東方剣舞   作:kuroto xanadu

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後編

影の女のオーラの波動に玄士郎はいち早く気づいた。

 

「どういうことだ…儀式はまだのはず…。」

 

呟いた直後、儀式の間へ走って行く。

 

玄士郎は儀式の間から最も離れていたようで到着した時には既に他の当主が集まっていてどうにか結界を破ろうと尽力していたが全く効果は得られなかった。

 

「父様!お願いです!助けて下さい!」

 

結界の中にいる三門家の次女が結界にすがりつき泣きながら父親である三門家の当主に頼み込んでいた。

 

「待っていろ。必ず助けてやる。」

 

三門家の当主は表向きはそう口にしていた。

 

「(チッ、余計なことを。)」

 

しかし心の中で舌打ちしていた。

七瀬家の当主が紫に近づいて囁く。

 

「あなたの魔法なら一時的にでも結界に穴を空けられるでしょ?」

 

「できるけど彼の注意を引かないと止められてしまうわ。」

 

紫の指す彼とは四季玄士郎のことである。

 

「ナンバーズの当主の力でも破れない結界とは…一体あれは何者ですか?」

 

一ノ瀬家の当主が玄士郎に問う。

 

「あれは四季の始祖『四季影姫(えいき)』だ。四季の継承の儀式ではあれの影を正当な継承者が受けることによって影の力を得ることが出来る。」

 

「何故そんなものがこんな場所にいるのですか?」

 

一ノ瀬家の当主はさらに問う。

玄士郎を問い詰めるつもりではなくただの興味本位で。

 

「四季影姫は普段は封印状態にしてあり継承の儀式の時だけ封印が解かれる。今回は何故か勝手に封印が解かれてしまったようですがね。」

 

「そんなことより今は子供達を救出する方が先だろ。」

 

二宮家の当主が玄士郎に声をかける。

 

「いやちょうどいい!少し予定を早めることになるがこれより継承の儀式を始めるとしよう!さあ、桜!その影の一撃を受けるのだ!」

 

玄士郎が継承の儀式の開始を宣言した。

 

「危険だ。命を落とすぞ。」

 

六道家の当主が反対する。

 

「ふん。死んだら運が無かったというだけの話だ。事実これまでの当主は全員継承の儀式を終えて生きている。それにこれは四季家の問題だ。他家が口出しすることではない。」

 

玄士郎が他の当主を黙らせた。

 

ちなみに現在、玄士郎が当主になっているのは彼の妻、玄士郎の弟の元妻が既に他界しているからである。

 

「でも!」

 

七瀬家の当主が声を上げたその時。

 

「大丈夫です。」

 

結界の中から声が聞こえた。

その声の主は桜だった。

 

「桜…。」

 

紫が悲しそうに呟く。

 

半覚醒状態だった『影姫』が完全に覚醒状態となって刃のように変形した影を、放心状態となっている三門家の長女へと伸ばす。

三門家の長女の意識が現実に引き戻され目の前から襲ってくる影の刃に恐怖する。

 

刃が三門家の長女に直撃するかと思えたその時。

刃と彼女の間に桜が割り込み両手を前にかざして人差し指と親指をくっつけて三角形を作り出す。

その三角形の穴から桜の花びらが出てきて桜の前に直径2mの円形の花びらの盾を造形する。

花びらの盾が影の刃を見事弾いた。

花びらは消えることなく桜の周囲で舞い続けている。

 

「大丈夫ですか?」

 

桜は前を向いたまま背後で腰を抜かしている三門家の長女に声をかける。

 

「何でよ…何で…あんたが私を守るのよ…。」

 

三門家の長女は信じられないという顔をしていた。

 

「誰かを守ることに理由が必要ですか?」

 

桜は少しだけ三門家の長女に振り向くと真顔でさもそれが当然と言いたげな口調で答えた。

 

「何よ…それ…おかしいよ…あんたどうかしてるわ!」

 

三門家の長女は首を横に振って声を張り上げた。

桜はそれに応える余裕もなくただ一言。

 

「ごめんなさい。今は集中したいので。」

 

既に前に向き直って防御態勢を取り続けた。

 

オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!

 

そして、ついに『影姫』が人とは思えない怪物のような雄叫びを上げた。

影の刃が2つ増えて今度は三門家の次女と三女の元へと迫る。

2人は恐怖でお互いを抱き合う。

桜は手の三角形を崩して右手を横に広げた。

花びらがそれに呼応して次女と三女の前に花びらの盾を総計する。

影の刃がまた花びらの盾に弾かれる。

今度はしつこく弾かれた後の刃が何度も高速で花びらの盾に連続攻撃を仕掛けてくる。

桜は顔をしかめる。

さらに桜の前方から影の刃が迫っていた。

桜は左手を前にかざして自身の前にも花びらの盾を造形する。

花びらの盾は影の刃を弾いたが刃の重さが桜の体に伝わってくる。

桜の頬に汗が流れ始める。

 

「(このままじゃ…。)」

 

桜の心に焦りが出始める。

 

 

 

 

「何故攻撃を受けない?継承を拒むというのか…あいつは。」

 

玄士郎が桜が守りに入っているのを目にして毒づき始める。

 

「頼みがあります。」

 

紫は後ろの方で他の当主に気づかれないように七瀬家の当主に声をかける。

 

「言って。」

 

七瀬家の当主は短く答えた。

紫は七瀬家の当主の耳元で何かを囁いた。

 

七瀬家の当主は声を上げないように驚く。

 

「本当にそれでこの状況を打開できるの?」

 

紫は真っ直ぐな目で頷いた。

 

「分かった。」

 

七瀬家の当主はその場を去った。

 

 

 

いまだに拘束状態の大和も『影姫』のオーラを感じていた。

ちなみに四季家の敷地内では認識結界が展開されている為、この異変を外部から認識することは出来ない。

つまり町の人々はこの異変を知ることなく普通に暮らしている。

 

大和はなんとか手首を拘束している霊符を引き剥がそうとするが全く剥がれる気配がない。

 

「くそ!」

 

大和は舌打ちする。

 

「そこにいるのね?四季大和君。」

 

外から声が聞こえた。

 

「誰だ?」

 

「私は七瀬家当主、七瀬初美(はつみ)。あなたをここから出すことに助力するように八雲紫に頼まれたの。」

 

「どうして俺を?」

 

「紫が言ってたわ!あなたなら…いえ、あなただけが四季桜を救える可能性だって!」

 

「そうか…紫が…信じてくれているんだ。」

 

大和は両腕にこれまで以上の力を込める。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 

 

 最強になってどうするの?

 

 

 

 桜を守りたい…

 

 

 

大和の脳裏に桜の笑顔が思い浮かぶ。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 

 

 何の為に強くなるの?

 

 

 

 桜の為に…

 

 

 

桜と夜空を見上げた記憶が鮮明に蘇る。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 

 

 誰の為に強くなるの?

 

 

 

 桜の為に!

 

 

 

大和の全身から強いオーラが溢れ出す。

 

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

 

雄叫びと共に両腕を思いっきり左右に広げたその瞬間、霊符の術式がガラスが割れるような鮮やかな音を立てて破壊された。

霊符はビリビリに破けてヒラヒラと床に落ちていく。

 

「時間がねえ!一気にいく!」

 

右手の拳にオーラを集束する。

大和の右手の拳が青白い光を帯びていく。

 

「カウント3でいくわよ!」

 

初美も召喚術式でロッドを瞬時に取り出した。

ロッドを前に突き出して砲撃魔法を僅か1秒でチャージした。

 

「3…2…1…シュート!」

 

初美が合図と共に赤い光の砲撃魔法を放った。

 

「ソウルナックル!」

 

大和も同時に扉に拳を叩きつけた。

両側から強い衝撃を受けた扉の結界は破壊されて扉は粉々に砕け散った。

現象はそれだけにとどまらなかった。

ぶつかり合ったオーラの余波が大和にではなく初美の方へ飛んできた。

オーラの余波を左肩に受けた初美は痛みで肩を右手で押さえる。

物置から脱出した大和が肩を押さえる初美を見る。

 

「あんた、それ…」

 

「行きなさい!桜を救って!」

 

初美の言葉に大和は頷いてハイジャンプで儀式の間へ向かった。

 

「まさかナンバーズの当主を上回るオーラを持っているなんてね…。さて私もそろそろ行かないとね。」

 

初美は独り言をつぶやいた後、歩いて儀式の間へ戻って行く。

 

 

 

一方、『影姫』の攻撃を凌いでいる桜にも限界が近づいていた。

桜は攻撃用の術が使えない。

使えるのおは桜の花びらを用いた防御霊術や支援霊術、治癒霊術のみである。

 

今や影の刃の数は100本を超えている。

四方八方から影の刃が襲いかかってきた。

桜は両手を祈るように合わせる。

花びらが三門家の次女と三女を桜の元へ運び出し花びらが4人の少女と包囲するように円形の壁を造形する。

しかしこれは桜にとって多大な負荷をかける。

100本以上の刃を全て防がなければならない。

防御すればするほど彼女の霊力は消耗していく。

無論、防御力も落ちる。

現に花びらの壁の隙間から影の刃が桜の着物を少しずつ切り裂いていく。

 

オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!

 

『影姫』が奇声を上げて影の刃を増やす。

ついにその総数は1000本に達した。

 

「おお!あれが『千本桜』か!」

 

玄士郎がそれを見て感動する。

 

「これだ!この力を手に入れれば帝国は無敵だ!桜!今こそその力を吸収するのだ!」

 

玄士郎が高揚した声を上げたその時。

 

「させるかよ!」

 

後ろから声が聞こえた。

玄士郎や他の当主が振り返るとその視線の先には芝生裸足で駆けてこちらに迫って来る大和の姿があった。

 

「貴様~!分家の分際で邪魔をするな!」

 

玄士郎は怒りの声と共に霊力弾を大和に向けて放った。

大和はハイジャンプで上に跳んで避けた。

さらにそのまま儀式の間へ突っ込もうとする。

紫は嬉しそうに微笑んだ。

 

「ったく待たせ過ぎよ。」

 

結界に向けて手をかざすと結界の一部に人1人入れるくらいの穴が空いた。

大和はそこから飛び込んで儀式の間へ侵入を果たした。

穴はすぐに閉じていく。

 

「ソウルナックル!」

 

大和は桜の周囲の影の刃を拳1つで吹き飛ばした。

桜はとうとう限界を迎えたのか倒れて周囲の花びらが床に落ちていく。

大和は桜の前に立った。

 

「助けに来たぜ…桜。」

 

大和は右手を差し出した。

 

「大和…君。」

 

桜は大和を見上げて名を呼び、手を伸ばす。

大和は桜の手を取って立ち上がらせる。

 

「大和でいいよ。」

 

「うん…大和。」

 

桜は優しく微笑んだ。

 

大和が桜の背後で気を失っている三門家の3人娘に視線を向ける。

 

「そいつらを守ってたのか?」

 

「うん…ほっとけなくて。」

 

「そうか。」

 

大和が応えたその瞬間、背後から影の刃が襲ってきた。

 

「避けて!」

 

戻ってきた初美が叫ぶ。

 

大和は4人の少女を1人で抱えると壁際まで距離を取った。

4人の少女を下ろすと桜に背を向け、『影姫』の方へ向く。

 

「それじゃ今度は俺が守る番だな!」

 

大和は笑みを浮かべる。

 

 

 

 

「八雲!七瀬!貴様ら裏切ったな!」

 

玄士郎は怒りを2人に向ける。

 

「裏切るも何も最初から味方になったつもりはないわ!」

 

「私達は桜を救う為に協力したまでのことよ!」

 

紫と初美はそう言い返した。

 

「貴様ら、こんなことをしてただで済むと思うなよ。七瀬と八雲など四季の前では無力だと教えてやる!」

 

玄士郎が脅迫をかける。

 

「それは俺が相手でもか?」

 

二宮家の当主が紫と初美の元へ歩いて玄士郎の前に立ち塞がる。

 

「ぐっ。」

 

玄士郎が声を出す。

二宮の力は玄士郎も知っている。

 

「二宮が敵となるなら私は下りさせてもらおうかな。」

 

「三門⁉何を…」

 

玄士郎が驚く。

 

「私は中立を取らせてもらおう。」

 

一ノ瀬家の当主は儀式の間へ視線を向けたまま言った。

 

「チッ、五位堂!六道!お前はどうなんだ?」

 

「玄士郎。もう終わりだ。」

 

「なっ!」

 

六道家の当主の宣告に玄士郎が驚く。

 

「君の計画はどうやら1人の少年によって打ち砕かれる。今ここでね。」

 

五位堂家の当主が断言した。

 

「揃いも揃って…。」

 

玄士郎が苛つく。

二宮家の当主が口を開く。

 

「九条に頼まれてね。もちろん俺の意思でもあるけれど四季玄士郎。あなたの言動は極めて幼稚だ。何より人にとって真に何が大切なのか。それを理解しているのは君よりあの子達だ。」

 

「大切なものだと?そんなもの力に決まっているだろ!」

 

玄士郎は言い切る。

 

違う!人を信じる心だ!

 

二宮家の当主は厳しい口調で言い放った。

 

 

 

 

「ちょっと待ってろよ。今俺があいつに一発ぶち込んでやるからよ!」

 

大和は『影姫』へ駆けだした。

 

「大和!」

 

桜が叫ぶ。

それでも大和は止まらない

 

オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!

 

『影姫』が吠えて髪の毛の部分も刃に変えて攻撃を仕掛ける。

大和はダッシュしたまま紙一重で避けた。

足にオーラを溜めて自己加速術式をかけている。

ジグザグに動いて『影姫』に接近していく。

『影姫』は影の刃で大和を前後左右から襲う。

大和はハイジャンプで躱すと右手の拳にオーラを集束させた。

拳に青白い光が帯びる。

『映姫』は影の刃を一点に集束させて巨大な影の槍を大和に放った。

 

「ソウル…ナックル!」

 

大和は槍に臆すことなく拳を槍の先端に叩きつけた。

影の槍が先端から砕け散っていく。

大和はそのまま『影姫』の右肩を殴りつけた。

『影姫』の右肩から下の腕が吹き飛んで消滅する。

 

「バカな…あの出来損ないが四季の始祖にダメージを与えただと…。」

 

玄士郎が目を丸くして驚いた。

 

「あなたが知らなかっただけですよ。あの子がどれだけ成長したかを…子供の成長を見ることは親の義務です。それさえ出来ないあなたは父親失格です!」

 

紫が言い放つ。

 

「(小娘が分かったような口を…。)」

 

玄士郎は歯ぎしりして心の中で呟く。

 

 

 

大和が『影姫』にダメージを与えたのも束の間。

別の方向から影の刃が空中の大和に迫ってきた。

 

「ソウルナックル!」

 

大和は咄嗟の反応で殴るが、体勢が不十分だった為、押し負けて吹っ飛ばされてしまう。

さらに追い打ちとばかりに無数の影の刃が前方から襲いかかってきた。

 

「(やべえ!)」

 

大和はもうダメかと思った。

その時、大和に襲いかかる影の刃が花びらの盾によって弾かれた。

大和が空中から下を見下ろすと手のひらで三角形を作って大和に向けている桜の姿があった。

大和は桜の前に着地する。

 

「桜、どうして?」

 

「私も戦う!」

 

桜は真剣な目で返した。

 

「ダメだ…俺は決めたんだ!桜を守るって!」

 

大和は首を横に振った。

 

「バカ!」

 

すると桜が声を張り上げた。

大和は目を丸くして驚いた。

桜はこれまで見たことないほど真剣な顔だ。

 

「私を守ってくれることは嬉しい…でもそれじゃだれが大和を守るの?」

 

桜の言葉を聞いた大和は心に衝撃を受けた。

 

「(そうか…人っていうのは助けるだけじゃない…助け合うことが出来る。俺は1人で最強になるんじゃない…俺と桜…2人で最強にならなくちゃいけなかったんだ。)」

 

桜が大和に右手を差し出す。

 

「いこう!2人で!」

 

大和は桜の右手を左手で握った。

 

「ああ!」

 

2人は並び立ち手を握り合ったまま目の前の相手を見据えた。

 

オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!

 

「何だか…悲しそう。」

 

『影姫』の声を聞いた桜が呟く。

 

「ああ…俺も拳をぶつけた時なんかこうあいつの気持ちが伝わってきた…望んでもいないのに化け物にされて封印されて儀式で使い回されて…そうだよな…こんなこと…もうたくさんだよな…辛い…よな。」

 

大和は哀しげな目をする。

桜が握る手を強めた。

 

「桜?」

 

「私達でちゃんと天国へ送ってあげよう。」

 

桜は眩しい言葉をかける。

大和は桜の言葉に元気づけられた。

 

「ああ。もう楽にしてあげよう!」

 

その時、大和と桜が握り合う手と大和の右手の拳が青白く光り出した。

 

 

 

「あの子達、まさかあの領域に踏み込んだっていうの?」

 

初美が驚いた。

 

「『シンクロ』。互いの絆が極限に達した時に起きる現象…。」

 

一ノ瀬の表情の変化は薄いがその言葉から驚いているの分かる。

 

 

 

 伝わってくる…大和の強い想いが…

 

 

 

 分かる…桜の優しい心が…

 

 

 

大和と桜は互いの心を理解し合っていた。

 

『影姫』の右肩と右腕が再生していく。

 

「大和…。」

 

桜が名を呼ぶ。

大和はそれだけで桜が何を考えているのか理解した。

 

「あの祭壇の家紋…あれを壊せば彼女を救うことが出来る。」

 

『影姫』が口を開けるとそこから黒い霊力弾を放ってきた。

大和は一瞬だけ桜から左手を離して桜を抱えてハイジャンプで霊力弾を避けると空中で桜の右手を左手で握り直した。

『影姫』は髪、両腕、影の刃を全て一点に集束していく。

大和は桜の顔を見る。

 

「桜…お前の想い、全部俺に捧げてくれ。」

 

「うん。」

 

桜は頷くと握っている大和の左手に想いを精一杯込めた。

すると大和の右手の拳に纏う青白い光のオーラがどんどん巨大化していく。

 

1m。

 

「こんなもんか!お前の想いは!」

 

「いいえ!」

 

2m。

 

「俺を守りたいという想いは!」

 

「いいえ!」

 

3m。

 

俺はお前が大好きだ!お前は違うのか!

 

はい!私も大好きです!大和が大好き!

 

4m…5m…10m。

 

大和の拳に纏うオーラの大きさがついに10mに達した。

 

「凄い…。」

 

それを見た紫はそれしか言葉が出なかった。

 

『影姫』は集束させた影を巨大な槍へと変形させた。

その大きさは大和の拳に纏うオーラの大きさに劣らない。

 

オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!

 

これが最後だ。

そう言わんばかりに『影姫』が影の槍を大和達に突き放った。

大和と桜はその槍に対して真正面から突っ込む。

 

「これが俺と桜の絆のソウルナックルだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

大和はオーラの拳を影の槍に叩きつける。

ぶつかり合ったことで激しい衝撃波が放たれる。

 

大和が苦しそうな顔をする。

桜は大和の左手をさらに強く握った。

すると、オーラの拳に桜の花びらが渦巻いていく。

 

「桜⁉」

 

「私も戦う。そう約束したから。」

 

「桜…ありがとう。」

 

大和は桜の言葉をしっかりと受け止めた。

 

「これが…俺と!」

 

「私の!」

 

オーラの拳の輝きがさらに強くなる。

 

「「桜花大和魂!」」

 

オーラの拳が影の槍の先端を砕き、さらに突き進んでついに影の槍を完全粉砕するとそのまま祭壇の家紋に向けて直進する。

 

「「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」」

 

そして、オーラの拳は祭壇の家紋を完全に破壊した。

 

「オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」

 

『影姫』の体が白い光に包まれて消える直前、大和と桜はある声を聞いた。

 

 

 

 …アリ…ガ…トウ…

 

 

 

それは四季影姫の感謝の言葉だった。

大和と桜が床に着地すると儀式の間を囲っていた結界がスーッと消えていく。

同時に大和と桜の手の光も消えていく。

 

「桜…。」

 

大和はその名を呼ぶ。

 

「はい?」

 

桜が振り向く。

 

「俺決めたよ…俺は…」

 

続きを言葉にしようとしたその時。

 

「ふざけるな!」

 

怒号が響いた。

大和と桜が振り向くと玄士郎が鬼の形相でこちらに近づいてきていた。

 

「貴様~分家の分際でよくも儀式の邪魔をしてくれたな!今ここで俺が始末してやる!」

 

玄士郎の動き出しが予想以上に速かったせいか他の当主が出遅れてしまった。

桜が大和の前に出て玄士郎を止めようとした時、大和が桜の手を握って止めた。

 

「大和?」

 

桜が首を傾げると大和は無言で首を横に振る。

玄士郎が自己加速術式を発動して大和に殴りかかろうとする。

大和は動かない。

 

その時。

大和と玄士郎の間に突如、水の竜巻が発生した。

玄士郎は水の竜巻に押し戻される。

水の竜巻がバッと弾けて姿を現したのはなんと洩矢諏訪子(当時30歳)だった。

 

「『蝦蟇王』…洩矢諏訪子…。」

 

紫がその名を口にする。

玄士郎が床に手をつきながら立ち上がる。

 

「何故『蝦蟇王』がこんなところにいるのですか?」

 

かろうじて冷静さを保った口調で訊く。

 

「何故って私がここに来る理由なんて天皇陛下の命令以外ありえないでしょ。」

 

諏訪子は顔には出さないが冷酷に告げた。

 

「天皇陛下の命令?」

 

玄士郎が訝しげな目をする。

 

「先に内容を説明しておこう。天皇陛下の権限により四季家現当主四季玄士郎は本日より当主権を剥奪、ナンバーズからも強制除名処分とする。」

 

「なっ!」

 

諏訪子の宣告に玄士郎は目を見開いて驚いた。

 

「それと三門家はしばらく活動を自粛するようにとのこと。以上だ。」

 

諏訪子は感情のこもっていない声で続けた。

 

「以後、気を付けます。」

 

三門家の当主はこういう局面でしたたかであり頭を下げて素直に謝罪した。

だが当然、玄士郎は納得できるわけもなかった。

 

「何故だ!三門家も同罪のはずだ!何故俺だけが除名処分となる?」

 

声を荒げて抗議した。

 

「三門家は次期当主に対する不十分な監督。四季玄士郎の方は軍に対する干渉、そしてこの儀式が最も原因となるものだ。」

 

諏訪子はただ冷酷に現実を突きつける。

だがそこで何か思いついたような仕草をすると冷たいを浮かべながらこう言い出してきた。

 

「そうですね。ならこうしましょう。あなたが私に一撃与えることが出来れば今回の件は不問としましょう。陛下からも現場の判断は任されていますし。」

 

玄士郎は願ってもないチャンスに笑みを浮かべる。

 

「分かりました。」

 

「さあ、いつでもどうぞ。」

 

諏訪子は手を後ろで組んで棒立ちになった。

玄士郎はさっきの倍のスピードの自己加速術式を発動して諏訪子に迫り殴りかかった。

 

性格に難はあるが玄士郎も当主としての実力は持ち合わせている。

この攻撃は決して躱せるはずのないスピードだった。

だが諏訪子は体を横に揺らして躱した。

それが当然であるかのように。

がら空きになった玄士郎の腹に軽く掌底を打ち込んだ。

たったそれだけで玄士郎は後方へ吹っ飛ばされた。

 

「私の勝ちですね。」

 

諏訪子は勝敗を告げた。

 

「こんな…バカなことが…。」

 

玄士郎は信じられないという表情をしている。

 

「さて、お迎えが到着したようですよ。」

 

諏訪子が口にしたその時。

玄士郎の目の前に突如、白い扉が出現した。

それが開くと真っ白な無地の仮面をつけた一団が出てきた。

全員、腰には剣が納刀してある。

ナンバーズでその一団を知らない者はいない。

 

「天皇守護隊…。」

 

玄士郎がその名を口にする。

 

「四季玄士郎。これより連行する。」

 

真ん中に立つ団長が告げる。

声からして男性ということが分かる。

 

「連行?」

 

玄士郎は立ち上がって聞き返す。

 

「知る必要のないことだ。」

 

団長が口にしたその直後、玄士郎の体がぐらつき気を失った。

団長が何をしたのかそれを視認できた者は諏訪子と団員以外いなかった。

 

玄士郎を連行した後ですっかり白けてしまった場で諏訪子は大和に歩み寄る。

 

「君は私が来ることを分かっていたようだが何故分かったんだい?」

 

「う~ん…なんとなくかな?」

 

大和が考えて出た答えがそれだった。

 

「アハハハハ!いいね!君、実に面白いよ!」

 

先程まで感情を見せなかった諏訪子が陽気に笑い出した。

大和は、何がそんなに面白いんだ、という表情をしていた。

諏訪子は笑いがおさまると大和に訊く。

 

「それで?君…いや君達はこれからどうするんだい?四季家はもう当主がいない状況になってしまったけど?」

 

「私が…」

 

桜が前に出ようとしたその時。

 

「俺が当主になります!」

 

大和が宣言した。

これには他の当主も驚いた。

 

「まだ全然ガキだし未熟者かもしれないけど俺、当主になります!」

 

黒刀は自分の想いを言い切った。

 

「当主になるっていうのは言うほど簡単じゃないよ。」

 

諏訪子は目を細めて釘を刺す。

 

「確かに俺1人じゃ無理かもしれません。でも俺には桜がいる!」

 

大和は桜の手を握った。

 

「大和。」

 

「2人ならどんな壁だって越えられる!そして変えてみせる…この国を!」

 

大和はそう言い放った。

これにはさすがの諏訪子も驚いた。

 

「やっぱり君は面白い子だ。楽しみだよ。君がこの国をどう変えていくか。」

 

諏訪子はそれだけ言うと次の瞬間、その場から消えてしまった。

 

大和が桜の顔を見る。

桜が大和の顔を見る。

 

そして、2人は同時に笑い合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2186年 四季大和 帝国軍に入隊。

 

 2190年 四季大和 四季桜 結婚。

 

 2192年 四季桜 四季映姫を出産。

 

 2200年 四季大和 30歳にして帝国軍総帥に昇格。

 

 同年9月 四季黒刀を養子として迎え入れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして2210年…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「桜さん、これは?」

 

桜の花屋で働く幽香が写真立てに入っている写真を見て訊く。

 

「あ、これ懐かしいわね。」

 

同じように写真を覗き込む桜が口にする。

それから写真を顔を離した桜が微笑む。

 

「これはね。私の大切な思い出よ。」

 

 

 

写真の中では一ノ瀬、二宮、三門、五位堂、六道、七瀬、八雲の当主達とその真ん中で笑顔でピースをしている大和と桜の姿が映っていた。




ED 家族になろうよ

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