東方剣舞   作:kuroto xanadu

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OP FAIRY TAIL 明日を鳴らせ

この物語は四季黒刀の物語でも魂魄妖夢の物語でもない。
四季黒刀の父 四季大和がまだ10歳の頃の物語である。


大和外伝
前編


 2180年 四季家本邸庭園。

半袖シャツに短パンとラフな服装をしている四季大和(当時10歳)は庭園である人物と組手を交わしていた。

その人物とは…八雲紫(当時20歳)だった。

この頃の紫はまだ神光学園を設立しておらず四季家と友好関係を築く為にこうして交渉の傍ら大和の相手をしている。

 

大和が連続で拳を繰り出すも紫はそれを手のひらで受け流す。

大和にとっては修行だが紫にとっては遊び程度にしかならない。

大和は余裕な表情で攻撃を躱し続ける紫にムキになってさらに連続攻撃を仕掛ける。

紫はその連続攻撃さえも余裕で躱している。

 

「避けてばっかいるんじゃねえ!」

 

苛ついた大和が吠える。

 

「なら少しは当ててみれば?」

 

紫は澄ました顔で挑発する。

 

「この!」

 

挑発を真に受けた大和は右手の拳に意識を集中させた。

大和の拳が光り出す。

 

「!」

 

紫はその現象にほんの僅かだが驚く。

 

「(決まった!)」

 

大和は勝利を確信する。

大和の拳がそのまま紫の顎に直撃するかと思えたその瞬間、紫の口元が一瞬緩んだ。

紫は右手に持つ扇子を水平に振って大和の拳を弾くと左手で大和の手首を握って放り投げた。

 

「ぐ、うわあ!」

 

大和は声を上げて庭園の木の幹に飛ばされる。

 

「いって!」

 

木の幹に後頭部を直撃して声を上げて、その場で10秒程地面を転がって悶絶する。

 

「アハハ!惜しかったね~。」

 

紫はそれを見て高笑いする。

 

「くそ~今のは完全にいけたと思ったのに!」

 

痛みから復活した大和は頭を押さえながら悔しがる。

紫は扇子をバッと広げて口元を隠す。

 

「この八雲家当主八雲紫に勝とうなんて10年早いわよ。」

 

「へっ…おばさんのくせに…。」

 

大和が首を横に向けて憎まれ口を叩いた。

その瞬間、紫の雰囲気が変わった。

今更自分が失言してしまったことに気づいた大和は前を向けなかった。

 

「へえ~いつの間にそんな口が利けるようになったのね…大和。」

 

紫は目が笑っていない笑顔で不機嫌MAXの口調だった。

紫の背後で今にも炎が舞い上がっていそうな程、紫は怒っていた。

 

「いや…冗談…」

 

大和はすぐさま紫に向き直って弁解しようとした。

 

「問答無用!」

 

頭頂部に紫のゲンコツを喰らう結果となってしまった。

 

「お姉さんと呼びなさい!」

 

「分かったよ…紫。」

 

頭を両手で押さえている大和は謝った。

 

「はあ…もういいわ。」

 

紫はため息を吐いて扇子をしまった。

 

「それよりいつの間にあんな技覚えたの?」

 

気を取り直した紫に大和は頭を右手で押さえながら立ち上がる。

 

「ああ…あれ…名付けて…『ソウルナックル』だ!」

 

大和は自慢げに言い放った。

 

「うわあ…ネーミングセンスひどいわね。」

 

紫はジト目で素直な意見を返す。

 

「何だよ!当たればすげえんだぞ!」

 

大和は反論する。

 

「当たれば…ね~。」

 

紫が白けた目で呆れた言葉を返したその時。

紫の背後に音もなく1人の老人執事が現れた。

だが紫はその気配に気づいていた。

執事は高年齢を感じさせないお辞儀をする。

 

「八雲様、会議のお時間でございます。」

 

「(さすが四季家の執事ね。)分かりました。すぐに行くと伝えて下さい。」

 

紫は当主として威厳を含めた口調で伝えた。

 

「かしこまりました。」

 

執事がもう一度お辞儀をすると次の瞬間、その場から姿を消した。

紫は大和の方へ振り返る。

 

「それじゃ私は当主達と話してくるわ。…大和、あなたはまずシャワーを浴びた方がいいわよ。」

 

散々動き回ったり投げ飛ばされたりしたせいで泥だらけになってしまった大和を見る。

 

「なっ!」

 

大和は恥ずかしさから顔を赤くする。

その年相応に可愛らしい反応を見た紫は微笑むとその場から去った。

 

紫の姿が見えなくなってから大和は地面に拳を叩きつける。

 

「(ちくしょう…こんなんじゃダメだ。俺は強くならなくちゃいけないんだ。)」

 

大和は自分を鼓舞した。

 

 

 

シャワーを浴びて着替えた大和が縁側を歩いているとある和室で3人組の少女が1人の少女を囲んでいる光景を目にする。

3人組の少女の服には『鎌』の家紋が入っていた。

 

「(あれは確か…三門家の…。)」

 

家紋を見た大和が心の中で呟いていると会話が耳に入ってきた。

 

「あんたさ…『四』のくせにちょっと生意気なんじゃない?」

 

3人組の真ん中に立つ少女が言い出した。

 

何故三門家の人間が四季家の敷地内にいるのかというと今日が半年に1回行われるナンバーズの定例会議だからでその跡取りや次席の子供達も来ているからだ。

今回の会議の場は四季家である。

ナンバーズの中には数字がそのまま序列を表していると思っている人間も少なくない。

今の三門家の少女の発言がまさにそれを象徴していると言ってもいい。

 

「私は…別に…そのようなことは…」

 

囲まれている少女が口を開く。

 

「何?声が小さすぎて聞こえないんですけど!」

 

右側の少女が言い返す。

 

「ちょっと教育が必要なんじゃない?」

 

さらに左側の少女が高圧的な口調で追い詰める。

 

「そうね。こいつにはっきり教えてやらないとね。上の人間に舐めた態度を取るとどうなるかっていうのかを!」

 

真ん中の少女が言い放った。

 

大和は苛ついていた。

3人組の少女に…そして何も抵抗しない少女にも。

大勢で虐めるのは『心』が弱いからだ。

心がよわいから誰かを傷つけて自分を保とうとする。

そして虐められるのは『力』が弱いからだ。

力が弱い人間は心が弱い人間に付け込まれる。

大和は弱い人間が嫌いだ。

だから弱い人間を見ていると腹が立ってくる。

 

「おい。」

 

大和は3人組の少女の後ろから威圧的な口調で声をかけた。

 

「何よ!今いいところ…っ!」

 

真ん中の少女が振り返った瞬間、体がすくむ。

左右の2人も同様の反応をしている。

大和は3人組の少女に向けて紫との組手の時と同じくらいの闘気を放った。

10歳とは思えない程の気迫に押された3人組の少女は大和をまさか四季家の人間とは思わなかったのだろう。

 

「お、覚えてなさいよ!」

 

真ん中の少女が大和の横を駆け抜けていき、あとの2人もそれに続いていく。

 

大和は3人組の少女が去った方向に一瞬視線を向けたがすぐに目の前で座っている少女に視線を戻した。

その少女の髪は長くエメラルドのように綺麗な緑色で歳は大和より2つ下で肌は西洋人を思わせるほど白く身に着けている和装には『桜』の家紋が入っている。

何よりもその2つの瞳は鮮やかな緑色で一切の濁りが無い。

同年代の男子であるならこのような可憐な少女に一度は惚れてしまうであろう。

しかし大和はその少女を見下していた。

 

「(()()の人間か…。)」

 

この頃の四季家は宗家と分家が存在する。

 

「お前、宗家の四季桜だな?」

 

大和が訊くがその少女は何故か大和を見上げたまま動かない。

それもやたらキラキラした目で。

 

「おい。」

 

大和が声をかけると少女はハッと我に返って立ち上がる。

 

「はい。は、初めまして…四季桜です。」

 

桜がやや小さめの声で自己紹介する。

大和は呆れた目で桜を見る。

 

「(こんな奴が…宗家の人間か…。)分家の四季大和だ。」

 

大和も自己紹介した。

 

ちなみに彼らが初対面なのは宗家と分家では居住区が異なるからである。

大和は四季家の跡取りである桜のことを名前だけだが知っていた。

 

「大和………大和君とお呼びしてもよろしいでしょうか?」

 

「は?」

 

大和が呆けた声を出す。

それもそのはず。

宗家の人間が分家の人間に礼儀を尽くすなど本来あってはならないことだ。

だが大和は分家と名乗っているものの基本的に宗家と分家の関係に興味が無かった。

大和にとって興味があるのはただ強くなる。

それだけだった。

つまり面倒くさくなったわけだ。

 

「勝手にしろ。」

 

突き放すような言い方。

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

しかし桜はかなりぞんざいに扱われたにも関わらず笑顔で返してきた。

 

「(何なんだ…こいつは…。)」

 

大和は困惑していた。

 

 

 

 同刻。

ナンバーズの当主会議では引き締まった筋肉の巨体で顎に髭を生やした四季家現当主四季玄士郎(当時30歳)と八雲紫やその他の当主が勢揃いしていた。

そして、今回の議題は…

 

「我々ナンバーズで同盟を組んで軍と共に列強国に戦争で勝利しようではないか!」

 

玄士郎が口を開いた。

 

四季玄士郎はナンバーズの中でも特に過激派の人間である。

玄士郎自身に実力がある分それを世界に向けて証明したがっているのだ。

 

「我が帝国はこれまでアメリカ、イギリス、ロシアと肩を並べる国と呼ばれてきた。

だがそれでは帝国は高みに上り詰めることを忘れ堕落する一方だ!

今こそこの停滞した世界においてはっきりさせておかなければならない!

頂点に立つ国はこの新大日本帝国だと!」

 

玄士郎は高らかに宣言した。

 

「玄士郎さん、あなたの考え方は中身の無い子供のような考え方です。それでは何も手に入れることは出来ません。」

 

七瀬家の当主の女性が冷静に反論した。

 

「ふん!腰抜けで臆病者の七瀬が!」

 

玄士郎は鼻を鳴らして罵った。

 

「わざわざ呼び出して何を言い出すかと思えばそんなくだらないことを言うとはね。私は下りさせていただきます。」

 

この場で最も若い当主である紫が席を立って部屋を出て襖を閉める。

 

「(小娘が。)」

 

玄士郎は心の中で罵った。

 

沈黙を破ったのは黒いスーツを来た三門家の当主だった。

その当主は40代の男性だった。

 

「面白い。私は賛成だ。」

 

玄士郎の主張に賛同した。

 

「三門!」

 

七瀬家の当主がテーブルをバンと叩く。

三門家の当主はその言動に動じない。

 

「前からロシアの魔法技術には興味があった。これを機にその技術を吸収させたいのだよ。ただし私は戦闘出来ないから資金援助を中心とさせてもらうよ。」

 

そう口にして玄士郎に視線を移した。

玄士郎は笑みを浮かべる。

 

「十分だ。勝利した暁には三門家にロシアの処置を任せよう。」

 

「しかし勝算はあるのかね?アメリカは問題ないとしてロシアの魔法師は手強いしイギリスの騎士団は1人で1000人分の戦力と言われているくらいだ。」

 

三門家の当主は不安材料を口にする。

玄士郎は不敵な笑みを浮かべる。

 

「問題ない。ちょうど明日、四季家で例の儀式をやるところだ。それが終われば我が娘である四季桜は強大な戦力となる。」

 

その言葉に40代とは思えない程若い着物の女性の九条家の当主が声を荒げる。

 

「まさか継承の儀式をするおつもりですか!」

 

「ああ。明日より四季家当主は四季桜となる!」

 

玄士郎は腕を組みながら宣言する。

継承の儀式が何なのかナンバーズの当主は全員知っている。

 

「あの子はまだ8歳です!早過ぎます!」

 

九条家の当主が反論する。

 

「他人の娘がどうなろうとお前の知ったことではないだろう?」

 

「人道的問題があると言っているのです!」

 

「あれは俺の娘だ!俺がどう扱おうと俺の勝手だ!」

 

九条家と四季家の当主同士の言い合いはどんどんヒートアップしていくばかりだった。

結局、九条家の当主はそのまま帰ってしまい他の当主は継承の儀式を終えてから判断するということで会議は終わった。

ちなみに紫は実のところ玄士郎の考えに興味が失せていた。

むしろここに来た目的は弟分の大和に会いに来たようなものだ。

 

紫がそんなことを考えてため息をつきながら縁側を歩いていた。

 

「何ため息吐いてんだよ?」

 

すると背後から声をかけられた。

振り返るとそこには何故か不機嫌な顔をした大和がいた。

 

「あんたこそ何でそんな不機嫌なのよ?」

 

紫は聞き返した。

大和は顔を背ける。

 

「…面倒な奴に会った。」

 

「面倒な奴?」

 

紫が首を傾げて少しだけ考えるとパッと思い出したように口を開いた。

 

「桜のことね~。まさかあんたが女の子に興味を持つ日が来るとはね~。」

 

紫は大和をからかう。

 

「そんなんじゃねえよ!」

 

大和はムキになって否定すると紫の横を駆け抜けて去った。

 

 

 

明日には継承の儀式を控えている。

九条家を除く当主達とその子供達は四季家で一泊することとなった。

 

大和は瓦屋根の上で仰向けになって夜空を眺めていた。

 

四季大和は分家である為元々この家の住人ではない。

今回、この家に来たのも大和の意思ではなく四季家の命令によるものだった。

 

大和が夜空を眺めていると屋根の上に上がる為のはしごから誰かが上がってくる音が聞こえた。

上半身を起こしてはしごの方をジッと凝視していると上がってきたのはなんと四季桜だった。

大和は桜のことは苦手だが、本当なら自分のいる場所に来られるのは嫌なのだが、ここは桜の住む家であり余所者の自分が桜の行動にいちいち口を出すわけにはいかない。

10歳の大和にもそれくらいのことは弁えていた。

 

だから大和はこの場を離れようしたその時。

桜が近づいてきた。

 

「あの…一緒に星を見ませんか?」

 

声のボリュームは控えめだがかなり積極的な行動に出てきた。

大和は再び寝転がる。

 

「…勝手にしろ。」

 

桜は大和の素っ気ない返答に嫌な顔1つせずむしろ嬉しそうな笑顔で大和の隣に寝転がった。

 

何故か桜から話しかけてくる気配が無かったので大和は会ってからずっと気になっていたことを訊き出す。

 

「俺が恐くないのか?」

 

桜の顔は見ず夜空を見上げたままだ。

 

「え、どうして?」

 

桜は寝転がったまま大和に顔を向けて不思議そうに聞き返した。

大和は思わず桜の顔を見て目を丸くして驚く。

桜は大和の顔を見て微笑む。

 

「だって大和君は優しいじゃないですか。」

 

桜の予想外の誉め言葉に大和は返す言葉が無かった。

大和は無言で反対側を向く。

桜はそんな大和の新鮮な反応を見れて嬉しいのか笑顔で大和を見つめていた。

 

大和と桜はいわば義理の兄妹のようなもの。

桜はこの時、大和に対する恋心に気づいていなかった。

 

そして、大和はこの時から桜のことをただの『弱者』という認識から変わっていた。

 

 

 

 翌朝。

目を覚ますとそこは大和が寝ていた部屋ではなくどこかの物置の中だった。

起き上がろうとした瞬間、両腕に違和感を感じた。

腕は後ろに回されていて手首には霊符が貼り付けられていて自由に動かすことが出来ない。

 

「くそ!何だよこれ!」

 

必死に霊符を引き剥がそうとするが全く効果が無い。

ここで大声を出して助けを呼ぶという行為を大和はしない。

誰かに頼ることは弱さだと思っているからである。

その時。

 

「目を覚ましたようだな。」

 

物置の外から声が聞こえた。

その声の主は大和にとって憎むべき人物だった。

 

「クソ親父…。」

 

大和は歯ぎしりしながら言葉を絞り出す。

そう。

声の主は四季家現当主の四季玄士郎だった。

 

「ふん。貴様のような出来損ないに父親呼ばわりなどされたくないわ!」

 

玄士郎は威圧感のある口調で言い放った。

 

「黙れ!分家を裏切って宗家に入った奴が偉そうにしてんじゃねえ!俺は母さんを見捨てたあんたを絶対に許さねえ!」

 

大和が声を荒げる。

その言葉には紛れもない憎しみが込められていた。

 

「母さんが病死した時もあんたは葬式にも出なかった!あんたは宗家の弟が死んだタイミングを見計らって弟の妻と再婚して宗家に入りやがった卑怯者だ!

 

玄士郎が大和が最後に言い放った言葉を聞いたその瞬間、抑えられていた感情を爆発させた。

 

「黙れ!俺が宗家に入ったのは俺こそが当主に相応しいからだ!分家の貴様に口出しする権利などない!貴様の母親と縁を切ったのはあのおんながもはや俺にとって利用価値が無くなったからだ!」

 

玄士郎の自己中心的な言葉は大和の憎しみをさらに煽るものだった。

 

「この…外道が!」

 

大和は物置の扉を蹴る。

 

「無駄だ!貴様は儀式が終わるまでここから出ることはできない!」

 

玄士郎はあがく大和を見下す口調で言い放った。

その言葉で大和は聞き逃せない単語を耳にした。

 

「儀式?」

 

大和は疑問を口にする。

大和は四季家本邸に来てはいたが継承の儀式については何1つ聞かされていない。

 

「そうか。貴様にはまだ話していなかったな。本来なら分家の貴様に話すことではないが特別に教えてやろう。」

 

玄士郎は得意気に喋り出した。

 

 

 

玄士郎から聞かされた儀式の全容は大和の想像を遥かに超えるものだった。

 

「ふざけるな!そんなことを8歳の娘にやらせるなんてどうかしてるぞ!」

 

大和は怒りを露わにした。

 

「力は必要なのだ!そしてあの()()()を代々引き継げるのは女のみ!たとえ子供だろうが利用する!時には目的の為ならどんな冷酷な決断も下す!それがナンバーズの在り方だ!」

 

玄士郎が厳しい口調で言い返してきた。

 

「狂ってる…。」

 

「貴様をここに閉じ込めたのは儀式の邪魔をさせない為だ。儀式は正午に行う。それが終わったらここから出してやる。それまでここで大人しくしていろ。」

 

玄士郎はそう言い残してその場を去った。

大和は扉に額を擦り付ける。

 

「ちくしょう…俺は………弱い。」

 

そう言葉が零れて悔し涙を流した。

 

 

 

 同刻。

ナンバーズの当主達とは別の思惑が働いていた。

昨日、大和に苦汁を舐めさせられた三門家3人娘は復讐をするべく大和を探していたのだが代わりに縁側を着物姿で歩いている桜を見つけた。

三門家の長女がニヤリと何か企んだ表情をする。

 

「ちょうどいいや…あいつにもう一度教育してあげようよ。」

 

「「賛成。」」

 

次女と三女も同じように不敵な笑みを浮かべて声を揃えた。

 

 

 

「ねえ。」

 

桜が後ろから声をかけられた。

振り返ると声をかけてきたのは三門家の長女だった。

両側には次女と三女もついている。

 

「はい。何でしょうか?」

 

桜はキョトンとして首を傾げて聞き返した。

 

「私達と一緒にカルタやらない?」

 

三門家の長女はニッコリと笑って遊びに誘ってきた。

 

「はい!」

 

桜は笑顔で返事した。

三門家の長女はほんの一瞬だけ不敵な笑みを浮かべたがすぐに普通の笑顔に戻った。

「じゃあこっちに来てよ。いい場所を見つけたんだ。」

 

そう言って先導し始めた。

 

「あの…そちらは…」

 

屋敷の構造を全て把握している桜が止めようとした時、次女と三女が桜の斜め後ろに立つ。

 

「まあまあ。」

 

「細かいことはきにしない。」

 

桜の背中を押して進む。

桜は強く反対することも出来ず三門家の娘達に言われるがまま進んで行く。

 

その先がどんな場所か知りながら。

 

 

 

大和が悔し涙を流し終えたその時。

外に人の気配を感じた。

その足音は聞き覚えのあるものだった。

 

「紫…紫なのか!」

 

大和は外に向かって大声を出す。

 

「大体事情は把握しているわ。大和、あなたに話しておきたいことがあるの。」

 

「何言ってんだ!今はそんな場合じゃねえだろ!なあ、紫なら俺をここから出せるだろ?」

 

「それは無理よ。この扉…いえこの物置そのものに対して結界が展開されている。さらにこの結界を破るには内と外両方からの干渉が必要になる。私の魔法だけではこの結界を破ることは出来ない。あなたの『ソウルナックル』と私の魔法で力を合わせれば可能かもしれないけど…」

 

紫はそこで言葉を切る。

大和は拘束されている両腕を見下ろす。

 

「今は使えねえ…手首に何かの札みてえのがくっついて全然剥がれねえんだ。」

 

「恐らくその霊術は術者以外解くことは出来ないわ。」

 

紫は簡潔に説明してから何かを決心したように息を吸う。

 

「…大和。あなたはナンバーズを抜けるべきよ。もうこっちの世界に関わるべきじゃない。普通の小学生になるべきだわ。」

 

予想外のことを言い出した。

 

「はあ?何言ってんだよ…桜はどうすんだよ?」

 

大和は驚いてそう聞き返すしかなかった。

 

「忘れなさい。桜のことも…ナンバーズのことも。」

 

紫は大和にそう告げた。

その後、扉に背中を預けて寄りかかる。

 

「ねえ大和。あなたずっと最強になりたいって言ってたわよね?」

 

「ああ。」

 

大和も紫と同じように寄りかかる。

 

「最強になってどうするの?」

 

「それは…」

 

「何の為に強くなるの?」

 

「それはもちろん俺…」

 

『俺自身の為に』と答えようとした大和よりも早く紫が最後に質問する。

 

「誰の為に強くなるの?」

 

その問いに大和は答えを返せなかった。

 

「誰の…為に?」

 

口に出してもやはり答えは出なかった。

先程まで『俺自身の為に』と答えようとした自分を否定する自分がいることを自覚していた。

 

「今の問いに答えを出せないようならあなたは檻から出ることは出来ないし桜を助けることなんて出来ないわ。」

 

紫は扉から離れてその場を去った。

 

 

 

桜が三門家の娘達に連れられてやってきたのは他の部屋より一回り大きい部屋の襖の前だった。

三門家の長女が襖を開けると次女と三女が桜の背中を思いっ切り押して部屋の中へ入れた。

桜はいきなり押されたことにより倒れ込む。

 

「ねえ私知っているんだ~ここって例の継承の儀式をやる場所なんでしょ。」

 

三門家の長女が間延びした口調で言った。

 

「何で…こんなことを…」

 

桜が体を震わせながら訊き出した。

 

「何でってそんなの決まってんじゃん♪」

 

三門家の長女はニッコリと笑うと次の瞬間、悪女じみた狂笑に変貌した。

 

ここであんたに死んでもらう為だよ!

 

三門家の長女がそう言い放った。

後ろに立つ2人も高笑いしている。

 

桜は恐怖を感じた。

目の前の少女達ではない。

彼女達だって初めは純粋な女の子だったはずだ。

なら彼女達をここまで変えてしまったものは一体何なのか。

その得体の知れないものに恐怖を感じたのだ。

 

「それじゃ私達は外からあんたが血まみれになって死にゆく様を見てて上げるよ!せいぜいあがいてよね!アハハハハハハ!

 

三門家の長女が高笑いして部屋から出ようとしたその時。

彼女達にとって予想外の事態が起きた。

部屋のろうそくが一斉に灯り出して薄暗かった部屋の中の視界が広がった。

部屋の奥には高さ4mの祭壇があった。

祭壇には四季家の家紋が刻まれている。

さらに異変はこれだけではなかった。

 

「何これ!部屋から出られない!」

 

次女が声を上げた。

襖は開いたままだが薄紫色の結界が張られていて誰も部屋から出ることが出来なくなった。

桜は祭壇に視線を移す。

 

「まさか…目覚めてしまった…の。」

 

その時、いきなり頬に強烈な痛みを感じた。

桜の体が床に倒れる。

顔を上げるとそこには怒りで顔を歪ませている三門家の長女の顔があった。

 

「あんた…一体何したのよ!」

 

三門家の長女は声を荒げる。

桜は座り込んだままその顔を見上げる。

 

「私は…何もしていません。」

 

「嘘よ!あんたがやったに決まってる!」

 

三門家の長女は聞く耳を持たない。

 

「そうよ!早く私達をここから出しなさいよ!」

 

「ほら早くしなさいよ!」

 

次女と三女も口を出してくる。

 

「『四』のくせに『三』に逆らうなんてやっぱり教育が必要のようね!」

 

三門家の長女は目を血走らせるとポケットからカッターナイフを取り出す。

 

「「お姉様⁉」」

 

さすがに2人の妹も口を出さずにいられなかった。

 

「いいから黙ってなさい!今からこいつに教えてあげるのよ。『四』は『三』より下。下の者が上の物に逆らうことは絶対に許されないってことをね!」

 

三門家の長女がカッターナイフを振り下ろそうとする。

桜は目を瞑る。

 

その時、部屋の奥の祭壇からとてつもないオーラが放たれた。

突風が吹いたと錯覚させるほどの。

それはオーラ知覚が低い三門家でも感じられる程だった。

 

三門家の長女は本能的な恐怖からその場を動くことが出来なくなってしまった。

右手のカッターナイフが彼女の手から床に滑り落ちた。

そして、まるでそれが合図であるかのように祭壇から黒い影が浮き出て徐々にそれは祭壇と同じくらいの大きさとなり女性の形となっていく。

顔、髪、腕、胴体は影により形成されていく。

下半身だけが黒いカーテンのようにユラユラと揺れている。

その姿はまるでホラー的な恐怖を象徴すると同時にRPGのラスボスのような威圧感を彷彿とさせる。

 

影の女から放たれたオーラの波動が屋敷全体に広がっていくのだった。




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