東方剣舞   作:kuroto xanadu

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第18話。

OP3 ハイキュー Ah Yeah



椛の過去

 黒刀対魔理沙の試合が終わり、魔理沙は医務室に搬送され、

黒刀はロビーを走っていた。

 

「黒刀!」

 

そこへにとりが駆けつけた。

 

「にとり、そっちも気づいたか?」

 

「ああ。さっき感じた『王』の気配…間違いない。洩矢諏訪子だ。」

 

「でもあの人は東京にいるはずだろ?」

 

「多分、お前の試合を観に来たんだろう。

ほら、あの人お前のこと結構気に入ってたし。」

 

「それでわざわざ東京から来たのかよ…まあ、もう帰ったみたいだけど。」

 

「まああの人と会うのは恐らく本選だろう。それよりお前は次の試合だ。」

 

「ああ、今椛が試合をしているけど勝つのは椛で間違いないからな。」

 

「対策は?」

 

「ん~、俺は妖夢みたいに二刀流じゃないから…それにあいつも同じ負け方はしてくれないだろ。

俺は俺のやり方で勝つよ。」

 

2人が話していると、ロビーのモニターウインドウから

 

《勝者 犬走椛》

 

機械音声が聞こえ、モニターウインドウでは無傷で立つ椛の姿が映っていた。

決勝戦までは20分ある。

 

「ちょっと風に当たって来る。」

 

黒刀はテラスの方へ歩いていった。

 

 

 

 椛は試合が終わるとゲートに戻り、そこで座り込み休息を取る。

 

「(次は黒刀か…あいつには借りがある。私をこの道に戻してくれたのはあいつだから。)」

 

 

 

 

 1年前 秋。

夏の敗戦からおよそ1か月、椛は新学期初の決闘を行っていた。

決闘が始まり、刀を鞘から抜こうとしたその時、椛は自分の異変に気付いた。

 

「(刀が抜けない?…どうして?いつもトレーニングの時は抜けるのに…。)」

 

結局、その決闘は椛の惨敗だった。

その後の日も何回か決闘をしたが、椛は刀を抜けなかったり、抜けたとしても刀を持つ手が痙攣したように震えて刀を落とし持てなかったりした。

連敗が続き、椛は1位から最下位まで転落した。

原因を知るため医者に診断してもらった。

そして、医者にこう告げられた。

 

「おそらくイップスでしょう。」

 

イップスとは精神的な原因によりスポーツの動作に支障をきたし、自分の思い通りのプレーが出来なくなる運動障害のことである。

椛は自分の状態にショックを受けた。

 

「そんな…なら…私はどうすれば…。」

 

「落ち着いてください。」

 

「落ち着けませんよ!このままじゃ私…二度と剣士になれないかもしれないんですよ!

落ち着けるわけないでしょ!」

 

椛は立ち上がって声を荒げた。

 

「落ち着いてください。」

 

真剣な眼差しの医者に椛は気圧され、やがて少しずつ落ち着いてから椅子に座る。

 

「まず原因を発見して失敗した場面を直視する必要があります。犬走さんの場合…」

 

「……夏の敗戦。」

 

椛がぽつりとつぶやく。

 

「無意識に体が拒否反応しているので小さい部分から徐々に成功体験させて自信を体感させます。

ただし、これには精神的に覚悟や開き直りが求められます。」

 

「覚悟…。」

 

「イップスには個人差があります。長い時間がかかる可能性もあります。」

 

「……長いてどのくらいですか?」

 

椛はうつむきながら質問する。

 

「犬走さんの場合、『剣舞祭』の敗戦が原因なので卒業して忘れる頃…つまり…」

 

「…2年…半…。」

 

「私の知り合いにメンタルリハビリテーションセンターの人がいます。

そこでリハビリを受ければ2年半で完治するでしょう。」

 

「あの…もう少し…早くなんとかならないでしょうか?」

 

「…自己的に治療すればあるいは…しかし、それで早期に完治する可能性は極めて低いし、

下手をすれば二度と治らないことだってあります。正直、おすすめはできません。」

 

「それでも…たとえわずかでも可能性があるというなら…。」

 

椛は藁にも縋る思いだった。

 

「………分かりました。決めるのは犬走さんです。犬走さんのやりたいようにするといい。

だが、もしこちらに協力してほしい時はいつでも来てください。」

 

「はい。ありがとうございました。」

 

診断を終え、椛は帰宅した。

だが、椛の不幸はこれだけではなかった。

 翌日、学校に登校した椛だったが、なにやら学校中の雰囲気が淀んでいるように感じた。

廊下を歩いていると、聞こえてしまったのだ。

「来たぜ。あいつだ。」

「最近弱くなってるって聞く…。」

「つ~か夏にあんな負け方したのによく学校に来れるよな。うちの恥だぜ。」

「どの面下げてきてんだか。」

「あいつのせいでうちは負けたのに。」

「期待してたのにがっかりさせんじゃねえよ。」

「1位の時はあんなに威張ってたくせに。」

「今は最下位…。」

「ざまあみろ。」

その陰口は普通なら聞こえないような声量だったが、眼だけでなく耳も発達している椛には全て聞こえていた。自分に対する容赦ない言葉の暴力が。

椛は思わず逃げ出した。

泣きそうになりながらも必死にこらえて、そしてトイレの個室で人知れず涙を流していた。

イップスと言葉の暴力。

この2つの苦痛は当時15歳の彼女にはとても耐えられるものではなかった。

 

「(だめだ…こんなところで弱気になったら…私は剣士だ…くじけない。)」

 

 放課後になり、体育館裏で素振りを始めた。

 

「大丈夫だ!ちゃんと刀は振れ…っ!」

 

その時、椛の脳裏にあの敗戦が浮かび上がった。

さらに、手が痙攣して刀を落としてしまう。

 

「そんな…素振りまで…。」

 

この時、椛は自分の状態が想像以上にひどくなっていることを自覚する。

 

 

 

 すっかり日が暮れてしまい、帰り道である商店街を歩く。

その時、紅葉高校の生徒とすれ違う。

そして、また聞こえてしまう。

聞きたくもない言葉を。

椛は必死に走り出した。

そうして、いつの間にか路地裏に入ってしまったが、椛はそんなことにも気づかずに走る。

 

「(いやだ…いやだ…なにこれ…どうしてこんな苦しい思いをしなくちゃいけないの?

こんなのいやだよ!)」

 

心の中で悲痛の叫びを上げる。

その時、ドンッと角から出てきた誰かにぶつかってしまって、尻餅をついてしまう。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

慌てて立ち上がって、頭を下げて謝罪し、顔を上げてぶつかった人を見ると、その人物とは…

 

「椛?」

 

黒刀だった。

 

「四季…黒刀?なんでこんなところに?」

 

「お前こそ…ってそんな場合じゃねえ!」

 

「え?」

 

黒刀が走ってきた方向を見ると、強面の不良3人組が追いかけて来ていた。

 

「待てやこら~!ぶっ殺してやる!」

 

椛は黒刀に向き直って、

 

「な、なんですかあの人たちは!」

 

「いいから逃げるぞ!」

 

黒刀は椛の手を取って走り出す。

 

「なんで私まで⁉」

 

「あれに乱暴されたいなら離すけど?」

 

黒刀は不良3人組を指さす。

椛はブンブンと必死に首を左右に振る。

 

「っていうかあなたならあんな奴ら…」

 

「自己満足の暴力を振るう趣味はないし、家に厳しく止められてる。」

 

疾走するうちに路地裏を出て、河川敷まで来た。

そこで足を止め、呼吸を整える。

 

「こ…ここまでくれば…はあ…はあ…。」

 

「ふ~…しつこいなあ~。」

 

「え?」

 

黒刀が指さす方向に椛が『千里眼』で視ると、不良3人組が走ってきていた。

 

「嘘~!」

 

「降りるぞ。」

 

黒刀は河川敷の石垣を滑り降りて、川沿いの方へ逃げる。

椛もその後を追う。

 

「追い詰めたぞ!」

 

不良3人組の1人が叫ぶ。

 

「そっちがな。」

 

「なに?」

 

その時、不良3人組の背後から

 

「お前ら、何しているのかな?」

 

声が聞こえた。

不良3人組が一斉に振り向く。

 

「やあ、みすち~。」

 

黒刀があだ名で呼ぶ。

桃色のショートヘアで羽の飾りをついた帽子をかぶっていて、背中は異形の翼が生えていて体格は小柄、雀のようにシックな茶色のジャンパースカートを着た女性。

みすち~ことミスティア・ローレライである。

 

「こんばんわ黒刀。」

 

ミスティアも挨拶を返す。

 

「「「あ…姐さん⁉」」」

 

不良3人組はうろたえ始める。

 

「で?なにをし・て・い・るのかな?」

 

ミスティアは笑顔で不良3人組に問いかける。

 

「姐さん?目が笑ってないんですけど…。」

 

「いや、俺たちはこいつを…。」

 

「ん?」

 

ミスティアは笑顔を崩さない。

 

「「「ご…ごめんなさい~!」」」

 

その時、ミスティアの表情は怒りに一変した。

 

「制裁だ!バカたれ共~!」

 

ミスティアは不良3人組を柔道家顔負けの背負い投げで次々と倒した。

その後、手をパンパンとはたく。

 

「今度、悪さしたら承知しねえからな!」

 

 

 

 10分後。

黒刀はラーメンをすすっていた。

 

「いや~、やっぱりみすち~の屋台ラーメンは美味い!」

 

「そりゃ、どうも。」

 

黒刀の褒め言葉にミスティアはそっけなく返す。

 

「ほら、椛も食べろよ。」

 

「うん………美味しい。」

 

椛は麺をすすった後、つぶやいた。

 

「お前らもとっとと食え。」

 

ミスティアは不良3人組に呼びかけた。

 

「「「はい姐さん!」」」

 

不良3人組は元気よく食べ始めた。

ミスティアはそれを微笑ましく見た後、

 

「で黒刀、こいつら何やったんだ?」

 

黒刀に訊いた。

 

「何ってナンパしてたから止めただけだけど。」

 

「そうなんすよ!こいつ、俺らが女と遊ぼうとしたら横から入ってきて」

 

「相手の女の子は嫌がってたけど?」

 

黒刀が補足する。

 

「うるせぇ!お前には関係ねぇだろうが!」

 

「おい。」

 

ミスティアは冷たい声と共に睨んだ。

 

「すいません。」

 

不良3人組は素直に謝る。

椛が黒刀に耳打ちで、

 

「一体何者なの彼女?」

 

「元ヤンで頭をやってた人だ。」

 

「え?」

 

椛は言われてミスティアを見るが、とてもそうは見えない。

 

「昔のことだ。」

 

話を聞いていたミスティアが口にする。

 

「昔って言っても2年前くらいのことだけどな。」

 

「何でそんな人と知り合いに?まさか!あなたもそういう…。」

 

「ん~。俺はみすち~とタイマンやっただけ。まあ、確かにその時は俺中三でちょっと荒れてたから。」

 

「そんで負けたあたしは不良やめて今は屋台でラーメン出してるってわけ。」

 

「ふぇ~。」

 

話についていけない椛。

 

 

 

 

「そうだ。俺と決闘しないか?」

 

ラーメンを食べ終えた黒刀は椛にそう声をかけた。

 

「え?…いや…その…今は…ちょっと…。」

 

歯切れが悪くなってしまう椛。

水を一杯飲んだ後、黒刀はこう口にした。

 

「それはイップスが理由だからか?」

 

「っ!」

 

椛は思わず立ち上がる。

 

「どうして…。」

 

「直感とだけ言っておこう。」

 

「…そうよ…今の私は満足に刀を振ることさえ出来ない。」

 

「…。みすち~、木刀あるか?」

 

コップをテーブルに置いた黒刀は立ち上がって、ミスティアに訊いた。

 

「あるよ。ほら。」

 

ミスティアは2本の木刀を黒刀に投げ渡す。

 

「な…なにを?」

 

「ほら。」

 

黒刀は椛に木刀を1本投げ渡す。

椛は咄嗟にそれをキャッチする。

 

「待って!私は…。」

 

「椛、まだお前に剣士としてのプライドがあるなら…逃げるなよ。」

 

「なんで…なんでこんなことをする必要があるのよ!」

 

「俺のためでもあり、そしてお前のためでもあるからだ。」

 

「あなたのため?」

 

「俺は来年の剣舞祭で全国に行く。だが、今の在学中の奴らじゃ話にならない。

だから新1年生をチームに入れる。だけど楽して全国に行っても優勝なんてできない。

だから必要なんだ。同じ地区にお前みたいな強者…ライバルが。」

 

「それって私があなたのチームの礎になれってこと?そんなこと誰が…。」

 

「まあ、ぶっちゃけそうなんだが、だけど…俺は辛さを乗り越えてこその強さがあると思う。」

 

椛は黒刀の言葉に苛立ちを露わにした。

 

「知った風な口を聞くな!あなたには分からない!

剣士が刀を振れないことの辛さがどれほどのものか!」

 

黒刀は息を吐くと、

 

「お前は勇ましい剣士になりたかったのか?それとも悲劇のヒロインになりたかったのか?」

 

冷たい口調で言い放った。

 

「なら俺が目を覚まさせてやるよ。剣士としてのお前を!」

 

直後、黒刀は椛に突きを放つ。

椛は咄嗟にそれを避ける。

黒刀は椛が避けた先に突きを放つ。

 

「くっ!」

 

椛はガードするがバランスがとれていないため地面を転がる。

その光景を見ていたミスティアは

 

「黒刀も意地が悪い。」

 

と、一言つぶやいた。

 

「どういうことですか?姐さん。」

 

「黒刀は突きしかしない。だが彼女にとってそれはあの敗戦を強くイメージさせる。

突きっていうのは槍のイメージに最も近いからな。

黒刀は彼女に過去を超えさせようとしている。」

 

黒刀は木刀でまるでレイピアのように連続で突きを放つ。

椛はそれをなんとかガードしているが、攻撃に移ろうとすると体が一瞬硬直して攻撃に移れないでいた。

黒刀は口を開く。

 

「お前はただ逃げてるだけだ。周りからもそして自分自身からも。」

 

「違う。」

 

「自分を変えようともしない。」

 

「違う。」

 

「そして過去の敗戦に囚われている。」

 

「違う!」

 

「なら証明してみせろ!お前の進化を!」

 

黒刀は突きで椛の態勢を崩し、さらに渾身の突きを放つ。

 

「(防げない…避けれない…どうすれば…。)」

 

その時、椛の中で何かが覚醒する。

 

「(見える…分かる…次の動きが!)」

 

椛は黒刀の肘に向けて刀を…振った。

 

「!」

 

黒刀は咄嗟に木刀を捨て、白羽取りで止めた。

 

「ふ~、あぶね~。」

 

「今…私…。」

 

椛は自分の動きに驚いている。

 

「やりゃ出来んじゃん。」

 

「もしかしてさっき私にひどいことを言って挑発してきたのって…。」

 

「言っただろ。お前が必要なんだ。」

 

「お前、それ誤解される言い方だぞ。」

 

ミスティアが口を挟む。

 

「え、何で?」

 

しかし、黒刀は首を傾げる。

 

「はあ、もういい。」

 

ミスティアは呆れる。

 

「疲れたからお茶飲みたい。」

 

「わかった、わかった。出すから。」

 

ミスティアと黒刀は屋台に戻る。

 

「お前も飲むかい?」

 

ミスティアは椛に言葉をかけた。

 

「あ、はい。」

 

椛はそれに応えた。

 

 

 

 椛はお茶を一口飲んだ後、コップをテーブルに置く。

 

「…私、皆に期待されてる。だから頑張ってもっと認められたいって思っていた。でも…。」

 

椛はこの秋の出来事を黒刀に話した。

黒刀はそれを聞いて、

 

「そりゃ、そいつらはひどい。だけどお前も悪いな。」

 

「どうして?」

 

「誰かに認められたい。それはいいがそれを己の闘う意味にしてはいけない。

実際に闘うのは俺達だ。だから己のために闘え。それと周りの反応をいちいち気にするな。

そんなんじゃ身がもたねえぞ。」

 

黒刀はお茶を一口飲んでから、

 

「俺もチームメイトに裏切られたからあまり人のこと言えねえけど、信じていたものに裏切られる苦しみはもう知ってる。」

 

黒刀は思い出していた。

あのロッカールームで悔しさをぶちまけた自分を。

 

「だから今度は自分で見つける。信頼できる仲間を。何人かは目星はついてる。」

 

「早いね。まだ秋だよ。」

 

「準備をしておくに越したことはない。」

 

「なら楽しみだね。来年の予選。」

 

「ああ。」

 

 そろそろ解散というところで椛が立ち去ろうとした時、

 

「椛!」

 

黒刀が呼び止めた。

 

「?」

 

椛が振り返る。

 

「お前はお前の道を突き進んでいけよ!周りがどう言おうと!」

 

「黒刀…うん…私、強くなるよ!」

 

「俺ももっと強くなる!」

 

黒刀は椛に拳を突き出す。

椛も同じように黒刀に拳を突き出す

 

「「(もっと…強く!)」」




ED3 遊戯王GX Wake Up Your Heart

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