていた。

 

「貴様の真意の一片を知った。そして、余にもはや手は残されておらぬ。故に余は…全身全霊で貴様の一撃を受ける!

 

アヌビスのその宣言は言わば敗北宣言であるが、彼が口にすると不思議と、潔さとカッコ良さが表れる。

 

「…いいだろう!」

 

ザナドゥ卿はアヌビスの覚悟を受けるとアヌビスの足元に巨大な術式を展開した。

それは直径30mの空間霊術の術式だった。

ザナドゥ卿の目の前にも空間霊術の術式が展開される。

ここに攻撃を撃ち込んでアヌビスの足元の空間霊術の術式から放たれるようだ。

ザナドゥ卿は『八咫烏』を上段に構えて白と黒のオーラを集束させる。

 

「カオス…ブレイカーァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

ザナドゥ卿が白と黒が螺旋状に混じり合った斬撃を放った。

『カオスブレイカー』が空間霊術の術式へ吸い込まれる。

アヌビスの足元の空間霊術の術式が光り出す。

 

「…すまぬ…ネフティス…」

 

アヌビスがそう言い残したと同時に足元の空間霊術の術式から直径30mの『カオスブレイカー』が放たれた。

アヌビスは白と黒が螺旋状に混じり合った混沌の斬撃に飲み込まれていく。

その斬撃は天に昇っていく。

全て昇り切ったところでアヌビスは仰向けに倒れた。

 

《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 四季黒刀》

 

WDC本選1回戦第1試合の勝者を告げる機械音声が鳴り響くと割れんばかりの大歓声が沸き上がった。

パーソナルフィールドが解除される。

『八咫烏』を鞘に納刀すると『ザナドゥモード』も解除して元の姿に戻る。

意識もクロト・ザナドゥから四季黒刀に戻っている。

フィールドも『リアルARシステム』が解除されて元のフィールドに戻る。

 

「はぁ…正体隠すつもりがバレるとはな…」

 

「(すまぬ。うぬには苦労をかける)」

 

「まあ、いいよ。バレたもんは仕方ない」

 

実はザナドゥ卿が試合中に一人称を『余』から『俺』に変えていたのも正体を隠す為だった。

 

 

 

 

 

 アヌビスが倒れているのを目の当たりにしたオシリスは痛みも忘れて駆け出した。

 

「アヌビス様!」

 

そう叫んでフィールドを駆けたその時、彼女の横を高速で何者かが通り過ぎた。

 

「アヌビス様!」

 

そう叫んでアヌビスの元へ滑り込んだのは………ヤハラだった。

ヤハラは倒れているアヌビスの体を支え起こす。

 

「…耳元で騒ぐな…愚か者…」

 

目を覚ましたアヌビスが鬱陶しそうに呟いた。

 

「アヌビス様…お疲れ様でした…」

 

ヤハラは静かに涙を流した。

 

「…貴様は余の道具だ。余の許可なく敗北することも…余の手を離れることも許さぬ」

 

「はい…」

 

ヤハラは泣きながら応えた。

オシリスは2人のやり取りを見て指先で涙を拭っていた。

ヤハラはアヌビスを抱きかかえてフィールドを去って行く。

 

「(俺とぬえも…きっとああやって心で繋がっているんだよな…)」

 

彼らの後ろ姿と信頼関係の厚さを見た黒刀は昔を思い出しながらペンダントを撫でた。

それから黒刀はフィールドを去った。

 

WDC本選1回戦第1試合。

日本vsエジプトの試合は日本代表の勝利に終わった。

 

 

 

 

 

 試合を見終えたレオは武者震いを覚えていた。

 

「これが黒刀君の力…凄い…見ているだけで全身が熱くなってくるのを感じる…」

 

「(黒刀…私も負けない!)」

 

レミリアも心の中で決意を強めていた。

 

 

 

 

 

 

「行くぞ。次は僕達の試合だ」

 

ロシア代表のレーニンJrが観客席から立ち上がって歩き出した。

それに続いて他のメンバーも立ち上がって歩き出す。

その中の1人であるレティ・ホワイトロックはフィールドの方に振り返った。

 

「ニッポン…タノシミ」

 

そう呟いた後、歩き出した。

 

 

 

 

 

 ニューヨーク時間午後5時 日本代表宿泊ホテル。

 

「くろにい~!」

 

ルーミアが元気な声と共に黒刀の泊まっている部屋に入ってくる。

しかし、黒刀からの返事はない。

何故なら黒刀は普段着でベッドに寝ていた。

 

「くろにい…」

 

その時、ルーミアの肩にポンと手を置くと者がいた。

 

「姫姉…」

 

「寝かせてあげなさい。今日は試合で疲れているだろうから」

 

映姫が優しく声をかけた。

 

「うん…」

 

ルーミアと映姫は熟睡している黒刀を置いて部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 ロシア代表は今日の試合に勝利した。

これで明日の日本代表の対戦相手はロシア代表ということになる。

四季黒刀の偵察任務を受けているレーニンJrとザウルにとっては絶好の機会である。

 

レーニンJrは部屋でこれまでの黒刀の試合映像をチェックしている。

 

「(明日の試合、僕が四季黒刀に当たる可能性はかなり低い。だが、用心しておく必要は十分にある。もし…もし僕が彼と戦うことになったらその時は………必ず正体を暴いて見せる)」

 

彼の目には強い覚悟が宿っていた。

 

 

 

 

 

 新大日本帝国とロシア連邦。

二国の軍人が激突しようとしていた。




ED9 鋼の錬金術師 扉の向こうへ

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